第90話 判断材料
記念すべき百部目\(^o^)/
今年最後の投稿です。
「大切です」
侍女はハッキリと断言した。
「そうですか?でも、顔が見えていたとしても僕達がポルネシア人だという証拠には決してならないかと思います。
姿が怪しい、ただそれだけで僕にああだこうだ言っているのだとしたら僕はやっぱりシャウネさんの言う事に賛成です」
格好がなんだというんだ。
俺はそう思わずにはいられない。
確かに街の中や店の中で仮面を被り怪しい格好をしていたらまず信用ならないだろう。
衛兵に通報する人がいたとしてもおかしくない。
けどここはそうではない。
ここは戦場であり、求められるのは彼女達を守れるだけの強さである。
この場にいるという事はいられるなりの何かを持つものである。
それ位は簡単に予想がつくだろう。
顔が見えるだけで相手を判断出来ると言うのなら詐欺師などやってはいられないだろう。
それでもなお、顔が見える事が大切だというのであれば納得出来るだけの理由が欲しい。
「いいですか。顔とはその人が送ってきた人生を表すものといっても過言ではありません。
顔を見ればその人がどの様な人であるかがある程度分かります」
「それで分かればこの世に詐欺師など存在しないかと」
「確かにそうです。では、私は貴方方の何を判断すればよいのでしょうか?」
負けじと言い返す俺にそう言い返してきた。
何を……、ない。
判断材料なんて結局存在しない。
一応、例のオリオン家のエンブレムは持っている。
前にも言ったが複製はあり得ない。
だが、盗んだのでは?と言われると言い返せない。
ビデオカメラがなく、DNA鑑定もないこの世界では、盗んでいない決定的証拠なんて存在しないからだ。
結局の所、判断基準なんて物は人それぞれの感性に収束するという事だろう。
彼女にとってそれが顔だった。
「……わかりました。
それで貴方が納得するというのであればお見せしましょう」
そう言ってフードをとる。
「リドル様!」
当然、ランド隊長が声を掛けてくる。
だが、こればかりは譲れない。
「シャウネさんや僕は彼女に対して失礼な事をしました。
そして、彼女の言う事に納得しました。
ならばここは誠意を見せるべきでしょう。
彼女の言う通り僕達は善意だけで彼女達を助けているわけではないのですから。
元帥には……お父様には僕の方から伝えます」
「お父様……?」
誰かがそう呟く声を聞き流しながら、顔を隠していた仮面をとる。
「……!?」
侍女とその後ろで見守っていたリュミオン人の男が息を呑む音が聞こえた。
「お初にお目にかかります。
僕の名前はレイン・デュク・ド・オリオン。
父親はこの軍を率いる元帥、ロンド・デュク・ド・オリオンです。
先ほどの失礼な言動、お許しください」
そう言いながら一礼をする。
六年間も貴族をやっているだけあってそれなりに様になっていると思う。
「オリオン……?!それに、貴方……」
彼女は初めて硬い表情を崩し、目と口を大きく開け、驚いた表情で固まる。
「まあ、そういう事です。
因みに外見通りの年齢ですよ、僕は」
外見通りの中身ではないが。
「そんな、嘘……。貴方……何で」
侍女は、驚き過ぎて声を出すのもやっとといった感じで絞り出す。
それに対して俺は仮面を被りなおしながら、
「何で……ですか?
それは、何でこの年で大人びているのか、ですか?
それとも何でその年でこんな所にいるのか、ですか?
前者の答えは、僕が早熟だから。
後者の答えは、この年で戦地に行ってでも守りたい人がいるから、ですね」
前者は嘘だけどな。
でも後者は事実だ。
その言葉に気を持ち直した侍女は、
「その年でその考えは立派よ。
だけど……だけど、力が無くては何もできないの。今の私の様に…!」
そう喉から絞り出す様に言ってくる。
「足を引っ張らないだけの実力があるのでしたらそれを力がないとは言わないと僕は思いますよ。
そして、僕にはそれだけの力があった。ただ、それだけの話ですよ」
守りたい人の為に何か出来る事があるのならすればいい。
「これが僕が戦地まで来ている理由であり、また顔や姿を隠している理由です。
御理解いただければと思います」
俺がそう締めくくると彼女は、ハッとし居住まいを正しシャウネに負けず劣らずの美しく頭を下げながら、
「こちらこそ先程までご無礼を働いてしまいまして誠に申し訳ありませんでした。
私の名前はターニャと申します。
名乗るのが遅れてしまったこと、お許しくださいませ。
そして、この様な無礼を働いたうえに、この様な事をお願い申し上げるのは誠に厚かましいのですが……。
出来る事ならばリュミオンの王女様を貴方様のお家に匿っていただきたいのです。
どうかお願い出来ないでしょうか?」と言った。
俺の答えは、
「無礼はお互い様ですので。
匿う件についきましては我が父である元帥にお頼みください」
俺が勝手にオーケーするわけにはいかないのでその件はお父様にお任せする。
「畏まりました。
では、王女様方をお連れしてまいります」
そう言って小屋の中に下がっていった。
その後すぐ、五歳の子と三歳の子の二人の幼い女の子を連れて戻って来た。
どちらも金髪に青い眼をした可愛らしい女の子だった。
二人とも怯えており、泣きそうな眼でターニャさんの脚にしがみついている。
ランド隊長はゆっくりと近付いていき、膝を折り紳士な態度で語りかける。
「お初にお眼にかかります。
私の名はランドと申します。
王女様方は命に代えてもお守り致しますのでご安心くださいませ」
ピクッとターニャさんが動いた。だがすぐに気を取り直し動かなくなる。
それにしても……。
ランド隊長やるな!
特に膝を折って目線を合わせるところは高ポイントだ。
さすがお父様の右腕。
だが、王女様方は泣きそうな顔をしながら更にターニャさんの背後に隠れてしまう。
あれは照れ隠しではない。
ガチで嫌がっている奴だ。
ドンマイ。
そう思いながら俺も近付いていき、ランド隊長の横に行く。
フォローはやはり大切だろう。
そう思い口を開こうとした瞬間、
バッと五歳の方の王女様が出てきて俺の腕を掴み、ターニャさんの後ろに連れて行く。
そしてカップルの腕組みみたいに腕を取られてしまった。
「え?ええ?な、え?」
予想外の出来事が発生した。
俺が戸惑っていると、
「わたくしがまもってさしあげるからね!大丈夫、お姉ちゃんにまかせなさい!」
と言って俺の頭を撫でてきた。
えー……。立場が逆になっちまったぜ。
恐らくは俺も彼女達同様、親と離れ離れになり、寂しがっている子供の様に見えたのだろう。
先程とは違い、胸を張って俺を勇気付け様とする王女様がそこにいた。
「わたくしの名前はリリー!こっちは妹のルナ!貴方のお名前は?」
「え?僕はリドル……です」
そう俺が言うとリリーは更に眼を輝かせ、「そうなの!じゃリドル!今日から貴方はわたくしの弟!よろしくね」
そう元気よく言いながら手を差し出してくる。
ええーー。いやまず年齢がすでに俺の方が上なんだが……。
俺六歳だし。
いやまあ握るけどさー。
渋々俺は彼女の手を握る。
元気が出た様でとりあえずは何よりだ。