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第2部
第83話 青空への逃亡
「セーレ!パイモン!大変だって!」
「どうしたんだ拓也?」

俺があまりにも慌ててマンションに入って来たので、セーレとパイモンは顔を見合わせた。

「光太郎の幼馴染が悪魔と契約してて!そんで体育館がピンチで!」
『拓也落ち着いてください!』


83 青空への逃亡


「ストラス、どういうことだ?」

セーレが俺をなだめている間、パイモンがストラスに詳しく事情を話すように求めた。
やばい、過呼吸起こしそう(笑)

『光太郎の幼馴染が悪魔と契約しているようです。幼馴染の高校の体育館で悪魔と遭遇したと拓也に中谷から連絡が入りました』
「なんだと?悪魔は?」
『サブナックと……』
「……あいつらだけじゃ不利だな。あいつの力は凄まじい」
『早くいかなければ』

そんなにヤバい奴なのかサブナックって。ストラスも上位の悪魔だって言ってたし……
そんな奴相手にパイモン抜きはきつすぎる気がする。
もんもんとネガティブな考えをしている俺を余所にパイモンが立ち上がり、ドアを開ける。

「主、行きましょう」
「あ!そうだよな!」

俺の背中を叩いていたセーレが立ち上がる。

「ジェダイト使う?」
「いやセーレ、お前は体力を温存しておいた方がいい」
「どう言う事?」
「サブナックの能力は腐敗。白魔術が恐らく必要になるだろう。お前だけが頼りだ」
「わかった」

なんかよくわかんないけど、いちいち質問してる場合じゃない。
俺達は急いでマンションを出て、その高校に向かった。

―光太郎side―――――
『行くぞシメオン』

青白い馬がどこからか召喚される。
サブナックはそれに跨った。

「おいおい……この狭い中で馬に乗る気かよ」
『これだけのスペースがあれば走りまわることは可能だ』

馬は暴れたそうに鼻息を荒くしてる。
確かに体育館のスペースがあれば、少しくらいは走り回れるだろうけど、でも馬に乗られたら不利になるんじゃ……
案の定、シトリーは嫌そうな顔をしてる。

「馬か……騎馬と歩兵って無理あるくね?」
『俺は羽で飛べるから問題ないね』

ヴォラクは羽をばたつかせて、空中に浮かぶ。

「あたしも遠距離だから心配ないもの」
「俺だけかい」

シトリーは肩を鳴らす。でもその顔は不敵に笑みを浮かべていて、やられる気は毛頭ないという感じだった。

『お前たちの魂を地獄へ』
『行くぞ!』

サブナックを乗せたシメオンが勢いよくヴォラク達に向かって走り出す。
ヴォラクが飛びあがって、サブナックに剣を剥ける。
サブナックとヴォラクの剣がぶつかりあう。
2人は剣をギリギリと音を立てて押し合う。
その瞬間を狙って、シトリーがシメオンに襲い掛かった。

『ヒヒイイィン!!』

でもシメオンも簡単にはやらせない。
前足でシトリーを蹴り飛ばそうと激しく動いている。
でも馬がこんなに動いてるのに、乗っているサブナックはビクともしない。
ヴォラクと激しく攻防戦を繰り広げている。バランスを崩すなんてこともしない。
ヴォラクとサブナックが剣を向け合っているのをヴアルが狙う。

『一気に行くわよ!』

ヴアルが指差した場所、サブナックとシメオンが火花に包まれる。
その瞬間を見てヴォラクとシトリーが距離をとり、サブナックは爆発をもろに食らった。

「なんだよこれ……」

竹下さんを中谷が隅に連れて行き、状況を眺めている。
でも竹下さんはガタガタと震えているのが丸わかりで…可哀想なくらい真っ青になっていた。
そんな竹下さんを余所に、ヴォラク達は事を進めていく。

『やったか?』
「さぁな」

ヴォラクとシトリーは取っていた距離を少しずつ縮めていく。
煙が薄くなっていき、なんとか肉眼で確認できる頃にはサブナックが倒れていないことがすぐに確認できた。

「まだだな!」
『御苦労さま』

サブナックは部下の悪魔に身を包まれて怪我1つ負っていなかった。

『サブナック様ノ為ナラバ……』

悪魔はそう答え、そのまま倒れこむ。
体中が焼けただれて、皮膚ははがれていた。

「ひっ……!」

竹下さんが恐怖で後ずさる。
無理もないか。だってこんなの普通ならそう思うよな。
俺と中谷ですら直視できないんだから、始めてこんなの見た竹下さんが悲鳴を上げるのも無理はない。

