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  過去作品集 作者:雪芳
ゴルージャの村騎士(挿絵あり・ファンタジー)
 ゴルージャの村は、とても小さい。

 百人程度の村人たちは、僅かな家畜を放牧し、僅かな畑を耕し、僅かな蚕を育てて暮らしている。
 村人は自給自足の貧しい生活をしており、商業は殆ど存在しない。たまに村にやってくる旅商人に対しても、硬貨を支払わない。ほぼ、物々交換だった。

 そんな中、彼だけが変わっていた。

 彼は、狩りを週に一度行っていた。たった一人で。それはとても稀有なことだった。

 この村では、狩りは月に一度だけ行われる。
 それも村の青年たちや逞しい中年の男たちが、手に武器を持って、細心の注意払って実行するものだ。

 村の周りには普通の猪だけではなく、魔法を使う魔物だっている。
 以前、普通の猪を狙ったと思いきや、実は猪系の魔物で、大変な被害にあった。戦士も魔法使いもいない、農民だけのこの村では、狩りは危険を意味している。

 だというのに、彼はたった一人で週に一度、ずんずんと森に入ってゆく。猪ではなく、よりによって魔物を目標として。まだ十四歳になったばかりで、狩りは一年の経験しかないというのに。

 黄色い髪を後ろにひとつで結って、まだ発展途上の体に革のよろいを纏って、旅商人に頼み込んで漸く貰った安い剣を片手に。
 その姿はいつも意気揚々としていて、瞳は星のように輝いていた。
挿絵(By みてみん)

「力をつけて、金を儲けて、俺は首都に行く。そこで騎士になるんだ。」

 夢を語る者はなんて神々しいのだろう。彼の夢を聞くたびに、少女は思う。
 けれど、困難に立ち向かう際の無鉄砲にも思える行動。それは彼女の心を不安で締め付けるばかりだった。
挿絵(By みてみん)

 これは、小さな村にすむ、小さな少年と少女の物語。

「…狩りの回数を増やしたって、騎士なんてなれないわよ。お金があったって、剣の力がなければ、どうしようもないじゃないの。」

 村の端で、十代前半の少女が、同じくらいの齢の少年に説教をしていた。少年は面倒くさそうに少女の言い分を聞くと、こう切り返す。

「じゃあさ、どうしろっていうんだよ。剣を教えてくれる人がいれば、俺だってこんなことはしないよ。」
 そう言って、少年は重たい剣を一振りした。

 確かに、筋力はついてきたかもしれない。以前ならば、こんなにも軽やかな一太刀は少年には無理だった。

「けれど…狩りは危ないじゃない。もし熊にでも襲われたら…」
「レマは心配性なんだよ。」
「でも、ガアプは無茶苦茶だと思うわ!」

「なんとでも言えよ。」

 ガアプは少しむっとしながら、森へと続く門をくぐる。

「もう…夕方には帰ってきてね?」
「はいはい。」
 ガアプは片手をあげたまま、さっさと歩いていき、獣道にとけていった。

挿絵(By みてみん)

 レマはため息をつくと、足元に置いていた木苺を摘むための籠を手に取る。
 木苺を少し彼にあげてしまったから、また摘んでこなければならない。途中で会うんじゃなかったな、とレマは思った。

 春先の、朝露に微かに濡れた木苺が爽やかな香りを放つ。
 むっとした土や草木の匂いと僅かに混じる。だがそれらとは違う、甘くて心が洗われるような香りだ。

 香りは風に押し上げられて、レマのスカートの裾を撫で、立ち込める霧を風下へと追いやってゆく。

 指先が冷たく、震える。春はやはりまだ寒い。

 レマは手を合わせて擦り、息を吹き込んだ。
 と、そのとき、耳が聴きなれない音を捉えた。

 馬車の、からからという音。そして、蹄の音。

 レマが聴きなれている農耕用のヒルポポスが牽く馬車の音ではなく、その蹄の音でもない。聴き慣れない、異質なおと。

 レマは音の響くほう、霧の先へと目を向けた。白い霧の向こうから、くぐもった音をたてて、それはやってきた。

 馬。
 それもユニコーンだ。
 三頭。一頭に続くように二頭が並び、その二頭は立派な馬車を牽いている。馬用の白い鎧に武装もしている。

 鋭くも、貝のように美しい白い角を額から伸ばし、鬣を揺らすその姿は、レマが書物でしか見たことがないものだった。ユニコーンは、位の高い騎士のための特別な馬種なのだ。

 そう、ユニコーンには騎士が乗っていた。

「おお、よいところに人が。」
 先頭の初老の騎士が、穏やかに微笑み、レマを見下ろす。

 レマはゆっくりと立ちあがると、スカートの端を抓んで、なるべく上品な礼を返した。
 作法も何も分からないが、騎士に失礼はできない。騎士はただの剣を振るうひとつの職業ではない。国民を守るために、王の剣と呼ばれる機関が派遣する、特別な存在なのだ。

「なにか御用でしょうか?」
「この村の長に用事があるのだ。家がどこか分かるかね?」

 一体、騎士がなんの用事だと言うのだろうか。気になる。レマは少し考えて、
「村の一番奥になりますので、口でお教えするのには少し困難です。よろしければ、ご案内させてください」

 三人の騎士は顔を合わせると、それぞれ頷いた。
「ウム。では、頼もう」
「はい。かしこまりました」


 入り組んだ田舎道。

 小さな村なので、案内の途中途中で村人たちと顔があう。
 皆、やはり驚いていた。当然だろう、この村に騎士が来るなんて、私が生まれてから十三年の間にも、一度もなかった。

 一体、騎士がこの村に来たのは何十年ぶりなのだろうか。もしかしたら、百年は経つかもしれない。

 この国、ドラグノアでは最も寂れた村と言っても過言ではないくらいのこの村に、ユニコーンに乗った騎士が来るなんて、まるで夢のようだとレマは思う。

 長の家に着くと、既に玄関先で長が緊張した様子を隠さず待っていた。上等なマントを羽織っている姿を見ると、もしかしたら誰かが走って報せたのかもしれない。
 村長だけではない。家には、沢山の村人たちが集まっていた。

「これはこれは…よくぞいらっしゃいました!」

 深い皺をとても幸福そうに曲げて、長が頭を下げる。村人たちも倣う。

「ゴルージャ村の長だな。」
「は、はい!その通りでございます。」
「…我々は、皇帝陛下と聖王様のご命令により、ゴルージャへと長い旅を経て、参った。」

 皇帝陛下と聖王の命令、という騎士の言葉に、周囲がざわめく。皇帝陛下、聖王、共にこの国の頂点の存在だ。その二方が、一体なぜゴルージャに騎士を使わしたというのか。

「おおぉ!なんと皇帝陛下と聖王の命で…それは、いかなるご用件なのでしょうか?」
 村長が緊張に汗を流しながら騎士に尋ねる。初老の騎士は、鷹揚と言った。それは、驚くべき内容だった。

「聖王様の占いにより、この村には聖なる力を持った者たちがいることが分かった。我等は、聖なる者たちを首都にある聖園へと導けと命を受け、迎えに参ったのだ!」

 教会に村人たちが集められる。
 教会の庭は、談話のための広場のような形になっていた。たまの祭りも、ここで開かれる。
 広場は、大勢のひとで普段よりもとても狭く感じられた。

「今から、聖なる力を持った者を探す。聖王様の占いによると、聖なる者は十台の女性か、十二歳以下の子供とのことだ。まずは子供から調べるとしよう。」

 すぐさま、村の子供たちが一列に並べられた。子供たちは皆、自分が選ばれるのだ、選ばれなかったらどうしよう、など期待に胸を膨らませている。祈りを捧げている子さえ、いた。
 親たちは、その可愛らしい姿を、複雑な気持ちで見つめているようだった。

 聖なる者とは、聖なる力という魔法のような力を使う者たちの総称のことだ。

 血縁も、生まれさえも関係ない突然変異。聖なる者たちは、神竜に選ばれて力を得る。
 その力は説明不可能で、人の傷を治したり、魂を慰めたり出来ると言われている。

 聖なる者の中でも最も力がある聖王など、死した英雄たちを星から下すことさえ出来るのだという。選ばれし、特別な人間なのである。

 聖なる者だと分かると、どんなに小さい子供でも親元を離れて、聖園で暮らさなければならない。強大な力が暴走したり、悪用されるのを防ぐためだ。

 その代わり、親には聖なる者の親であるという名誉と、国からの莫大な援助金が渡される。
 だからこそ、親たちの気持ちは複雑なのだ。自分の子供が聖なる者であればという期待、一方の不安。
 それが彼らの中で鬩ぎあっているのだろう。レマの両親も、きっと。

 レマは両親を見つめた。

 母がレマの肩を抱き、父が頭を撫でてくれる。
 レマは両親が結ばれてから実に十年経ってから漸く生まれた、一人娘だった。いつも幸せそうにレマに微笑んでくれる二人は、今は苦い表情を浮かべていた。

 騎士たちは子供たちが整列したのを確認すると、黒いなんの変哲のない石を取り出す。
「これは、聖なる者を選別するための魔石である。聖なる者の前で、この石は光り輝くのだ。」

 道端の石と変わらない。あんな石が人の人生を変えてきたというの。
 レマは胸がつまるのを感じた。

 聖なる者かどうかの選別が始まる。
 騎士たちは各々、石を子供たちにかざしていった。
 辺りから溜息とも歓声ともとれない声があがる。選ばれた者、選ばれなかった者、次々と選別されてゆく。自分の子供が選ばれて泣き崩れる親もいれば、喜びに抱き合う親もいた。その全く逆の、選ばれなかった者たちの反応も様々だ。

