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第85話 悪魔フォラスを探せ!
「広瀬君が?」
「うん。だから澪、一緒に探してくんないか?」

澪は迷うことなく頷いてくれた。


85 悪魔フォラスを探せ!


次の日、俺の家に来ていた澪に俺は全てを話した。
澪は顔を真っ青にさせながら顔を歪ませ、涙を流した。
やっぱりこのショッキングな出来事に澪だけじゃない。俺もいまだに動揺を隠せない。

「でも具体的にあたしは何をすればいいの?」
「俺も良く分かんない。それをストラス達が調べてくれてるから」
「そっか……じゃあマンションに行くの?」
「うん。今から」

俺が立ち上がるのを見て、澪も一緒に立ち上がる。

「あたしも行く。でも拓也……その、広瀬君の家族には」

澪は言葉を途中で濁したけど、言いたい事を俺は把握した。
光太郎の家族はこの事を知ってるのか…そう言いたいんだろう。

「光太郎のケータイからシトリーが光太郎のフリしてこまめにメール送ってる。騙すのって気分悪いけど、でも話したら全部話さなきゃいけなくなるから」
「そっか、そうだね……」

澪は自分に言い聞かせるように呟いて、先に部屋を出て行く。
俺もその後をついて家を出た。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、池上、松本さん」

マンションには部活があるはずの中谷の姿。

「中谷。部活じゃないのか?」
「こんな時にやってられるかよ!それより早く入れよ!」

中谷に急かされて、俺達は部屋にあがってリビングに向かう。

「なんだこりゃ」

リビングではパソコンと睨めっこ状態のパイモンとセーレとストラス。
3人の目はギンギンとしていて、とてもじゃないが話しかけれる状態じゃなさそうだ。
横には大量の印刷用紙をまとめているヴォラクとヴアル。
そしてソファの上で横になっている光太郎とその手を握っているシトリー。

「光太郎、怪我は完全にふさがったな。シトリーがやったのか?」
「俺は魂を留めてるだけ。怪我を治したのはセーレだ」

そっか……セーレもあんだけ魔法を連発して疲れたんじゃないかな?
なんか白魔術?ってのは体力使うってストラス言ってたもんな。
案の定、セーレは少し疲れたように時々顔を上にあげて、目を閉じている。
そういえば……

「お前さ、その力があればその……シャネルとか、エアリスの娘とか救えたんじゃないのか?」

そうだ。こうやってリンクすれば、あの子を救えたはず。
でも俺のその淡い期待はシトリーが首を横に振った事で打ち砕かれた。

「これはエネルギーの波長が合わないと無理だ。人間も臓器移植とかすんのに自分の型に似た奴じゃねぇと使えねぇだろ。それと同じだ。エネルギーの波長が似てないとこいつの体が耐えられない。契約している関係なら、契約石を通してお互いのエネルギーを共有してる。つまり光太郎は俺のエネルギーに耐性を持ってる。だからできるんだ。一言でいえば、この力は契約者にしか使えない」

シトリーの分かりやすい例えを用いた説明を聞いて項垂れた。
やっぱそう簡単にはいかないよな。だって魂をこの世にとどめとくんだから。
そんな大それたこと簡単にできるわけないよな。
1つの疑問が解決して、もう1つの疑問が頭に浮かぶ。

「なんでパソコン2台あんの?」
「あれは俺ん家から持って来たんだ。無線LANついてっしさ」

パイモンが使ってるのは光太郎の親父のノートパソコンだけど、セーレとストラスが使ってるのは何?
どうやら中谷の物のようだ。納得。

「拓也、中谷も澪も手伝ってよー!こんだけ紙があったら何が何だか分かんないしー」

ホッチキスを持ちながら、ヴォラクがブーブー言ってくる。
何かパイモン達も眉間にすっげー皺寄って話しかけづらいし、俺は言われるがままに床にすわり、資料をまとめていく。

