神様の光(エッセイ)
これは私のおじいちゃんの話です。おじいちゃんはその時、癌が全身に転移し、死を待ちながら入院をしていました。
とても紳士的な人でしたが、死を目の前にすると誰もが子供のようになってしまうのでしょう。おじいちゃんはやせ細った体を懸命に動かし、帰りたい帰りたい家に帰らせてくれとごねるようになりました。
思えば、死期が近いことを理解していたのかもしれません。家族も皆、長くはないことを感じ取っていました。
そんなある日のことです。私はお見舞いのためにおじいちゃんの病室に行きました。おじいちゃんは既に私のことを覚えていないようで、ベットに横たわりながらぼうっと白い壁を見つめていました。
次の瞬間、おじいちゃんは白い壁を指さしました。そして掠れた声でこう言うのです。
「神様だ、神様がいるっ」
おじいちゃんは枯れ木のような体を動かして立ち上がろうとしました。動揺しているのか、それとも壁に向かおうとしているのか……。
おじいちゃんの息子であるおじさんが、おじいちゃんを必死に押さえました。そうしなければ、おじいちゃんにつながる様々な点滴やチューブがとれてしまうからです。ですが更に、抵抗します。
「神様がいる、神様がいる」
私は壁をみました。そこには壁しかありません。でもおじいちゃんには神様が見えるようでした。
「神様がいる……」
それから数日後、おじいちゃんは息を引き取りました。
私は時折、思うのです。
あの時、本当に壁しかなかったのだろうか、と。神様はいなかったのだろうか、と。私には白い壁にしかみえなかった“神様”は、本当にいなかったのだろうか、と。
答えはわかりません。私には白い壁しか見えなかったのですから。
でも私は、少しだけ神様の存在を望んでいます。
家に帰れず、寂しげな病院でチューブに繋がれて病魔に苦しんだおじいちゃん。そのおじいちゃんをもし神様が迎えにきて下さったのなら……。
もしかしたらおじいちゃんは、天国で幸せに暮らしているかもしれないと、そう思うことができるからです。
おやすみなさい。安らかに。
どうか、どうかお元気で。
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