《第6楽章》 解けてゆく一つめの謎
キッドが打ちっぱなしのコンクリート床を蹴り上げて宙に羽ばたく。その姿を捉らえた哀が冷笑で迎えた。
勢いをつけて差し迫るセームの白手袋が哀の手首を掴みかけたが、すんでの所で無情にも避わされる。
「くうぅぅ―――っ! ちょこまかしやがって! やべえ、このままじゃ埒があかねー!」
空中戦には自信があったキッドも、哀が自在に舞い踊るサマに段々と焦りを感じてきた。
加えて、治まらない怒りが判断能力を格段に落としてしまっている事に全く気付いていなかった。
空回りするキッドを、哀は揶揄いを十二分に込めた涼しげな濃灰色の瞳で冷たく遇う。
「あらぁ、だらしないわね。もっと楽しませてくれなきゃ。それとももう降参かしら?」
「――っざけてんじゃねーよ! ぜってー捕まえてやっから待ってろ!」
「あらあら、威勢だけはいいのね? でも簡単には――」
捕まらないわよ、と続く筈の言葉が途絶えた。不審に思ったキッドが目線を走らせ息を呑む。
「あぶねえ――っ!」
「きゃあっ!」
ほんの一瞬の出来事で瞬きさえ忘れてしまった。
キッドが叫んだ時には、哀は前方のビルの壁に肩から突っ込んでいた。
完全にバランスを崩した哀は、ほうきから投げ出されてしまった。
「きゃぁぁぁぁぁ―――っ!」
「チィッ! 世話が焼けるぜっ!」
為す術もなく急降下してゆく哀を、キッドは全速力で追尾する。
落下によって身体に掛かった重加速度で、哀の意識は失われていた。
「ちっくしょー! 間に合えぇぇェェ――ッッ!」
裏膝をかけた状態でハンググライダーを器用に操り、キッドは必死で手を伸ばした。
一瞬掴みかけた哀の手首は、甲斐なくキッドの掌を滑ってゆく。
「やべえっ! この勢いのまま飛び込んじまったら二人ともオダブツだ!」
猛スピードで眼前に近づいてくるアスファルトを睨み付け、キッドは咄嗟にビルの側壁を力任せに一蹴した。
「いっっっけぇぇ――っっ!」
漸く哀の二の腕を捕らえ強引に引き寄せる。そして両腕で胸元に抱き留めた直後――。
「な! 何だァ?」
キッドが奇声を発して見据える中、哀の身体から蒸気のような白煙が立ち上り始めた。
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