第49話 第四夫人と
第四夫人が俺のお目付役になった。
とりあえず挨拶はしておこう。
「ど、ども……よろしゅく……」
横に親しい人がいれば普通に話せるのだが、一対一でがっつり俺の事をガン見されるとどもってしまう。
「こちらこそ」
といって第四夫人もちょっとだけ頭を下げる。
そう、この人は基本的に無口なのだ。
お母様とお茶をしている時も基本的には聞き専だ。
お母様がマシンガンの如く話しているのをただただ聞いている役目だ。
髪は金髪で顔も美人というよりは可愛いよりで笑えばなかなか可愛いと思うのだが、顔は常に真顔で西洋人形のようだ。
過去に何があったかもわからない。
本人に聞きづらいのはもちろん、お父様に聞くのも躊躇われるため、結局俺はこの人の事を何も知らないのだ。
(話が繋がらない……)
俺は元々コミュ障だ。話題ならある。だが口から言葉が出てこない。言葉が紡げない。
結果沈黙が走る。
偶に第四夫人の息子のボンド君が泣いたりして騒がしくなるが、だからと言って俺には何も出来ない為、特に話すきっかけにはならない。
「あの……」
「う!え?な、なんでしょう!?」
と物思いに耽っている最中に突然声をかけられ、びびってしまう。
「あ、すいません」
「い、いえいえ、な、何かありました?」
俺はチラチラと第四夫人の顔を見ながら聞いた。
「レイン君は何なのでしょう?」
(何なのでしょう?!言葉が足らなすぎる!!)
唐突な質問である。
「ええっと……人です?」
と最後が疑問系になってしまう。
すると
「……?」
何をこの男の子は当たり前の事を言っているんだ、という顔になる。
しばらく黙っていると自分の言葉の足らずさに気付いたのか、
「レイン君は他の子達より成長が早すぎる。何故?」
(前世からの記憶を受け継いでいるからかな〜)
なんていうわけにはいかないので、「さ、さあ〜…何故でしょう?」
とごまかす事にする。
第四夫人は何も言わずに俺の事をじっと見つめている。
「……」
「……」
「……」
「……」
「あ、あの何が聞きたいのでしょうか?」
と見つめられている事に耐えられなくなった俺が口を開く。
すると第四夫人は衝撃的な言葉を口にした。
「どうやったら私の子は貴方のようになる?」
(お?え?俺のようになったら終わりだと思うが)
「俺のようになったら終わりだと思うが……」
(あ、やべ!口から勝手に声が出た!)
ビックリしすぎて勝手に声が出てしまった。
「そんな事ない。貴方は私の見たあらゆる人の中で比類がないほど天才」
(……どうしようか?おどけてみるか?)
「そ、それ程でも、あるかな〜、ハーハッハッハ!!」
「……」
滑ってしまった。
第四夫人は真顔から頬をピクリともせず俺の事をじっと見ていた。
(うおぉぉぉーーー恥ずかしいぃぃぃーーー!!)
転げ回りたい気分だ。
「そういうとこ」(が子供っぽくないって言いたいんだろうな……)
子供って何?という単純な疑問がある。馬鹿っぽくすると馬鹿すぎるような気がするし、かといって頭いいキャラは後々崩壊しそうで怖い。
前世では当然子供がいなかったし、俺は中途半端なまま成人した男だ。
子供と言われてもわからん!というのが本音である。
子供に転生する人達は何故あそこまで子供で居られるのか6年経った現在でも中途半端な俺に是非ともご鞭撻をお願いしたいね。
「ま、まあ、早熟な人は沢山いますし、偶々、あくまで偶々僕がそういう人だったってことでは?」
(誤魔化しきれるか?)
「それでも」(俺は異常……かな?)
言葉足らずなので俺が補足する。
仕方ないので前世で培った処世術、話を逸らすを使うことにする。
「な、何故ローゼさんはそこまで僕のようにボンド君になって欲しいのでしょう?
ぼ、僕は、ええっと……、お母様からお聞きしてます?」
俺の王都での苦い経験をだ。
テンパって頭で言いたい事が素直に口から出ない。
因みにローゼは第四夫人の名前である。
「聞いている。
ボンドもロンドの役に立てたい」
と言った。
「あ、そ、そうですか……。
ええっと何故お父様のお役に立てたいのですか?」
「学校で助けられた」
「助けた?何を?」
「イジメられていた私の前に立ち塞がってくれた」
「そ、そうでしたか」
(あれ?お父様、結構モテモテだったのか?まああのイケメンフェイスだしな〜、家柄よし!顔良し!能力よし!3良しが揃っているからな〜、そらモテるわな)
性格が良いかどうかはわからない。
時々貴族としての顔を見せるのでよくわからない。
(普段は普通にいい人だと思うのだが……)
外面を見ないとなんとも言えない。
それからお父様の学生時代の話を色々してくれた。
なんでもお父様は公爵家で、かつ王族の友人ともつるんでいた為学校内では無敵だったそうだ。
だからと言って弱い者いじめをしている訳でもなく、そもそも学校をサボっては魔物狩りに行っていたのだそうだ。
ただ偶に授業に出たりする時ついでにクラス内の問題を解決したりするらしい。
無口だった彼女はイジメを受けていたのだがその時お父様が助けてあげたそうだ。
レベルも学校でトップだったしリーダーシップもあったしでみんなの憧れだったそうだ。
まあ簡単に言うとお父様はリア充野郎だったという訳だ。
話しているといくら鈍感の俺でもわかる。
あ、この人もお父様の事が好きだったんだ、と。
お父様の事を話す時だけ凄い饒舌になるからだ。
さっきのは演技なの?ってくらいペラペラ話し出す。
そして目が輝き出す。
お父様はモテモテだった。
その役を俺にくれと言いたい。
(絶対俺も学校でリア充になってやる!!)
そう心に誓った。
第四夫人の変わりように若干引いたが、個人的に興味もあったし、誤魔化せたしで一石二鳥だった。
他の貴族の館に寄り1日目の旅は終了した。