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敷地の広い学校

作者:ぱんだ祭り
 昨日、私の通ってる高校で、また自殺者が出た。
 数ヶ月に一度くらいなのだろうか?
 ホームから飛び降り自殺をする人が妙に多い駅があるけど、駅で「人身事故のため遅延が発生」という文字を電光掲示板で見るくらいの頻度で死んでいる。

 自殺者といっても学校の生徒が自殺するわけではない。
 まれにそういうこともあったらしいが、そのほとんどがこの町とは関係ない遠くから来た人達だ。

 学校の裏手には見上げるほどに高い峰が連なり、急な斜面が学校のすぐ近くまで続いていた。
 その斜面には高い木々が山を覆うように広がっている。
 東京の端にある田舎町。
 どこまでも続くのどかな風景。
 何もない町にある私の学校は山のふもとにあった。

 でも、学校の敷地だけは広くて、通っている生徒でも隅から隅まで行った者はいないと思う。
 行った所で何かあるわけではないし、そんなことに無駄な時間を費やす生徒などいるわけがなかった。

 私もあまり詳しくないので良くは知らないんだけど、町の人達の噂によると、どうもその斜面の一部に丁度飛び降りやすい場所があるようなのだ。 
 そしてそこから飛び降りた人が転がり落ち、学校の敷地内までやってきてようやく止まるそうだ。
 それも毎回同じ場所に自殺者の遺体が必ず辿り着くのだという。
 だから厳密には私の高校でというよりは、私の学校の裏山でといった方が正しいかもしれない。 

 私もそれを入学前から知っていたので嫌だったんだけど、他の学校はとても遠くて通いにくいし、地元の学校の方が安心できるので入学した。
 だけど入学してみれば、そういう事件があれば学校は休みになるし、わざわざ普段行かない学校の裏手に回って事件の現場を見にでも行かなければ、恐ろしい物を目にすることもない。
 それに校舎の中で何かあったわけではなく、見たことはないけど校舎の敷地内に少し自殺者が入り込むだけだ。
 身近な事件とはいえ、私達がそれに巻き込まれることもないし、慣れてしまえば近くで交通事故が起きた程度の感覚なのだ。
 徐々にテレビのニュースでも見るように、自殺者が出て休校になると「ああ今日は休みなった。ついてる」と他人ごとのように思うのであった。

 そんなある夏の日のことだった。
 まだお昼を過ぎたばかりで日差しが強く蝉の声が幾重にも鳴り響いていた。
 もうすぐ夏休みで少し浮かれていたのかもしれない。
 友達の春奈が学校の裏側の自殺者が落ちてくる場所を見に行こうと言ってきたのだ。
 そこには入学当初から先生達に絶対に近づいてはならないと何度も言われてきた。
 普段優しい先生達も、そのことになると急に怖い顔になって「学校の裏側には行くな!」と声を荒げるのだ。
 先生からも言われているし気持ち悪いので、私は行きたくないって言ったんだけど、春奈がしつこく誘ってくるので学校の帰りに2人で寄ってみることにした。
 とはいえ、私達も学校の裏側に自殺者が転がり落ちてくるということしか分からないので、具体的にどのあたりがそれに当たるかなんて分からなかった。

 私達が学校裏に行くと、それは大きな1つの異様な生き物のようで意思を持っているようだった。
 そこは雑木林になっていて、どこまでが山でどこまでが学校の敷地なのか分からない。
 何故だろう。山なんていつも見ているのに何だか変な感じがする。
 じっと私達を捕捉している得体の知れない生き物の前に、「立入禁止」と書かれた古い看板が1つ立てられていた。

 境目だ。
 人間が入らぬよう固く閉ざされた境界線。
 少し寒気がしてきた。
 熱中症になりそうなくらいの猛暑だというのに、このあたりだけ気温が低い気がする。
 ただならぬ気配。
 既に私達は見張られ、いや、もう取り囲まれているような感じだ。
 私は自殺者のことよりも、この目の前に立ちはだかる今にも私達を飲み込んでしまいそうな雑木林と山が酷く怖くって、境界線の向こうに入るのをためらってしまった。

「春奈…何か変だよ…入らない方がいいよ…」

「大丈夫だよ、沙織。行ってみようよ!」

 私が何度も止めようと言ったのだけれども、春奈は何も感じていないのか妙に乗り気で結局2人で向こう側に入ることにした。

 私は子供の頃から山には入り慣れていたので、誰かが踏み入った後であろう、適当に通りやすそうなところを見つけて雑木林の中を歩いて行った。
 しかし、なんだかおかしい。
 このあいだ事件があった時に警察とかが入った跡なのだろうか?
 道を作りながら歩いて行くのだと思っていたんだけど、ずいぶん踏み固められていて、人間が入り込みやすくなっている。
 それともなにか理由でもあって、この中に入り込んでいる人でもいるのだろうか?

