ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  過去作品集 作者:雪芳
絶対に死なない男(???)
 彼は絶対に死なない男だった。肉体的も精神も特別秀でてるわけではなかったが、どういうわけか強運だった。

 彼の強運が発覚したのは産まれる前からだった。彼を妊娠している母は彼を産む前に自殺を図ったが一切成功せず、最後は仮死状態だったが彼を五体満足で産んだ。
 翌日、彼と母が入院する病院で大規模な火災が起こるも奇跡的に彼周囲だけ燃えなかった。
 その半年後、彼の育てられた施設が地震で半壊したが、彼の周囲だけ壊れなかった。
 その半年後、ハリケーンが街を襲うが、彼の周囲だけ(以下略

 そんなわけで今この瞬間、彼が高層ビルから飛び下りるも、地上で膨らんでいたバルーンハウスにぶつかったお陰で一命をとりとめたのも、当然と言えば当然であった。

「また死ねなかった……」
 噂を聞いて駆け付けたテレビの報道に対し、六十八回死に一生(うち十一回は自殺未遂による)を得た彼は、こう呟いたという。

 ある日、彼の元に彼の国の大統領がやってきた。そのせいでガス自殺を阻止された彼は、半べそになりながら、大統領が訪ねてきた理由を聞いた。
「娘を助けてほしい」
 大統領の娘は酷い病気で、死にそうらしい。
 そんななか、彼女は何を思ったのか、
「絶対に死なない男が死なないなら私も死なない」
 と願かけをした。
 すると不思議なことに、彼女の容態はすこし良くなったのだそうだ。

「もし君のお陰で娘の病が治ったら、君に核弾頭を落とそう」
 彼は喜んで、大統領の懇願を承諾した。

 彼は早速、彼女に会いに行った。するとなるほど、今にも死にそうであった。
 彼女に死んでもらっては困る彼は、彼女が死なないように様々な努力をした。


 彼女が眠れなければ一晩中子守り歌を歌った。

 彼女が泣き出したら一緒に泣いた。

 彼女が笑わなければ、体をはって笑わせた。


 彼女が寒さに震えたら、その手を強く握った。

 彼女が雪をみたいといったら、南極まで行った。

 彼女が望んだら、ずっとそばにいた。


 彼女のために、何でもやった。


 そうしてるうちに、彼女の体はどんどん良くなった。
 そして不思議なことに、彼も生きる喜びに気付いていった。

 二人はやがて、お互いを慈しむようになった。

 ある晴れた午後のことだった。検査の末、彼女を蝕んでいた病魔が、彼女の体から消え去っていることが分かった。

 それは実に、信じられない幸運だった。
 死ぬはずだった彼女は生きることとなり、死にたかった彼もまた生きたいと願うようになっていた。

 その奇跡に、国中の人々が歓喜にわいた。世界中の人々が祝福した。


 奇跡の中で二人は、永遠の愛を誓うと、生き続けることの意味を愛と同じ深さで知った。






……右大腿部からとめどめなく流れる出血を見つめながら、男はそんな物語を想像した。そして片一方の思考で、絶対に死なない男など世界中探してもいないこと、そして自殺行為を行った自分への後悔を感じていた。

「ああ、腕では上手くいってたのに、チクショウ。いてぇ……」
 リストカットで汚れた腕を使って太股を押さえるが、動脈からの出血がおさまるわけがない。そんな絶望感の中、それでも男の妄想は止まらない。

 絶対に死なない男はこのあと……。
 絶対に死なない男はこのあと……。

 なにかを想像しても、それが自分を救うわけではないことは知っているが、想像し続ける――理解が伴わないから。
 妄想で自分は特別なのだと思ってきた。だが現実は、社会は自分を特別とはしてくれなかった。それでも。

 男の妄想は止まらない。自分は特別であり、そして、自分は絶対に死なない男なんだ――。


 薄れゆく意識の中で、後悔に震えながら男は、それでも妄想する。
 それは止まらず、だが死は現実にある。

 絶対に死なない男など、この世にはいない。あの世のことや、生まれ変わりを考えても、そんなことが所詮「妄想」であるように。

 人は、死ぬ。





+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。