第54話 船団の征く先
「船団?それは普通のお船?」
な訳が無い、と心で思いながらも一応聞いてみる。
「いえ、軍艦です。しかも大型船です」
「大型船ですか……」
(この世界の軍艦なら一隻につき兵がおよそ100人ほど乗せられたはずだ。
なら問題は)
「それらはどこに向かっているのでしょうか?」
「恐らくはリュミオン王国を海側から攻め立てるつもりでしょう」
「軍艦200で、ですか?たった2万位しか送れませんよ?」
リュミオン王国が南と西に兵を送ったとはいえ2万、しかも戦える人間は更に減る。それで取れる領土などたかが知れているはずだ。
「はい、私もそう思います。
ですが陸と挟撃すれば……」
(う〜ん、それにあまり意味があるとは思えないが)
リスクの方が大きい。
ならば……。
ぞわり、と背中に悪寒が走った。
「ま、まさかポルネシアに送るつもりじゃ!?」
「ありえません!我が国の水軍はかなり強いと聞いております。
200の軍艦に、しかも長旅をしてきた敵に遅れをとるはずはありません!」
「いえ、勝つ必要は無いとしたら?」
「え?ま、まさか足止め?」
そう勝つ必要は無い。
援軍を送らせないようにすればいいのだ。
「で、ですが200ですよ!盛って兵数は2万5千!我が国の水軍だけで十分対処が可能な数です」
と、リサがいつもより興奮気味でまくし立てる。
「200……、本当に200なんですか?」
「は?はい、そう聞いております」
「そう、貴女が知っている。
公爵家の1侍女でも知れる程度の情報の封鎖レベルなのでしょうか?
彼らの情報を担当する部門はそこまでザルなのでしょうか?」
「……」
俺は前に商人から聞いた話を思い出していた。
海賊狩り。よく考えればおかしな話だ。海軍を何度も打ち破る海賊?どんだけ強んだよ。当時は異世界だしそういうのもあるか、と納得していたのだが今回の件を聞けば別の目的だったと納得できる。
海賊狩り、と称して軍船の移動を行っていたのだろう。
近くの島にでも少しずつ軍船と人を移動させていたのだろう。
5年もかけて……。
「なら倍、いえ、特に兵数は最低限揃える必要はありますから3倍は予想すべきです。
戦う可能性も考慮にはいれているでしょうからそれなりの精鋭が来るはずです。
もし彼等が長い時間をかけてこの戦争を準備していたとしたら?」
そう、10年という時間があったのだ。
そして前回ポルネシアが参戦した事により敗北を喫した。
なら当然対策を練るはずだ。
3倍以上の船団を送り、軍艦数は200という疑情報で少しでもポルネシアを撹乱させようという狙いだろう。
(軍艦600隻以上。多く見て乗員数6万強。
これはマズイな……)
流石にポルネシアの水軍では勝てない。
というか
「お父様はこの事をご存知なのでしょうか?」
「いえ、わかりません」
(全部杞憂かもしれないが一応知らせておくか?だがな……)
本当に杞憂だった場合、俺が勝手に騒いでいただけになる。
最終的に指示するのは上の方だから罰こそ受けないが間違っていたら恥ずかしい奴になる。
でも、
(これも一つの挑戦か……)
「一応報せをいれましょうか」
と提案する。
「畏まりました。
あの、一つご質問してもよろしいでしょうか?」
「はい?どうぞ」
「あの、例え六万だとして多少領地をとられたとしてもまたすぐ取り返せるのでは?」
「そうですね、数と地形の利を活かし押せばすぐにでも取り返せるでしょう。
六万なら僕の知る限り援軍に送る兵を除外した残りの軍と徴兵した平民だけで何とかなるはずです。
本当に六万で済むなら、ですが」
「まさかそれ以上?幾ら何でもそれだけの兵が減れば密偵が気付くはずです。
それに四万も本当に隠せていたかも不明です」
「そうですね、確かにちょっとずつとはいえ、人が4万人も消えたら不自然極まりないでしょう。
ですが消えた数が2万いかないぐらいなら?」
可能だろう。
「え?で、でしたら」
話が矛盾する?
