第112話 強くなるために
エンターブレイン社様より書籍化致しました。
お手数ですが、詳しくは活動報告にて書いてありますのでそちらを見ていただければと思います。よろしくお願いします。
「では、行きましょう」
暫く、スクナ達と話をした後、お父様の元に行くべく立ち上がる。
二十分おきにお父様の動向をチェックしていた。最初の二十分は風呂場。次の二十分後には丁度風呂場を出るところだった。その更に二十分後にはお母様のところに行き、何か連絡事項を話しているところだった。四十分後に自室に帰り、椅子にドッカリと座り、留守の間に溜まっていた書類を片付けていた。その二十分後に見てみると、机の上に手紙があった。
「来てもいいぞ」
(……)
これからお父様に「後で」と言われたら二時間を目処にしよう。
ドアを開け、部屋を出ようとすると、スクナ達も一緒に立ち上がる。いつもはリサさんが付いてくるのだが、最近はスクナ達が家の中での俺の護衛を担当してくれているのだ。
「コウとアイナは先に部屋に戻っていいですよ。二人いれば十分ですから」
コウとメイ、スクナとアイナのペアリングがいつも多いので、偶にこうしてペアリングを変えている。
全員に仲良くなってほしい、というが一番にある。
それに、スクナとメイ、アイナとコウしかいない状態で危機的状態に陥った時に少しでも意思の疎通を上げておきたいからだ。
「畏まりました」
「わかりました」
コウとアイナもこちらの意図を分かってくれているので、特に文句や議論をする事なく納得してくれた。
「では、スクナ、メイ、行きましょう」
「ハッ!」
「はい」
そう言ってスクナ達を連れ、お父様の部屋に向かう。
俺が前を歩き、二歩程後ろを付いてくる。
「あ、そう言えばスクナ。僕が訳した昔の恋愛物語はどうでしたか?」
何の脈絡もなく突如思い出した。
前に恋愛物の物語を貸してやる約束をしていたので、思い出せる範囲で思い出してこっちの世界の言語で書き出した事がある。それをスクナに渡したのだ。
「ふぇ!?」
なんか可愛い声を出した。
「え?そんな驚く事ですか?」
俺が渡したものだ。感想を聞くのは当たり前だろう。
「え?何の事ですか?」
メイが横からニュッと顔を出す。
「聞くなぁ!」
「グハッ!」
その声と共にドスッという鈍い音が響く。
勿論どちらも俺じゃない。
後ろを振り向くとメイがお腹を抱えて蹲っており、スクナが鼻息を荒くこちらを睨んでくる。
「お、おぉ分かった分かった。ごめんごめん。恋愛小説見て……」
「わぁぁ!」
スクナが大声と共に乾いた音が響く。
「ぶっ!??」
頬を叩かれていた。
「あ、ごめんごめん。メイ、大丈夫ですか?」
白々しく俺は謝る。
「……絶対、わざとでしょ」
「めんご」
そんな一幕がありながらも、俺達は廊下を歩いて行きお父様の部屋の前に着く。
「ではここで」
「「畏まりました」」
スクナとメイは部屋の前で待ってもらう。
ドアをノックし、返事を確認してから部屋に入る。
「おお、レイン。待たせたな」
中に入ると、お父様が椅子に腰掛けて待っていた。
「いえ、こちらこそお待たせしました。……少し痩せました?」
よく見ると気持ちげっそりしているように見える。
「忙しくてな。疲れたよ……」
「お疲れ様でした。戦況の方は如何ですか?」
「悪くはないが……」
「良くもないですか……」
兵力に差があり過ぎるのだから仕方がない。
「それで本日は如何いったご用件ですか?」
お父様も忙しいだろうし、長話も何なので、用件を聞く。
「うむ……、そうだな。では、本題に入るが、まずはやはりお前を戦争に連れて行った事が問題になった」
「はぁ……」
まあ、だろうな。仕方ない。
「何とか誤魔化しておいたんだがな、宰相が最後までうるさくてな……、大変だったぞ」
「そうですか……、すいませんでした」
あの人か……。二年くらい前に俺を国預かりにしようとした人だな。
「極め付け、最後に腕を斬られた事がな……」
「すいませんでした」
ばれたのか。
「結論、お前を強くしようという話で落ち着いた」
「僕を強く、ですか?それは……」
あまり意味がない。そう言おうとした。
だが、お父様の次の言葉で状況は一転した。
「お前には冒険者をやってもらおうと思っている」