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異世界で始める人生改革 ~貴族編〜  作者: 桐地栄人
〜第二章〜 少年期
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第98話 対ウィンガルド 前編

「な?!速い!」


突撃してくる帝国軍の中でウィンガルドだけは騎兵の数倍の速度でこちらにやってくる。


俺も慌てて支援魔法をかけ始める。もうこの際細かい事は考えてられない。多少バレても、後の事は後の自分に任せる。

少し遅れてお父様から支援魔法の指示が入る。


それと同時に、それ位は予想の範囲内なのか、ポルネシア軍側は慌てずに矢を放つ態勢に入る。

そして、ウィンガルドが射程内に入ると同時に、「放てぇぇぇ!!」と弓矢隊の隊長が叫び、弓隊の三分の一程の矢が放たれる。


数百という矢が一人に集中して飛んで行った。

俺は神眼と肉眼の両方で見ており、未だにウィンガルドは神眼の効果範囲内に入らない。


肉眼で弓隊の後方からその光景を見た。お父様の十万軍により、矢を放った全員がウィンガルドの大体の位置を知っていたか、弓隊からまるで鳥の様に飛んで行った矢が、急降下し、逆扇型の様にウィンガルドに集まっていく。


(死ねぇ!!)


恐らくそこにいた誰もが思ったであろう。

だがしかし、奴を覆う風の膜はその矢をアッサリと弾き返した。

ウィンガルドは未だ、まるで硬質の金属に当たった様な音を立てながら此方に突撃してくる。


そして、とうとう俺の神眼の領域内に入った。


(神眼!)


[ウィンガルド・ドュチェス・ウインド/Lv. 56]

[男性/AB/6472/12/8]

[人族/ウインド家]

[HP 1956/1956(−385)

MP 2287/3543(+200)

STR 416(+145)

VIT 465(−230)

AGI 418(+270)

[魔法]

火魔法 レベル6

水魔法 レベル7

風魔法 レベル8

土魔法 レベル6

[スキル]

レア度4 風魔法の威力中アップ

レア度6 全ステータス上昇率 中

レア度7 ステータス移動


ステータス移動


HP、MP、STR、VIT、AGIのステータス値を他のステータスに移動させる事が出来る。

HP、MPは減ると減った分は移動させられない。HPを移動させたまま0になると死ぬ。


「何だと!!?」

それが俺の第一声だった。

「え?どうしたの!?リドル!」

俺の突然の叫び声にビックリするリリーに声を掛けられる。

だが、今はそっちにかまってやれない。


(ある程度、強いと予想はしていた!だけど……!)


強すぎる。

俺のその一瞬の戸惑いの間に、ウィンガルドとポルネシア軍が肉薄する。

ポルネシア側は頑強な盾を揃え、横一列に整列している。

その様はまるで鉄で出来た壁の様な風格を漂わせている。

更には俺の補助魔法でVITを上げ、盾と盾を持つ本人の防御力を上げている。


(貫けるわけがない!)


そう思い、ジャンプして飛び越えるんじゃないかと思っていた。


だが、甘かった。


ウィンガルドは盾兵とぶつかる瞬間に懐に挿してある刀を抜き、振り払った。

その瞬間、台風が吹き荒れるかの様な風の力の暴力がそこにあった。


盾兵を盾ごと薙ぎ払い、ウィンガルドが纏っている風の鎧が攻撃を防ぐどころか近づく事さえ許さない。


その勢いはとどまる事を知らず、少しも勢いが収まらないまま盾兵の厚い壁を難なく突破してしまった。

彼が突破した後はその壮絶さを語る様にバラバラになった死体が散乱し、ウィンガルドが纏う風によって飛ばされた四肢が落ちてくる。


(止められない!)


その凄惨な光景を見て吐き気と共にそう思ってしまった。

だが、ポルネシア側の誰もがその光景に唖然としているわけではなかった。


(盾兵!!前を向け!)


お父様の声が突如として頭に響いてくる。

十万軍だ。

何時の間にか弓隊は既に左右に分かれており突撃してくる帝国兵に対して、弓の一斉射を開始している。


空いた道の奥で既に詠唱を完了していた魔導兵が魔法を飛ばす。

火と土を合わせ放つレベル5の合唱攻撃魔法。

[ラーバキャノン/岩石砲]


直径10メートルはあるであろう岩石は、内側からまるでそのエネルギーを外に出す事を望んでいるかの如く赤く燃え上がっている。

その姿はまるで隕石を彷彿とさせる。

炎の熱と岩の物理的な重さで敵を殺す戦争ではよく使われる魔法だ。


その巨大な岩石はキャノンと呼ぶに相応しい速さでウィンガルドに飛んでいく。

その光景を見て、ウィンガルドの脚がやっと止まる。


(避けられる!)


