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第2部
第86話 大切な親友
「なんか厄介なの来たよなー」
「継承者は俺達の力を求めてる。本当に嫌になるな」
「マジでマジで」

はたから見たら独り言なこの光景。でも実際は独り言じゃない。

「どうすんのフォラスー。あの調子じゃまた来そうじゃない?」
「何度来ても結果はおんなじ」

そうだよな。何も変わることなんてない。
あいつを可哀想だなんて思わない。最後は皆消えてしまうんだから。


86 大切な親友


その日、俺は全くと言っていいほど眠れなかった。
ボーっとしていると光太郎の事、審判の事、色んなことが頭の中でごっちゃになるから。
それを振り切るようにケータイをいじったり音楽を聴いてたりしたら、いつの間にか朝が来た。
朝からテンションの低い俺を見て、ストラスが心配そうに話しかける。

『拓也、寝てないのですか?』
「少し寝た。心配しなくても平気」

察しのいいストラスは気づいてるはずだが何も言ってこない。それが少し有難い。
俺は服を着替えてドアに手をかける。

「今日も大分に行くぞ」
『そうですね』

俺は少しけだるい体に鞭を打ってマンションに向かった。

「あ、澪」
「拓也、おはよう」

マンションにはなぜか澪がいた。

「まだ朝の10時だよな。いつからいんの?」
「9時くらいかな?シトリーさん、すっごく疲れてるみたいだから身の回りの事、できるだけしてあげたいなって」

澪は少し笑ってシトリーに視線をよこす。
それに合わせて俺も視線を移動させると、確かにかなり疲れてる様子のシトリー。
全く眠ってないのか、目にクマができてる。
早く光太郎を助けなきゃ、このままじゃシトリーもろとも……

「あー拓也おはよー」
「おーヴアルはよっす」

俺が来た事を気付いたのか、ドアを開けて入ってきたヴアルが俺に飛びついた。

「大分の光って人がフォラスと契約してたんだってね」
「知ってたのか?」
「パイモンが言ってたの。今日も行くの?」
「そのつもり」

ヴアルは少し心配そう。

「そっか、気をつけてね?今日は中谷達もそっちに行くんじゃないのかしら」
「中谷来てるのか?」

でも辺りを見る限り、中谷の姿はマンションにはない。

「中谷は?まだ来てねぇの?部活か?」
「部活は休んでるわ。今ねーヴォラクとお使いに行ってるの。食材切れちゃったんだけど今みんな忙しいからって」

何だパシリか。

暫くすると中谷とヴォラクが大量の買い物袋を持ってマンションに帰ってきた。
それを暇だった俺は手伝って冷蔵庫の中に入れた。

「何でお前が買い出し行ってんだよ」
「みんな忙しそうだし、お前居なきゃ大分行けないだろ。だからね、手伝い。それ以外に俺がやれることってないし」

あぁそっか、それなら納得。
俺達は野菜やら肉やらを冷蔵庫に入れていく。
パイモンとセーレとストラスはパソコンを囲んで、何やら難しい顔で話し合ってる。
確かにこの中には入れないな。
食材を入れ終わった後、俺はソファで横になっている光太郎の所に行った。
あ、シトリーがメール打ってる。
澪の横では片手でケータイを使っているシトリー。
どうやら光太郎のケータイで家族に連絡を入れているようだ。自分が光太郎だと嘘をついて。

「シトリー光太郎の家族、なんて?」
「あ?早く帰ってこんかーとか遊びほうけんなーとかだな。マンションって伝えたら何も言ってこないけどな。何回かここに住み込んで帰んなかったことがあんだろな。またそこに居んのかって返ってきた」
「そっか……」

俺と中谷は光太郎を見つめる。
傷がふさがった光太郎はまるで眠っているみたいだった。
今にも起きてきそうなくらい。でも光太郎の目が覚めることはない。

「光太郎、もうちょい待っててな。絶対に助けてやるからな」

目を閉じてる光太郎は当り前のように反応はしない。
それでも俺は光太郎に何言か話しかけた。

「主」

話し合いが終わったのか、パイモンが俺に声をかけた。

「パイモン、俺行けるよ」
「私たちの準備もできました。向かいましょう」

俺達は光太郎に行ってきますと伝えて大分に向かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ここが大分かぁ」

