この話は2007年に作成したものですが、2004年に発表された
「SaGa2の思い出」というお話に酷似している設定が含まれています。
この度ご指摘を受け、
「SaGa2の思い出」を確認致しましたところ、大きな影響を受けたものと判断致しました。無意識なことでありましたが、創作を趣味とする者として大変失念していたと思います。
この場を借りて
「SaGa2の思い出」を生んだ方、参加した企画、作品を読まれた方に、深くお詫びいたします。
美少女がオッサンに見える件について(ラブコメ)
もし、むちゃくちゃ可愛い女の子に告白されたら、どうする?
性格もいい、頭もいい、スタイルもいい、そんな女の子に「あなたのことがずっと、ずっと好きでした」って言われたら。あなただったらどうする?
俺は、俺の場合は……。
「すみません、俺、そういうの興味ないんです」
「ま、マジかよ〜〜!!」
俺が全身全霊の謝罪を込めて頭を深く下げた瞬間、周囲から歓声に似た声が上がった。
「マジ信じらんねぇ、本当に断りやがった! 天下の学園アイドルをフリやがった!」
「神だ! 神だよ、尾山ミエル〜〜!!」
すぐさま顔を上げると、そこにはオッサンがいた。がっちりとした体形に、丸太のような太い腰に腰みのを巻き、頑丈そうな胸当てを付けている。そして何故か右の乳首だけ見えている。黒髪を後ろで縛った、凛々しいオッサン。
こんにちは、前略パパス。
「尾山君、最低!」
パパスは鈴のような声を鳴らしながら、遠ざかってゆく。ごめん、ごめんよパパス。
「尾山君の最低♪尾山君の最低♪」
俺をぐるりと囲む校舎の最上階からの大合唱。その歌に混じる「それにしても尾山選手、美少女がアレに見えるというのは真実なのでしょうか」「どうでもいいでしょう。いや〜、それにしても素晴らしい試合を見ました」という、実況。今まで生きた中で、確実に最も酷い音楽たち。
最低だ、最悪だ、なにより絶望だ。
「もういいだろ、笑えよ! 俺は本当に美少女がオッサンに見えるんだよ!」
俺はオーディエンスに向かって絶叫した。
パパス。ドラゴンクエストVに出てくる、主人公の父親のことだ。因みにゴツイ。
俺は何故か、美少女がそのパパスに見える。何故かは分からないが、パパスに見えるらしい。「らしい」というのは、つい最近まで俺がそのことに気付いていなかったからだ。
俺はずっと、パパスを美少女だと思っていたし、美少女はパパスだと思っていた。
学校にたまにいる、パパス。
グラビアでポーズを決める、パパス。
テレビで歌って踊るモーニングパパス。
違和感はそんなになかったし、これが普通だと思っていた。−−今日までは。
この現象に気付かせてくれたのは、友人だった。
美少女(とはいっても俺にはパパスにしか見えない)に全く興味がない俺に疑問を覚えた俺に対し、強いホモ疑惑を抱きつつも美少女について質問したことがきっかけで、俺の「美少女がパパスに見える」現象は発覚したのだ。
「実験だ! 実験をせねば!」と意気込む友人達と、「マジかよ、美少女ってパパスじゃないんだ……そうか、パパス既婚者だったよな、女と」と狼狽する俺の元へ偶然、彼女の手紙がやってきたのだ。
尾山ミエル君へ
放課後、学校の裏にある倉庫の前に来てください。
お話したいことがあります。
待ってます。
河合衣子
そう、学園一の美少女と唄われる河合衣子さんからの手紙が。
かくして実験は行われたのだ。世界で最も残酷な実験が。
「あ〜衣子ちゃん可愛かった。あの可愛さが分からないなんて不幸だよな。それにしても衣子ちゃん可哀想だよなあ」
夕暮れに染まる海沿いの帰り道。平凡な波の音に合わせ、親友の影がため息をつく。
「何言ってるんだ、実験を考え出したのは心野だろ」
「そりゃそうだけどさ、承諾したのはミエルだろ」
「あの時は、その、混乱してたから」
「ま、クラスのやつらが騒ぎ立てたのは衣子ちゃんに呼ばれたお前への嫉妬で、ミエルのせいじゃないけどな。なんにせよ、衣子ちゃんは傷ついたろうな」
心臓にずきんと痛みが走る。急に足が地面に張り付いてしまったように、俺は立ち止まった。
「悪い、ミエル。言い過ぎたよ」
心配そうに顔を覗き込んでくる心野。俺は思わず目を瞑った。
心野智、男、中学二年生、クラスメート、俺の親友。こいつはパパスに見えないのに。なんでアレだけパパスに見えるんだろう?