「沙織!死体を踏まないように気をつけてね!」

「え!そんな!死体なんてあるわけないよ!」

「分からないよ!見つかっていない死体があるかも知れないよ!」

「そういうこと言うのやめてよ!!!春奈が先頭だから踏むなら春奈だよ!」

 春奈はどんどん先に進んでいき、私との距離が離れていった。
 春奈にのせられて私達は小さな子供に戻ったように、はしゃぎながら前に進んでいった。
 でも確かに春奈が言う通りで、こんな所に死体が落ちてきても、すぐに見つかることはなさそうだ。
 考えてみたらこんな誰も入らないはずの学校裏の雑木林で、一体誰が自殺者の死体を見つけているんだろう?
 誰か死んでいたとしても誰にも見つからず、山に住む生き物たちに食べられてしまう可能性が高いのではないだろうか。

 そしてそれは私達がだいぶ奥まで入り込んだ頃だった。 
 先を走っていた春奈が急に立ち止まって、真っ直ぐ前を見たまま動かなくなった。
 あれだけ騒がしかった春奈が、無言で力が抜けたように立ち尽くしていた。

「どうしたの春奈!」

 異変を感じ私が春奈のそばに駆け寄ると、春奈の表情は凍りつき小刻みに震えていた。

 急に静かになった雑木林。
 本性を現した生き物。
 周りから見られているような気配。
 いや、私達が騒いでいただけで、ずっとそうだったのかもしれない。
 私は思い出した。さっきまで感じていた恐怖を。
 凍りつくようにひんやりとした空気が流れる。

 そして、おかしな音が聞こえてくるのに気がついた。
「ザザー、ザザー、ザザー、ザザー」と一定間隔で聞こえてくる何かをこすりつけるような音。
 自然の音ではない誰かが何かを動かしている音。

 何この音…待って…待ってよ…

 私は心の中でこんな人気のない場所で聞こえるはずのない音が消えるように祈ったが、その音が途絶えることはなかった。

 そして、何も声に出せない春奈は視線の先にあるものを真っ直ぐ前を指さした。

 そこにはコンクリートの壁があった。
 いや壁というより、直方体だ。
 それはきっちりとした直方体でかなり頑丈そうにできていた。
 何というか、8畳程度の広さの小屋をセメントの壁で覆い尽くしたような、全く何のために存在するのか意味が分からない建造物。

 急に現れたリアルに存在する建造物を見て、私も身動きできなくなってしまった。

 おかしい。何故こんなものがこんなところに建っているのか?

 さらに私達を混乱させたのは、その直方体のそばに知ってる人が1人立っていたことだ。
 それは昔からずっとこの学校にいる高橋先生だった。
 高橋先生は人が良さそうなおじいちゃんで、一度定年退職してからまた非常勤でこの学校に勤めているらしい。

 高橋先生は無表情で、コンクリートの壁を左官職人みたいにコテで塗り固めていた。
「ザザー、ザザー、ザザー、ザザー」と。
 あの音は高橋先生がコンクリートを直方体に塗る音だったのだ。
 かなり分厚そうなその直方体に、高橋先生がさらにコンクリートを黙々と慣れた手つきでコンクリートをこすりつけていく。

 そのあってはならない異様な光景。
 そして静けさ。
 それに耐えられなくなった私は「先生!」と大きな声で声をかけ、私と春奈は先生のそばに走っていった。

 先生のそばに行くと、高橋先生は何が起こったのかわからないような顔をして、しばし私達を見ていた。
 どうやら高橋先生は本当にただコンクリートを壁に塗っていたようだ。
 近くに来てわかったのだけど、先生が塗ったばかりのところはまっさらな状態だった。
 しかし先生が塗っていないところは文字のようなものがびっしり浮き上がっていた。
 それは見たこともない形で、人間が使うものには見えなかった。
 宇宙語とでもいうのだろうか?
 意味不明な気味の悪い文字のようなものが整然と羅列されている。

「なんでここにきたんだ?かえりなさい!」

 高橋先生はかなり動揺した様子で声を震わせながら私達に帰るように注意した。

 するとその時だった。ドン!!!ドン!!!ドン!!!と強く何かを叩く音が聞こえてきた。

 ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!ドン!!!