大分初上陸の中谷は忙しなく辺りを見回している。
また高校にでも行くのだろうか。俺は気になってパイモンに尋ねてみた。

「でもパイモン、こっからどうすんの?」
「先ほど調べたところ、光という少年の住所が割れました。家に向かいましょう」

さっき難しそうな顔で話してた内容ってそれ?流石パイモンすげぇな。
パイモンとセーレがさっさと進んでいくのを俺は慌てて追いかけた。

「拓也」

パイモン達の後を付いて行っているとヴォラクがコソッと話しかけてきた。
しゃがんでくれと言うヴォラクに俺は言われた通りにすると、こそっと耳に顔を近づけてきた。

「ん?」
「パイモンもセーレもこの2日間一睡もしてないんだよ。だからちょっとボケてるかも知んないけど無視する方向でね」

そっか……パイモン達もきついのを隠してるんだ。それに比べて俺は何も出来なくて、情報を待つばかりだ。
ヴォラクは言うだけ言って、中谷の方に向かって行った。
そして2人で建物を指差しながら少しだけ、少しだけだが笑いあっている。やっぱあいつ等は仲いいよなぁ。
肩に乗っかっているストラスもその光景を横目で見て、俺に視線を戻した。

『拓也、辛くありませんか?体の調子は?』

ストラスは心配性だな。大丈夫っつったのに。

「大丈夫。1日くらい寝んなくたってさ」
『ならいいのですが……』

ストラスに愛想笑いを1つ。実際のところは眠くてしょうがないんだよな。
でも寝たら、俺はきっと審判の夢を見てしまう気がする。
人類が滅亡する夢を見てしまう気が……だから寝たくないんだ。だから眠らないんだ。きっと俺は泣いてしまう気がするから。
パイモンとセーレの後ろをついて行きながら、俺は軽くため息をついた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ここ?」

街中から少し離れた住宅街に一軒屋が立っていた。

「はい。私の調べによるとここになります」

そっか、じゃあ早速インターホン鳴らした方がいいのかなぁ。
小さいことを悩んでいる俺を横目にヴォラクが面白半分にインターホンを押した。
急にインターホンの音が鳴り響き、俺たちは思わず背筋が凍った。
そしてパイモンが推した張本人の首根っこを掴んで引き寄せる。

「何をしている貴様!?」
「ぐえっ!何すんだよ!だって会いたいんだろ!?」
「だからと言っていきなり押す奴があるか!」

「はーい」

声が聞こえて、おばさんが玄関から顔をのぞかせた。
光君のお母さんかな?

「何の用ですか?光の高校の知り合い?」
「いや、あの……光君に会いに」

おばさんは見た事のない俺たちを怪訝そうに見つめる。
しかし俺が返事をすると、おばさんは目の色を変えて俺たちに走り寄ってきた。(ひぃ!こわい!!)

「あんた光に何を吹き込んだの!?」
「え、えぇ!?」

なんでこんなに切れられなきゃなんない訳!?
まさか光君、おばさんに悪魔の事言ってるんじゃ……

「最近、光は家に帰ってこんし、パチンコに行き出すし……散々よ!あんた達とつるんだせいでしょ!?」
「そんな訳じゃありません!」

やっぱり光君は審判まで好きな事するって言ってただけあって、やりたい放題やってんだ。
それでおばさんは俺たちが光君を誘いに来たって思ったのかな?
勘違いだけど……

「光はあんな子じゃなかったのに急に……」
「それは火事の後からですか?」

パイモンの問いかけにおばさんは泣きながら頷く。
やっぱりフォラスに審判の事を教えられてたからだ。泣き続けるおばさんに俺達は戸惑うしかなかった。

◆◇◆
「げ、また来てる」

なんでまたあいつ等がいるわけ?
しかも行動がエスカレートしてねぇか?俺んちの前に普通にいんだけど。

「調べられたのかもな」
「まじやべくね?これじゃ家に帰れねぇじゃんかよー」

軽くなった財布の中身を補充しようと、ばばぁに金せびろうと思って折角帰ってきたのによー。
こりゃ逃げるが勝ちか。
そう思って俺はそっとその場を後にしようとした時、大声で名前を呼ばれた。

「あんら光ちゃん!」
「いっ!」

声がする方を振り返ると、そこには近所のおばさん。

「たいばあちゃん」

最悪だ。ついてなさすぎる。
早くこっから逃げたいのに…俺がジリジリ後ろに後退してるのにも気づかずにたいばあちゃんは大声を出す。

「あんた最近遊び呆けちょるんやってー?ママに心配かけたらいけんよー」
「あ、あはは」

「光!」

見つかってしまった。たいばあちゃんがゲラゲラ笑ってるがそれどころじゃない。
やべぇ……

◆◇◆
近所のおばさんの声で振り返ると、そこには光君が立っていた。
それを見て、光君のおばさんが大きい声を張り上げて光君の名前を呼ぶと、光君はこっちを見て逃げ出した。

