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  過去作品集 作者:雪芳
言葉ごっこ(軽めダーク)
 僕には年の近いキョーダイがいる。妹だ。大嫌いだ。
 あちらも僕のことが嫌いなようで、僕を見るときは顔をねじ曲げ、用があるときは呼び捨て、苛立ちを隠さずに接してくる。わがままで、陰湿で、怠惰で……本当にろくなやつじゃない。
 だから、殺してやった。

 父さんが草野球で使うバットを横なぎに、倒れた上から数十発。するとすぐに動かなくなった。ぐにゃぐにゃになった妹を庭までなんとか引きずって、普段は残飯を入れる穴に投げ込み、軽く残飯を振りかけ、終わる。
 さぁ休もうと家に足を向けると、父さんと目があった。父さんはぐったりとした母さんの首を掴んで、お前もかと微笑む。
 僕が頷くと背後から、えぇそうなんですよ従兄弟です、と返事があって少しだけびっくりした。庭にある垣根の向こうから、お隣さんが照れくさそうに頭を掻いた。

 翌朝、テレビをつけると、血塗れの女性アナウンサーが晴れやかにニュースを伝えていた。隣にいつも座ってる男性アナウンサーはいない。きっと殺したんだ。
 アナウンサーは今朝、世界各地で大量殺人が起こったこと、人類の数が一気に現象すると予測されること、昨日の殺人事件はあまりにも件数が多いので被害者加害者ともに追求しないということ、事件は殆ど衝動的なもので理由はなかったことを告げた。
 それから多分野の学者たちが議論を始めた。昨日の殺人事件に対する見解を彼らなりに述べるらしい。

「人類の数が増えすぎたことにより自然淘汰です」
「地熱上昇による乱れた電磁波の影響です」
「天文学的数値な偶然の一致です」

 あらかたの解説を終え、学者たちは満足げな様子だ。彼らも誰かを殺したのだろうか。
 ふいに、一番端にいた年寄り学者が手を挙げた。カメラがズームし、学者の胡乱な瞳を映す。
「私は言葉が持つ居場所の取り合いではないかと考えます」
 それまでになかった不可思議な意見に学者たち、アナウンサー、僕は思わず乗り出した。

「昨日の事例ですが、ある野球チームでは選手たちが殺しあいをしました。またあるバーではホステスたちが殺しあいをしたのです。生き残りは一人です。つまりこれは、選手や客という居場所を取り合った結果なのではないでしょうか」
 学者たち、アナウンサーは合点がいったように感嘆を漏らし、視線を交わし合う。僕もまた、年寄り学者の推測には小さな驚きを感じていた。
 僕と妹はコドモという言葉を、父さんと母さんはオヤという言葉を奪い合ったのだろう。なるほど、確かにそうだ。

 殺人に納得して、だけど僕は次第におかしくてたまらなくなって、ついには腹を抱えて笑いだしてしまった。だってそうだ、そんなことを認めてしまったら、人はいつまで経っても殺しあいをやめない。言葉がある限り、やめることは出来ない。
 今だって。

 テレビの中で学者たちが殺しあいを始めた。拳を凶器に、衣類を凶器に、座っていた椅子を凶器に、この世のすべてのものを使ってガクシャという言葉、居場所を奪い合う。まるでコントだ。
 ランチキ騒ぎに笑い転げていると、父さんが二階から降りてきて、眠い目を擦った。
 そして一言、
「なぁ、お前と俺は“カゾク”だな」
 僕は何も返さずに、バットの柄を握りしめる。

 この世界には言葉があって、僕はいつだって言葉を浮かべてる。とても大切なもので、誰にも奪われたくはない。さげずまされたくもない。
 僕自身を示す言葉たち、僕の居場所、すべては僕のためだけにあれば良い。

「ぜんぶぜんぶ、僕のもんだ」
 駆け出すと、めいっぱい僕はバットを振りかぶった。
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