都市伝説2
***無情***
彼女は平凡な女に見えたが、不幸にも身寄りがなかった。
ただしたった一人だけ、肉親がいた。それは彼女が産んだ赤ん坊である。
彼女は赤ん坊をとても大事にしており、誰の目にも触れさせようとしなかった。まさに生きがいのような存在だったのだろう。
天気の良い日になるとベビーカーに乗せて赤ん坊と散歩する。そんな微笑ましい姿を、同じ団地に住む老女はそっと見守っていた。
ある日のことだ。団地の前で彼女は車に轢かれ、死んでしまった。身元を証明するものをほとんど持っておらず、また、身内のない彼女は無縁仏として処理されることとなった。
その話を聞いた老女は、ふと赤ん坊のことが気になった。そこでさらに尋ねてみると、女性の遺体の近くにはベビーカーも赤ん坊もなかったということが分かった。
彼女が亡くなってから数日が経過していた。団地の部屋の中に、まだ赤ん坊は生きているかもしれない。
そう思った老女は、友人と偽って急いで警察を呼ぶことにした。老女は、もし赤ん坊が生きていたら自分が育ての親になっても良いと思っていた。
警察の立会いのもと部屋のカギが開けられた。すぐさま老女は部屋に飛び込み、赤ん坊を探した。
そしてついに、部屋の奥にベビーベットを見つけ・・・・・・、老女はヘナヘナとその場で倒れこんだ。
ベビーベットには、赤ん坊ほどの大きさのキューピー人形がベビー服を着て横たわっていた。
部屋にあった彼女の日記から、彼女には流産の経験があったことが分かった。そしてそれが、婚約者の忘れ形見であったことも・・・・・・。
老女は号泣しながら手を合わせると、死した三人の幸福を祈った。
***交換***
夫婦は数ヶ月前から同じ夢ばかりみていた。
夢の内容は奇妙なもので、自分と同じ顔をした生首が飛んできて、「そろそろお前の体をくれ」と言う。その用件を断ると、いつの間にやら夢から覚めるのだった。
もし夫婦の片方だけならば笑い話になるかもしれない。しかし夫も妻も、同じような夢を繰り返しており、いつしか夫婦の日課は、起きた後に夢をみたかと報告しあうことになっていた。
朝、妻が目覚めると、夫はまだ布団を被っていた。だが起きかかっているのか、ムニャムニャと何かを言っている。妻は彼を起こす代わりに、いつもの夢をみたか質問をした。
すると夫はこう答えた。
「なんのことだ?」
ついに夫の体が乗っ取られたと妻は青ざめた。起き上がり、逃げるために玄関に向かう。
次は自分の番かもしれない。お払いでもなんでもいい、助かる方法を――。
が、妻は逃げることが出来なかった。玄関の扉が開かないのだ。いや、正確にいうならば開けられなかった。
ノブにかけるための手が、なかった。
妻は呆然と、生首だけになった自分を観察した。
背後から、夫の悲鳴がきこえた。
***チャイ屋***
インドにはチャイという伝統的な飲み物がある。インドに旅行に来たものとして、飲むのは当然だろう。そう彼は思い、チャイ屋に足を運んだ。
古くさい店内は薄暗く、妙なにおいがした。別のチャイ屋に行こうかと迷ったが暑くてすっかり参っていたこともあり、彼は妥協を選んだ。
注文すると、店内に似合わず美しいサリーを着た老女とともにチャイが出てきた。喉が乾いていた。彼は待望のチャイをつかむと、一気に飲み干す。
そこで彼の意識は、細い糸のようにちぎれた。
次に目をさますと、個人病院にいた。
「気がつきましたか。あなたは路上で倒れていたんですよ」
医師の言葉に呆然としていると、ふいに腹部から痛みが走る。見ると、腹に大きな縫い跡が出来ていた。
「お気の毒に。強盗に刺されたんですよ」
ゾッとした彼は、退院するとすぐに帰国し、念のために国立の病院で診察してもらうことにした。
随分と乱暴な治療だったからな……、彼はのんびりとそんなことを思っていた。しかし診察の結果は、驚くべきものだった。
「腎臓が片方ありませんが、どうされたんですか?」
***出る***
庭掃除をしていると、隣から花火が弾けるような声が聞こえてきた。腰をあげて垣根から覗く。
隣に住む家族、奥さんが一人娘を追いかけていた。
「こらっ、バタバタしないのっ」
微笑ましくそれを眺めていると、声をかけられた。垣根の向こう側で、隣の主人が車に寄りかかり煙草をふかせている。
「うるさくてすみませんね」
「いえ。ところで、おでかけですか?」
「お盆ですからね。祖父母のところにでも行こうかと」
隣家からバタン! と大きい音。
「おい。早くしなさい」
「待ってて。時間がかかるのよっ」
家から帰ってくる声に主人はやれやれと肩を竦める。私は笑いを堪えた。
しばらく主人と他愛のない話を交わしていると、ようやく奥さんが玄関から出てきた。娘がだき抱えられている。
「せっかく車で行くのに寝ちゃったんですね」
問いかけに主人がつぶやく。
「遠いですし、子どもには辛いだけですから、寝ていた方が丁度いいですよ」
じゃあ、と片手をあげながら主人が車に乗り込む。
「楽しんできてくださいね」
発車する車を、垣根から見送った。
その数日後のことだったろうか。
海の底からあの車が見つかった。中には、主人と奥さんと娘。
痛ましい死亡事故。見送りが天国へのものになってしまった。一寸先は闇なのだ……。
そんな考えを持てたらどれほど幸せだったろう?
娘には絞殺された後があった。
家族で向かう先は、最初からあの世だったのだ。
借金の末の行為として事件は解決され、隣家はひっそりと売りに出されている。
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