 十三人の子供のうち、選ばれたのは三人だった。可愛くて有名な双子の姉妹のアンリとヘレナ、まだよちよち歩きのショーン。

「え……。」
 レマは思わず声をあげた。
「どうしたんだい、娘さん」
 騎士のひとり、一番若い男性が私を見下ろす。私は単純に思ったことを尋ねた。
「聖なる者はとても稀だとききます。なのに十三人の子供のうち、三人もだなんて…」

 瞬間、騎士の表情が険しくなった。
 だが、すぐにそれは笑顔に変わる。
「そうだよ。だからこそ我々はつかわされたんだ。ゴルージャには、神竜のなんらかの加護があったのであろう。聖王様も、この度のことにはとても驚かれていたよ。正に、奇跡だ。」

 奇跡、というその言葉に、人々が沸きあがる。
 レマは何故か、悪寒を感じた。奇跡という言葉に、地面を失ってしまったような、とてつもない不安を感じたのだ。

「さあ、次は女性たちの番だ。君が奇跡に触れられるのを願おう!」

 騎士の片手には石が握られている。黒ずんで、汚れきった石だ。その石が今、レマに向けられた。

 レマは天を仰いでいた。恐怖で唇が震え、霞む瞳で、教会の屋根の上の神竜の像を見上げる。

 この世界をお創りになられた、創世神、神々しく翼を広げる神竜。
 気づかぬ内に、レマは神竜を睨みつけていた。


 森は鬱蒼と樹が茂っている−−−当たり前といえば、当たり前である。

 ガアプは道なき道を掻き分けて、ずんずん進んでいた。日が天の中央にある。もう、お昼時を過ぎていた。
「今日は当たりナシ、か…。」

 いくつかのポイントに、魔物が大好きな魔石の匂いを出す袋を配置していたが、どこにも魔物は見当たらなかった。

 毎週やってきては、取り合えず魔物相手に剣を振るっていた。殺さないとはいえ、ボコボコにしては餌をやって離してやるという悪魔のような行為をしてきたので、さすがの魔物もこの森に嫌気をさしてしまったのかもしれない。

「やっぱり、どっかで剣を習いに行くしかないのかな。」
 レマの言葉が頭に浮かんだ。

 腕に触れると、去年の冬よりは遥かに堅く、太くなっている。だが、剣技を問われれば、それは本当に自己流で、邪道なものだろう。
 旅商人に猪の皮を売って小金を稼いで首都に行ったとしても、笑われて帰ってくるのがオチなのではないだろうか。

 いやいや、とガアプは頭を振った。
「俺は絶対、騎士になるんだ…。」

 情熱と気力がガアプの体に漲る。
 彼は、この夢に縋っているし、この夢しか無いと思っている。夢への強い執着心が、彼をこんなにも急き立てる。
 ただ今は、叶えるために、近づくために、精一杯のことを考えるのだ。夢が叶わない恐怖なんか、近づいてから感じれば良い。

 ガアプは叫んだ。
「絶対、騎士になってやるーー!」

 と、
「なっても良いけど、その前に助けてーー!」
 驚くべきことに、木霊が返ってきた。

 ガアプはぎょっとすると、急いで声の方向へと草木を掻き分けて進んでいった。助けて、という言葉の理由に、ちょっとした覚えがあったのである。

 バサッと、草の束を手で横に薙ぎ倒すと、小さな小川が流れていた。サラサラと澄んだ水が流れる小川を囲むように樹が生えている。
 その樹の上に、ぶら下がる形で、声の主はいた。

「た、助けて…。」
 犬系獣人の少年だった。
 ガアプよりも幼そうだ。網にぐちゃぐちゃに引っかかって、宙ぶらりんになっている。
 その横には、魔法石の匂い袋。思いっきり、ガアプが魔物用に張った罠だ。

「あーあ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよッ、助けて!」

 きいいいっと、苛立ちのままに抵抗し、余計に網を絡めてゆく。
 更なる抵抗。
 その時、きゅ、っと首が絞まった。
 ぐぇ、と絞められたアヒルみたいな声を上げたので、ガアプは青ざめて網を専断した。

 ボチャン!と少年落下。しばしの、静寂…。

「っぷは!うあああ、し、死ぬかとオモッタァァ!!」
「よしよし…。」

 ガアプは荷物から布を取り出して、少年の体を拭く。真っ白な毛並みの、見たことがない少年だ。

 ゴルージャは都から大分離れており、獣人の混血があまり進んでいない。混血もあるにはあるが大変薄く、ほぼヒュームにしか見えない人種ばかりだ。もしかしたら、都から来た少年だろうか。

「ああもう災難!誰だろうね、こんなムカつく罠を作ったの!魔人への侮辱だよ!」
「…君は、魔人なのか?」
「そうそう〜僕、魔人なの。あー腹立つ腹立つ腹立つ…。」
「…。全く、ひどい奴がいるもんだな。」

 ガアプは、罠を張ったのは自分であるという真実を黙っておくことにした。

「うーん、ジュテーム、あなたは命の恩人だね。あ、名前なんていうの?」
「ガアプだよ。ああと、君は?」

「ジェスタ。ねぇガアプさん、助けてくれた序でに、ゴルージャ村につれてってくれない? きみ、ゴルージャの人、でしょ?」

 ジェスタが目をパチパチとしばたき、輝かせてガアプを見上げる。おねだりとは、こういう行為を指すのだろう。

「何の用で?」
「ひ・み・つ!」

 怪しい、怪しすぎる犬系獣魔人の少年。ガアプは疑惑の目で彼を見つめた。

 だが、なにぶん罪の意識があったので、ガアプは二つ返事で了解したのだった。

 村に着くころには、時間は四時を回ろうとしていた。
 空は水色から橙色に染まり始めており、その光が門をより鮮やかに染めている。いつもの情景…のように、見えた。だが。

「なんだ?」

 人だかりだ。人だかりが出来ていた。
 この村で人が集まるのは、冠婚葬祭くらいのものである。しかも人々は、泣いたり慰めあったりしている。ガアプは意味が分からない。

「おい、みんなどうしたんだよ?」
 ガアプが振り向くと、一斉に村人たちが振り向き、溜息を吐いた。ますます意味が分からない。

 と、人ごみを掻き分けて、とある人物がガアプへと向かってきた。

 村長。ガアプの、唯一の肉親であり、祖父である。

「ガアプ!何処にいってたんだ、この馬鹿者!」
 いきなり、殴られそうになったので、ガアプは思わずかわした。
「な、なんだよ、おじいちゃん!」

「レマちゃんが行ってしまったんだぞ!聖なる者だったんだよ、レマちゃんは!今生の別れかもしれなかったというのに、また狩りか?女も狩れんで何が狩りか!」

 混乱と悲しみと、憤慨に顔を赤く染めて言い放つ。その思いがけない台詞に、ガアプは衝撃を受けた。

「な、なんだよ、どういうことなんだよ!?」
 ガアプは祖父の襟首を掴んだ。信じられなかった。あまりにもそれは、突然すぎるではないか。
 混乱に震える孫に、漸く祖父は落ち着いて言葉を綴った。

「…騎士が村にやって来たのだ。皇帝と聖王の命令で、聖なる者を探しに来た、と。レマちゃんとオレシアちゃん、それにショーンにアンリとヘレナ、あの五人が聖なる者だったのだ…それでたった今、五人は聖園へと向かったのだ…。」

「そんな、と、突然すぎるだろ…そんなことって…。」

 人々が、ガアプに目を向ける。ガアプもまた、人々を見渡した。レマの両親…二人は、抱き合うように泣いていた。
 ガアプは、呆然と立ち尽くした。

 偉大なる皇帝と聖王が、自分のなりたい憧れの騎士が、レマたちを奪っていってしまった。

 まるで体の中すべてを、盗まれていってしまったような、混乱。世界まで崩れてしまったような混乱。それが、抜け殻になった体を流動する。
「なんで…なんで…」
 ガアプは頭を抱えた。そんなの、そんなの…!
 間違っている、と叫んだ。
 …のは、ガアプでは無かった。

「間違っている!その見解は大いに間違っているよ!」

 叫んでいたのは、ジェスタだった。
 ジェスタは、ずんずんと村長に向かうと、その両肩を叩いた。
「彼らは騎士じゃあないんです!」

「彼らは、騎士と偽ってこの界隈を騒がせている…人さらいです!」

 夕日が沈もうとしている。
 馬車の窓はカーテンで遮断されているので、どの道を進んでいるのか全く分からない。けれど、独特のその強い光が、黄昏時を訴えていた。

 ガタゴトと揺られて、一体どれほどの時間が経ったのだろうか。
 とても時間が長く感じられるのは、どんどんと強くなっていく不安の所為だろうか。きっとまだ、半刻も経っていない。

「レマお姉ちゃん。」
 双子の姉妹が、顔を上げた。
「どうしたの?」
「ショーンが、おしっこみたい。」

 ショーンを見やると、なにやらモゾモゾしていた。オレシアが、困ったわね、と呟く。
「今後の旅のことを考えると、布おしめを汚すのは避けたいわ…。」

 確かに。
 首都はゴルージャの村からとても離れている。

 ゴルージャ村はエアドラド竜皇国最南端に近い、小さな田舎村。首都は遥か北にあるのだ。
 首都まで行く村人はいないので、一体どれほどかかるかは分からないが、衣服を汚すのを避けた方が良いに決まっている。

