魔性(ショートブラック)
彼女はいわゆる魔性の女だった。
水商売で生計をたてており、店では不動のナンバーワン、いつも男たちをはべらせていた。
彼女に貢ぐ男はたくさんいたが、中でも二人の男が特に美しく、賢く、地位も高かった。男を右にひとり左にひとり添えると、道ゆく人々が必ず振り向いた。
敵は多く、時には「あんなのより私の方がきれいよ」などという嫉妬に満ちた陰口が小耳に入ったが女は気にしなかった。
ある日のことだ。彼女がいつもどおり店の従業員に送られて帰宅すると、マンションの玄関に二人の男がいた。彼らはめずらしくピリピリしていて、言い争いをしているようだった。
「どうしたの」
彼女がたずねると、男たちは口々に自身の主張を叫び始めた。
「僕は君を愛してる」
「俺のほうが愛している」
「僕とどちらが好きだ」
「俺に決まっている」
「今日こそどちらかに決めてくれないか」
彼女は悩んだ。どちらも好きだが、どちらがひとつなど選べなかった。そもそも彼らは客であり、彼女にとって恋愛の対象外であった。
「どちらも好きよ」
仕方なく、彼女は正直に答えた。すると彼女の体に痛みが走った。
「君が悪いんだ」
「君が魅力的すぎるから」
そうつぶやく男たちはなんと、包丁を手にしていた。包丁から血が滴る。彼女は刺されたのだ。
彼女は逃げるひまなく次々と刺され、バタリと道に転がった。最後に男たちは、自分たちの首を互いに切った。
人を虜にする。
魔性であるということは、実に、恐ろしいことである。
……事件のあらましを読みながら私はため息をついた。
「まだその事件を調べていたのか」
「あぁ、腑に落ちないことがあってな。どうしてこの女が刺されたか動機が腑に落ちないんだよ」
「怨恨だろう。かわいさあまって、にくさ百倍というやつだ」
冗談めかしく同僚は笑うと「世の中いろいろあるもんです」と言う。
「そういうもんかな……」
私はやはり納得できないまま、事件のファイルを畳んでしまい込んだ。
「それはそうとこれから、美人なお姉さんとこでどうだ?」
くいっと酒を飲むジェスチャーをする同僚に思わず渋くなる。
「大丈夫だって。本当に美人だから」
同僚はボンと私の背中を叩くと、豪快に笑った。
「その事件みたいな、ブス専キャバクラの話じゃないって」
やっぱり、腑に落ちない。
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