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序章
第9話 悪魔マルファス
「今日から夏休みですが3年生は受験があるので気を緩めずに行きましょう」

長い。この長さは異常だ。
クーラーの効いてない体育館で俺は早くも意識が朦朧としだした。


9 悪魔マルファス


終業式も終わり、通知表ももらい(かなり微妙だった)、HRも終わって……俺は急いで隣町に行こうとした。

「池上」

振り返ると中谷と光太郎がこっちに手招きしていた。
俺が2人に走り寄ると中谷が森岡の様子を教えてくれた。

「森岡、今日は学校に来てたみたいだな。でも通知表もらったらそのままHRも受けないで帰っちまったらしい。なんかかなりやつれてたみたいだったって」
「じゃあ今はもう家にいんだろうな」
「多分」
「拓也、話は中谷から聞いた。今日決着つけんだろ?俺も行く」
「光太郎、今回はマジやばいって。ヴォラクの時よりも遥かにな」
「お前が行くのに俺だけ大人しく待ってろっつーのかよ?そんなん嫌だぜ」
「池上、今日はミーティングだけだから俺も手伝うぜ。1回くらい休んでも大丈夫だし」
「中谷……でも!」
「とりあえずヴォラク君のとこに行くんだろ?早く行こうぜ」

俺たちはカバンを持って急いでヴォラクのいるマンションに向かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『拓也。待ってましたよ……光太郎と中谷も行くのですか?』

マンションには既にストラスが待機していた。
ストラスはすでに棒切れを口に咥えていた。

「ストラス、その棒何に使うんだよ?」
『魔法陣に閉じ込めなくてはなりませんからね。問題はどうやってマルファスを閉じ込めるかです。彼はとても素早いので一筋縄には行きません』
「弱らせるしかないじゃん?できるかどうかは別として」

ヴォラクは何事もないように飴を1つ口に放り込んだ。

「閉じ込めるっつったって……」
「拓也がその指輪を使いこなせたら簡単にできると思うよ」
「な……んなこと言われても……なぁ」
「それより拓也、光太郎と中谷も連れてくの?普通の人間が手出しできる戦いなんかじゃないよ」

ヴォラクは俺を見た後、チラリと中谷と光太郎を見つめた。
光太郎はムッとした表情を浮かべながらもわかってると呟いた。

「どうだか……言っとくけど俺は手一杯と思うから助けてなんかやれないよ。自分の身は自分で守ることだね」

お前そんな脅すなよ。俺までビビッちまうじゃねぇか。しかもぶっちゃけお前だけが頼りなのに。

「さ、準備もカンリョー!その場所に行こうか」
『そうですね。できる限り被害は最小に留めなければなりませんしね。拓也』
「ん?」
『今回は空中戦になるかもしれません。貴方も覚悟しておいたほうがいい』

え?空中戦?何馬鹿なこと言ってんだ
覚悟しろって……俺はお前みたいに空飛べるわけねーのに。結局戦えるのはヴォラクだけじゃんか

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ここがその草むらですか……確かにこの辺ではなかなかの広さですが……フォモスとディモスを召喚したら全く足りませんね』

ストラスはあたりをキョロキョロと見回す。

「フォモスとディモスは10mくらいあるしね。目立っちゃうんじゃない?」
「ヴォラク。結界張ってくんないか?この前みたいに」
「いいけど……悪魔は結界張ったら気付いちゃうからマルファスこなくなっちゃうかもよ」
「ここに呼び寄せたらでいいよ」
『とりあえず中谷と光太郎が来るまでここで待機しましょう』

中谷と光太郎は森岡を呼び出すために森岡の家の近くで待機してる。(マジで刑事ドラマみたいだ)

「えーこんなに暑いのに?もうやんなっちゃうよ」
「ヴォラク。我侭言うなって」
「ちぇー」

プルルルル。プルルルル。

「光太郎からだ!」
『拓也?森岡、今家の外に出て行ったんだ。力ずくでも今からそっちに連れてく』
「よろしく」
『おう。じゃ』
『光太郎はなんと?』

俺はケータイをポッケにしまいこんだ。

「今から森岡連れてくるって。ヴォラク頼んだぞ」
「はーい」

そう答えるとヴォラクは天使の姿に変わった。

『さぁて悪魔マルファス。お目にかかるのは初めてだけど、どんな姿なのやら』
「お前って好戦的だよな。なぁんか怖いなぁ」

俺なんか未だにそんな怖い奴とやりあうって実感わかないし。

「放せよ!なんだよお前ら!」

声のするほうに振り返るとそこには森岡を引きずる中谷と光太郎の姿があった。
どういう状況だ?

