第68話 本当にご苦労様でした
城門に向かって歩いている最中、後ろから声を掛けられる。
「レイン様!!」
その声に反応して後ろに振り向くとなんとプリムが此方に走ってくるではないか!
「プリムさん!!」
と此方側からも駆け寄る。
そして、そのままの勢いで飛び込んでくるプリムを迎え入れる。
ドスッという音と共に俺の身体にタックル、もといハグをしてくる。
俺のレベルが55じゃなかったらヤバかったぜ。
安定のSTRで受け止める。
「レイン様!会いたかったです!」
「僕もですよ!」
そしてまた抱きしめ合う。
どのくらい時間が経ったか頃にお互いに離れる。
その時に恥ずかしそうに笑うプリムの顔は俺は忘れないだろう。
そして一緒に手を繋ぎながら街を歩く。
「わぁ!!大きい街ですね!レイン様!」
と、はしゃいでいる。
「そうですね。何と言っても国で一番裕福な貴族ですからね。まあ王都ほどではありませんが」
「それでも大きいですよ!」
「ありがとうございます」
これぞ親の威をかる子である。
鼻高々だ。
取り敢えずは真っ直ぐに城を目指す。
そして城の真下に着く。
すると門番が驚いた表情で、
「レ、レイン様!?な、なぜお外へ?」
と俺が外で出歩いていることを驚く。
「プリムさんを迎えに行っていたのですよ」
それしかないだろう。
「いえ、では、何故お供が彼女だけなのですか?」
「ええーー!!」
「いや驚いているのは私の方ですが……」
まあ冗談は置いておいて。
「それは、僕が1人で城を抜け出して、道の途中で見つけた彼女を連れたからですね」
「は、はー……そうですか、危ないので本当にやめてください」
「頭にはいれておきましょう」
衛兵は、自分が言っても無駄だと思ったようで諦めていた。
そして門を開けさせる。
プリムは開門という声で驚き、4メートル以上の門が開く事にまた驚いている。
「ふぁーー……!!」
と口を大きく開け、門が開くところを見ている。
可愛い。
「では、プリムさん、中に入りましょうか」
俺はクールに努める。
そして一緒に城の中に入るとお母様がいた。
お母様はニッコリと笑っていた。
穏やかな微笑だ。少なくとも第三者はそう思うだろう。
だが俺にはわかる。
あれは怒っていると。
「プリムさん、我が家へようこそ。
長旅で疲れたでしょう。
お風呂を用意したから先に入ってちょうだいね」
「は、はい!」
お母様の口調は砕けていたが流石公爵夫人といった風格で対応し、プリムは緊張しだしてしまった。
お母様の後ろから侍女が出てきて、プリムを案内する。
「では僕は自分のお部屋に……」
と部屋に戻ろうとする。
「待ちなさい」
後ろから背筋の凍るような声を掛けられる。
「レイン、貴方はこっちよ」
目が怒りで燃えているお母様に睨まれる。
そして俺は屈強な騎士2人に横を挟まれ、連行される。
「オーマイゴーーーット!!」
「今日はきっちりお話ししますからねレイン!!聞いているの?!」
それから説教をされて、部屋に戻る。
部屋に戻るとコウメイが部屋の真ん中で正座していて、それをリサさんとスクナとアイナが囲んでいた。
「ただいま帰りました」
と努めて平然と帰宅の挨拶をする。
予想できてたしな。
すると、リサさんがギン!と俺を見て言った。
「レイン様、私はコウとメイを側に置くようにといった筈ですがこれはどういった事でしょう?」
「僕が許可しました」
「知ってます」
即答された。
「私が言っているのは何故彼らから離れたのですか?」
「暇そうでしたので付き合わせるのも悪いかなと思いまして…」
「それが彼らの仕事です」
まあそうなんだけど。
「彼等にも自由時間というものをあげようかと」
「あげてます」
あげてるの!!??
「え!?あげてるんですか!?」
初耳だよ。
「はい。レイン様の護衛中と側にいるための勉強と訓練時間以外大体自由時間です。日によりますが平均3時間位あります」
知らなかったぜ……。
例のお母様によるスクナ達没収は未だ続いているため、護衛中以外あまり会わない。
両親と和解した時からスクナ達の育成は完全に任せてるし、信頼しているから神眼で見る気もない。
そもそも俺も剣の練習だとか、貴族の作法を覚えたりとかでそんなに暇じゃなかったりする。
「お前ら……、なかなかのゆとり奴隷だな」
日に3時間って……。
前世のブラック企業に勤めている会社員より暇だぞ。
しかも一般庶民の物より美味しい飯が3食にふかふかの布団付きってお前ら……。
しかもお小遣いまでもらえるって。
いや最後のは俺があげてるんだけど。
「ですので、仕事中は真面目に働かせて下さい」
「わかりました」
連れてきておいて勝手な言い分だけどもう少し真面目に働きなさいよ。
「まあ今日はこれで許してあげてください。僕も先程お母様にこってりしぼられましたし、彼等も反省しているでしょうから」
「「レイン様」」
と先程までぐったりしていた2人の目が輝き出す。
「わかりました。レイン様も2人を甘やかさないようにお願いします」
「わかりました」
「「ヒャッホーー!!」」
とコウメイが叫んだ。
「「「「……」」」」
全く反省していなかった。
コウメイの処遇はリサさんに任せてスクナとアイナを連れてプリムのところに行く。
「プリムさん、お待たせしました」
と声をかけながら近付く。
「レイン様!凄い大きなお風呂でした」
「ハハッ、ありがとうございます」
オリオン家には専属の水の魔法使いがいるから風呂桶がでかくても全く問題ない。
いや問題ならある!
俺が入れない。
前に一度風呂に水一杯いれてダイブしたら身体に水が触れた瞬間、吸収してしまい地面にそのまま身体をぶつけるという痛い経験がある。
なので、いや別になのででもないけど、近くにある川から水をひくという突貫工事をした。
本当にご苦労様でした。