「こんだけあんの?」
「気になる事件はしらみっつぶしに探すのよ。もう30件くらいあるのよ?まだ出てきそうよ」

マジかい。でもまぁ悩んでも仕方ないよな。
でも……

「何この事件……」

20歳の男性が干からびた死体で見つかる。子供の白骨死体。干からびた女性の死体。

「フォラスの能力の可能性があるのよ」
「どういう事?ヴアルちゃん」

ホッチキスでとめるのを止めて、澪が顔を上げる。

「フォラスの能力は相手の寿命を奪う事。寿命が奪われた相手は白骨死体みたいに干からびちゃうの」
「こわっ!」
「でもこれを全部調べるってどんだけかかるんだぁ?なんかエジプトからアメリカやらいろんな記事があんぞ」

中谷は真っ青な顔で用紙をヒラヒラ振る。マジで世界中から探してるんだ。
紙を見ていくと、事件は1か月前のものからなんと50年前のものまで。

「50年前はいらんだろ」
「まぁ資料は多いに越したことないでしょ?」

ですよねーまぁそう思うけど。

「こんなものか……セーレ、そっちは?」
「こっちもお手上げ。これ以上は探せないな」
「そうか」

あ、パイモン達調べ物終わったんだ。
パイモンは俺と澪に軽く頭を下げただけで挨拶もせずに新しい作業に入っていく。
今度は印刷した用紙を眉間にしわを寄せながら眺めていく。
出来上がった資料は何個くらいあるかな?

『ヴォラク、ヴアル、終わりましたか?』
「まぁね。でも何個あんだよ。30はあるだろ?」
『そうですね……可能性があるもの全てです。今、彼がどこにいるかもわかりません。資料は多い方がいいですからね』
「これ全部って絶対にきつい」
『中谷、心配いりません。今からパイモンが特に怪しいと思うものを選出しますからね』

パイモンは資料を読みあさって、いらないものをどんどん床に投げて行く。
澪がそれを拾って、綺麗に重ねていく。

「……」
「パイモン?」

パイモンは1つの資料に目を通したまま渋い顔をしている。

「見つかったのか!?」
「中谷、耳元で騒ぐな……だがこれが最も可能性が高いと思う」

パイモンの背後にまわり、一緒に資料を眺めていた中谷が大声を上げる。
そう言って俺の元に資料が回される。
中谷もこっちに走ってきて、澪も覗き込んで俺は中を読み上げた。

「奇跡が舞い降りた。死亡が確認されたはずの少年が目を覚ます。パイモンこれって」
「フォラスが自分の寿命を少年の中に入れたと考えたら納得がいきます」
「場所は……大分県!?」

大分県って……また随分遠いな。外国ほどじゃないけど。

「そうです。ローカルな話題だったらしく、全国版のニュースでは大きく放送はされなかったみたいですが、大分の地元メディアでは新聞のトップ記事として飾られています」

大分って九州だよな?確か福岡の隣の……まぁ日本国内ならまだマシなのか?

「パイモン、この事件の詳細は?」

この印刷用紙には詳しい事はあまり書いてない。
でもパイモンはちゃんと調べてたらしく、俺の質問にすぐ答えてくれた。

「はい。大分県の大分市で2か月前の夕方に住宅2棟を全焼させる火災が起きています。父親、母親は仕事に行っていたので被害はありませんでしたが…自室でベッドに横になっていたこの少年は逃げ遅れ、消防隊に救助されましたが一酸化炭素中毒で死亡が確認されていました。しかし次の日に、死んだと思われていた少年が目を覚ましているのを司法解剖医が発見。脳の後遺症も何も残っていないということです。少年は大分の県立高校に通っておりテニス部に在籍しています。事件が起こった日はちょうど部活もなく、少年はこの時間に家にいたようです」