反射的に俺はそう思ってしまったが、ウィンガルドはそこで刀を懐に挿し、腰を低くして居合の構えをとる。


シュウィィィィィン。


そんな音が辺りに響き渡った。


次の瞬間、ドォーン、という音と共に未だ空中にあったその岩石は縦横無尽に斬り裂かれた後、ウィンガルドの風の鎧の影響でその身を避けるかの様に辺りに落ちて行く。


「ランド!リドルを連れて逃げよ!」


唐突にお父様がそう叫んだ。

「え?!うおっ!」


驚き間抜けな声を出す俺をランド隊長が抱えていた。

横にいたリリー達を抱え、ターニャさんも即座にそれに従う様に逃げる準備に入る。


「!?何をするのですか!ランドさん!離してください!僕はまだここでやるべき事があります!」


あんな化け物がお父様の命を狙っている。俺が横に付いて補助をしなければ取り返しのつかない事になる。


だが、そう叫ぶ俺にランド隊長は叫び返す。


「分かっております!そんな事は分かっております!ですが!ですが、今はロンド様の命令に従ってください!」


悲痛な声でそう叫ぶランド隊長の顔は泣きそうだった。


その時、ふと気付く。

ここに来る前にお父様が視線をこっちに送った理由を。

あれは俺に目線を送ったんじゃない。リサさんとランド隊長に十万軍で指示を送ったんだ。


それはつまり……。


「戦う前からこうなることがわかっていたのですか!?お父様!!」


腰をランド隊長に抱えられながら俺は力の限りそう叫ぶ。

今のタイミングなら逃げ出そうと思えば確かに逃げ出せる。


俺とリリー達、ターニャさんリサさん、ランド隊長。

帝国兵も全軍で此方に突撃してきており、既に前線は混沌としている。

俺の補助魔法とお父様の掛け声のおかげか押されてはいない。

敵も想定外だったのだろう。

ウィンガルドの突撃を受けても立て直せる軍は。

故に、全軍を上げて突撃して来ている。


俺達だけなら恐らく、横から抜けて遠回りにポルネシア国内に逃げ出せる。


だがそれはここにいるポルネシア人全員を見殺しにするという代償が必要になる。


ターニャさんは即座に逃げる。

その顔には少しも躊躇いはない。

彼女にとって一番重要なのは王女達の命であり、それを守る為なら何でもすると決めているのだろう。


(だが俺は?)


俺にとっての一番重要なのは家族の命。つまりはお父様の命だ。

それをおいて撤退なんて出来るわけがない。


背後から悲鳴が上がっているのが聴こえる。魔導兵にウィンガルドが突撃したのだろう。


防げるわけがない。魔法を放ち、ウィンガルドを殺せなかったと悟った瞬間に魔導兵は二手に分かれ撤退した。

だが、大火力の破壊力がある魔導兵をウィンガルドが見逃すはずがなかった。

二手に分かれた一方に進路を変え、背後から切り刻んで行く。


そして切り終わった後、また進路を変え、お父様の元へ一直線に走って行く。

お父様はその場から動かない。


走って行くウィンガルドに突如として横から槍が飛んでくる。

それを平然と避け、足を止めそちらを見る。


「準英雄級魔法師、ウィンガルド・ドュチェス・ウインドと見た!

我の名はオリオンが四将が一人。

バルドラ・カウント・ド・アルハーク!お手合わせ願おう!」


そこには、馬に乗りいつもの様に大きな声を出すバルドラがいた。


(バルドラ!)