「私が言うわ。」
 レマは腰をあげると馬車と運転席を繋ぐ小さな窓を叩いた。
 だが、反応が無かった。
 馬車を走らせているから、分からないのかもしれない。今度は強めに叩く。しかし今度も反応は無い。おかしい。

「騎士様、騎士様。お願いがあるのですけれど…。」

 窓を叩きながら、レマは声を出した。馬車を走らせている者にも聞こえるように、出来るだけ大きめ声も添えて。
 けれど、帰ってきた答えは、思いがけないものであった。

「うるさいぞ!黙れ、クソガキども!」
 レマは唖然とした。オレシアたちも、その乱暴な返答に、一気に青ざめる。ショーンはおもらしをしてしまった。

 聖なる者として選ばれた者たちを乱暴に扱ってはならない、それは常識だ。
 ましては、相手は騎士である。愛と平等の元に、人々を守る使命を帯びた人間のはずだ。
 今正に、不安が現実のものになった。

「この人たち、騎士じゃないわ…。」
「うそ。」
 オレシアがショーンを抱きかかえる。その顔は、こわばっていた。信じたくないのだろう。だが、きちんと現実を冷静に見極めなければ。

「きっと、人さらいだわ。ユニコーンで来たから、騎士だと私たちは思い込んでしまったのよ。でも、騎士でなくともユニコーンを扱うことぐらいは出来る。村のみんなは、ユニコーンなんて本でしか見たこと無いけれど、都会では購入できるはずよ。」

「で、でも、あの魔石は?光っていたじゃない!」
 オレシアが異を唱える。それにレマは首を横に振って答えた。
「魔石を使うのだって、訓練をすれば光らせることくらいは出来るわ。」

「…そ、そんな…。」
 オレシアは目を伏せ、嗚咽し始めた。レマたちの会話の意味が分かる年頃の双子姉妹は泣き始めた。

 皆、不安感が鬱積していたのだろう。
 レマも泣いてしまいたかったが、泣けば冷静ではいられなくなる。このままではきっと、メソメソと泣いたまま売られるだけ。

 レマは溢れそうな涙を押し込め、現状を打開しようと思考をめぐらせた。どこかに、突破口がある筈だ。

 レマは取り合えず、ショーンのオムツを変えるために、ショーンの両親から手渡された布袋を開けた。
 中から出てきたのは、真新しいオムツと衣類。そして、ヒルポポスの乳や木の実を細かく砕いた粉。これをお湯で溶かすと、母乳の代わりになるのだ。ショーンはまだ、母乳を飲むらしい。

 レマはその時、ハタと閃いた。もしかしたらと、布袋をまさぐる。そして…あった!


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 ガアプとジェスタは村の自警団と共に、ユニコーンを追っていた。
 だが、こちらの足は農耕用のヒルポポスだ。差はどんどん開いてゆくに決まっている。
 その上、騎士たちがどう進んだか分からず、仕方なく四つに分かれて探すことになった。

 日はどんどん冷酷に落ちてゆく。
 暗闇に浸かってしまえば、例え目立つユニコーンの馬車だろうがなんだろうが、見つからないだろう。

 レマ、無事でいてくれよ…!

 ガアプは祈るようにヒルポポスを走らせる。
 だが太陽はついに、山の稜線へ、そして山の向こうへと、沈んでしまった。

 いくら歩き慣れた村の周りの森林地帯でも、暗闇で走り回るのはあまりにも危険だ。
 一行は立ち止まることを余儀なくされて、ヒルポポスから降りた。

 頭上には暗闇を携えて、欠けた月が佇んでいる。その周囲を、平然と星が巡る。樹海は、闇夜に怪しげに翼を伸ばして踊り狂っている。

「神竜よ…五人を守りたまえ…。」
 自警団のひとりの祈りに、その無責任な態度に、ガアプは怒りを覚えた。

 が、それを吐き出すことなど出来ない。もう既に、祈るしかすべきことが無いのは事実だった。
 無力への苛立ちを抱えきれず、皆は次々と祈りに逃走してゆく。だが−−−。

「俺は進む。」
 ガアプは再びヒルポポスにまたがった。自警団はガアプのヒルポポスを掴んでとめる。
「無茶をするな!森で迷ったら、どうするつもりだ!」
「そんなこと、俺は知らない!」

 自警団の懸命な制止。ガアプの必死の抵抗。

「馬鹿やろう、無理だ、諦めろ!」
 自警団は正しい。夜の闇でヒルポポスを走らせるなど、死にに行くようなものだろう。自分でも馬鹿だと思う、だが。
「俺はまだ、レマに何も言ってないんだ!!」

 ついにガアプは、自警団の制止を振り切って駆け出した。
 遠くから、自警団の罵声なのか悲鳴なのかさえ分からない声が聞こえる。

 止まってやるものか。
 眼前は、闇。…そんなことは関係ない!

 ヒルポポスをかっ飛ばす。何処へ向かうべきか分からないが、とにかく先へと走らせていると、横から少年の声が聞こえた。
 ジェスタだった。

「右へ行こう。首都へと続く獣道があるはずだよ」

 一体、この少年は何者なのだろうか。
 先程、すぐさま大人たちを説き伏せて、あっという間に自警団を発動させてしまった。その瞳の輝きは、普通の少年のものではない。

 ---死神じゃなければ、何者だって良い…。

 今は、レマのことだけを考えたかった。嫌な想像ばかりが心臓を暴れ狂う。

 必死に手綱を引き寄せて、目をかっと開く。
 風を切って走り抜ける。濃厚な森と土の匂いの中で、バキバキと草木を薙ぎいて進む。

 獣たちの鳴き声も、ヒルポポスの息遣いの向こうから確かに聞こえる。だが、まるであの世にでも向かっているように、感じた。

「あ、なんだろう。変なにおい。」

 沈黙の疾走を裂いて、突然ジェスタが声をあげた。
 鼻をくんくんと動かすその様に倣って、ガアプも嗅覚を働かす。神経を研ぎ澄ますと、どろりとした粘着質な植物と腐葉土の芳香の中に、ガアプもその匂いを感じ取った。

「モノが燃える匂いだ!」
 ガアプが叫んだとほぼ同時に、森は途切れた。いや、道に出たのだった。そして。
 ガアプの目が捕らえたのは、ごうごうと燃える馬車の姿であった。

 レマは、ショーンの両親が用意した道具袋のなかに、あるものを発見すると、それを素早く取り出した。

 それは、火打ち石だった。どのような場所でもショーンの食事が作れるように、用意したのであろう。

「レマ、どうするつもりなの?」
「・・・この馬車を、無理やり止めるの。火を熾して。」
「そんな、む、むちゃくちゃだわ。私たちが丸焼きになってしまうわ!」
「そうね。でも、丸焼きになる前に馬車から抜け出してもらえるかもしれないわ。だって私たちは大事な“聖なる者”なんでしょう?」

 レマの強い決意の瞳に、オレシアが息を呑む。
 オレシアは少し考えるように俯くと、すぐに顔をあげた。声は、震えていた。
「やってみましょう。もしかしたら、村の人も気付くかもしれない。」
「ありがとう。」

 一縷の望みを託す。
 二人はすっくと立ち上がると、端に燃えそうなものを集めた。そして、全員に水をかけると、反対側で抱き合う。

「いくわ。」
 呟くと、レマはすぐに火打石をかつかつとかち合わせた。家事を熱心に行っていたので、火打石を扱うのは得意だ。

 小さな火花が燃えやすい乾いた衣服に燃え移る。そうして、炎はどんどんその四肢を伸ばし始める。
 オレシアとレマは目を合わせる。その炎から黒煙が生まれる前に、一気に息を吸い込む。そして、
「騎士様!大変です!馬車が、馬車が燃えています!火事です!!」
「・・・黙れ!クソガキども!火事くらいでなん・・・」

 威勢のいい罵声が、急激にしぼみ、小窓がガタガタと音をたてる。小窓を開けて中を覗き見た騎士の顔色が途端に青くなった。
「な、なんだぁ!?と、とめろ!とめるんだ!!」

 もうもうと黒煙が舞い上がり始める。砂埃を撒き散らし、疾走していた馬車が悲鳴をたてて速度をおとしてゆく。

 急激に煙に侵食される、馬車の密室。
 レマたちは目を瞑り、水でしめった衣類で必死に全身を覆う。
 だが、無情にも、炎は弱まることをしらない。

 泣き叫ぶショーンをかき抱き、レマは祈った。

 ようやく馬車がとまり、扉が開けられる。レマたちは、炎と煙から逃れるべく、馬車から飛び降りた。煙を吸いすぎて、足がもつれ、そのまま崩れ落ちてしまった。

 煙が喉に絡み、咳が肺を締め付ける。
 必死で呼吸と咳を繰り返すレマの体は、思うように動かない。朦朧とした意識の中、なんとか立ち上がろうと腕を伸ばしたとき、頭上から声が聞こえた。

「ふざけたマネしやがって…!」
 騎士たちの怒声。逃げようとするレマの背中を激痛が走る。再び、前のめりに倒れこむと、もう立ち上がる力は殆ど無かった。

 かすれた視界の中で、次々と子供たちが捕えられ、縛られてゆく。
 その騎士たちの動作は乱暴で、震え泣き叫ぶ子供たちに容赦しない。レマの全身を、絶望が一気に侵食した。