そこまで分かれば話は早い。

「そっか、じゃあ早速そいつに会いに行こう!」
「そうですね。まだ住所も割れていませんが一応行ってみますか?しかし、他にも気になるところはあります。今回は手分けをしましょう」
「手分け?」
「はい。光太郎が動けない今、主と中谷のグループで行動してもらいます。主は私達と大分県に、中谷とヴォラクはインドに行って来てくれ」
「インドォ!?」

思わぬ国名を聞いた中谷が素っ頓狂な声を上げる。

「そこで、似たようなことが起きている。絶望的だと思われていた人間が急に息を吹き返し、助かったそうだ」
「うーん……わかった」
「助かる。セーレ、中谷達を連れて行ってくれ。中谷達は国外だし、今日は中谷と行動しろ。俺達を連れて行ったあとにインドに行けるな。契約石のエネルギーは集まってるか?」

目を休めていたセーレがパイモンの質問に簡潔に答える。

「2日程度の行動なら問題ないと思う」
「ならば早速準備を」

パイモンが立ち上がるのを澪が止めた。

「パイモンさん、あたしも……」
「澪、お前はシトリーをみてやってくれ。光太郎にエネルギーを送り込んでて一睡もしてないんだ。倒れたら思いっきりはつってやれ」
「はつるって……」
「全力でな。日ごろの鬱憤を晴らすように」
「お前、俺に何か恨みでもあんのかよ」

シトリーはぜぇぜぇ言いながら俺たちに振り返る。
やっぱシトリーもきついんだよな。少しやつれてるもん。もしシトリーがヴェパールみたいに消えちゃったらどうしよう。
こんな時に限ってマイナス思考になって行く。
でもそんなことにならないように今から探しに行くんだよな。

「主、準備はすぐにできますか?向かいます」

パイモンが立ち上がって、俺の目の前に来る。
俺は頷いて立ち上がった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「じゃあ俺はもう行くけど、何かあったら中谷のケータイにかけてくれ」

大分についた俺にセーレが話しかける。
俺が頷くと、セーレはまた人通りの少ない所に向かって歩いて行った。

「ここが大分……」

なんか思ってたよりは都会かも……もっと田舎かと思ってた。
畑とかないし。ちゃんと百貨店あるけどTOKIWAって何だ(別に大分を馬鹿にしてるわけじゃないぞ!)
春休みなのか学生っぽい人が多い。

「こん中から聞き込みって難しい気がする……」
『まだ来たばかりじゃないですか』

鞄からストラスも顔を覗かせて、辺りをきょろきょろしている。

「そうだけど……でも大分ってPARCOあんだなー。これなに?フォーウス?」

さっさと先を進んでいくパイモンの後ろをついて行きながら辺りを眺めていく。
この建物は何て読むんだ?なんかPARCOっぽい雰囲気なんだけどなぁ。

「フォーラスです」
「あ、そう読むんだ。あはは……」

パイモンは俺をちらっと見てそう告げると、またすぐに歩いて行ってしまった。
目の前には駅があることからも、ここが街中って感じだな。

「主、まず少年が通っている高校に行ってみてもいいですか?」
「行き方わかんの?」
「調べておきました。」

流石はパイモン。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
バスに乗って高校の前に着くと、制服を着た生徒が門の前にいた。
春休みのこの時期にスポーツバックを持ってるってことは多分部活かなんかだろうな。
そのうちの1人がテニスのラケットを持ってる。

「パイモン、あいつテニスラケット持ってる」
「聞いてみますか」

パイモンがそいつの所に歩いて行った。

「すみません」

パイモンが話しかけて、そいつらが一斉にこっちに視線をやる。
先輩に見えなさそうだし、俺と同い年だろうか。

「はい?何ですか?」
「ここの高校に火事から生還した少年がいるって聞いたんですけど」
「あー光や!また取材来たしー!」

そいつらが一斉に騒ぎ出す。光?そっか、そいつは光って言うんだ。

「お姉さん何テレビ?いつ放送すんの!?」
「お、お姉さんだと!?」

ショックでパイモン固まっちゃったよ。

「でもカメラなくね?」

サッカーボールを持ってる少年がラケットを持ってる少年に話しかける。
それを見た少年も俺たちが取材じゃないと確認して、首をかしげた。

「あ、本当や。お姉さん取材やないん?」
「違う」

少年は明らかに残念そうに肩を落とし、その光って奴の事を教えてくれた。
後ろの奴らもテレビに映ると思ったのにー等と愚痴を漏らしている。(そんなこと言われても)