「やっべっ!!」
「待ってよ中谷~~」

中谷が光君を走って追いかける。
すげーテニス部と野球部の競争なんてめったに見れるもんじゃないぞ。
俺達は呆然としてる光君のおばさんに頭を下げて、中谷とヴォラクの後を追った。

「放せよてめぇ!」
「誰が放すかよ!」
「大人しくしなよー!」

どうやらあいつ等捕まえたみたいだな。テニス部と野球部の競争は野球部の勝ちのようだ。
光君は中谷とヴォラクに羽交い絞めにされて嫌そうな顔をしていた。
俺達はそんな光君に近づく。

「また来たし継承者」

うんざりした様子の光君を見て、少しだけ苛立ちが募る。
人が死んだってのに、なんで平気そうな顔してんだ。

「俺はお前が頷いてくれるまで何回でも来る」
「うっぜぇ」

光君は嫌そうな顔をして、そっぽを向いた。

「あんたは何とも思わないのか?」

光君がじっと俺の目を見つめる。
だってそうじゃないか。人を生き返らせる力があって、悪魔の事も知ってて、その悪魔に何の罪もない人が殺されたら普通は同情するもんじゃないのか?
なんでそんな平気そうにしてられるんだ?

「自分の親友が悪魔に殺された時、あんたならその力を使わないで放っとけるのか?」
「……」
「あんたはそうかもしれないけど俺は違う。俺は友達を生き返らせたいんだ!大事な親友だったんだ!」

きっと今俺は酷い顔をしてるだろう。
そんな俺を見て、光君はため息をついた。

「ならフォラスに頼んでみれば?」
「フォラスに?」
「俺は勝手にフォラスの力を使ったら駄目なんだよ。おめーが本気でそいつを助けたいのなら直接フォラスと話しつけろや」

光君は折れてくれたんだろうか。
面倒くさいと言いながらもフォラスと変わってやると言ってくれた。
その光君を見て、セーレは不思議そうに問いかけた。

「そういえば君の契約条件を聞いてないな。ちゃんとした等価交換の契約なのか?」
「俺とフォラスの契約に不利になる条件はない。フォラスを俺の体に憑依させてやる代わりに俺を生き返らすこと、それが契約条件やった」
「生き返らせること……やはり君は」

「あの火事の日に俺は死んだ」

◆◇◆
「残念ですが一酸化炭素中毒とみて間違いないでしょう」
「そんな……光!」
「明日、司法解剖を行います」
「光、光ぅ!」

あ、ばばぁが泣いてる。俺死んじゃったんだ……自分の体が目の前に横たわっている。
あれ?これって話に聞く霊体ってやつ?
何で死んだんだっけ?あ、そうそう火事で死んだんだ。
あーぁ悲し過ぎて涙も出ないや。何であの日に限って部活なかったんだろうなぁ。何で友達と遊んで帰んなかったんだろ。こんなことなら部活ばっかやってないでもっと楽しいことすれば良かったなぁ。
斎藤に告白すればよかったなー……せっかくいい線いってたのに。
あーこれから俺どうなんだろ…天国に行けるのかな…?

『お前死んじまったのか?』

目の前には1人の男。

「あんた誰?」
『ソロモン72柱の1角フォラス。俺と契約する気はないか?契約すればお前を生き返らせてやる』

よくわからない。でも自分が幽霊になってしまった以上、オカルトな存在も信じられる。

「結局のところ誰?」
『一言でいえば悪魔だ。で、どうするんだ?契約するのかしないのか?」

それを聞いて契約しない奴なんてこの世にいるのか?
俺は即答でフォラスと契約した。

◆◇◆
「そう言う訳だから。俺に人の生を決定する力は持たない。お前がその気ならフォラスと直接話つけろや」

光君がそう言い放った瞬間、意識がガクッとなくなった。
急に全体重を預けてきた光君に中谷とヴォラクが焦りの表情を浮かべた。

「ちょっ体重かけんなよ!」

中谷とヴォラクが必死になって光君を支える。

「光の奴……結局情に動かされちまって」
『出てきましたね』

光君の表に出てきたフォラスは面倒臭そうに顔をあげた。
俺はその目にひるむことなくフォラスを睨みつける。

「頼む。お前の力を貸してくれ」
「だから断ると言ってるだろう」

パイモンも苛々したようにフォラスに言葉を投げ捨てる。

「まだそんなことを言っているのか?今の貴様に拒否権はない。言うとおりに動くことだ」
「黙れ裏切り者。俺は無駄なことはしない。生き返らせたところで審判の日には皆死ぬ」
「審判?」