「だ、大丈夫。河合さんには悪いけどさ、俺は河合さんがパパスにしか見えないしさ、仕方ないって思ってる。ってか、俺が悪いじゃん」
罪悪感で頭が痛い。苦しい。でもそれは河合さんに対しての実験のせいじゃない、俺は自分が狂ってるんじゃないかって心配になってる。河合さんより。それが苦しい。
「心野、俺、……病気かなぁ?」
「そんなわけないだろ、そんな病気聞いた事ないしさ。しっかりしろよ」
心野が気遣って俺の背中をバシバシ叩く。
「ほら、それにさ。もし病気だったとしても、お前だったらすぐに治るよ。あん時みたいに」
え?
俺は瞬間的に頭をあげた。それをサッと避ける心野。
「あっぶねえなぁ!」
「心野、あん時って何?」
「はぁ?」
心野が怪訝そうに顔を曲げる。何言ってんのお前、って顔だ。でも、その表情は俺も同じ。だって俺は、病気したことがない。小学校から皆勤賞の、健康優良児なのだから。
「あん時って、お前が車に轢かれた時の話だよ。小学校低学年ン時」
車に轢かれた?
訳が分からなくて、俺は目を瞬いた。記憶にない。車に轢かれたって? この俺が?
何のことかと問いただそうとすると、心野が急に走り出した。
「まぁいいや、何かあったら連絡しろよ!」
いつの間にか、心野が住むアパートまで来ていたようだ。俺を置き去りにして家へと向かう。
ふいに、心野が振り向いた。
「元気出せよ〜〜」
いったい、どうなってるんだよ。
まだ薄暗い玄関。どうやら家には、まだ俺しか帰ってきていないらしい。家族に聞きたいことがあったのに……。取り合えず俺は、居間に入って例のゲームソフトを探すことにした。
二階に上がり、父親の書斎の扉を開ける。中にはズラリとゲームソフトが入ったダンボールが並んでいた。
ゲームは父親の趣味で、うちには初代家庭用ゲーム機であるファミコンから最新のPS3まであるのだ。例のゲームはSFCソフトと、そのリメイクであるPS2ソフトの二種類がある。確か父さんは、まだPS2のソフトを持っていなかったはずだ。
「スーファミ、スーファミっと。あった」
スーパーファミコンはゲームの黄金期、えいえんのかがやき。と書かれたダンボールを開けると、ドラゴンクエスト5を探す。
あいうえお順に整理されたソフトたち。
……イースV、
クロノトリガー、
ゼルダの伝説神々のトライフォース…………ない!
「なんでないんだよ、確かにあったはずなのに!」
俺は愕然とした。ドラゴンクエストシリーズにやり残しをするような父さんじゃないのだ。最近では店頭で僅かしか売られないPS3を買うために深夜から何百人もの人と並んで「人に物売るレベルじゃねーよ!」とか叫んでテレビで報道された程のゲームマニアなのだから。
そもそも俺には、父さんのプレイを横で見ていた記憶がある。パパスの記憶があるのだ。
冒頭から息子のために果敢に戦うパパス、戦闘が終わるたびに主人公である息子にホイミ(回復呪文)を唱えるパパス。あの強くて優しいパパスの記憶があるのだから。
「心野。そうだ、心野なら知ってるかもしれない」
心野には何度かゲームを貸したことがある。そしてそのまま紛失、かつて父さんが切ない背中を俺に見せてくれたことがあった。
俺はすぐに心野に電話をかけた。心野はコール一回で出た。
「おーう、ミエル! 絶対かけてくると思って待ってたぞ! さぁ悩みをこの俺にぶちまけてごらん☆」
「心野、ドラクエVパクっただろ!」
「はぁ?」
心野はすぐに素っ頓狂な声をあげて、何言ってんのパパスと突っ込みを返す。
「だって、ドラクエVがないんだよ。心野しか考えられないだろ?」
それから長い押し問答が始った。俺は心野しか考えられないといい続け、心野はそんなことしないと答える。
だってお前、ときめきメモリアル返してくれなかっただろ。違うよ、同級生だよ。そんなこといいよ、返してくれよ。知らないよ覚えてないよ。星のカービイはどうだよ。それも借りたけど俺ビアンカにはPS2からの出会いだよ。なんでビアンカにしたんだよ。金髪美少女だからだよ。それってパパスだろ……エトエトラ。
結局そのまま決着がつかず(というか話の流れがだんだん変わっていった)、俺と心野は決裂して電話を切った。