『どうやら話し合わずに無理やり連れてきたようですね』
「これって後で俺らが怪しまれないか?」
『細かいこと気にしちゃ駄目だよ』

中谷と光太郎は森岡を俺らの前まで連れてくるとそのまま手を放した。
森岡は半ば怯えるような声を出した。

「わ!なんなんだよ!俺は何も持ってない!」
『このような少年がマルファスと契約を?』
「ひっ!ふ、フクロウがしゃべっ!?」
『何驚いてんの?マルファスと契約してるあんたにとっちゃ喋るフクロウなんて大して珍しいわけでもないじゃん?それとも何?それ演技なわけ?』
「な、今度は天使!?何者なんだよお前!!?」

俺は森岡の目の前に腰を下ろした。

「なぁ。大人しくマルファスを出してくれ…お前あの事件を起こして本当に何も感じねーのか?」
「事件?何のことだよ?」
『拓也、こいつしらばっくれる気だよ?もう殺ろうよ。殺したら悪魔も怒って出てくるよ』

俺はヴォラクに目配せをし、そのまま森岡に向き直った。

「嘘はつくなよ。もう証拠は出てんだよ。あのカラスがお前のとこに入っていくのを見たんだからな。観念しろ」
「カラス……エマのことか?」

森岡はまさかという顔をした。

「エマって名前付けてんのか?そいつがお前の高校の生徒を殺したんだろ?」
「な!?」

森岡は急に立ち上がって怒りをあらわにした。

「エマがそんなことするもんか!エマはずっと前から俺たちの家族なんだぞ!?大体カラスが人間を殺すなんてありえないだろ!」
「カラスをペットにしてるのも十分おかしいよ……」

光太郎は半ば呆れたように森岡に釘をさした。(光太郎は鳥類があんま好きじゃない)

「エマは数年前、足を怪我してて、その時に拾ってからずっと家にいるんだ!優しいし、いい奴だし!エマを馬鹿にするな!!」
『カラスはしたたかですからね。貴方を騙してたということも十分考えられます』
『でもストラス、これじゃ日があわないよ。マルファスが召喚されたのは俺たちと同じ時期って考えても最近のはず……こいつの話が本当ならそのカラス違うじゃん?』

中谷は慌ててヴォラクに向き合った。

「でも俺が追っかけてった時は間違いなくこいつの家だったんだ!」
『本当に?中谷見間違えたんじゃない?』
「んなことするか!」

森岡は相変わらず俺を睨み付けてくる…でも俺だってここで退く訳にはいかない!
俺と森岡がにらみ合っていると光太郎が間に入った。

「森岡、お前今回の事件の被害者に何かしらの恨みを持ってたんじゃないか?」
「うら……み……」

森岡はその言葉を聞いた途端に顔を真っ青にしその場に膝を抱えてうずくまってしまった。

「あっおい」
「う、疑ってるのか?あんたも俺を……」
「あんたも?」

森岡は怯えたまま言葉を口にしようとしない。
俺は安心させるために森岡に話しかけた。

「森岡、俺は今回の事件の被害を広げたくないだけなんだ。今回の事件もあんたが全部悪いわけじゃない。お前もそんなに怯えたままは嫌だろ?」
「……」
「お前を助けたいんだ」

その言葉で森岡は恐る恐る顔を上げた。
俺はヴォラクとストラスを指差した。

「多分お前はあいつ等のような奴と契約してるんだ。だから今回の事件が起こった」
「けい、やく?何のことだ?」

森岡は訳が分からないという顔をした。

『契約してないって……どういうこと?ストラス』
『私にも良く分かりませんが、もう少し話を聞いてみましょう』

森岡はポツポツと話し出した。

「今回の事件、本当に俺じゃないんだ」
「うん」
「でも偶然が重なりすぎてるんだ。俺がいなくなればいいのにって思った奴らがどんどん死んでいったんだ」
「え?」
「お、俺……怖くなって!自分にそんな力があるわけないって分かってるのに!俺、俺!でもこんなこと誰にも言えなくて、怖くて……!」

森岡は目に涙を溜めていて、最後のほうは声が震えて言葉もグジャグジャだった。

「その死んだ人たちと森岡はどういう関係だったんだ?」
「最初の5人に学校でいじめられてたんだ。毎日呼び出されて殴られてカツアゲもされた。おとといの3人はそいつらの舎弟みたいな感じで俺を陰でいじめてた。ネットの学校の掲示板に名前書き込んだり、昨日の人は学校も塾も一緒で、俺がいい成績取るといっつも怒って、でも本当に死ねなんて思ってなかったんだ!そんな本気で思ってた訳じゃないんだ!」

