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セルリアンブルーの瞳 作者:小室
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3.石棺

挿絵(By みてみん)
 嫌な汗が背中を伝っている。
 例の鬼塚の前で、左坤伊織は立ちつくしていた。
 いざ、掘削をしようと決心しても何故か身体が言うことをきかない。まるで鉛でも飲みこんだように、体中が重く自由がきかない状態だった。

 だめだ。こんなことじゃ。

 突然発症した呪いに苦しめられている夜桜月冴を思うと、どんな結果になろうとここを掘り起こさなくてはならない。ただ、今も感じる異常なまでの違和感や、夜桜の身に起こった異変を察するに、あきらかにイワクツキの場所である。
 ここを掘り起こすことが、本当によいことなのか判らないが、どちらにせよ何かが動き出しているのは間違い無い。このまま放っておくことは出来ないようだ。

 左坤は、重い身体を無理矢理動かし、途中まで掘削した部分を覆ったシートを剥がした。
「あれ?」
 そこには、見覚えのない空間が出来ていた。
「誰か掘ったのかな?」
 昨日の時点では、まだまだ粘土質な土に邪魔され少し掘った程度だったのだが、ポッカリと暗い穴が空いていた。なんとか潜れば中に入れそうなほどの大きさだ。
 一晩の内に自然と崩れて穴が空いたのか。それとも誰かが意図的に開けたのか判断は付かない。ただ、突如現れた穴が、取り返しの付かない事態に飲みこむような不気味さを感じてしまう。
「・・・ここに入れって事か」
 念のために用意した検査機を穴に差し込むが、空気に異状はないようだった。
 左坤はライトを付けて穴に潜り込む。もう、迷ってはいなかった。

 例え何かの罠だとしても、今はそれに乗るしかない。

 入り口こそ狭かったものの、中は割と広い空間だった。辺りはガランとして、足場はきちんと土が固められている。と、奥の方に四角い大きな石のようなものが置いてあった。
「なんだこれ?」
 近づいてよく見ると、石棺のように見えた。きちんと蓋が閉まっている。

 鬼塚、などと呼ばれてるって事は、この中に鬼が眠っているとか?
 バカバカしいと頭で思いつつも、左坤は恐る恐る石棺に手を触れる。その瞬間、電撃でも受けたような強い衝撃が全身を貫いた。
「!!」
 驚いてその場に尻餅をついた。と同時にライトを落とし、辺りが真っ暗になる。
「な、なんだ今の・・・」
 ドキドキと心臓が早鐘のように鳴っている。全身から嫌な汗が噴き出している。
 一体自分の身に何が起こったのか、左坤は把握できなかった。とにかく、明かりを確保してこの場を離れた方が良い。そう判断して、立ち上がろうとしたときだった。

 キン! と、突然耳鳴りがおきた。
「うっ!」
 瞬間、頭を強く圧迫されたみたいに重くなり、バランスを崩し倒れ込んだ。まだ耳鳴りが治まらない。耳の奥から頭の芯まで、じんと痺れて重く辛い。左坤は堪らず耳を押さえた。
 なんだ、これ。頭が割れそうだ!
 グッと強く耳を押さえ、身体が硬直する。どんどん頭が重くなり、このまま死んでしまうのではないか?と感じていた。強い耳鳴りが頭の中でわんわん響く。頭だけでなく、体中が重たくなり左坤の意識は遠のいていった。
 薄れ行く意識の中で、耳鳴りの余韻に混ざり酷く重たい音と振動を感じた。

 ああ、石棺の蓋が。   
 開いたのか。

 そう思ったと同時に、意識が闇に溶けていった。

      ******

 鎖の音が暗闇に響く。
 突然に、視界が開けた。冷たく固い感触を手首に感じる。

 ああ、ここは地下室か。

 そう認識したとたん、ビリビリと身体が痛むのを感じた。
 相当暴れたのだろう。毎度のことだが、その反動で身体が酷く痛む。
「今、何時だろう」
 地下にいる以上、明かりはなく時間の感覚はわからない。あれから何時間経ったのか、夜桜には把握できなかった。
 ただ、あれほどまで暴れ回った凶暴な感情がなくなっている。どうやら呪いは治まったようだ。
 なにより、自分という意識を感じられることにホッとしていた。
 呪いが発症すると意識はなくなる。ただ、強く嵐のような激しい感情に支配され、夜桜という人格そのものをなくしてしまう。これに支配されている間、一体何をしているのか一切覚えてはいない。その度に夜桜は、いつかこのまま意識が戻らなくなってしまうのではないか?と内心恐怖を感じていたのだった。

 小さくため息をつき、辺りを見渡す。相変わらず真っ暗だったが、誰の気配も感じられない。身体を動かすと手首に繋がれた鎖が、じゃらじゃらと鳴り響いた。
 左坤が開けるまで出られない。
 その左坤は、あの鬼塚へ行くと言っていたと記憶している。
 酷く体調を崩したあの場へ。

 左坤は自分では意識してないが、そういった類いのものへの反応は鋭い。
 あれは間違いなく、イワクツキの場所なのだろう。現に、夜桜自身その影響なのか、満月でもないのに呪いが発症してしまったのだから。
 そんな夜桜を見かねて、一人左坤はあの鬼塚へ行ったのだ。
 一人で大丈夫だろうか?
 そう、夜桜が考えていたときだった。

 ガチャン。
 大きな音を立てて扉のカギが開いた。反射的にそちらに目をやると、薄明かりと共に、ゆっくりと扉が開く。
「伊織くん?」
 夜桜の問いに答えず、扉の向こうにいた左坤は逆光で表情は見えない。
 どうしたのですか?
 そう聞こうと思った瞬間だった。

 耳に響く鎖の音と、頭を強く掴まれたのは同時だった。
「!?」
 身体を床に押さえ込まれ、何かが覆い被さる。あまりの事に、夜桜は何が起こったのか判らなかった。
 が、目の前に左坤の顔が迫ったとき、やっと自分が左坤に押さえ込まれているのだと理解した。
「伊織・・・くん?」
 ぐーっと顔を近づけ、左坤はジッと夜桜の瞳を見つめていた。その、あまりに異常な様子を見て、左坤が何かに取り憑かれたのだろうかと感じていた。
 強く押さえ込まれ、身動きが取れない。そもそも、鎖で拘束されているのだから、身動きなど取れなかったのだが。

 夜桜は、もしやと思い問いただす。
「あなたは・・・鬼、ですか?」
 やはり、あれは鬼塚だったのだ。封じられた鬼が左坤の身体に取り憑いているのだろう。そうでなければ、この異常な事態は説明が付かない。

 夜桜の問いに答えるかのように、にい・・・と口の端だけ笑みを浮かべ、左坤は押さえつけた手を首へと移動した。
 ぐい、と容赦のない力で締め上げる。
 堪らず夜桜は呻いた。

 やはり、一人で行かせるべきではなかった。

 そう思いながら、首を締め上げられ、夜桜は耳を打つ鼓動を感じながら目をつぶった。 出来れば、呪いを解いてから死にたかった。
 薄れる意識の中で、そう思っていた。

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