 やはり、私の行動は無謀そのものだったのだ。逃げるにしても機を間違え、私はみんなを危険にさらしてしまった−−−。
 あの時、騎士を村長の家へと案内しなければ。あの時、騎士たちの選別に異を唱えてさえいれば。あの時、馬鹿な考えを実行しなければ。

 レマは一筋、後悔の涙を流した。・・・何もかも、もう、遅い。

 その時だった。
 レマの目に、光が飛び込んできた。眼球を貫くような、鋭い光線。
 否、それは光ではなかった。金色の髪を揺らし、銀色の鎧に身を包む、・・・それは白髪の老騎士だった。

 老騎士は、にせ騎士達に真っ直ぐに対峙すると、彼の体には不釣合いな少年用のつるぎを構えた。
 そして、彼らに果敢に向かってゆく。その背中に、見覚えがあった。

「・・・ガア、…プ?」

 目をしばたく。目の前には、老騎士ではなく、少年がいた。ガアプという、小さな少年が。

「うおお!!」
 ガアプは吼えると、荒い動作で剣を振った。唐突に現れた少年に驚き、にせ騎士達は尻餅をつく。
 続けざまに、その喉もとに剣を突きつける。
 皮一枚分、わずかに首には離しているものの、にせ騎士達を震え上がらせるには十分だった。

「お前達、よくも騎士の名を語り、レマたちを・・・!!」
 ガアプの刃の先から、一筋の血が流れる。

「ガアプ!やめて!」
 レマが叫ぶ。ガアプはそれでも、抑えきれない怒りを吐きつけた。

「なんでだ!こいつらはお前をさらった・・・悪党だ!」
「悪い人たちだったら、剣を振るっていいというの!?」
「でも、こいつらは・・っ!」
「人を裁く権利はガアプには無いのよ!?」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」

 レマの発言に反抗して叫んだのと同時に、ガアプの剣がガキンと弾けとんだ。
 しまった! と思うも時すでに遅く、視界が衝撃と共に反転する。

 そのまま、ガアプはレマに折り重なるように倒れこんだ。

「このクソガキどもがあ・・・計画がおじゃんだ!ふざけやがって・・・」
 にせ騎士たちが二人に剣のきっさきを向ける。その瞳は、怒りで血走っていた。

 銀色の鈍い光が、ガアプの首元で光る。突然の邪魔者に沸騰した頭は、境を完全に見失っている。動けば、一気に斬られる…。

「待って!」

 切っ先が今当にガアプの首を絶つ寸前、レマが制止の声をあげた。
 その声に、にせ騎士たちの手がとまる。
 レマはそれを確認すると、震える足で立ち上がった。

「あなたたちは、早く逃げるべきだわ。私たちにかまってる暇なんてないんだから。」
「あ?」
「この火に寄せられて、村の人たちが来るわ。あなたたちに、勝ち目なんか無い。」

 レマのか細い声が、シンと静まった闇に明瞭に響く。だが、その声は地響きのような嘲笑にすぐに忙殺された。

「なにが、おかしいの。」
「いいだろう、村人全員ぶち殺してやるよ。」

 耳を疑い、息を飲む。

「むちゃくちゃだ…。」
「ふん、恨むんなら、てめぇの行き過ぎた正義感とやらを恨むんだな。」

 汚らしく笑う人攫いたち。レマは震えた。彼らは本当に村人たちを皆殺しにするかもしれない。
 レマは、恐ろしさからガアプの腕に抱きついた。

 と、不思議なことに、ガアプの腕は緊張のかけらもなかった。
 疑問に思って、レマはガアプをみあげた。…ガアプの瞳はまだ、機会をまつ獣のように燃えていた。

「そうか?恨み言を言うのは、お前らだと思うぞ。」
「何?」

 瞬間、五人の頭上で爆音とともに光が爆ぜた。
 あまりの突然の光の炸裂に、にせ騎士たちが小さく悲鳴をあげて目を瞑った。
 その隙に、ガアプはレマを抱きかかえると、大地を力強く蹴る!

 ガアプとレマが雪崩のようなその光から逃れたと同時に、光は収束し、帯へと変わった。
 やがて鎖へと変貌していくと、鎖は蛇のようにうねって、容赦なく偽騎士たちの体を締め付けた。

 体を痙攣させて、ばたばたと倒れてゆく偽騎士たち。レマは息を呑んだ。
「これ…魔法?」
「ああ、魔法だよ。あいつのね。」
 ガアプは愉快そうに森の向こうを指差すと、茂みを掻き分けて少年が顔を出した。

「ふっはっは、簡単簡単、楽勝楽勝! ガアプ、おとり役お疲れ様ぁ。」
「遅いよ、ジェスタ。殺されるかと思った。」
「ごめんね、僕、魔法苦手だからさ、詠唱失敗しまくりで…これでも早く言えたほうだよ。」
「心臓が縮むよ…。」

 ガアプとジェスタの会話をぽかんと見つめていたレマが、ふっと我にかえって呟いた。
「ありがとう・・・」
 体がまだ恐怖で震えているために、うまく言葉にできないレマを、ジェスタは暖かい目で見上げた。

「どういたしまして、勇気あるお嬢さん。感謝はいらないよ、元々は僕が森で迷子になったり罠にひっかかったりしてこいつらを捕まえるのに遅れてしまったのが悪いんだ。」

 ジェスタはニコニコ微笑みながら、横たわる偽騎士たちを蹴り上げる。偽騎士たちはピクリとも動かない。
「…死んでしまったの?」
「いいや、すやすやと気絶してるだけ。束縛魔法だからね、安心して。殺してないよ。・・・殺してやっても良かったけれど、ね。」

 純真無垢な笑顔で、挨拶でもするみたいな軽い口調で、ジェスタは言った。ガアプとレマは、その笑顔に違和感を感じた。まるで、彼は子供ではないようだ。

「そう・・・裁くのは、僕じゃない。」
 ジェスタはちらりとレマを見やると、口元に微笑をたたえながら、胸元から石を出した。
 石を大地へと放り上げる。それは簡単にぶち壊れ、光の円を描き始めた。

「皆の衆、おっまたせ!」

 円形の輝きはすぐさま魔方陣を描き、猛烈な炎を吐き上げ、高い火柱を産む。

 その中からやがて、人影がぽつりぽつりと見えた。そして、人影は影から人間へと次々変貌をとげてゆく。火柱からどんどん人が出てくるその不思議な光景に、ガアプ達は唖然とした。大した人数だ。

 制服だろうか?みながみな、白い衣服を着ている。そして残りの一人は、至極立派な紫のマントを羽織っていた。

「ジェスタ、本当に君は待たせすぎだぞ。待ちくたびれたよ、すっかり。」
「悪いな、ピュノン。」

 紫色のマントを羽織ったピュノンという男性は、その様相と雰囲気から、地位の高さが伺えた。ピュノンは、束縛されて身動きひとつも出来ないでいる男たちを見下ろすと、眉をひそめた。

「これが、聖なる者をさらう噂の騎士様ですか?おやおや、見たことがある顔だ。確か…」
「あー言うな!」
 ジェスタはピュノンの言葉を制すると、
「ユニコーンを盗んで騎士の称号を語って、人さらい。聖園まで巻き込んで、本当に迷惑な奴らだよ。こんなのが後輩だなんて、虫唾が走る。」

 両手で頭を押さえて振った、と…。
「…あ、あの、悪いのだけど、サ。」

 ガアプは二人の間に割りこむように、遠慮がちに片手をあげた。二人の視線が痛いくらいに集中する。言いにくそうに頭をかきながら、

「…話がよく分かんない、から、説明お願いしたいんだけど…。」

 ガアプの言葉に、レマ、そして縛られている子供たちがウンウンと上下に振った。
 ジェスタはピュノンに目を流す。ピュノンは意味を察したのか、しっかりと傾いた。

「そうですね。では、あなた方の村でお話しましょう。謝罪も必要ですから。」



 村に到着すると、村は暗い雰囲気に包まれていた。

 だが、ボロボロの姿ではありつつも、元気に帰ってきた一行を見て、すぐに平穏を取り戻した。

 村人たちの意向により、もう夜も深い時刻ではあったが、異例の集会が開かれることとなった。
 勿論、ジェスタ達からの説明を聞くための集会である。場所は、偽の騎士達が聖なる者の選別を行ったあの広場だった…。

 月がだいぶ傾いている。

 あんなことがあったためだろうか、集まった人々の唇は重く、とても静かな夜だ。
 偽の騎士達は、彼らが今朝、偉そうに石を掲げていた場所に、今は縛られ転がされている。村長はそれを一瞥すると、村人たちの前へと歩を進めた。

「皆の衆、よく聞きたまえ。」

 村長が人々の前に立つ。その脇には、ジェスタとピュノンも佇み、背後には制服を身に纏った者たちが厳かに並んでいる。

「レマ、前で聞こう。」
「ええ。」

 両親の傍にいたレマの手を握ると、ガアプは人垣をかきわけ始めた。むりむりと人の間に割り込んで、ようよう進むと、即席の舞台の上で微妙な表情をしている自分の父の顔が目に入った。何故か、その表情は暗い。

 聴衆の期待が頂点に達したころ、村長はゆっくりと、話し始めた。

「ええ、・・・ゴホン!よいかね、皆の衆よ。今日はみなにとって、大変奇妙で不快な事件があった。この奇異な事件を解決してくだすったお二人から、これについての経緯と説明がある。よく聞くように。」

