夏子さん(ホラー)
あぁ、今日は暑いな。外に出ただけで肌がヒリヒリと痛いよ。地球温暖化も深刻だな。
でも今日は、地球温暖化より酷い話を伝えたくてね、お前を呼んだんだよ。長くなるけど、どうしても話したくて。
……いいかなぁ?
ありがとう。
お前って本当にいいヤツだな。俺、お前が友達でよかったよ。
話しはね、そうだな、どこから話そうか。
うんと、いつも俺が話してる先輩がいるだろ、いっつも飲みに連れていかれる。うん、そうそう、覚えてるならよかった。まぁ、その先輩のことなんだけどさ。
この間、もう一週間も前のことなんだけどさ、その先輩と海に行ったんだよ。ほら、大学の国道を真っ直ぐ行くとある海。
あ、聞きたくなさそうな顔してる。
だよな、あそこは出ることで有名だもんな。そうそう、肝試しでさ。行ったんだよ。まぁ、そんなに嫌そうな顔しないでさ、聞いてくれよ。
さっきも言ったけどさ。どうしても、お前に言いたいんだよ……。大丈夫、海に幽霊なんか出てこなかったんだって。
いいか?
それでな。肝試しに行ったはいいんだけどさ、ぜんぜん幽霊なんて出てこなかったんだよ。本当の話。
よくさ、海沿いを歩いていると赤い帽子に赤いワンピースを着た女が立っててさ、海を指を指すって言うじゃん? それで、指をさした方向をみる。
すると、その方向にゆっくり首がねじれていって……。
そうそう、怖いよな。
だけど、実際はそんなのなくてさ。つまんないからって、すぐ帰ることにしたんだよ。
それでさ。帰り道のことなんだよ。
晩飯食べた後に行ったもんだから、あたりはもう真っ暗だったんだよね。まぁ、そんなの構わずに先輩は車を飛ばしてて。俺は助手席に座っていたんだけどさ。
そしたらさ、だんだん、暗くなってきたんだよ。
いや、夜とか、そんなレベルじゃなくてさ。なんつーか、黒煙の中に入り込んだみたいな感じ。だんだん暗くなって……、ついに周囲がぜんぜん見えなくなったんだ。
なんだなんだって混乱したよ。先輩も急ブレーキ踏んでさ。すごい音たてて車がとまって。
でもさ、真っ暗で何も見えないわけ。だからさ、先輩はライトをつけたんだよね。
そしたらさ、後部座席に赤い帽子に赤いワンピースの女が……。
って、ウソウソ! 冗談だって、なにビビってんだよ!そんなわけないじゃん。
本当はライトなんかつけてないって。ま、先輩は、どうせ霧だろう、車はしばらく走れないけど気にしなくていいって言ってさ。霧が晴れるまでまつことになったんだ。
そしたらさぁ、とつぜんこんなこと言い始めたんだ。
「夏子さんって知ってるか」って。
俺、そんな女知らないからさ、知りませんって言ったんだよ。そしたらさ、こんなこと言ったんだよ。
ある所に夏子さんっていう女がいたんだって。夏子さんは寂しがり屋で、いつも彼氏にべたべたしてたんだ。だけど、彼氏がそれに疲れたらしくて、分かれ話をきり出したんだって。
そしたら、夏子さんは逆上して彼氏に包丁を持ち出した。彼氏を刺そうとしたんだ。だけど逆に、夏子さんは彼氏に殺されてしまったんだって。
彼氏はそのことを三日悩んだ。捕まるのを恐れて、夏子さんを暫く冷蔵庫に閉じ込めて、三日悩んだ。
三日後、彼氏は夏子さんに何をしたと思う?
……バラバラにしたんだ。
首を切って、右腕を切って、左腕を切って、右足を切って、左足を切って。六つに分けたんだ。
そして、捨てた。
血にまみれた帽子とワンピースと一緒に、海に。
夏の、海に。
もう気付いたか?
そうそう、あの海の幽霊の話だよ。でもさ、みんな、名前も、どういう幽霊かも詳しく知らないだろ? ただ、海に赤い帽子と赤いワンピースを着た女がいて、首を引き千切るって話だけ。
本当は、夏子さん、って言うらしいぜ。
俺はさ、なんで先輩が夏子さんってことを知ってるのかって疑問に思ったよ。だってさ、先輩は、そんなこと一度も話したことないからさ。
だから訊いたんだ。
そしたら、信じてなかったって言うんだよ。
んで俺は、何をですかってまた訊いたんだ。そしたらさ。
「夏子さん」
って先輩は答えたんだ。
俺はもちろん、えっ? 聞き返したよ。
だけど先輩は、俺の話を無視してこんなことを言ったんだ。
「夏子さんの話をきいたら、
三日以内に、
バラバラの体の数、
六人の人間に
夏子さんの話をしなければならない」
「もし六人の人に
話を出来なかったら、
寂しがり屋の夏子さんは
体をバラバラにしに
やってくる」
「手始めに首を切って、
次に、右腕を切って、
次に、左腕を切って、
次に、右足を切って、
最後に左足を切って。
殺す」
「殺しにやってくる」
俺は意味が分からなくて、先輩の肩を揺らしたよ。
そしたらさ、先輩がこう呟いたんだ。
「お前で五人目なんだ」
それから、
ゆっくり、
先輩の首が
ねじれた。
気付くと、
俺の膝の上で、先輩の首が転がっていたよ。
そして次から次へと、先輩の体は、ねじれていったんだ。
「手始めに首を切って、
次に、右腕を切って、
次に、左腕を切って、
次に、右足を切って、
最後に左足を切って。
殺す」
俺は逃げた。
叫び声をあげながら。
車のドアを開けて、逃げた。
そして、見たんだ。
後部座席に座る、夏子さんを。
それからは散々さ。
黒い霧はいつの間にか晴れていたけれど、夏子さんが追ってくるんじゃないかって気が気じゃなかったんだ。
逃げて、逃げて、必死に逃げて……。
話はこれでおしまいだよ。
じゃ、俺は話が終ったし、帰るわ。
なんだよ、掴むなよ。
え? 嘘をつくなって?
嘘だと思うなら、先輩について他のやつらに訊いてみるんだな。そしたら、なんでここ一週間、誰も先輩の話をしないか分かるだろうよ。
本気にするかしないかは、お前次第だよ。俺は知らないからな。
だって……。
「お前で六人目だからさ」
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