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  過去作品集 作者:雪芳
救命士の体験(エッセイ)
 私の学校にいる先生は救急救命士をしていました。これは彼が仕事の現役だった頃の話です。

 交通事故があったという通報があり、先生は出動しました。
 現場に向かうと一台の軽自動車が電柱にぶつかり、大破していました。フロントガラスが割れ、中を覗いてみると人の姿がありません。

 先生は中にいたはずの運転手を捜しました。
 しばらく歩いた先にある民家の玄関に、運転手らしき男性が横たわっていました。民家に助けを呼ぼうとしたのでしょう。
 奇跡的に怪我ひとつないようで、先生はホッとして男性に呼びかけました。
「大丈夫ですか?」

 しかし、返事がありません。
 おかしいなと思い、先生は男性を強く叩き、脈をとりました。男性はすでに亡くなっていました。
 先生はとりあえず男性を運ぶため、同僚を呼びました。そして先生が頭、同僚二名が胴体、足をそれぞれもって、いっせーのーで持ち上げました。

 ズズズッ。
 奇妙な感覚が先生を襲いました。
 ズズズッ。
 まるで両手が泥に入っていくような……。

 そうです、男性の後頭部から脳へと、先生の手が入っていったのでした。男性は怪我ひとつないように見えて、後頭部を骨折していたのです。即死でした。

 民家に歩いて行ったのではなく、フロントガラスを突き抜けて、十メートル先まで吹き飛ばされていたのです。そして落下し、後頭部が半分ほど割れていたのでした。
 まるで助けを求めるように。

「民家の人はお払いをしただろうね」
 苦笑するように先生は言いました。

 皆さん、玄関を開ける際は、十分に覚悟をきめてください。
 あなたのお宅に、いつ誰が助けを求めてくるのかわかりません。
 それは、明日かもしれないのです。




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