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異世界で始める人生改革 ~貴族編〜  作者: 桐地栄人
〜第二章〜 少年期
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第86話 十万軍

十万軍。



それは初代オリオンが所有していたその血に代々伝わる秘宝。

オリオンの名を近隣諸国に知らしめたレア度7の継承スキル。



そのスキルの効果は一定範囲内にいる指定した所属の者に対する一方的な指示の伝達。



スキルの指定上限人数は十万。

更には効果範囲まである。

それでも、一瞬にして中央からの指示を飛ばせるそのスキルは非常に強力だった。



だが、代々オリオンのスキルを継承した者は自身のスキルを過信したりはしなかった。

その強さと弱さに誠実に向き合った。

そしてそれから数百年に及びこの一塊の状態で勝てるかを研究し続けている。


オリオン家は試行錯誤の結果、過去の戦の殆どは一塊で行動する。

相手は当然それに対して策を考える。

過去、数百という戦でオリオンの敗北は全部でたった三度。

それは同時にオリオンのスキル継承者。即ち、軍の司令塔の首を討ち取られた回数でもある。



だが、オリオンが討ち取られた戦の全てで敵の数はこちらの四倍に及んだ。

更にはその三戦の全てが敵の数を半分減らすという壮絶な戦であった。



それ故、敵側はその強さに敬意を表してオリオンのその陣形をこう呼んだ。


移動城塞、と。





初戦は圧勝で終わった。


お父様のスキルと四人の将が普通に強過ぎた。

敵の軍師……グリドは流石に捕まえられなかったが敵の大将を討ち取れたし万々歳と言ったところだろう。

え?間が空いた理由?

べ、別に一瞬名前が思い浮かばなかった訳じゃないんだからね!


いやいや待て待て。

圧勝過ぎてちょっとテングになってました。

落ち着け。此処は戦場だ。そしてほぼ敵地に近い。

油断大敵。俺はこれを自分とグリド王子に送りたい。


俺は早々に血の付いた槍を引っさげて帰ってくるランド隊長に護衛されながら戦地に建てられた仮設のテントの中に引っ込む。

ランド隊長の血の槍に対しては特に何も思うところはない。

首を引っさげて来たら間違いなく吐いたと思うが血くらいなら問題ない。

気を使ってくれたのだろう。


静かにするのも何なのでランド隊長に話しかける。


「ランド隊長、流石に強いですね」

「いえ、これくらいはどうと言うことはありませんよ」

それは討ち取られた敵将が弱すぎたと言いたいのだろうか?

いやまあギドルにとってランド隊長のスキルの相性は最悪だったんだけどな。


ランド隊長の攻撃は防いではいけないのだ。

避けるか弾く。

あの身長2メートルを超える巨体で避けるはない。

ならば弾くしかない。

あれほど威張れるぐらい強い大将なら本来なら弾けるはずだった。


だが、ギドルに限って言うのなら別だ。

ギドルは一撃で敵を粉砕するパワーとスキルの持ち主だ。

パワー負けしない限りギドルの攻撃は弾けないし防げない。

避けるしか敵は出来ないのだが将の殆どは馬に乗っており槌、わかりやすく言えば巨大なハンマーを振り回すギドルの攻撃を避けることなど不可能だ。


だから、ギドルはマトモに敵と打ち合ったことがなかったのだろう。

これまで敵の攻撃を弾くという行動を必要としていなかったが故にランド隊長の突きを弾けなかった。


死んでしまった今、確かめようがないのだがそういう事だろうと思う。


俺がマンガ脳でそんな事を考えていると、外から悲鳴の様な声が聞こえる。


「ん?何でしょう?行ってみましょう」

そう言って俺が立ち上がろうとするとランド隊長が突然真面目な顔になり、「レイン様、行ってはなりません!まだレイン様には早い」と静止させられる。


ん?何だ?