そっか、中谷は知らなかったんだよな。

「中谷、後で話すよ」

ヴォラクの深刻そうな顔に、中谷の表情が不安げに揺れる。
フォラスはそんな中谷の姿を見て軽く笑う。

「何も知らないくせに…悪魔を地獄に返すなんて……随分大ぶりなんだな」
「何が言いたいんだよ」
「別に」

なんだよこいつ……馬鹿にしたように笑いやがって。
でもここまで来て引けない。

こいつが頷いてくれない限り、光太郎は生き返らないんだ!!

―澪side―――――
「シトリーさん大丈夫?」

疲れきって肩で息をしているシトリーさんにペットボトルに入れたお茶を渡す。

「サンキューな。しっかし、こりゃきついぜ」
「広瀬君。大丈夫かな……」

広瀬君が目を覚ますことはない。ずっと眠り続けてる。

「なんともな。拓也達がどうにかしてくんねぇ限り」
「このまま死んじゃったら光太郎かわいそう」

ヴアルちゃんの言うとおり。このままじゃ広瀬君が可哀想すぎる。
だって広瀬君は幼馴染の男の子が契約してた悪魔に殺されたって聞いた。
しかもその幼馴染を悪魔から庇って、広瀬君はそこまでして守りたかったはずなのに、その人は腱が切れて歩けなくなったって言うのも聞いた。
こんな悲しい終わり方ってきっとない。

お願い拓也……広瀬君を助けて……

―拓也side―――――
「頼む!光太郎を生き返らせてくれ!光太郎は…あんなとこで死ぬはずじゃなかったんだ!」
「しつこいな」

俺の必死の投げかけにフォラスは面倒そうに呟いた。
さっきから堂々巡りだ。

「光太郎は俺の親友だ!俺はまた3人で遊びたいんだよっ!こんなこと終わらせてまた、また!」
「そんな儚い希望を持ったって無駄だ。審判の前では全てが無に散る」
「そんなこと絶対に起こさせない!審判は俺が絶対に止めてやる!!」

フォラスの目つきが鋭くなる。

「あんただって光君が死んでいいのか?審判が来たら光君死んじまうんだぞ!?俺はこんな事の為に今まで頑張ってきたんじゃないっ!全部、全部元に戻したいから!」
「……なら誓え」
「え?」

誓う?何を誓うって言うんだ?

「審判を必ず止めると。光を絶対に巻き込まないと」
「フォラス?」

急な展開にパイモン達も驚きを隠せない。

「こいつも最初は止めようとしてた。悪魔を返そうと」
「光君が?」
「無理だと言っても聞かなかった。そんな光を見て、いつの間にか俺も協力するようになった。だが俺は別に戦う事を生業としているわけじゃない。俺が当てにならなければ、光の力だけではすぐに限界は見えてくる」

光君も最初は止めようとしてたのか?
でも諦めちゃったんだ……

「諦めた時に、光は絶望した。部屋に引きこもり1人泣き続けた。誰に話してもきっと信じてくれない。自分1人しかこの事を知っている奴はいない。そう思ったからこそ、明日来るかもしれない世界の終りと、その事に対する絶望から光は焦り出した」

「焦り?」
「死ぬまでに人生に満足すること。やりたいことを全てやること。自分の人生に悔いを残さないこと、興味のあることに対して異常な執着を見せるようになった」
「……」
「そして何も知らない人間を見て、冷めた目で見るようにもなった」
「そっか……」

光君は怖かったんだ。
世界の終焉を知っていながら、それを止められない自分と、何も知らずに暮らしている人たちに。
だから好きなことをして、その恐怖を忘れようとしてたんだ。
フォラスの中に眠っている光君に話しかける。