「なーんだ。光ならもうテニス部におらんよ。あいつ辞めたし」
「辞めた?」
「なんか急に辞めたんよなー。人生楽しまんといけんっち言いだしてさー。好きなことするんやーっち」

なんだその理屈は……まだ高校生のくせに。

「今どこにいるかわかるか?」
「家やないん?部活ないから学校来てないし。会いたいなら連絡しちゃろうか?」
「そうしてくれると助かる」
「いいよ」

少年がケータイで光君に電話をかける。
その間に俺はパイモンに近づいた。

「主、連絡をとれるそうです」
「マジで?」
「はい」
「何だお姉さん彼氏持ちー?しかも彼氏俺らと同じくらいやん?ロリコンやねー」
「お前殺すぞ」

パイモン怖い!マジで切れる5秒前じゃん!
少年達はそれでもゲラゲラ笑ってる。まぁ高校生が何人も集まればこんなノリだよな。

「っつかスゲー!フクロウやん!初めて見た!」

サッカーボールを持った奴が肩に乗っていたストラスに目を輝かせた。

「え、こいつは俺のペットで……」
「ペット!?フクロウがペット!?ちょーすげー!!マジやべー!」

本当にテンション高いな…またゲラゲラ騒いでるし。
そんな中、少年の1人が話をつけてケータイを閉じた。

「光、今から来るっち」
「ここにか?」
「うん。光チャリ通やけん15分くらい待たんといけんかもよ」
「構わない」

パイモンが頷くと、少年たちは笑って俺らに手を振った。

「なら待ってなよ。じゃあ俺ら部活行くから」
「え!?居てくれないのか!?」

なんだその投げやりは!?
俺は引き止めたけど、そいつらはゲラゲラ笑ってグラウンドの方に行ってしまった。
残された俺たちに気まずい空気が流れる。

『とりあえずここで待ちましょうか……』

そうだよな、そうするしかないよな。
くっそぅあいつ等……逃げやがって!滅茶苦茶気まずいじゃん!俺たち始めて会うんだぜ!?
そんなことを考えてて20分くらいたったか?1人の男子がチャリに乗って来た。
少年は門の前にチャリを止めて、辺りを見回している。
もしかしてこの人?

「あのー光君?」

俺が恐る恐る話しかけると、少年はこっちに振り返った。
あ、間違いなさそうだ。

「あんた誰?(よう)(すけ)達は?」

陽介?さっきの奴らかな?

「あ、その人たちがここで待ってれば光君に会えるって」
「はぁ?なんだそりゃ……俺に会いたい奴がいるってお前らの事。何の用?」

用って言うか……なんて言えばいいんだろう。
光君はパイモンとストラスをジッと見つめている。なんだか表情が少し険しい。
そしてその後に俺の左手に視線をよこした。

「光君?」
「お前、継承者か?」

な、なんで光君がその事を!確かに指輪をした状態だけど、指輪を見ただけで光君が分かるはずないのに!
パイモンとストラスが身構えるのがわかる。

「やっべ!」

しかし俺たちの予想は大きく外れ、なぜか光君は俺たちから離れてチャリに乗って逃げようとした。
そこは流石パイモン。一瞬で光君の腕を掴んでひねり上げる事で、それを阻止した。

「待て!どういう意味だ!?」
「あでででで!いてぇっちゃ!!何すんだよ!」
「それはこっちのセリフだ。なぜ主のことを……」
「指輪しちょんけん分かっただけやんか!放せよ!」
「なぜ指輪のことを……お前たち人間が指輪を見る機会などないはずなのに」

