旅立ち 06 直紀
翌日には出発するというので、その夜、帝都に向うナオキ達一〇人と、探索の旅に出る五人(五人の勇者と呼ばれた)のために、事務棟の屋上で篝火を焚き、投光器まで使って盛大な壮行会がひらかれていた。
今年になって北の開拓地に作られた畑から採れた野菜や、ようやく増えてきたラスケィ(品種改良されているのか毎日のように卵も産むため、鶏の代わりに食べられている、四本足の毛の長い爬虫類様の生物。中型犬ほどの大きさに成長する)を一〇匹に、貴重な豚まで一頭潰して大盤振る舞いだった。
バーベキューセットに大量の食材。野菜とハーブがたっぷり入った臓物の煮込み。消費期限の近い缶詰まで出されていた。
警備等の当直についている者については交代だったが、新しく生まれた二人の赤ん坊も含めて、手隙のアーシア全員が集まっていた。
要するに、本当にこれが最後の別れになる人が、間違いなくいるだろうと思っているという事だった。
最初に帝都に向うナオキ、シュウ、ケンジ、アスカ、デニス、アレッサンドロ、ケイシー、ヴィクトリア、ユウとリナの一〇名の名前が、事務棟の階段の壁に刻まれて、その後五人の探検隊員の名前が刻まれると、あとは屋上に戻ってワインの酒樽を空け、アルコール類解禁の無礼講となった。
子供で残るのはリョウ、ミナミ、ブラウン、ローレンス、アイリスと、地球にいれば今頃小学生になっていたはずのショウと、ようやく言葉を話し始めたヒナ。
大人達は誰も行かない。ベースにはそんな余裕は無いからだ。
既に六六名にまで減ってしまっていたベースの生活では、子供達も重要な労働資源の一つだったが、生産力から考えた場合六六名が五〇名になっても、人口過剰なのは間違い無い。
不意に、ひとつの会話がナオキの耳に飛び込んできた。
「お前ら、無茶やって「皇帝陛下のお怒り」とか買うなよ?」
「お前こそミナミを泣かせたら金玉引っこ抜いてやるからな?」
ブラウンとケンジの会話である。
いつの間にかネイティブスピードのこれを理解できる英語力が身についていることは実にすばらしいと思うナオキだったが、逆に理解出来ないままでいた方が良かったような気もしないではない。
「なぁ、お前、アイリスの事好きだったんじゃねーの?」
いきなり冷や水を浴びせかけてきたのはリョウだった。
アイリスはナオキより3〜4歳年上で、灰色に近い薄いブロンドの髪に澄んだブルーの瞳が印象的な少女で、境界の直ぐ近くにいて、たった一人で巻き込まれた。
お小遣いをもらってソフトクリームを買うため両親の元を離れ、丁度二人の元へ戻ろうとしていた所だったという。
「なに言ってるんですか! そんなんじゃ……っ!」
今はもうずいぶんと元気になっていたが、ここへ着いた当初はしばらく泣き暮らし、親切そうな老夫婦の世話を受けていた。(その老夫婦はベースで最初に疫病が流行した時に二人共亡くなっている)
「慌てすぎ!」
リョウが止める間もなく、アスカにミナミが喰い付いてきた。
「えー! なに? じゃあユウの事はどーすんのよ!」
この浮気者! と、不意打ちの上、掴んだ襟でモロに気管と動脈を締め付けてゆくアスカ。
どうやら完全に酔っているらしい。ただでさえ手加減するのが下手な人が、今夜は酔っ払いでさらに加減が利かないのである。
ナオキは気が遠くなりつつあるのを感じて慌ててタップしようとするが、それすら許されないくらいの勢いで――幸いケンジさんが気付いて助けてくれたが――精神的にも肉体的にも瀕死の状態にまで追い込まれてしまった。
両手を着いて咳き込んでいると、ナオキの目の前に立ったのはリナだった。
「浮気はダメ! ユウを泣かしたらお兄ちゃんでも許さないから!」
本気で怒っているらしいリナを見て、別の意味で泣きたくなった。
ナオキは浮気もなにも、誰かと付き合ったことすら無いのだ。
涙を浮かべて笑っているシュウに助けられ、ようやく立ち上がったが、そこでリョウがなぜアイリスの事を持ち出したのかを理解した。
彼女の視線の先にはエーリヒがいたのである。もちろん立派な大人の男性だ。
米軍に雇われてたドイツ系アメリカ人研究者。金髪碧眼。量子とか重力とかが専門らしいが、遠距離の狙撃が上手で、罠を仕掛けさせても空振りする事は殆どない。
最初はモヤシみたいな印象だったのに今ではしっかり筋肉が付き、まるでどこぞのダンサーがごとき身体をしている。
「……まぁ、なんだ、帝都に行けばさ、きっともっと良い子がいるって。それに、ユウだってかわいいじゃん?」
「そうだな」
楽しく盛り上がったが、最後はやっぱり、色々な意味で少しだけ寂しかったナオキであった。
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