ハイズ戦役 06 ゾーダ
「――なんと……!」
それまで幾度となく、アーシア達の持つ兵器の威力を目にしていたはずのゾーダであったが、それが全力を発揮した場合にどれほどの効果をもたらすかについては、理解が足りなかったのだと思い知らされた。
ゾーダとしては「敵の進軍が止まったところで竜騎兵二〇と兵四〇からなるドラゴン隊を投入する……」というフィリップ少佐言葉を、異国の武器によって指揮官が倒され、無秩序に逃げ惑う兵士達の群れに突入する事だと考えていたのである。
それがどうなったかといえば、フェニックス隊への恐怖から、団子のようになって駆け出した兵士たちの群れを、刺のある金属の紐で作られた「いんたぐめんと」と呼ばれる柵で止めると、「みぬがん」と呼ばれる武器が横薙ぎに火を吹いて、ほとんど同時に数十人の兵士が纏めて血を吹き倒れてゆく。
「ぶらっどりぃ」と呼ばれる動く鉄(実際には「あうみにむ」と呼ばれる金属らしいとは知っている)の砦に追われた兵士達は、前を走っていた兵士が何故倒れたのかなど考えもせず、後から後から押し寄せるのだ。
アーシア達の使う武器は、一回火を噴く時に発射される「ぶれっと」と呼ばれる金属の欠片が、完全武装した兵士を五、六人纏めて撃ち抜いてしまう。しかもその兵器が火を噴くのは柵を登ろうとした兵士達がある程度たまるのを待ってからであり、明らかに全力を見せているわけではない。
お話にならないとはこの事を言うのであろう。
最初の二つの柵を死体で埋めるようにして乗り越えた敵兵達であったが、魔導師達の控える三つめの柵の前で力尽き、全滅した。
……気がつけば、残っているのは同士撃ちを回避するため射撃するのを禁止されていた、戦場の中央付近にいた一〇〇名ほどの兵士達だけである。
進むことも引くことも出来ず、寄り添うようにして固まっている兵士たち。
フィリップ卿からの最後の命令が出されて、四〇名の兵士達が死体で埋る鉄条網の一部を開いてゆく。
その間、アーシアの兵士達が攻撃を停止した戦場に、奇妙な静寂が訪れていた。
内心の畏怖と恐怖を押し隠すようにして、ゾーダ卿率いる竜騎兵二〇騎が突撃を開始し、柵を開き終えた四〇名の歩兵がそれに続いた。
その突撃に対する抵抗は、皆無であった。
デュドネー卿率いる先鋒勢が、文字通り殲滅されたという話はハイズ・ハイズリーの両軍の間に瞬く間に広がった。
突如ハイズ領の片隅に現れた、アーシアと名乗る小集団。彼らは、事実上二〇名の兵士と彼らの操る兵器だけで、一〇〇〇もの軍勢に圧倒的な勝利をおさめたのである。
それは戦力差に関わる以上に、生き残った者も捕虜となったものも存在しないという部分で、敵味方の双方に対して背筋が寒くなるような感覚を覚えさせていた。
ゾーダ達にとっての戦とは――地球人の言葉で説明するなら――敵を殺すことではなく、敵の陣形を崩して戦闘の継続を諦めさせる事を言うのであり、目的は捕虜に対する身代金の請求と、戦後の賠償請求及び領土の割譲を確実にするためのものであったのだ。
そもそもハイズ伯爵とハイズリー男爵は従兄弟の間柄であり、デュドネー卿とて遡ればハイズ伯爵との血のつながりが存在している。
支配し、支配される関係についての入れ替わりはあっても、それを構成する人々が入れ替わる事など滅多に無かったのである。
なにより徴募兵と言えば、彼らの生活基盤そのものと言っていい農民達であり、彼らは本来殺さなくてはならない存在ではなく、保護するべき存在なのだ。
それが、僅か一クーア程の間に六〇〇名。傭兵達をあわせて九〇〇名以上。
デュドネー卿支配地でも根刮ぎの徴募がされたと言うから、その地域に住む老人と子供を除く成年男性が、丸ごと消え失せた事になるのである。
ゾーダの脳裏に「我々の世界では兵器が強力になりすぎ、国同士の総力戦などまず発生しなくなっているのです……」そう語ったフィリップ卿の姿が、まざまざと思い起こされていた。
「確かにこんな戦をしていては、冗談ではなく国が滅びる……」
ゾーダにとっては、それまで便利な道具を山ほど持った、ちょっと変わった隣人達という位置付けであったはずのアーシア達が、どこか得体の知れない脅威として認識された瞬間であった。
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