光君はパイモンに蹴りを入れながら大声を出した。

「教えてくれたんだよ!フォラスが!」

やっぱこいつが契約してたのか!?
パイモンが腕を放すと、光君は痛そうに腕を振った。

「やはりお前、フォラスと契約しているのか?」
「契約?そんなんしちょらんし。とにかく俺は審判まで好きなことして生きるんよ。関わらんでくれ」

契約してない?じゃあなんでフォラスの事を……
でもパイモンとストラスは別のところに驚きを隠せなかったようだ。

「審判を知っているのか」

審判?審判って何なんだ?そう言えばラウム達も皆、審判って……

「な、なぁ審判って何なんだ?」
「何だぁ?お前何にも知らんのかぁ?」

俺は話に付いていくため、パイモンに質問した。
光君は俺を小馬鹿にしたように指をさして笑う。なんだよ……俺がおかしいみたいにさ。

「ストラス?」
『……』

何だよ、審判って何なんだよ。なんでストラスもパイモンも顔を伏せるんだよ。

「お前何にも知らんのに悪魔地獄にかえしちょんの?」

光君の小馬鹿にした言い方に少しカチンとくる。

「何だよ、何が言いたいんだよ。悪魔がこの世界にいるのは悪いことだろ」
「あはは。確かにそうかもやけどさーもうどうしようもないんよなー」
「……どうしようもない?」
「最後の審判の準備は確実に進んじょん。もう手遅れなんよ。なら最後の時まで自分の好きなことをいっぱいする方がいいやん」

最後の審判……その単語に聞き覚えがあった。
ヴァッサーゴやラウム、ボティスがその言葉を呟いていたから。何を意味するなんて深く考えたこともなかった。

「訳わかんねぇよ……審判が起こったらどうなんだよ」
「教えちゃろっか?」

光君はケタケタ笑いながら俺に答えを教えようとしている。

『拓也……』

何でストラスとパイモンは今まで教えてくれなかったんだ?
光君は知ってるのに。
俺は光君を真っ直ぐ見つめた。

「教えてくれ」
「主」

嫌な予感がする。でもこのまま引き下がるわけにもいかない。
でも聞くんじゃなかった、それを思い知らされた。

「最後の審判っつーのはな。人類滅亡のカウントダウンの最終章なんよ」

人類滅亡……何言ってんだ?人類滅亡とか……そんなバカな話があるかよ。

「ふざけたこと言うんじゃねーよ…」
「ふざけちょらんし。最後の審判が行われた時、人類は滅亡する。そして悪魔と天使が次の世界創世をかけて戦争を繰り広げる。それが最後の審判や」

言葉が出ない。信じられない。だって人類滅亡とかそんなこと……
だけど光君は笑ったまま。
本気で言ってんのか?そんなあり得ない話を信じろって言うのか?

「信じられんよなぁ。俺も信じられんかったもん。でも本当。ハルマゲドン……自然の大災害による人類の減少、そして召喚門の封印の崩壊で悪魔と天使が出現して全ての生物は殺される。そしてその後、七日七晩の戦争が繰り広げられるんよ。もう誰も止められない。審判は必ず下る」

そんなことが……
ただ闇雲に悪魔を地獄に返せばいいと思ってた。悪魔がこの世界にいること自体が悪い事って思ってたから。
でももっと恐ろしい事だったんだ。このままいったら最後の審判で皆死んじゃうんだ。
足がガタガタ震えるのがわかる。握りしめた手には汗がにじむ。
そんな俺を見て、光君は更に可笑しそうに笑う。