 ジェスタ、ピュノンは、聴衆を見渡すと、静かに礼をした。
 制服を身にまとった人々を背後に立つ二人のその姿は、まるで気高き獣のように凛としており、どこか高貴な雰囲気を放っている。
 …さっきまでただのやんちゃな子供に見えていた、ジェスタでさえも。

「まずは私から説明をしましょう。」

 ピュノンは再び深く礼をすると、ゆっくりと口を開いた。

「我々は、皇都シオンから参りました。私の名前はピュノン・ホルク。位は聖園護衛隊第一部隊副隊長になります。後ろは、私が使役する護衛隊です。」

 人々は、ピュノンの口から飛び出した名に耳を疑い、口をポカンと開けた。それは、ガアプもレマも同じことだった。地位が高いだろうとは思っていた。なんせ、偽騎士たちを追って、捕まえていたのだから。
 だが、まさかこれほど地位が高いとは思ってはいなかった。

 聖園護衛隊といえば、その名のとおり、聖なる者たちを育む聖園を護衛・警備を司るエリート護衛隊だ。
 聖園護衛隊のメンバーは殆ど騎士で構成されているが、中には聖なる者もいると聞く。その、第一部隊。
 そしてピュノンは副隊長。

 本来ならば、都の民でさえも顔を合わすことは許されない人物である。


「そして、彼の名前はジェスタ・ノエル。王族専属護衛隊“金獅子”隊員です。」

 金獅子―――。その言葉に、静かだった周囲が途端にざわめく。

 ガアプもまた、驚きを隠すことは出来なかった。心臓がその脈拍を増やし、体中に熱い血潮が巡る。

 何故なら金獅子は、年に一度中央で行われる騎士大会で剣術・精神力・騎士道を競い、頂点に立った人物が受けられる金獅子試験に合格しなければ、なることは許されない、特殊な位。

 金の獅子は国の精鋭中の精鋭であり、騎士の中の騎士。騎士をめざすガアプにとってまさに、憧憬そのもの、雲の上の人物なのだ。

「嘘、だろ…。」

ただの子供だと思っていた。それが、金の獅子だなんて。

「ガアプ・・・。」
 ショックでただ俯くガアプをレマが心配そうに覗き込む。ガアプの心情が、レマには痛いほど分かった。
 騎士を目指しがむしゃらに生きてきたガアプ。だが、目の前にいる自分とそう年の変わらない者は、すでに夢を叶え、そればかりか更に遥か高みへと進んでいる。

 歴然とした差は、彼の自信や誇りをズタズタに切り裂くには十分だった。
 …彼はあの時、こう言っていた。

 本当に迷惑な奴らだよ。こんなのが後輩だなんて、虫唾が走る、と。…この言葉が指し示す意味は、ただひとつだ。

 村長の表情を見れば、それは明らかなものだった。

「次は私から説明をしましょう。」
 ジェスタが人々へと一歩を踏みしめる。その小さな手のひらが、偽騎士たちを指し示す。

「彼らは、最近になって現れた人攫いです。本来ならば、誘拐といった事件を担当するのは、我々ではなく、この村の方位でしたら南部自治体または地方騎士であることは、皆さんお気づきのことと思います。」
 ジェスタは周囲が納得しているかゆっくりと見渡ながら言葉を続ける。

「彼らは、騎士を名乗り聖なる者だと偽り子供を攫うという、極めて特異な方法をとっていますが、それでも例外ではないはずです。我々が何故、ここに来たのか。それには我々にとって重大で愚かしい理由があります。」

 ジェスタが言葉を区切る。ふいに歪めた顔に、苦いものがあるようだ。
 ジェスタは一呼吸おくと、続けた。

「…彼らは、本物の騎士なのです。」

  聴衆からどよめきの声が再び沸きあがる。その声に押されて、僅かにガアプが震える。
 レマは、ガアプの震える手を、ぎゅっと握り締めた。

「本物の騎士とは言っても、洗礼を受けた騎士見習いではありますが…騎士の称号を胸に持つ同志には変わりありません。」

 ジェスタは床に転がった騎士たちを見下ろした。
 騎士たちの表情は暗く、その真意を掴み取ることはできない。

 どんな深い闇が彼らを罪へと引きずり落としたのだろうか。
 罪の意識はあるのだろうか。
 こどもをさらい、あまつさえ村を滅ぼそうとしたことがどんな意味を持っているのか、彼らは真に理解しているのだろうか。

「三ヶ月ほど前になりますが、三人の騎士が姿を消しました。それとともに、三頭のユニコーンの所在も不明になっていた。その後、一月もたたないうちに、我々の元にある事件が伝えられました。ユニコーンに乗り、聖園の名の下に、こどもを攫ってゆく騎士がいると。…我々の予感はあたっていました。」

 ジェスタの声が、わずかに震えているのが分かった。ジェスタは、同志が犯罪を犯したことに強い憤りと恥ずかしさを感じているのだろう。

 しかし、その目は煌々と光り輝いている。その背筋は凛と伸びている…。

 ガアプは、ジェスタと自分の差を痛いほどに痛感していた。

「騎士として、騎士の代表として、心からの謝罪をいたします。」

ジェスタが頭を深々と下げる。それとともに、聖園の者たちも倣う。
 騎士が平民に頭を下げるなど、聞いたことがない。だがどうして、その姿は真の騎士というに相応しく、高貴さに溢れているのか。

 村人たちも次々と頭を下げる。ガアプもレマもまた、同じだった。
 胸に湧き上がったのは、怒りでも絶望でもなく、敬意と敬愛だった。魂が、熱く燃えるような…。

 人々が、夜の闇の中をぞろぞろとゆく。

 説明が終わり、人々は疲れきった体を重そうに動かし、家々へと帰ってゆく。
 肩を抱き合って帰るもの、驚きと興奮に熱覚めやらず語りながら帰るもの、ただ呆然としながら帰るもの。人々がゆっくりと帰路につく。

 だが、ガアプだけがその波に逆らい歩いていた。
 ずんずんとひたすらに歩く。

 ガアプの奇妙な行動に、レマが追いかける。

「ガアプ、どこへ行くの?帰ろう?疲れてるでしょ。」
「俺は、ジェスタと話があるんだ。」
「ガアプ?騎士様に何の用があるというの?感謝ならば、明日の朝にお尋ねして…」
「駄目だ、すぐ話したいんだ。どうしても。」

 レマはガアプの横顔を見た。
 前しか見ていない。ただひたすら、前だけを見ている。

 森に向かう姿に、似ている。

 騎士になるんだと夢を語って、危険も顧みずに森へと突き進んでゆくあの姿に。レマをひとり取り残してゆく、あの横顔に。

 嫌な予感がした。

 まるで、ガアプがどこか遠いところへ向かおうとしているような。

「ガアプ?何を考えているの?」
「何も考えていなかったんだ。俺は何も、わかってないんだ。」

 ガアプの歩みが早まる。
「ガアプ!」


 どんっ、と勢いよく、ガアプは教会の扉を開いた。

 中に入った途端、さきほど説明を終えたばかりの聖園の者たちと目が合う。みな、怪訝な顔をしている。

「なんじゃ、ガアプじゃあないか。」
 ガアプの予想外の登場に、小走りに村長が歩み寄る。
「ジェスタ…ジェスタ・ノエル王族専属騎士に話があります。」
「感謝を申しにまいったのか? じゃがの、皆様は大分お疲れのようじゃし、もう夜も遅い。明日、見送りと一緒に…」

「今、話したいんです。」

 ガアプは自分の祖父である村長を押しのけるように、ぐいっと前に出た。

「僕の話を聞いてくれませんか、ジェスタ・ノエル騎士!」
「ジェスタでいーよ。ガアプ」
 いつもの飄々とした顔で、ジェスタはガアプに歩み寄る。
「なにごとなのさ」
 にんまりと唇を上げて小首を傾けるジェスタを確認すると、ガアプは突然、膝を落とした。
「お願いします!俺を弟子にしてください!」
 膝を落とし、ジェスタを見上げながらガアプが叫んだ言葉に、レマは驚いてガアプの名を叫んだ。かまわず、ガアプは頭を下げる。

「なんでもします!俺を弟子にしてください!」

 ガアプの懇願に、けれどもジェスタは眉ひとつあげずに問いかけた。
「どおして弟子志願なわけ。まさか、騎士になりたいの?」

 ガアプの必死さを鼻で笑うような言葉口のジェスタ。だがそれでも心を曲げず、ガアプは叫ぶように答えた。

「夢なんです!騎士になることは、ずっと、小さいころからの、俺の、夢なんです!」

 夢。その言葉に、ようやくジェスタは表情を変えた。
 だが、それはさげずみに満ちた、冷酷なものだった。
 憐憫に染まった、大人の視線。そして侮蔑に染まった子供の微笑。

「……そう。けど、君も彼らを見たよね?」

 ジェスタから放たれた言葉に、ガアプは戸惑い、え? と呟いた。惑うガアプの表情に、ジェスタは呆れたようにため息をつく。

「あの見習い騎士たちのことさ。騎士になるという夢を追い、挫折し、落ちぶれた無様な騎士の姿を、君も見たじゃないか。最終的に、彼らは騎士になる道から落ちただけじゃない、騎士の道を逃げた末に、人の道まで転げ落ちた」

 ジェスタは右手をあげると、くるくると回しながら指先を下に向けた。その指先はそのまま、困惑するガアプを指し示す。
 ガアプはすぐさま不安定な心をほうり投げると、その動作に噛み付いた。

