大人もどき子供もどき(脱力系)
「大人になって、馬鹿になった。」
髪を掻きあげて自嘲する彼女から、つまらない香水の匂いがした。
俺は焼いたプディングの甲羅をスプーンでひしゃげ、黒い犬の儘、それを口に運んだ。
自分に絶望するのは、この歳になると痛みも無く容易い。俺はファミレスの窓の外の虚空を見上げると、その喪失的な青さに血吐戸を付けたくなった。
「小学生が何を言っているの?」
血の代りに、声を吐く。彼女は前髪を抓んで、疲れてんの、と舌を出した。
「大学生は良いよね、毎日毎日暇で。何の為に生きているか、分からなくなるでしょ?」
嫌味で狡猾でマセタ笑い方。台詞。なんでこの女は、無駄に女なんだろう。
「出会った頃は可愛かったなあ。野獣みたいで、尿でビームする素敵すぎる奴だった。」
「……赤ん坊だったんだから、仕方ないじゃない。」
いっちょ前に羞恥心はあるらしい。背を愚かに伸ばす話し方に気付く賢さは無いようだが。
「あの頃は、良かったなあ。かわい…」
「お金。」
俺の郷愁話への入り口を折って、いきなり手を出す。この女は。
「金カネかね、最近の餓鬼は可愛さが地獄的だな。」
「え〜?一緒に買い物して、映画見て、ホテルに泊まってあげたのに!今時の女子小学生高いんだよ。」
声がやけに大きくて、俺は冷や汗をかいて周囲を見渡す。何人かの目があった。
「楽しくなかった?あたしと一緒に……。」
「いくらだ。」
財布を出して、女の口を止める。ピースして笑ってやがる。俺は、ATMじゃねえぞ?
「二千円?ぶーぶー。」
「馬鹿、俺の自給死ねるほど安いんだよ。」
豚女を目を下に、俺はリュックを持って立ち上がった。彼女は急いで、プディングを空にする。
会計を済ませ外に出ると、むっとした暑さが俺を包んだ。夏が近いのだ。
「じゃあね。」
「駅まで送らなくて良いか?」
ん、と首を上下して、早々と彼女は走り出した。羽が生えているみたいだ。
俺はその背中を見送って、嘆息する。
「大人になって、馬鹿になった。」
フザケタ言葉が、頭をつつく。馬鹿言うなよ、餓鬼が大人を下に見てるだけじゃねえか。
そう、思いたい。
まぁ、たまに遊ぶと金を落としてくれる兄貴を持つと、そう思いたくなるんだろうな。こんなに情けない、ただのATMだしな。
未来ある妹の言葉を、地面の空き缶に詰め込むと、俺は思い切り蹴りあげる。 彼女より少し多く見た空の青が、俺をまた少しツマラナイ人間にした。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。