「継承者、そんな(りき)まんでいいやん。なるようにしかならんのやしさ。諦めてお前も審判まで好きに生きた方がいいで」
「……」
「んじゃぁ、そう言う訳で」

光君が手を挙げて、自転車に乗ろうとする。

「待て。まだこっちの話を聞いてないだろう」
「なんだよ!首根っこ掴むなよ!」

パイモンによって再び戻されて、光君は不満そうな声を上げる。

「フォラスはどこにいる?奴の力を借りたい」
「何で?」
「死んだ人間を生き返らせるのにあいつに寿命を吹き込んでもらう必要がある」

パイモンの言葉に光君は何かを察したようだ。

「それで俺を探しに来た訳……フォラス、どうすんの?」
「?」

光君は急に独り言のように呟いた。
その光景にパイモンだけじゃなく、ストラスも怪訝そうに顔を顰めた。
そしてすぐに光君は俺たちに笑みを浮かべた。

「ダメだって。今はあんまストックがないからってさ」
「何を根拠に言っている。それに貴様は今独り言を呟いていただけだろう」

呆れてしまったのは俺だけじゃないだろう。なんでこんな独り言で決められなきゃいけないんだ。
パイモンがギリギリ首を強く掴み、光君はギブギブ!と声を上げる。

「あでででで!首しまってる!独り言じゃねぇよ!フォラスは俺の中にいるんだ!」
「はぁ?」

なんだよそれ。自分の中にいるって……でもパイモンは何かを感づいたようだった。

「お前の肉体にフォラスの魂が宿っていると言いたいんだな」
「そうなんよ。あいつは俺で俺はあいつ。面白いやろ?契約石もいんないんだぜー」

光君は身振り手振りをして説明してる。
よくわからない。
光太郎を早く助けなきゃって想いと、最後の審判って奴のせいで頭の中がごっちゃだ。

『拓也』

ストラスが心配そうに頬にすり寄ってくるけど、俺は愛想笑いしか返せなかった。
早く悪魔を戻さないと、じゃなきゃ皆死んでしまうんだ。
途端にオロバスの言葉が思い出された。

“決して道を違えるな。お前の選択次第で地球上の全ての生物の生か死か決まる”

これってこういう事だったのかな。あいつは審判のことを俺に警告してたのかな。
目の前ではパイモンに迫られて、真っ青な顔になっている光君。

『拓也、考えても仕方ありません。今は一歩一歩前に進むしかないのです』

そうだ、そうだよな。少しずつ前に進んだらきっと、きっと大丈夫だよな。
俺は審判のことを無理やり頭の隅に追いやって、顔をあげた。

「とりあえず、無理やりにでもお前に来てもらうからな」
「嫌っち言いよんやんか!うるせぇなぁ!大体なんで俺がお前らに付いてかんといけんのよ!よだきいし!!」
「よだきい?まぁいい。とりあえず来い」

パイモンが光君の腕を引き、引きずろうとした瞬間、光君は声を上げた。

「嫌だ嫌だ嫌だ!助けてくれよフォラス!」

光君がそう叫んだ瞬間に、パイモンの手が叩き落とされた。

「パイモンお前ウザいよ。何なんだよ」
「フォラスか……」

え?どういう事?何がどうなってんの?光君は?
なんだか別人物のような空気を醸し出してんだけど……

「ストラスこれって……」
『フォラスが表に出てきたようですね。光という少年は中に隠れてしまったのでしょう』

それってシトリーみたいにもう1つの存在が表に出てきたってことか。
じゃあ今目の前にいる奴がフォラス……
光君、いやフォラスはため息をついてパイモンに声をかけた。

「今さらその人間に寿命を与えたところで何も変わりはしない。審判の時には死ぬんだ。今死んだ方が楽かもしれないぞ」
「審判は俺たちが必ず止める。その心配をする必要はない」
「いつからお前はそんなに傲慢になったんだ?お前に7つの大罪やサタネル達が倒せるのか?」

パイモンが言葉に詰まって言い返せなくなる。
そんなパイモンをさらに攻めるかのようにフォラスは言葉を続けた。

「ベルフェゴール様に殺されかけた事、忘れたわけじゃないだろう?」

ベルフェゴール?