「俺は、違う。俺は努力します、騎士になるため、俺は頑張ります!」
 燃えるような闘志、懇願。だが、
「そう?結構。」

 ガアプの熱意と反対に、ジェスタの瞳は冷たいガラスと化してゆく。小さな笑みを象った可愛らしい童顔から零れる言葉は、既に氷そのもののように冷たい。

「だけどね、彼らも頑張ってたんだよ。自分の人生の、殆どの時間を夢に捧げてたんだ。だけど駄目だった。ねぇ、何でだと思う?」

 嘲笑にも似たジェスタの言葉に、ガアプは目の前が白くなってゆくような感覚を覚えた。
「それは…。」

 くちどもる、ガアプ。ジェスタはクスクスと笑うと、大声で答えた。

「才能だよ、才能。彼らは努力した、努力が足りなくて、ここまで落ちると思う?」
 ジェスタはさもおかしそうに続ける。
「努力しても駄目で、だから絶望して犯罪にまで手を染めてんじゃないの。努力が足りなかったんじゃない。足りなかったのは、さ・い・の・う!生まれる前から決まっていること!」

 教会に木霊するジェスタの声が、凍てつく刃となってガアプの心臓を突き刺す。
 ガアプは熱量の感覚を失い、息をするのも忘れて、ジェスタを見上げた。
 呆然とするガアプを目の前に、ジェスタは更に追い討ちをかけるように続ける。

「夢を追う、結構だ。夢のために頑張る、結構だ。だけど君は見たでしょ。失敗した人。失敗して夢から離れた。だけど、夢から逃げることなんて出来ない。だって自分の人生、それ自体がずっと夢だったんだから。君と同じように」

 ジェスタの言葉は加速する。ガアプの足元をどんどん崩してゆく。

「自信満々で学園の扉を叩いて、天才たちにプライドをコテンパンにされて、禿げるほど悩んで、結局は夢から逃げ、でも逃げられず、犯罪やるってのに憧れの騎士を演じて、最後にはああなった。愚かだと思わない?僕はすっごい馬鹿だと思うけど!」

 白く高い天井に響く、棘。

「そんなことはいっか。…で、君は才能があるの?」

 ジェスタの、罪を下す陪審員のような冷めた瞳がガアプへと近づく。
 ガアプは蛇ににらまれた蛙のように硬直している。氷結した言霊は、更にガアプを苛めようと牙をむく。

「さ・い・の・う、は、」
 あるの? そう、ジェスタが更に問いかけようとしたときだった。

「才能がなんなんですかッ!」
 ジェスタの辛辣な尋問をさえぐように、ある人物が一歩を踏み出した。

「レマ、」
 怒りにこぶしを震わせて、顔を真っ赤染めてジェスタの前に出た意外な人物に、ジェスタは軽く眉をあげる。

「どうしたの、君には関係ないでしょ」
「関係なくない。私はガアプの幼馴染です。ずっと、ガアプが努力するところを見てきました。才能なんて簡単な言葉でガアプを決めないでください」
「そんなこと、言われてもね」

 レマの剣幕と対照的に冷め切っているジェスタは、呆れたように眉を下げた。
 慌ててガアプが手で制止するも、レマは止まらずにジェスタに噛み付く。周囲の熱の差異など、気にもとめずに強く出る。

「騎士様も見たでしょ? ガアプがいたから、みんなが助かった。ガアプはこの村の騎士です」
「騎士かどうかは君が決めるんじゃない。国が決めるの」
「国に何が分かるんですか、ガアプは凄いんだから。一人で大きい猪を狩ったり、重い剣を振ったりするんだから……」

 そんなこと、と嘲笑しようとして、だがジェスタはそれをやめた。
 レマの瞳に涙が浮かんでいるというのに、その光は歪むことなくジェスタに向かっていたのだから。

「小さいころからずっと騎士を目指して、ずっとずっとこの村を守ってきたんだから」
 レマは今にも泣き出しそうな自分を押し込めて、大声で言い切った。
「ガアプはずっと、騎士だったんだから!」

 教会に、レマの訴えが真摯に響く。
 荘厳な建物の中、その若々しい緋色の感情は、凛と輝き美しかった。
 花のような、刃のような、形容するのならばそのような高貴な言葉が似合うレマの姿に、ジェスタは呟くように言った。

「……本当に、威勢の良い女の子だね。惚れ惚れする、ねぇ、ガアプ。」

 くすくすと笑い、ジェスタはガアプを見下ろした。ガアプは、頭を力なく下げている。
「ガアプ…」
 レマが問い掛ける。
「ごめん、レマ。俺は、そんなたいそれた人間じゃない」

 反して、頭をふるガアプ。
 ガアプの否定に、レマは氷が体に刺さったような感覚に襲われた。
 レマの訴えは、無駄なのだろうか。

 だが、

「でも、俺は挑戦したい。夢を諦めたくない」
 ガアプは答えた。

 その目は、先ほどの放浪とした色ではない。レマの熱意が憑依したような、情熱的な色だ。
 それはジェスタに訴えるようにも、レマに訴えるようにも、己に訴えるようにも、みえた。

「絶対に、絶対に、夢を諦めない。俺は、騎士になる」
 真剣なガアプのまなざし。レマはたまらず微笑んだ。
「ガアプ」
「ありがとう、レマ」

 ガアプの変貌に呆れたような表情で、ジェスタは再び問いかける。だがもう、見下すだけの視線ではないことは、その真っ直ぐな背筋から判った。

「だからさ、君は才能があるの?君は本当に騎士になれるの?」
「しりません。」

 一見して、そっけないように思えるガアプの態度。しかしそこには、ガアプには、先ほどまであった惑いは微塵もなかった。
 自信があるのでなく、怯えがあるわけでもなく、何一つもたない心の底からガアプは答えていた。

「じゃあ、」というジェスタの次なる問いかけを圧して、ガアプは続けた。感情の燃焼するくちぶり。

「知るわけない。俺はまだ夢を追いかけてもいないです。俺はまだ、何もしてない」

 迷いから覚めたようなガアプの視線。ジェスタは、その視線から顔を外すように頬を指先でかくと、
「もう一回きかせて。ねぇ、どうして騎士になりたいの?」
「それ以外、俺は、……考えてないんです。」

 それしかない。それしか考えていない。
 硬質な決意をジェスタは感じると、しかし面倒そうに鼻を掻いた。

「ふうん、そうなの。ありがと、でもいーや、僕より背が高い弟子ってなんかいやだもん」
 なんでもないように背をむける。

「でも、」
「だ・か・ら、良いこと教えてあげるよ」

 ジェスタはとんとんと祭壇を叩くと、そのまま床に座り込んだ。膝を落としているガアプと同じ視線の位置をとって、頬杖をつく。

「中央には、騎士学校があるのは知っているだろう? 中央は住むだけでムカつくくらい金がかかるけどさ、実は金かけないで騎士学校入って、見習いになれる方法があるよ」

「ほ、本当ですか?」
「うん。騎士学校には、奨学金制度があるんだよ。様々な奨学金制度があるけど、その中の特級騎士奨学金ってのは、騎士学校の学費だけでなく、生活費まで支給される。しかも返済はしなくていい。田舎の貧乏夢おい人にはうってつけだと思うよ」

 その制度を、ガアプは聞いたことがなかった。だが、ジェスタの口ぶりから本当のことだと分かる。
 感極まって、ガアプは大声を張り上げた。

「それ、俺受けます!」
「そっか、じゃあ行こう。はい、準備してきて♪」

「え?」
 ジェスタが嬉しそうに口元をあげる。ガアプの決意を喜んでいるというより、ガアプの動揺を楽しんでいるような笑みだ。
 ジェスタの真意が分からず、ガアプとレマは唖然と口を開ける。ジェスタは二人の様子を一瞥すると、祭壇の上にどっかりと座った。

「君のおじいちゃんに頼まれてね、孫が騎士を目指してるんですが、中央まで連れてって下さいって土下座で頼まれちゃったんだよ。仕方ねぇな〜って、試験まで僕んち泊めましょうかったらすごい感動してさ、煮るなり焼くなり好きにして下さいって。良いおじいちゃんだね!」

 ガアプは祖父である村の長を見つめた。ものすごい勢いで視線を外される。
 思い立ったらすぐ、猪のように行動してしまうその性格に、ガアプは血というものの怖さを強く知る。

「それに、レディーにまで頼まれちゃったら断れないでしょ〜、僕って紳士だからさぁ」

 ジェスタはちらりとレマを見た。
 急な状況の変化に対応できず、レマもガアプも、目をぱちくりとさせる。

「奨学金試験は再来週だからね。それまで微妙に剣を教えてあげる」
「は、はぁ…。でも、弟子は、嫌なんじゃ?」
 早すぎる展開に、ガアプは言葉をどもらせながらも、問いかけた。

 確かにジェスタは、自分より背の高い弟子は嫌だといったはずだ。
 それはつまり、弟子にはなれないということではないのか。

 ガアプの問いかけに、ジェスタは顔を下げる。何かを考えているようだ。言いづらそうに無言で唇を動かす。

「友達」
「へ?」
「友達!」

 ジェスタが目をそらす。顔が、真っ赤だ。
「弟子じゃなくて、それなら、いいだろ」
 ぶっきらぼうに吐いてから、乱暴に祭壇から降りると、さっさと歩いていく。

 コロコロと変わるジェスタの態度。
 弱弱しい子供のようだと思いえば、凛々しい騎士であり、意地の悪い男のようでもある。
 そして小さなことで照れくさそうにする。

 掴みづらい性格ではあるが、ガアプはそれが不思議と嫌ではなかった。

「よろしく、ジェスタ」
「はいはい。さっさと用意してね。太陽が山からこんにちはする前には、ここを出るんだから」
 ジェスタは赤面でそう言うと、そのまま教会の奥へと歩いていってしまった。