「それはどういった理由でしょう?」


おれが訝しげに聞くとランド隊長は、重々しく口を開く。


「……今回捕まえた捕虜は、全員殺します」

「な?!何で!普通は……」

「はい。通常は奴隷として売り飛ばしたり相手の国と金銭取引をします。

ですが今回はそれは出来ません。

何故なら我が軍の数が敵よりも圧倒的に少ないからです。

彼らをポルネシアに連れていくための兵もこのまま目的地に連れていくだけの時間も人もいないのです。


だからと言ってこのまま利益もないのに解放する事は出来ません。

彼らがその後バドラギアの軍勢と混ざってポルネシア兵を殺す可能性があるからです。


レイン様、心苦しく思われるでしょうがここはお抑えください」


頭を下げながらランド隊長はそう言った。


「……」

俺は思案していた。

彼らを殺さなくていい方法を。


今更彼らを可哀想に思った、などとは言わない。

ないとは言わない。同情はする。

あれだけアッサリと智略の差を見せつけられたのだ。

指示に従っただけの彼等には同情の余地はあると思う。

だが、勿論それを実行したりはしない。

ポルネシアの損になるのであれば俺はそれらに目を瞑らなければならない。


しかし、戦国物をそれなりに見た教訓として、降伏した兵を皆殺しにするのはいかなる場合であれ基本的に悪手だ。


大国がやるならまだしもポルネシアのような小国がやると今後の風評にも関わる。


更には今後、バドラギアとの和解の可能性がほぼあり得なくなる。

それはよろしくない。

この戦国の世で小国はできる限り仲間を作らなければ生きていけないのだ。


だから考える。

彼らを解放した場合のメリットを。


「あ……」

思いついた。


「ランド隊長!今すぐお父様をここに!彼らを殺してはいけません!」


突然叫んだ俺にランド隊長は驚いたように聞き返す。

「な、何故ですか?」

「それは勿論殺さない方がポルネシアにとってお得だからです」


俺がそう断言するとランド隊長は、「分かりました」と言って即座に立ち上がる。


この判断の速さは俺の今までやってきた事、神眼以外の全ての能力をしっているからだ。


そして、さっと出て行き、それからすぐにお父様と共に戻ってくる。

そして、お父様が挨拶もなしに、

「リドル。時間が惜しい。早速だが聞かせてくれ。

彼らをこのまま解放した方がいいメリットを」

「はい。彼らをこのまま武器も取らずにそのまま馬に乗せて解放してください。

そうすれば彼らは今後僕達に刃を向けることはありません」


「何故だ?また敵の軍に混じって……いや、待てよ」

気付いたか。

「はい。何も取られず危害も加えられずに帰された彼らを敵は訝しむでしょう。

もしかしたらこの中に裏切り者がいるかもしれない。精鋭とはいえ、そんな兵を前線に持ってくることはありません。


ですから、彼らは恐らく、バドラギア王国にそのまま帰還。

よくて、後方支援に回されます。

更には……」

俺が続けようとしたその後をお父様が継ぐ。

「更には、捕虜を無償で解放したとバドラギアに恩が売れ、他国にもポルネシアの好感度を下げるどころかむしろ上げられる。

しかも、精鋭兵が無償で解放されたという噂が敵側に伝わり、解放された奴らは裏切り者では?と疑心暗鬼に陥れられる。

多少ではあるが混乱させ、進軍も遅れるだろうな。

そうだな?」

「はい。お見事です」

俺が過去の歴史書から得た知識をアッサリと理解するか……。

やるなお父様。


「そうか。……。流石だなレイン」

「いえ、それほどでもありませんよ」

これは俺の力じゃないからな。

マジでそれ程じゃない。

これを考えた奴に言ってやってほしい。


「という訳で演技の方、よろしくお願いします」

「ああ、勿論だ!」

お父様は勢い込んで外に出て行き、捕まったバドラギアの兵の前に行く。

俺はテントから神眼でみているのだが、お父様は満面の笑みを浮かべている。

そして、君達をこのまま解放しよう、みたいな事を言っている。


それから、バドラギア兵は困惑の色を見せ、恐らくお父様の指示で彼らの武器が渡され、馬も返される。

そして、その後ほらさっさといけと言わんばかりに困惑の色が隠せないバドラギアの兵を陣地から追い出した。


彼らは国に帰ってからも暫く疑われ、僻地に送られるだろう。

こればっかりは仕方がない。

生きてりゃ何とかなる。

その言葉を君達に贈ろう。



そしてその言葉はブーメランとなって俺の心に突き刺さるのであった。




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