いったいどうなってるんだろう。心野が持ってるんじゃない、だとしたら、父さんが誰かに貸したのだろうか。それともとっくの昔に捨てられてしまったのだろうか。
床に寝っころびながら思考を回転させていると、ただいまぁ、という声が下から響いてきた。母さんだ。何か知ってるかもと思い、急いで階段を駆け下りる。
「なによ、そんなバタバタして」
目を丸くさせる母さんにかまわず、質問を展開する。
「母さん、ドラクエV知らない?」
「お父さんの書斎にあるんじゃないの」
その返事に、思わずガックリと肩を落とした。へこんでも仕方ない。俺は、もうひとつの尋ねたい事柄に移ることにした。
「ねえ母さん、俺ビョーキしたことないよね?」
心野の、車に轢かれただろう発言が気になっていた。心野の気のせいだとは思うけど。
「そうね、病気はないわね」
やっぱり。
「車に撥ねられたことはあるけど!」
思わず、足を滑らせる俺。
「嘘ッ」
「えぇ、ミエル覚えてないの? バカだと思ってたけどそんなに記憶力なかったかしら。それにしても小学一年生の時でしょ。入院だって一ヶ月もしたじゃないの」
嘘だろ。全く覚えてないよ。
驚きのあまり後ずさる。そんな俺の様子を不思議に思ったのか、母さんが額に手を伸ばした。
「熱はないわねぇ」
怪訝そうな表情。ああ、怪しまれてる。
「あ、うん。もちろん覚えてるよ! えっと、どこ病院だったっけ?」
声を裏返らせながら誤魔化す。それでも母さんの眉は推理漫画の探偵のようだ。
「赤十字だけど」
「っそう、赤十字だったよねっ。ははは、何でもないよ! ああ、熱いから散歩にでも行こうかなぁ」
「ちょっと、やっぱり熱があるの?」
「いってきま〜す!」
呼び止める母さんの言葉にかまわず、俺は玄関を飛び出した。
頭が混乱する。俺の頭はいったいどうなっちゃってるんだろう。世界中の美少女がパパスに見えて、小学校の時に車に轢かれた記憶までスッポリ抜けていて。
ぐちゃぐちゃになった頭を掻き回しながら俺は歩いた。その時だ。誰かにドンッとぶつかった。
「きゃっ!」
可愛らしい悲鳴に驚く。その声に聞き覚えがあったから。河合衣子。今日、俺が酷い目に合わせてしまった子。パパス。
俺は恐る恐る、俯いていた顔をあげた。
驚くことに、そこにいたのはパパスではなかった。金髪の長い髪を大きなみつあみで結って、小さく白い顔に大きな青い宝石の瞳をふたつ丸くする。緑色の洋服に、橙色のコートをはおう。
ビアンカ、だった。
ビアンカ。ドラゴンクエストV、主人公の幼馴染み。
どうして彼女がここにいるのだろう。なんでパパスじゃないんだ。心臓が肋骨を連打する。
いやだ、いやだ、どうなってるんだ。
俺は瞬間的に踵を返した。だが、ビアンカ、じゃなくって河合さんに呼び止めたれた。
「待って!」
ビクリと体が跳ね上がり、思わず足が止まる。
「待って、尾山君。……あのね、心野智っていう名前の男の子から連絡が来たの。その、尾山君の友達だって。それでその……、尾山君、今日のこと知らなかったって聞いたの」
背中を向けているから表情が分からないけれど、河合さんが泣きそうなのが分かる。声が震えている。だけど振り向けない。
「尾山君がわざと、あんなことしたんじゃないって。なのに私、酷いこと言ったから、謝りたくて」
振り向けるわけ、ないじゃないか。
「ごめんなさい」
最低だ。最悪だ。
彼女の謝罪を背中で弾き、俺は再び歩き出した。彼女が何を言っているのか、もう聞こえはしなかった。
混乱と、罪悪感。吐き気がするほど重たいそれらを抱えながら、俺は気づけば病院に辿り着いていた。赤十字病院。俺が小学生の時、入院したという病院。俺の記憶がスッポリと抜けた場所。
車に撥ねられた拍子に、頭の螺子が何本か抜けてしまったんだろうか。何でも良い。俺は病気なんだ。俺はおかしいんだ。
縋るように俺は病院へと足を踏み入れた。
中に入ると、すでに診察時間は過ぎているようだった。広い受付に、精算を済ませるだけとなった人たちが疎らに長いすで座している。俺もまた、電池が切れたように長いすに腰を下ろした。
これから、俺は何をしようとしてるんだろう? 何が俺を襲っているんだろう?