 夜道を二人きりで歩く。
 教会からの道のりは、まだ眠らない人々の家の光でさほど暗くない。

 先ほど村長に問い詰めたガアプであったが、騎士の相手をするから先に帰れ、と簡単にはぐらかされてしまった。
 明日の早朝に旅立つという事実が、本当のものなのか何だか信じがたくて、ガアプはかたく口を閉ざしたままだった。それは、レマも同じこと。

 静まり返った濃紺の空に星は瞬き、表面だけ乾いた大地に生えた草木が寂しげに靡く。

「じゃあな、レマ」
 切り出したのはガアプだった。
 レマが顔をあげると、そこは十字路。ガアプは右に、レマは左に。いつもの分かれ道だ。

「うん。あ、明日見送りに行くから。みんなを呼んで……」
「いいよ。いま、踏ん切りがついてるから」
 そっけなく言うと、ガアプはすぐさまきびすを返した。

 ガアプの考えていることが、レマには想像がついた。
 負けず嫌いでプライドが高いガアプのことだ。きっと、みんなの前で気持ちが揺らいでしまうのが怖いのだろう。
 チャンスを確実に掴むために、レマをも拒絶するつもりなのだ。

「うん、そうだね」
 ガアプの考えに、レマは賛同した。
 ガアプがどれほど騎士になりたいと願っていたのか、そのためにどれほどの努力をしてきたのか、レマは知っていた。

 なにより、応援したいと願っているのは自分だ。
 誰かを見送るときに、その足止めとはなりたくない。

「じゃあな!」
 ガアプが走り出す。その背中を、レマは目で追った。

「元気でな! あっちについたら手紙かくから!」
 距離を置いて小さくなったガアプが叫ぶ。
 レマはその姿をただただ見つめて、ただ佇む。

 ガアプの姿は奥の曲がり角をまがって、すぐに見えなくなってしまった。
 夜の風がざわめく。
 空を見上げると、いつもと同じように星は、月を中心として円を描くように流転している。

 先ほどの事柄が、全て嘘だったのではないか。日常と何一つ変わらない景色に、レマは軽い混乱を覚えた。

 愚かな騎士たちがやってきて、レマたちを連れ去り、間一髪のところをガアプたちに助けられた。
 そしてガアプは、聖なる騎士たちと共に明日、旅立つ。

 これらのことは本当に、今日起こったことなのだろうか。そして未来にも継続される事実なのだろうか。
 そんな、混乱を。

 けれどその一方で、もうすぐなくなってしまうひとつの日常を、受け止める冷静さを感じている。

 それはずっと、決められていたこと。
 ずっと、分かっていたこと。
 ガアプの夢をすぐ傍から見つめていたレマにとっては、当然の結果。

 なのに、とても寂しい。

 こんな日が来るかもしれないと、レマはずっと想ってきた。それでも、ガアプがいなくなるのは、とても寂しい。

 レマはその場に蹲った。心の中で、もやもやと浮遊していた気持ちが一気に凝縮し、レマに襲い掛かる。

 寂しい、寂しい、寂しい。
 信じられない、信じられない。

 抱えきれない巨大な漆黒の感情に、レマは打ち震えた。そしてその感情はゆっくりと、レマにある考えを繰り出させた。

 ----旅立ちのときに、友人たちをつれて懇願すれば、ガアプは諦めるだろうか----


 ふいに湧いた考えに、レマは嫌悪を感じた。
 なんて卑劣で、卑怯なんだろう。
 自分の寂しさを埋めるためだけに、他人の夢を揺るがそうとしている、自分。なんて馬鹿なんだ。ずっとガアプの努力を見てきたくせに、なんて馬鹿なんだ。

 レマは声を押し殺し、泣いた。
 ぼろぼろと、後から後からとめどめなく涙が頬をつたってゆく。
 ガアプの決意に対し、あまりにも汚い自分。そんな自分に気付き、寂しさはどんどん膨らんでゆく。

 立ち上がることも出来ず、レマはひたすら涙を流す。涙が袖に染み込み、熱っぽい湿度が体を濡らす。

 やがて篭もる、熱。それらが、膝に埋めた口元に、頬に、額にひっかかる。息苦しくなって、レマは自身の熱を逃がすべく、緩慢な動きで顔を上げた。

 そしてレマは、夜風はない何かを感じ、夜空ではない何かを見た。

 それは、上等の絹で出来た羽織だった。そして白い回廊だった。白亜の豪邸を背景に、女性が佇んでいた。

「え……?」

 レマは驚き、立ち上がった。いつの間にここに来たというのか。これは幻覚だろうか。現実のような、非現実。有り得ない事象が、レマの目の前で鮮やかに広がっている。

「恐れなくても良い。これは事実だ。だが今ではない、それだけのこと」

 女性は呟くと、レマに顔を向けた。その容貌には見覚えがあった。母だ。母に似ている。
 レマの母に似た女性は、だが母とは全く異なった声色をしており、語り口も貴族のように気高いものだ。

「今ではない?」
 レマが疑問を口にすると、沈黙のまま女性は、レマの背後を指差した。レマは従って背後を見た。
 回廊の向こう、女性とは反対側から、男性がこちらに向かってくる。長身を白銀の鎧で包み、長い金髪を優美に揺らし歩んでくる。

 ずんずんと向かってくる男性。装飾から推測するに、騎士に違いない。近づくほどに、その凛々しい顔立ちが分かる。

 ふいに、騎士が背中にさげた剣に手を置いた。

「きゃ!」

 刃がレマの体をかすめ、レマは尻餅をついた。すると、風景は再び変化し、無数の足を写した。
 人ごみの中に倒れこんでしまったよう。レマはうろたえ、群衆の中で立ち上がった。瞬間、レマは空中へと浮かび上がった。レマの浮遊を気に留めるものは誰もいない。

 地上に響く怒号。レマは先ほどまで紛れていた人の群れを見下ろした。彼らの格好は様々だった。騎士のような立派な甲冑に身を包む者から、腰みのだけの山賊風の者まで。

 同じような衣服のない異型の群れ。だが、その群れには唯一の共通点があった。それは、ひとりの騎士を囲んでいるということ。そして。

 光の残滓が目に飛び込む。刃だ。みな、刃を手にしている。たった一人の騎士を、何百人という男たちが殺気を放ちながら取り囲む。

「うおお!」
 騎士が吼える。彼は全身を包む白金の光を反射させながら、群がる男たちに剣を振るい落とした。

 騎士の刃が太陽に焼けた黒い皮膚に喰らいつく。噴水のように血が噴出す。四方八方に雫が飛散する。血の雨が、レマの体を強かに打つ。

 レマはその様子を、ただただ呆然と見つめた。あまりにも非現実で、あまりにも唐突過ぎる惨劇に、レマの体は石のように固まる。

 一人、また一人と、男たちが膝を付く。胸に大きな傷をつけられて、剣を持つ腕を切り落とされて、首筋をえぐられて。呻く彼らの背中に、容赦なく人々は足を下ろす。雪崩のように騎士に迫る。

 狂気に満ちた情景、人々の表情。その中で騎士は、勇敢な表情を崩すことなく、たった一人、彼らに立ち向かう。
 激しい渦のような世界で、その横顔だけが美しい。鷹のような彼の面容を、レマはじっと見据えた。

 戦場の中で、時間が経過してゆく。
 人の数は絶えることなく、彼へと爪を伸ばす。
 周囲にたち広がる山脈がその色を、くるくると転がるように変えてゆく。
 激しい速さ。頭上の天空も目まぐるしく色を変え、張り付く雲は素早い生き物となって這い回る。

 そして騎士の顔も。

 ゆっくりと刻まれてゆく皺。緩慢になってゆく動き。金に白が混じり始める髪。

 そしてレマは気付いた。あの、老騎士だ−−−−。

 偽者の騎士たちに、刃を振り落とされそうになったあの瞬間、光のようにレマの前に現れた騎士。ガアプの中に溶け込んでしまった、あの老騎士。

「彼はあなたを助けるために、剣を振るう」

 背後から、あの女性の声がする。
「彼はあなたを守るために、剣を振るう」

「あの人は、一体何者なの? どうして、私を守ってくれるの?」

 女性の声に、レマは問いを返した。
「それはあなたが国そのものであり、あなたが、彼の正義そのものであるから。あなたは、彼の生きる証そのものであるから」

「でも、私はあの人を知らない、知らないわ」
「今は知らなくとも良い。未来とは分からない、ただの可能性の存在。人々が繰り出す可能性の集結。意思と行為で織られた時の布地。その布が、どのような姿になるのかは、誰にも分からない、知らなくともよいこと」

「ならば、どうしてこんなものを私に見せるの。私に何を伝えたいの」
「彼は、歩き出した。だから貴女にも未来が生まれたの」

 その言葉に、レマは驚き、振り返った。
 だが。

 振り返った瞬間、既にそこには女性はいなかった。そればかりか、戦場も消えていた。跡形もなく。
 梟の啼くおと。回る星空。寝静まった町。いつもの田舎道。夜に染まった、ただの日常。女性は、どこにもいなかった。