彼は死ぬ気だ。その顔を見ればわかる。

笑っているような悲しんでいるような喜んでいるような、そんな顔だ。

人はそれを覚悟を決めた者と呼ぶのだろう。


バルドラは普段名乗らない。

でも今回は名乗った。

俺達が逃げる為の時間稼ぎの為に。

そして、自分を鼓舞する為に。


その覚悟を悟ってか、ウィンガルドは、バルドラの方に身体を向け、低く腰を溜め構えに入る。


バルドラとウィンガルドがほぼ同時に動いた。


バルドラはウィンガルドに突撃し、交差する瞬間に持っていた巨大な矛を横一文字に振り払う。


だが、ウィンガルドはバルドラが矛を振り被ると同時に速度を上げた。


ウィンガルドがその場から消え、瞬く間にバルドラの後方に現れる。


「ロンド様……お待ちしております……」


バルドラはそう呟くと身体の中心から血飛沫を上げながら地に倒れた。


それをチラッとみたウィンガルドは、そのまま向きを変え、ロンドの元に走って行く。


立ち塞がる敵を斬り殺しながら、本陣の眼の前に来た。


「!!??」


横から巨大な火の玉が飛んで、ウィンガルドに直撃する。

しかし、彼が纏う風の鎧がそれを平然と打ち消してしまう。


「行かせませんわよ?」


シャウネが横から奇襲したのだ。


「まだ立ち向かう勇気のある魔導兵がいたのか……」


ウィンガルドがそう呟く。


「だが、手が震えているぞ?」


戦場、しかも敵地真っ只中でそんな風に気さくに話しかけられるのは何があっても防げるという自信の表れだろう。


「そうね、怖いですわよ。それでも立ち塞がらなきゃいけない時というのがあるのですわ」


シャウネは震えながら、それでも気丈に立ち、そう呟く。


「シャウネ・ソーサリー・ド・パレン。名高きコリドー家の分家にあたる家の出ですわ」


そう名乗るシャウネにウィンガルドは眉ひとつ動かさない。


「そうか……、いざ!」


突撃を再開し、シャウネに迫る。


だが数歩も進まない内に左右前後から火魔法のファイヤーボールが飛んできて、ウィンガルドは驚愕の表情をしながら当たる。


「一対一とは一言も申しておりませんわ?女の狡猾さを甘く見ましたわね?」


そうシャウネが言い放った瞬間、爆発地の中心から豪風が巻き上がり、たちまち火を消してしまった。


「そっちこそ準英雄級を舐めすぎじゃね?」


そう言いながら前に進む。

だが、足を踏み出した場所が急に沈んだ。

こうなる事を予想して落とし穴を仕込んでおいたのだろう。


「甘ぇよ」


信じられない事に踏み出さなかった方の足で地を蹴り、地面を滑空した。

その勢いのまま肉薄し、ドッという音と共にシャウネは崩れ落ちる。


しかし、血が出ておらず、僅かながら息をしているようだ。


「はぁ……」

溜息を少し出したあと、また進行の矛先をお父様の方に向ける。


それを見た俺はとうとう堪忍袋の緒が切れた。


「いい加減降ろせ!」


表面を繕うのを止め、昔の荒さが出た。

こういう命令口調をしたのはいつ以来だろうか。


「降ろせません!」


ランド隊長は、そう叫びながら、馬を駆り続ける。

その言葉を聞き、如何しても俺を離さないと分かった。

言葉じゃ解決出来ない。

ならばこちらにも考えがある。


抱えられている腰を軸に頭の方を持ち上げ、身体を思いっきり回転させる。


ランド隊長と俺のSTRは俺の方が勝っている。


腕が曲がらない方向に力を加えられ、ランド隊長は俺を離す。

俺はその勢いのまま地面を転がり、止まるとすぐに立ち上がりお父様の元に向かう。


神眼でお父様とウィンガルドの様子は逐一チェックしている。


お父様の真ん前には寡黙なドワーフであるバドがいた。


とうとうお父様の元までやって来たウィンガルドは物珍しそうにその光景を見る。


「へぇー、俺の攻撃を見て、逃げなかったのはお前が初めてだぜ。流石は天下に名が知れ渡るオリオン。その勇気、流石だぜ」


そう気さくに話し掛けるウィンガルドに対し、お父様は無言のまま見つめ返す。


バッ!


驚く事に先に駆け出したのはバドだった。駆け出す瞬間、お父様に何か言ったような気がした。


そして、その後、無言のまま巨大な盾しか持たないその身体で突撃した。


「……」


ウィンガルドもそれに対し、無言のままバドを一閃した。

ドッという音と共にバドの身体が崩れ、血が噴き上がる。


(バド……)


なんと言ったかはわからない。

だけど、きっと別れの言葉を呟いたのだろう。

お父様はそれを見つめ、馬から降り、矛を構える。


お父様のその顔はやり切ったという顔だ。かなりの時間が稼げた。それ故、目的は果たしたという事なのだろう。


周りの者達は動かない。

お父様にそう指示されたのだろう。

涙を堪えながら、歯を食いしばっているのが見える、


「ふざけんな!!」


走りながら俺はそう叫ぶ。


「そんな未来、俺は認めない!こんな人生受け入れられない!」


神速のお陰で何とか自分が元いた位置まで戻る。

そこには俺がもともと乗っていた馬が佇んでいた。


逃げるかもと思っていたが流石は金の掛かった軍馬だ。よく調教されている。


其処に飛び乗り、立て掛けてあった俺専用の弓とその弓用の矢をつがえる。極限の状態ながら俺の心は信じられないほど鎮まっていた。

周りから音が消え、お父様とウィンガルドの動きにのみ注目する。


距離は80メートル。

この程度の距離なら百発百中で当てられる。


視線の先では、お父様とウィンガルドが同時に動く。


(精密)


その魔法を自分にかけると同時に矢を放つ。

それと同時に、飛んでいる矢に貫通の魔法を掛ける。


前世でも二、三度あった。トランプの次のカードが何となく分かってしまうとかの、なんとも言えない直感の様なものが。


放った瞬間に分かった。これは当たると。


ウィンガルドとお父様が交差する瞬間、横から俺が放った矢は狙い通り、ウィンガルドの肩を貫通する。


「グオッ!!??」


俺の放った矢によりバランスを崩したウィンガルドはたたらを踏んだ。


その瞬間を見逃さずお父様が矛を振り下ろす。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の方も書かれていますが戦争なのに殺人の忌避で敵将に手加減とか、付き人の子たちにお前らは弱いとか偉そうなこと言っといて笑わせますね そのせいで味方にどれだけ被害がでたのやら 今後はもう…
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