理不尽な現実に呆然としながら、俺は白い天井を見上げた。苦しい。こんな目なんか、いらない。
と、穴の開いた風船みたいにため息しか出ない俺の肩を、ふいに叩く手があった。
「もしかして尾山君? 尾山ミエル君?」
名を呼ばれ、けだるい体を動かす。俺を呼んだ主、それは看護士らしき服に身を包んだ女性だった。五十代くらい、白髪混じり、太めでどっしりしたナース。
「はい、そうですけど……どなたですか」
「やっぱり! 久しぶりねえ。五年ぶりくらいかしら。尾山君は覚えてないかもしれないけれど、入院したでしょ。その時、担当だったのよ」
ちっとも覚えていない。彼女の嬉しそうな表情は、俺に更なる疲労を与えるだけだ。
「すみません、記憶がないんです」
「あらそうなの。まぁ、小さかったし、看護士はいっぱいいたものねえ。ああでも、いばらちゃんは覚えているでしょう?」
「いばらちゃん?」
「そう、仲の良かった。ああそうそう、いばらちゃんからあなたに渡して欲しいって言われたものがあったわ」
思い出したように看護士は奥へとポンポンと駆けて行き、暫くしてから戻ってきた。
「はい、これ」
回らない頭で看護士が差し出したものに視線を落とす。途端に衝撃が走った。
「ドラゴンクエストV!」
「そう。貸しっぱなしのまま、あなた退院しちゃったでしょう。いばらちゃんが困ってナースステーションに置いていったのよ。あなたがまた来たら返してって」
そこまで言われても、俺には実感が湧いてこなかった。ソフトの事を、そしていばらというこの事を、俺は本当に記憶していないのだ。
「ありがとうございます。あの、その」
「なあに?」
「いばらって子は、今どこにいるか分かりますか?」
看護士の表情がサッと翳る。そして言いにくそうに、俺の質問に答え始めた。
「いばらちゃんはあの後、亡くなったのよ……」
実はいばらちゃんは重い病気でね。あなたと会う頃には、もう余命が少ないと言われていたの。
それでも頑張ったのだけど、結局、勝てなかったのね。
あなたが退院して半年くらい経ってかしら。眠るように息を引き取ったの。
けして負けごとを言わない、強い子だったわ。
ソフト、尾山君がよければ受け取って欲しいわ。
形見になってしまったけれど。
愕然とする。
最低だ。最悪だ。
……なにより、絶望だ。
真っ白になった頭をふらつかせながら、俺は帰路についた。そして今、父親の書斎で膝を抱えている。目の前の床には、いばらという女の子が俺に残したソフトをぽつんと置いて。
――部屋中が冬に染まってしまったかのように静かだ。
だけど頭は汚くこんがらがったまま。後ろから殴られたような鈍痛があって、頬が酷く熱っぽい。
使えない頭、使えない記憶。仲が良かった女の子の、その形見を手にしても稼働しない俺の。
いっそのこと、誰かに殴られて、高熱が出て、何もかも失ってしまえばいいのに。
最低、最悪の、俺なんかいらないのに。
そう思うけど、俺は息をする。どうしようもなく体が震えて、喉も痺れる。けれど、息をする。……自然と呼吸が整う。
俺はまだ考えなければならないんだ。どうしてこうなってしまったのか。
答えは、残されてるかもしれない。
俺はでくの坊のように緩慢な動きで、ダンボールを開けた。スーパーファミコンのハードを出して、コードをテレビに繋げていく。ゆっくりと、確実に。
スイッチを押すんだ。
そしてその時。カチリと、確かにカチリと、俺の中の何かが音を立てた。
オープニングは盛大な音楽と共に。波と共に冒険は始った。パパスに連れられて俺の冒険は始ったのだ。そして出会う、幼馴染み。豊かな幼少時代、幼馴染みとの危険で楽しい冒険の旅。
そうだよ、俺は確かに旅立っていた。最初は父と、次に、彼女と。
主人公の名前はミエル。頭にターバンを巻いた、勇敢な少年。
そうだ、俺は車にひかれたんだ。
包帯で頭をぐるぐる巻きにされた俺が通されたのは、子どもばかりの大部屋だった。そこで俺は、いばらと出会ったんだ。
今まで出会ったどんな女の子より可愛くて、初めは天使かと思ったくらい。俺と彼女は隣同士のベットで、いつも漫画を貸しあったりしていた。