「ストラス、ベルフェゴールって?」
『7つの大罪が1角。怠惰を司る悪魔で、堕天する前は天使9階級の第7階級「権天使プリンシパリティ」の君主でもあった巨大な悪魔です』
「そんなすごい奴がなんでパイモンと……」
『ベルフェゴール様は大変人間嫌いな悪魔です。そのことから穏健派のパイモンと言い争いになり、殺し合いに発展したのです。結果はパイモンの惨敗……しかしベルフェゴール様は悪魔には寛容です。パイモンを殺すことはしませんでしたが』

そんな……パイモンって俺らの中で一番強いよな。
そのパイモンをボコボコにしたって……

背筋が凍っていく。
そんな奴らと俺はいつか戦わないといけないのか?
自分で聞いてこんなにビビるくらいなら聞かなきゃよかった。何にも知らないままでいれば、きっと平気だったのに。

「とりあえず、俺はその光太郎とか言う奴に寿命を吹き込むつもりはない。そいつには悪いが死んでもらうしかないな。なに、人間はいつかは死ぬものだ。それが今日だった…それだけだろう?」

フォラスの言葉で意識がはっきりと向こうに向いた。
今なんて?光太郎を助けるつもりがない?

「なんでだよ!」

俺は思い切り、光君の体に掴みかかった。

「なんで駄目なんだよ!光太郎はお前ら悪魔に殺されたんだぞ!?なんにも悪いことなんかしなかった!なのに殺されたんだ!なんで助けてくれないんだよ!!」
「気が乗らない。それだけだ……それに」
「それに何だよ」
「俺も一応ソロモン72柱の端くれ。裏切り者達に協力する気はないな」
「っなんだよそれ!」

殴ってやりたい。こいつをぶっ飛ばしてやりたい。
でも精神はフォラスでも肉体は光君、ぶっ飛ばしたら痛いのは光君で……
俺は悔しくて、光君の服を掴みながら唇をかんだ。
光太郎のあの姿を思い出すと悔しくて悲しい。
自然と零れ落ちる涙に、フォラスはため息をついた。

「泣き虫」
「うるせぇ。全部お前らのせいだろ!」
「悪魔を敵にしたお前たちの責任だ。お前だって悪魔殺したことくらいはあんだろ」

その言葉でフォラスを掴んでいた手の力が少し抜けてしまった。

「その時お前は生き返らせようと思ったか?思わなかっただろ?同じだ。身近な存在でないと何も感じない。残念だった、そう思うだけだ。それが今の俺の気持ちだ。ご愁傷様ってな」
「ふざけんな、ふざけんなよ……っ」

フォラスはゆっくりと俺の腕を自分からどかす。

「審判までは思い残すことなく人生を謳歌しろよ。審判が始まれば全てが終わるんだから」
「あっ!光ー!」
「おっ!陽介!」

光君を呼ぶ声が聞こえると、光君は急に声色を変えた。
どうやらフォラスから光君に戻ったみたいだ。

「話終わったん?」
「おー遊ぼうや」
「いいよー」

光君はそのまま陽介って奴と校内に入って行ってしまった。
残された俺達は呆然とする。
涙を見られたくなくて、俺は急いで袖で涙を拭いた。

「主……」
「なんでもない。早く光君を説得しないと」
「今日はやめた方がいいです。一度戻りましょう。時間はまだあります」
「でも!」
「主」

パイモンのドスの利いた声に頷くしかなかった。
俺はしぶしぶ中谷に電話して、セーレに迎えに来てもらった。
大分県を離れる時に残ったのは後悔ばかり。

俺、光太郎を助けれなかった。

早く助けてあげなきゃいけないのに……逃げたみたいに帰ってる。
悔しい、悔しい、説得もできないし、進展もない。本当に意味がないじゃないか。
中谷に連絡してセーレに迎えに来てもらう。
でも俺たちの空気を読んで、セーレは上手くいかなかったと理解したんだろう。最低限の事しか聞いてこなかった。

俺はジェダイトに乗っている間、一言も口を開かなかった。