なんか壮絶な生活だな……

『弱い精神にマルファスはつけ込んだ……という訳ですか』
「どういうことだ?ストラス」
『人間は心が弱っている時に優しくされると酷く感銘を受ける場合が多い。この少年も弱っている時に甘い言葉に誘われて悪魔と契約してしまったのでしょう』
『それ悪魔と契約してから後悔する人間の典型的なパターンなんだよね。俺と中谷の時もそうだったし?ね、中谷』
「そうだよなー。確かに落ち込んでる時、励ましてもらったら結構グッとくんだよな」

なんか中谷とヴォラクが盛り上がってるがあえて無視。

「じゃあお前、やっぱマルファスと契約してんじゃん」
「契約ってなんだよ!?訳わかんないし……」
『訳が分からないのはこちらですよ。契約者の力なしに悪魔は活動はしません』
「だって」

俺は慌てて森岡にヴォラクとストラスにもらった宝石を見せた。

「こういう宝石をさ、そのカラスにもらわなかったか?」

森岡はジッとその宝石を見つめた。
後ろからはヴォラクとストラスが割られたらどうするんだ!とか無くしそうだから持ち歩いてんじゃねーよ!とか色々騒いでる。(これもあえて無視)

「一週間前、エマから黒い石がついた指輪をもらったんだ。カラスって光物が好きだから、どっかから拾ってきたんだろうって……特に気にせずに家に置いてる」
「ストラス!」
『間違いありません。マルファスとの契約石はサーペンティンの指輪。恐らくこの少年は何も知らずにその石を受け取ってしまったのです。石を受け取ってしまえば契約は成立。契約を破棄するには石を返し、悪魔を地獄に戻すしかありません』
「石を返すって……できんのか?そんなこと」
『悪魔が抵抗すればほぼ不可能ですね。その場合は魔法陣に閉じ込めるのですが』
「普通の人間が知ってる筈がない、か」
『これで謎解きは完了だね』

森岡は1人だけ訳が分からないという顔をした。(そうだよな)
俺は森岡にゆっくり説明した。

「今、俺が見せた石はこいつ等との契約の証なんだ。宝石を受け取ったら有無を言わさず悪魔と契約したことになる。森岡、お前がその指輪を貰った時からマルファスとの契約が行われてたんだ」
「そんな……嘘だ」
「こんなことで嘘なんか」

『誰だ!!?』

ヴォラクの突然の大声に俺は会話を中断してヴォラクに向き直った。
しかし周りには人なんて全くいない。

「ヴォラク?」
『拓也、あれ』

ヴォラクが指差した方向には1羽のカラスがこちらを見ていた。

「あのカラス……もしかして!」
「エマ!!」

森岡が呼びかけた瞬間、そのカラスはこちらに向かって落ちてきた。

「なっ!!?」

耳を閉じたくなるような潰れた音がし、そこにはカラスが横たわっていた。
そのカラスは体中に食われた箇所がある。見るも無残な死体だった。

「な!?」
『主ハ私ヲ裏切ルツモリダッタノカ…折角協力ヲシテヤッタノニ』

そして、目の前に1羽のカラスが飛んできた…手に篭手をもち、ズボンを履き直立した大きなカラス。間違いない。昨日のカラスだ。
マルファスはフンと鼻を鳴らした。

『少シハ楽シメルダロウト思ッテソノ姿ニナッタトイウノニ』
「なんだって……」
『拓也、どうやらマルファスはエマを殺して化けていたようですね』

どうりで森岡が契約のことをわからないはずだ。
悪魔のことを知らないはずだ。

全部こいつが仕組んだことだったのか。

森岡はエマを抱き寄せた。
エマはグッタリしており、森岡はその体を優しく抱きしめた。

「許さねぇ……」
登場人物

マルファス…ソロモン72柱の39番目の悪魔。
       40の軍団を指揮する長官である。
       一般的にはカラスの姿だが、見た目のよい紳士の姿であらわれることもある。
       戦争などの戦いを好み、人間を殺す機会をうかがっている。
       契約石はサーペンティンの指輪。
 

森岡啓太…上尾高校の1年。
      ペットのカラス「エマ」を殺して、その姿に化けていたマルファスと知らずに契約していた。


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