ある日、父さんがゲームを一式持ってきた。長期の入院で俺が言い出したわがままを叶えるためだった。いばらと二人だけの秘密。音を最小限まで落として、真夜中こっそりとゲームをした。
今更、鮮明に思い出す。
「主人公の名前、ミエル君でもいーい?」
「なんでだよ」
「だって、ミエル君と一緒で、この子も包帯を巻いてるんだもん」
いつも彼女と密着しながらゲームをしていた。
「ミエル君と冒険してるみたいで楽しいよ。あのね、ビアンカは私なの。ミエル君と一緒に冒険するんだよ」
「そっか。でもさ、元気になったらゲームじゃなくて外で遊ぼうな。本当の冒険しようよ」
「うん。約束だよ」
たぶん、俺の、初恋だった。
「ミエル君、退院おめでとう。ゲーム返すね」
「いいよ、まだクリアしてないじゃん。クリアして、元気になって、退院したらウチまで持って来いよ。それまで待つよ」
「ううん、わかんないよ。ミエル君、忘れちゃうかもしれないじゃない」
「忘れないよ! だって俺、いばらのこと大好きだもん」
なんで忘れたんだ。
いばら。
「ミエル。いばらちゃんは遠くへ行っちゃったんだって」
「どういうこと? 俺のこと嫌いになったの?」
「違うの。ただ、ね。ソフトどうしたらいいかって、いばらちゃんのご両親が」
「いばらが返してくれるよ、返しに行くって約束したんだ!」
そう、俺は約束を信じたんだ。
いばらは死んでない。そう俺は信じたくて。
だから全部忘れた。そのかわり、冒険し続けることを選んだんだ。いばらのような女の子をパパスだと思い込んだ。
終わってないよ、冒険は。まだ残ってるんだよ、冒険は。だけどもう、嘘はやめにしよう。本当のことを思い出そう。だっていばらは、約束を。
「守ってたんだ」
ゲームは記憶する。データを、冒険の書を記録する。みっつの物語の名前を記憶する。一番目の書の主人公の名前は勿論、ミエル。
そして二番目と三番目は。
「ミエル」
「かえすね」
「ありがと」
それから。
真実を思い出して、受け止めるようになった俺から、パパスはいなくなってしまった。代わりに、いわゆる美少女というものがハッキリと見えるようになってしまった。お陰様で俺のあだ名はムッツリミテルになった。
「だって仕方ないだろ。可愛い子には免疫がないんだよ」
「それでもさ。美少女が通りかかる度にあからさまに振り向くか?」
「うう……」
廊下で美少女とすれ違う度に繰り返される心野との会話。心野はよっぽど、俺に疑われた事をうらんでいるようだ。
「案外、お前が美少女をパパスに仕立てたのは、惚れっぽい自分にブレーキをかけるためだったりしてな。まぁ、男が女性に対して振り向く時間は長い人生において三ヶ月と言いますし、尾山ミエルも健全な男子になったという証拠だな」
「最低、最悪」
「絶望ってか? カーッ、それでも男かねぇ。まったく、誰のお陰でビアンカといれるんだか」
「うっさい!!」
今度こそ我慢ならぬと俺がつっかみかかった時だ。目の前にビアンカがスッと現れた。
金髪おさげに青い瞳、学校指定の紫の制服に橙色のコート。
「尾山君、心野君、一緒に帰ろうよ!」
そう。なんてことはない、河合はハーフだったのだ。真実を知りかけていたあの時、すでに俺の新しい冒険は始っていたのだ。まやかしの無い、本当の冒険。
大丈夫、いばら。俺はお前を忘れないよ。だってお前が教えてくれたんだ。
「美少女の良さを?」
「違う!」
心野の突っ込みに噛み付きつつ、俺は今日も冒険をする。
これはグループ小説という企画の「同じタイトルと設定で小説を書こう」という試みから生まれました。
他には春野天使さんが「ドーナッツがオッサンに見える件について」という作品を書かれています。設定は自分が考えたものだったのですが、書きにくかったのか参加者は二人だけでした。えへへ。
春野さんのミエルは女の子なんです。しかも美少女です。よかったらそちらも読まれてくださいね。
作品を手に取ってくださり、ありがとうございました。
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