「光君、約束する。絶対に審判を止める。だから全部任せてくれ」

光君の体がビクリと揺れて、目から涙が溢れ出す。

「光君……」
「感情が制御できなくなってるんだ。光、出てもいいぞ」

フォラスは軽くほほ笑んで、目をつぶった。
光君はボロボロと涙を流し、袖でそれを拭く。

「光君」
「……絶対だぞ。絶対に審判止めてくれるんやろ?」
「うん。止める」

絶対に止めてやる。
だって俺もこんなとこで死にたくない。
その為にはやらなきゃいけないんだ。

「ならいいよ。そいつ生き返らせても」
「本当か?」
「フォラスがいいって言った。お前を信用するって。俺をそいつのとこに連れて行け」

俺は頷いて、セーレ達を見た。

「うまく説得できたね」
「セーレ。早く」
「そうしよう」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也!」

ベランダにジェダイトが着陸したらヴアルが迎えに来てくれた。

「見つけたの?」
「おう」

光君がひょこっと顔を出す。

「貴方?」
「うん」

光君はセーレにジェダイトから降ろしてもらってマンションの中に入る。

「すげーなこの力」

光君はマンションの中に入って光太郎の前に立った。
光君が目をつぶり、再び目を開けた時は既に光君ではなくフォラスになっていた。

「シトリー」
「あ?フォラスか」
「どけ」

ちょっシトリー突き飛ばすなよ!

「てめぇなぁ!!」
「黙ってろ。魂は遊離していないな?」
「あぁ」
「ならいい」

フォラスは光太郎の心臓の上に手を置いて、なにやら呪文を唱える。
なんだ?手が光り出した……

『彼は今、光太郎に自らの寿命を吹き込んでいるのです。これで光太郎は助かる』

そのまま数分、フォラスは光太郎に寿命を吹き込んでいた。

「ん……」
「光太郎?」

光太郎はゆっくりと目を覚まして、辺りを見渡す。

「光太郎……」
「あれ、俺サブナックに斬られて……気ぃ失ってたのかな?」

頭を掻いて起き上がる光太郎の姿に俺と中谷の目に涙があふれた。

「馬鹿やろ―!のん気な顔しやがって!!」

中谷が思いっきり光太郎に飛びついた。

「うお!何すんだよ中谷!」
「どっか痛いとこないか!?体は動くか?」

あまりにも中谷が心配して泣き続けるのを見て、訳のわからない光太郎は少し困った顔で中谷を見つめていた。

「あーうん、これどういう状況?」
「うお~~~良かったよ~~~!」

本当に、本当に良かった……

「拓也……」
「澪、良かった。マジで良かった……うああぁぁ~~!!」

俺は周りの目も気にせずに大声で泣いた。澪も涙を指ですくっている。
これで光太郎は生き返ったんだ。また3人で遊べるんだ!
はしゃいでいる俺達を見て、フォラスは軽く笑う。

「子どもだな。だがそのくらいの無邪気さがちょうどいい」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そういえば光君の中にいるってことはお前を地獄に戻せるのか?」

あの後、少しだけ落ち着いた俺はフォラスに尋ねてみた。

「時期が来ないと肉体から遊離できないから無理だ。まぁ自分のケツくらい自分で拭くさ」
「そっか……」
「継承者」
「ん?」
「約束は守れよ」

あ、約束……

「任せとけよ」

力強く頷いた俺にフォラスは笑みを浮かべる。
自分にできるか分かんないけど、やらなきゃいけないんだ。
具体的な目標が見えた。
最後の審判を防ぐこと。

人類の滅亡なんてマンガの中だけと思ってた。でもそれが今近づいてる。
止めなきゃ俺も皆死んじゃうんだ。そんなことさせるもんか。

光君を見送った後、俺は深呼吸をして空を見上げた。
登場人物

フォラス…ソロモン72柱序列31番目の悪魔。
     29の悪霊軍団を率いる地獄の長官であり、その姿は柔和な男性である。
     フォラスは薬草の効力と宝石がもたらす様々な恩恵を召喚者に教える。
     さらにフォラスは召喚者の寿命を延ばすと伝えられているが、不明瞭な文献ばかりで明確に記述している文献は存在しない。
     しかし不老不死を求める悪魔学者がフォラスを召喚しようとしていたことは間違いない。
     契約石はアンバー(琥珀)のピアス。
 
光…大分県大分市の県立高校に通う高校1年生。拓也と同い年。
  火事で命を落としてしまい、自分の体に憑依させる代わりに自分を生き返らせる事を条件にフォラスと契約した。
  最後の審判をフォラスに教えられてからは激しい葛藤が胸の奥にあった。



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