第46話 失敗から言える事
王女が努力している事はわかった。
だが……、
「王女殿下、それには一つ問題が……」
「うん?なんだい?」
「ええっとですね〜…」
と言って護衛のゴツい女性を見る。
するとその女性は口を開き、
「構いませんわ、オリオン家御子息様。
私は王女殿下のお目付役、というより外に出ようとしたら力尽くでも止める役ですから。
それに子供の話し合いを報告したりはしませんわ」
と言った。
中々好感度が高い女性だ。
「ありがとうございます。
では一つ王女殿下に申し上げたい事があるのですが宜しいでしょうか」
と俺も居住まいを正して真面目な顔をする。
「なんだい?」
「王女殿下の夢というのは1人では叶えられないものなんですよね?」
「そうだね」
「場合によっては僕の力を借りる必要もある」
「そうだね」
ならば
「王女殿下、貴女はご存知でしょうか?貴女が外に勝手に出た事でどれだけの人が職を失ったか?」
「ん!?し、知らないけど……」
「12だそうです」
さっき部屋を出てすぐにお父様に聞いた。
侍女や護衛騎士、教育係などだそうだ。
「いいですか?12人の人が職を失ったのです!貴女の身勝手で彼らは食べるものにも困るような生活を強いられるのです!
そこの所はわかっておいででしょうか?」
こんな説教俺だってしたくない。
俺だって身勝手極まりなかったのだから。
「い、いや……知らなかった、けど……」
と王女は突然の言葉に戸惑う
「王女殿下は知らなかったでいいのです。
ですが彼らはもう職に就くには遠くの地に行かなければならないのですよ。
侍女たちだって家に帰っても入れてくれはしませんよ?
当たり前です。王女の警護を自ら辞めたわけではなく辞めさせられたのですから。
貴女が知らない所で彼らは路頭に迷っているのですよ」
俺にも言える事、言えた事は多々ある為、ブーメランのように自分にも帰ってくる。
「貴女は他者の力が必要と言いましたね?
誰が貴女に力を貸すのでしょうか?
僕ですか?
すいません、大変申し訳ないのですがご遠慮させていただきます。
何故かって?
貴女を見て力を貸したいとは僕は思わないからですよ。
貴女を隣に置きたいと思えないからですよ。
僕は心配性なのです。
いつ貴女に罠に嵌められるかと思うと関わりたくなくなるのですよ」
信用あっての信頼だ。
俺は彼女を信用も信頼もできない。
両親に言っていた俺の身勝手極まりない馬鹿なセリフとは訳が違う。
今回はちゃんと理由がある。
生きていれば他人に迷惑をかけるのだと言うが限度がある。
取り返しのつかない迷惑は仕方ないとは言えない。
「僕がこんな事を言うのは嫌なのです」
自分の過ちに目を逸らして他人を説教するなんてこんな馬鹿な話はない。
「それでもなお貴女にこんな事を言うのは……」
と言って王女の手を見る。
「貴女の努力は本物だと思うからですよ。
出来るなら報われて欲しいのです。
ですがこのままいけば貴女は最後の最後で失敗します。
貴女を受け入れる人がいなくなります」
彼女は仕方ないでは済まないミスをした。だけどそれに気付かずにそのまま走ろうとした。
彼女はそれを知らずに夢への道を走っていき、その先で彼女が手を借りるであろう俺が、そのミスを知ってしまった。
その時俺はどんな反応をするだろうか?
今、彼女に指摘しないべきだろうか?
自業自得だと見放すべきだろうか?
前世で間違ってしまったままミスに気付かずにいつの間にかどうしようもなくなってた事を悔やんでこの世界にきた俺が?
このまま……知らないまま走り続ければ必ず失敗する。
他者に鈍感である事を許されるのはほんの一握りの人間だけだ。
他者に力を借りようとする彼女はそれには含まれない。
「もっと周りを見てください」
全くどの口が言うんだ、そう思いながら続ける。
「貴女がする行動がどれだけの人に迷惑をかけるのか、かけたのかをもっとちゃんと考えてください。
いつの間にか1人になってた、などという事にはならないでください」
けど失敗したから言える事はあると俺は思う。
「僕の方からは以上です。
失礼な口の利き方をした事を謝罪致します。
申し訳ございませんでした」
と言って頭を下げ、締めくくる。
王女殿下は暫く惚けていた。
だがそれからすぐにバッと立ち上がるとダッとかけていった。
取り残されたのは俺と侍女だけだ。
「言い過ぎましたかね?」
「あら?そんな事はありませんわ。
そちらよりも貴方様の口調、王女殿下で慣れているつもりだったのだけれど流石の私も驚いたわ」
と全然驚いてなさそうに言った。
「そ、そうですか」
「ええ、まるで長い人生を送ってその時の事を言っているみたい」
(ウッ……)
と渋い顔になる。
「安心してくださいませ。
他言は致しませんので。
それと感謝申し上げます」
といい深いお辞儀をする。
「な、何故ですか?」
「あのお方は頭も良く、努力も欠かさない優秀な方なのですが、それ故、人の心に疎い部分、周りの人を気にしない事が多々あるそうです。
貴方様の言葉で何か変化が生じた様に見えました」
「ですが良い方向になるとは……」
限らない。
そう言おうとしたら
「いえ、私はここに来て日が浅いですが良い方向に転がると断言致しますわ」
「な、何故でしょう?」
「ふふっ、それは秘密ですわよ。
では私も王女殿下の後を追いますね。
では失礼致します」
と言って走り去ろうとした。
慌てて
「僕の名前はレインです」
と言っておいた。
すると彼方もそういえば、という感じで振り返り
「私の名前はバリナと申します。以後よろしくお願い致します。
では……」
と言って今度こそ走り去ってしまった。
俺も部屋を出て馬車まで行き、家に帰る。
結局俺にはよく分からないが、彼女が良い方に転がる事を願う。
貴女→貴方に変更しましたm(_ _)m