いやしないのだ。
「最後の200隻に4万を乗員させるのですよ」
もちろん夜の内に少しずつ積むなどの細かい作業はいろいろあるだろうが……。
「そ、それは……」
「動きはする。動きはしますが、速度は遅いわ、嵐が来たらほぼ間違いなく転覆するわ、最悪、ただの強風ですら足止めを食らうわで危険極まりないですが、やろうと思えば出来ます。
ここまで来る必要はないのです。
すぐ近くの小島にでも停留させていた船と合流するだけでいいのですよ。
もっと言えば示し合わせて地平線から見えなくなった辺りにでも待たせておけばほんの数時間、まず間違いなくバレないでしょう。
商船なんかは一時出航停止にさせればいいですし。
更に鎧や食料などの重い物は出来る限り前の400隻に詰め込めば、どうでしょう?」
100人が上限の飛行機は120人乗れないのだろうか?
いや違うだろう。おそらく飛べる。
だが墜落する可能性が高まる。
100人、それが100%とはいかなくても安全を保障できる限界値なだけだ。
「……可能かと。
ですが……」
「それと先程言った取り返す案ですが密偵がここまで密書を運ぶのにどれくらいかかりますか?」
「急いで3日、いえ、更にかかるかと」
「ならこうしている今、この瞬間に後続部隊、船の上では戦わないで陸専用の部隊が来ているかもしれませんよ?」
5年でどれだけ軍船を作れるかは知らないが現存する軍船と併せれば600はちょっと少ないんじゃないだろか?
わがポルネシアでさえ大型だけで300隻はある。
大量、というほどではないにしてもそれなりの数の新造船は作れるはずだ。
それに来てすぐに戦うわけではない。
万が一戦いになっても問題はない。
六万もいれば小国の水軍程度に水上での負けはない。
蹴散らした後、ゆっくりと陸用の部隊は待てばいい。
「な!?なら……」
「防衛線を張ることは可能です」
城を幾つか取って最低限の防衛線を張れればあとは守り続けて本国からの援軍を待てばいい。
戦ってもよし、戦わなくてもよし。
ポルネシアが援軍を送ったのなら戦えばいい。
送っていないなら暫く海上に置いておくなりすればいい。
1ヶ月も時間を稼げれば十分だ。
その間にリュミオンを落とせばいいのだから。
「今言ったものはあくまで全部仮ですよ。ですが筋は通っている以上、報せるべきではないでしょうか?」
こんな物は予測でしかない。
俺の知識は基本幼年期に読んだ本程度でしかなく戦術などは前世で友達がいなかった為無駄に極めた三国志などの戦争物の知識だ。例外や不確定要素は腐るほどある。
例えば200人連れ込むところを220にすれば単純計算で4000人も増えるのだ。
この状況では無視できない数。
だけど知らない事や細かい計算を言っても仕方がない。
「そこまでお気づきになられるとは流石レイン様です。
畏まりました。
では密書のご準備を」
と言って出て行こうとする。
「あ、あ〜と、いえ密書は要りません。
僕が直接王都に行きますね」
帰ったばかりで無茶苦茶疲れているが仕方がない。
この策を考えたのが俺だと分かればどうせ王都に呼ばれる。
2度手間は無用だ。
今は時間が惜しい。
「……畏まりました。
出来る限りの精鋭を集めます」
「お願いします。
もちろん軽装でお願いしますね」
「馬はコウかメイと相乗りしてください」
「わかりました」
俺とコウの体重を合わせても大人の体重より下だ。
「では、準備をしてまいります。
レイン様もご準備を」
「わかりました」
そう言ってドアが閉まる。
俺も汗ばんだ服を脱ぎ捨て新しい服を着る。
出来れば風呂に入りたいがまあいいだろう。
「はあぁぁ、大変なことになったな。
これで予想が外れていたら道化もいいとこだっつうの」
ネガティブ思考は未だ抜けていないため失敗が何より怖いのだ。
失敗は誰しも恐れる物だとはわかっているのだがそれでも人生1回分を間違えた人間としては他の人よりも恐れずにはいられない。
そんな考えの中、支度を済まし、またお母様の元に向かい外出の許可をもらうのだった。