 狂ったようにメチャクチャに叩きまっている。
 それは直方体の中から聞こえてきた。
 音がする度に直方体は激しく揺れ、若干バラバラと端の方が崩れてきた。
 何がいったいそんな強い力で叩いているのか?

「早く逃げて!!!夏は動きが活発になるんだ!!!!」

 滅多に怒ることなんてない高橋先生の怒鳴り声に私達は返事もせず元来た道を走り始めた。

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 無我夢中で走っていると春奈の叫び声が聞こえた。
 私は振り返ると、春奈の足に金色に輝いたチューブのようなものが絡みついていた。
 それは絶対に地球上に存在するはずのないもので、生き物なのか無機物なのかすら分からない。
 どう見ても直方体の方から伸びてきていた。 

「ウワアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!春奈アアアアアアアッ!!!」

 春奈のことよりもそのチューブのようなものが恐ろしくて私は叫びまくった。

「助けて沙織!!!!」

 春奈は泣き叫びながら私に助けを求めた。
 でも春奈を助けることなんてできるわけなかった。
 私は自分のことだけで精一杯だった。

「ごめんなさいっ!!!ごめんなさいっ!!!」

 チューブに物凄い勢いで引っ張られ、雑木林の中を引きずられる春奈を見殺しにして私は走った。
 あんなものどうすることもできない。
 春奈が襲われている間に、私は逃げきれるかもしれないと考えていた。

 逃げて逃げて逃げて。
 私は泣きわめきながら走り続け、立入禁止の看板がある境界線まで帰ってきた。
 そこで私は学校裏を振り返ったんだけど、何事もなかったようにただただ静かに強い日差しが照りつけていた。
 そのまま私は急いで家に逃げ帰った。
 そして自分の部屋を厳重に戸締まりし窓やドアをダンボール等で塞ぎ、そのままガタガタ震えながら閉じこもった。 

 その夜、春奈が学校裏で自殺したと、学校の連絡網で回ってきた。
 明日は休校になるという。
 それを部屋のドア越しにお母さんから聞いたんだけど、私は返事すらできなかった。
 嫌でも思い出してしまうさっきの事件をなるべく記憶の底に封じ込めようとしながら、私はベッドの中で震え続けていた。

 私は休校が終わってからも数日学校を休んだ。
 しばらくして何とか持ち直してきたので登校すると、放課後偶然高橋先生と廊下で会った。
 私はどうしようかと思ったんだけど、高橋先生のこの間のことを聞いてみることにした。

「先生…春奈は自殺したんじゃないですよね?…」

 私がそう聞くと高橋先生は表情を変えずじっと私を見た。

「神域なんだ」

 先生はそれだけ言うと、私から視線を反らし立ち去った。
 私はそれから卒業するまで、絶対に学校の裏側に近寄ることはなかった。
こんにちは。ぱんだ祭りと申します。
はじめてホラーを書いてみました。
こんなに難しいとは思いませんでした。
怖いかどうかは定かではないですが、また来年も頑張って書いてみようと思います。

どうしてもめっちゃありえないもの、つまり幽霊や化け物的なものが現れたらネタにしか思えないので、僕は怖いってなんだろうとずっと考えました。
例えば僕の目の前に貞子が出てきたら、隅に追い込んでみんなに見せると思うんですよね。
「貞子が来ましたよー」って。
みんなこぞって見に来るし、商売にしようと考える奴も出てくると思うんですよね。
かといって人間が狂う様だけを書いたりしたらそれはホラーではないし、それすらも僕にとってはネタに過ぎないのです。
そしてリアリティがないものを怖がるのは変だし、だからといって実在しないものをリアルだというのも変だし。
そこで僕は直方体という恐怖の元になるであろう媒体を作り、それ以外は全部リアルに作りこめばいいのではないか?という仮定で書いてみました。
こうすればコントにならずに済むかなって。
まだ良くわからないんですが、怖いという感情について考える良い切っ掛けになりました。

ちなみに普段は狂ったラノベですらない小説書いてますので合わせて読んでもらえると嬉しいです。
ではー。

■幼馴染みの彼女が僕を殺しにやってくる!
http://ncode.syosetu.com/n4280ct/
■ステルス アイドル エージェント
http://ncode.syosetu.com/n3445cq/

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