金の妻銀の妻(暗黒童話)
「久しぶりだなぁ」
これが男の最新の言葉である。
その男は、昔も別段美しくはなかったのに最近では醜く膨張してしまい気配を感じるのも嫌になった妻、を殴って気絶させ縄で縛り岩に括りワンセットで湖につき落とすと、すんなりと底へ沈んでいくその様を眺めていた。
あぁこんなにも心が洗われるのならば早々にやっておけば良かったと忽恍思っていると、暗黒色の水面がにわかに泡立ち始め、男はやれやれしぶといやつめと銃を構えた。
が、現れたのは奇妙なことに腰を抜かすほど麗逸な女性であった。白い肌に絹のローブを纏いふっくらと笑いながら女性は囁き始める。
「貴方が妻を落とした者ですね。貴方が落とした妻は妹系の妻ですか天然系の妻ですか」
すると女性の背後から女性には劣るもののこれまた整った美貌の二人の女性が現れた。見たことのない美女であるが、男は既視感を覚え、考え、息をのんだ。
湖に落とした妻に目元や眉の形などどこかが似ている。
次の瞬間、男は条件反射の如く告げた。
「私が落としたのは猪系の妻です」
正直な男に、女神は妹系の妻と天然系の妻を与えた。
数ヶ月後、男の住む町は美で溢れかえっていた。噂を耳にした町の人々が騙し騙し自分の妻や夫、息子や娘、友人知人はたまた近所に住む犬やらを湖に沈めた結果であった。
都合の良い艶やかさに彩られた町は壮観ですらあり、男は両腕を妻たちに回しながらそれを見渡していた。しかし、
「ちらほらと醜い者がいるな」男は満足ではなかった。
そう、湖を利用した者の多くは平凡な目鼻立ちのままなのである。かと言って、残っている者は湖に落とされまいと先手を打ち或いは力により買ったサバイバーであるから、到底勝てる見込みはなかった。
不服そうに顔を歪める男。それを横目にして、妻たちは提案した。
「湖の女神に相談してはどうかしら」
なるほど。男は早速湖に向かった。そして二人の妻に背後から突き落とされた。
気泡で揺れる水面。遠ざかってゆく二人の妻。それらがやがて暗く染まって、男は静かに湖の底に尻をついた。
よいしょと立ち上がろうとして、痺れるような視線に気づく。
ああ、困ったなぁ……。
そして致し方なく考えを巡らせると、男はある言葉を浮かべ、それを最新のものとした。
その後は尻に敷かれている。
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