美しき亡霊騎士(史実)
スイスにあるシヨン城は王家の従兄弟ピエールとそのカトリシアが住む由諸正しい城として栄えていたが、その一方で牢獄であった。
それは十四世紀ごろのこと。
彼らの家臣にボレンという騎士がいた。若い美男子であり戦場でも勇敢な彼は人々に篤い信頼を寄せられていた。そんな彼に、カトリシアは妻を持たせようと国一の美女を紹介していた。忠実な家臣のボレンであるが、妻はとろうとしない。
カトリシアは疑った。そのころカトリシアとピエールの愛は冷めきっていた。だからだろうか。
次第に疑問は膨らんでゆき、ついにカトリシアは内緒でボレンの部屋にのぞき窓をつくった。そして真夜中、ひそかにのぞき込んだ。
するとそこには、ベットで抱き合う裸の姿が。ピエールとボレンであった。
やはり。騎士が妻をとらない理由と夫がつれない理由のすべてがそこに横たわっていた。疑問が確信に、確信が憤怒に変わり―――、カトリシアはそっと部屋に戻った。
それから数日。
ピエールが王家の宴の後に城へ帰ってみると、ボレンが地下牢に繋がれているではないか。信じがたいことに、カトリシアを辱めようとしたのだという。
そんなバカな。そう思うピエールであったが、秘めた恋を口にするわけにもいかない。彼はなんとか知恵をしぼることにした。
しかし冷徹な運命は、彼に時間を与えはしなかった。
城にある湖に満潮の夜がやってきてしまい、更に嵐が重なった。みるみるうちに地下牢には水があふれ、当然つながれていたボレンは死んでしまったのである。美しい顔は怨恨に歪んでいたという。
それからだ。カトリシアが部屋で眠っていると足音が聞こえるようになった。何者かと扉を開くもそこには人影すらなく、ただ転々と水たまりが続いている。
まさか、とカトリシアは思う。そのまさかであった。ボレンの亡霊をみたという話が密やかに囁かれ始めたのである。
亡霊は毎夜、カトリシアの部屋の前を横切り……ついに彼女は一ヶ月後、狂い死んでしまった。そして亡霊は、彼女の死を待っていたかのように現れなくなった。
亡霊は本当に存在したのであろうか。それとも、罪の意識に苛まれたカトリシアがみた幻影だったのであろうか。はたまた、愛する者を奪われたピエールの復讐だったのであろうか。
語る者はもう誰も残ってはいない。ただ薄暗い地下牢だけが、今もなお、陰鬱と暗闇を抱いている。
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