---彼は歩き出した。

 だから貴女にも未来が生まれたの---

 女性の言葉が、レマの頭の中で鈴のように鳴る。一体なんのことなのか、なにを示した言葉なのか。レマは考え、目を瞑った。

 今日の出来事が全身を駿馬のように駆け巡る。
 朝の見送り。騎士たちの出会い。教会での選別。燃える馬車。光る剣。金獅子たちの告白。ガアプの決意。
 ……教会で見上げた、神竜の御姿。

 レマは小さく頷くと、再び歩き出した。


 もうすぐ、朝日は昇る。

 紺色を押し上げて、空がゆっくりと白に染まってゆく。血の気を失った白い指先のような色の空が、金色の山稜で断ち切られている。

 そして生まれ育った村が、山すそを隠すように立ち並んでいる。風に小さく軋む、木を組み立てただけの貧しい家々。子供たちはきっと、まだ眠っているのだろう。空気は静まり返り、不純物が大地に沈み込んでしまったような清さだけがそこにはある。

 ガアプは大きく肺を膨らませながら、空と山と村とを見上げる。都からは山が見えないとよく聞く。
 ガアプは、空と山が区切られてゆく早朝の過程を、ただ一心に見つめた。

 そんなカアプを気に留めることなく、衛兵や騎士たちはせわしなく動く。
 出発の準備は、ちゃくちゃくと進められてゆく。見送りに参加した村の大人たちさえも、どこかそっけない。

 本当に俺はここから旅立つのかな。

 ガアプは朝もやの中、大きく息を吐いた。右手にぶら下げた鞄の重ささえ感じられないほど、実感が湧かない。村の入り口から、村の中へ視線が流れていることが、不思議でたまらなかった。

 けれど自分は、確かにそれらを懇情の分かれのように見つめている。いや、懇情というのは似つかわしくないほどに、ガアプは平静だ。

 今まで帰るために用意された場所が、去るための場所と変わってゆく様は、こんなにも高揚なく静かなものなのか。
 寂しくはない、悲しくはない、辛くもない。
 ただ心に、穴が開いてしまっただけ。

「なに、ぼうっとしているの」
 声をかけられ、ジェスタの存在に気付く。どうやらずっとガアプの背後にいたようだ。

「さぁ、なんでだろうな」
「そんなことも、分からないでぼけっとしてたわけ?」
 ジェスタはふん、と小ばかにするように鼻をならすと、
「君は自分が、外の人間だと気付いたんだろ」
 と微笑した。
 言葉の意味が分からず、ガアプは眉根を寄せる。

「分からないのか。君はあの村の人間ではないのさ。いいや違うな、もうすぐ、村の人間じゃなくなる」
 ジェスタはそう言うと、村を囲む柵を指差した。子供の背丈ほどの木の柵は、村と外の境界線でもある。

「あの柵から出る人間はほんの一握りさ。例え柵の外を夢見ても、踏ん切りがつかない人間はごまんといるだろうね。故郷は、甘くて優しいんだ。それが断ち切れない、だから村人なんだ。ここから先は、村人ではないものの世界。甘くて優しくない世界で、故郷という支えを失った人間は、歩み方も分からない。だから立ち尽くすんだ」

 ガアプは、目を落とした。視線の先には自分のつま先がある。大地にくっついてしまったかのようなつま先が。

「大地に這いずってでも進むか、戻るか」
「進むよ」

 即答だった。ガアプはきっちりとジェスタに言うと、おもむろに片足をあげる。
「もう戻る気はない。ジェスタ、歩き方は教えてくれるんだろ」
「ああ。前から三番目の馬車に乗りなよ。早くしないと置いていくぞ」

 ジェスタが肩をたたく。ガアプはあげた片足を前に下ろすと、そのまま歩行を始めた。土に足を沈めるように、強く歩を踏む。

 未来が、心を埋めてくれるだろうか。馬車の足掛けに足を置いて、ガアプは思い、そして否定した。

 心は、俺が埋めるんだ。
 馬車の扉をあける。
 軋んだ音を立てて馬車が口を開く。ガアプはするりと中に入り込むと、長いすに腰を下ろした。
 もう、窓の外を見るつもりはない。

 出発の準備が完了したのか、周囲が一気に騒がしくなる。
 ガアプは目を瞑り、視界をさえぎる。まぶたを閉ざしていても、日の光を感じた。朝日が貌を出そうとしている。

 扉を開けるものがいる。小声から、それがジェスタだと判る。

「さぁさぁ、出発だ。あーもー、やっと都に行けるよ。とんだ珍道中だった、猿も拾っちゃうし」

 ジェスタの愚痴と共に、馬に鞭が打たれる。木の擦れる鈍い音が響くと、ようやく馬車が揺れ始めた。いくつか数を数えて、ガアプは瞳を開ける。

「あ、寝てたかと思ってたけど、違うのね。はい、これ」
 ジェスタが皮袋を持ち上げた。受け取ると、ずしりと手に響く。どうやら、重いもののようだ。

「なんだ、これ?」
「村長さんから、君へ。忘れ物がないかくらい確認しなよ。おじいちゃん、豚児をどうぞよろしくって、必死だったよ」

 どうりで、荷物の重みが感じられないわけだ。ガアプは自分に呆れつつ、皮袋をしまいこむ。
「それと、はい」
 ジェスタが、付け加えるようにガアプの膝に籠をおいた。薄い布がかけられた小さな籠。

「これは?」
「あけたら判るよ」

 ガアプは疑問に思いながら、籠にかけられた布を取り払った。瞬間、ふわりと懐かしい匂いが鼻に入り込む……。

 木苺だった。

 爽やかで甘い芳香、鮮やかでつやのある色味、みずみずしい果肉。赤い宝石のようなそれは、籠の中に山盛りで積まれていた。それが誰を現すのか、ガアプは一瞬で理解した。

「レマ」

 朝の日差しの中、彼女はいつも村の入り口で木苺を摘んでいた。ガアプが森に向かう途中で、彼女は必ず木苺を籠に納めており、それをよく啄ばんでいた。

「走り出したら渡して欲しいって言われてさ。いい子だね」
 ジェスタは木苺をひとつ手に取ると、
「甘いけど、すっぱいな」
 唇をすぼめて、飲み込む。それから、もうひとつ、と手を再び伸ばした。

 と、すかさずガアプが籠を抱きかかえる。
「なにするんだよ」
「食んな、これは俺のだ」

「けちー」
 舌をびろんと出すジェスタを無視して、ガアプは籠を抱きしめながら窓の外を見た。

 ガラガラと激しい音をたてて進む馬車。

 素早く移り変わる景色は、どんどんと現在を遠くへ押しやってゆく。

 見知らぬ景色へと、ガアプを運んでゆく。押し込んでゆく、まだ見ぬ新世界へと。

 胸と腹の下で木苺の冷たさが揺れている。

 がんと向けられた背中。ジェスタは、やれやれと肩をあげると、反対側の窓格子に体を寄せた。そして、あるものに気が付いた。

 ……頑固なガキには内緒にしとこ。
 ジェスタは皮肉っぽく口元を歪めると、小さく手を振った。

 馬車は走る。
 馬の躍動する筋肉に引かれ、木々で組み立てられた歯車を回転させる。
 街へと鼻先を向け、豪快な音を上げながら平原を走ってゆく。

 平原の境界の、更なるその先。果てしない目的地へと向けてひた走り、小さく、小さくなってゆく。


 小高い丘の上で、馬車が地平の彼方へと消えるのを見守る。
 完全にその身を線の向こうへと預けたのを確認し、ようやく彼女は腰を下ろした。

「さよなら」

 レマは木苺の汁液で汚れた手を擦りながら呟いた。

 日が昇るはるか前から時間をかけて木苺を摘んだその手は、しもやけで赤く染まり、微動する。
 骨まで浸透した植物の冷たさを拭うように、レマは手を擦り合わせ、息を吹きかける。熱っぽい肺から吹き出た吐息は、ぬくもりをもってレマを温めた。

 丘の上から、遠くを見つめながら手を擦るレマ。
 もし、この場にレマ以外の人物が一人でもいたならば、レマの姿を見て、こんなことを想ったに違いない。

 何を祈っているの――、と。



 小さな村に住む、少年と少女の物語はこれでおしまいだ。

 騎士を目指し旅立った少年、ガアプ。
 彼は、自身の強い羨望へと駆け出した。どのような困難が待ちうけているのか、どのような未来が待ち受けているのか。それはまた別の物語だ。

 騎士を目指す少年を見送った少女、レマ。
 彼女は、熱意をもって友人を外の世界へと送った。自分の孤独と欲に耐え、少しの寂しさを選んだ。そんな彼女にどのような未来が与えられるのか、それもまた別の話だ。


 そう、別の物語として、こんなものがある。


 ある騎士士官学校に、田舎から剣の作法をひとつも知らない少年がやってきた。
 人々は彼を嘲笑したが、彼はめげることなく勉強に打ち込んだ。

 それから数年後、成長した彼は騎士へと昇格したという。そして更に数年後、王族直属騎士隊の長として名を轟かせたという。

 また、その時代の王は女だったという。

 彼女は、類まれなる予知能力を持って国を統率した。
 そして偶然にも、彼女と彼の生まれは同じ村だったという。

 その村の名を、人々はこんな総称を付け加え、後世へと伝えた。



 奇跡の村、ゴルージャ、と。

挿絵>チョウキ様
ありがとうございました!


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