『お前部下を盾にしてんの?』
『雑魚ならば代わりはいる。それに今の召喚門では下級しか召喚できない。盾に丁度いい』
『てめぇ!』

ヴォラクが怒りを抑えた声をあげたが、サブナックは軽く笑う。

『ヴアルの能力では一か所には留まれない……行くか』

シメオンはまた走りだす。
でも今度は直線的な攻撃じゃない。
ジワジワとヒットアンドアウェイを繰り返すかのように、間接的に攻撃してくる。
ヴォラクの攻撃を1回受け止めて、そして隙を突いて攻撃をして、距離をとる。
攻撃方法変えたのか、確かにスピードでは馬に勝てない。ヴォラク達は上手く翻弄されてるように見える。
ヴアルの爆発は難なくかわされて、シトリーも走っている馬には手の出しようがない。
ヴォラクはいちいち距離をとるサブナックにイライラしてるようだ。

『せこい戦い方するんじゃねーよ!』

3人も相手にしてるのにサブナックは互角に戦ってる。
そんな俺たちは気づかなかった。

信司がゆっくりと近づいてきてることに……

―拓也side―――――
「体育館ってどこなんだ?」

なんかここ結構広いぞ。
冷や汗をかきだした俺には冷たい視線。

『拓也、道に迷ったのですか?』
「……」
『……』
「心配せずとも大丈夫です」

パイモンが建物に指差す。

「あそこの建物に結界が張られています。おそらくあそこでしょう」
「結界!?」

そんな物騒なもんが体育館に…っつか学校の敷地内に!?じゃあ早く行って何とかしなきゃ!

「まぁ行ったところで中には入れませんが……」
「意味ねぇじゃねーか!」

俺の心の中の突っ込みを余所に、パイモン達が走り出したもんだから慌てて後を追った。

―光太郎side―――――
『苦しそうだなシトリー』
「くそ……うぜぇ!」

シトリーもヴォラクも体中傷だらけだ。
それもそうだ。じわじわとヒットアンドアウェイを繰り返されたらどうしようもない。
ヴォラクもフォモスとディモスがいれば状況は変わってたかもしれないけど室内だし、走ってる馬を武器も持ってないシトリーが止めれるはずもないし、ヴアルも攻撃を連発して疲れてるし。
ヴアルの攻撃は数発当たったけど、それでもシメオンはケロリとしてる。
多分、シトリーとヴォラクが近距離で戦ってる分、大規模な爆発を起こしたら2人を巻き込むから起こせないんだろう。
この状況の中じゃ、ぶっちゃけ空を飛べるヴォラクだけが頼りって感じがする。

信司はその光景を薄く笑って見てる。

信司本当に何とも思わないのか!?
一歩一歩近寄ってくる信司に俺は恐怖を抱き、息を飲んだ。

「光太郎」
「……っ」

ヴォラクやサブナック達はお互いに手一杯で、信司が俺に近づいても気付かないし咎めない。
後ろでは中谷と竹下先輩が不安そうにこっちを眺めている。
中谷はこっちに来いって言ってくれてるけど、はっきり言って足が動かない。
動かないんじゃしょうがない……俺が今ここで信司を説得してみせる!

「何で、何で相談してくれなかったんだ?」
「……」
「俺、お前のこと友達って思ってた。確かに役に立たないかもしれないけど、でも話してくれたら俺も何かしら力になれたかも……」

あ、やばい泣きそうだ。友達って思ってたのは俺だけだったんだから……
でも涙を何とか堪えて言葉を紡いていく。
信司はその光景を見て薄く笑い、首を横に振った。

「なれるわけないじゃんお前なんかに」

何で?なんでそんな悲しそうに笑うんだ?

「俺じゃなくてもいい。家族には?こんなになる前になんで……」
「うるさいな!誰に話したって結果は同じだ!誰も俺のことなんてわからない!」

信司は捲し立てるように俺にどなり散らす。

「何もわからないくせに言い人ぶりやがって!気にくわねぇんだよ!!何にも苦労しねぇで今まで生きてきたお前に俺の何がわかる!?」
「何も苦労してないとか……俺にも俺なりの苦労があった!お前と全く違う種類の悩みだったかもしれないし、お前よりもくだらない悩みだったかもしれない。でも苦労したんだ!自分だけみたいな事言うな!」

俺の反撃にも動揺せず、信司は怒りを吐き散らす。

「てめぇみてぇなのは悩みなんて言わねぇ!死ぬほど苦しい思いも、全てを壊したいほどの憎しみに駆られたこともねぇくせに!」
「それは……」
「俺はバスケが全てだった!高校受験も推薦でこの学校に来た!だから結果を出さなきゃいけないんだよ!なのにあいつ等は俺からバスケを奪った!高体連で成果を出さなきゃどうしようもないんだよ!」
「でも来年いい成績をとれば……」
「来年か……来年なんて来ねぇんだよ。二度とな!」

訳がわからない。確かに先輩たちがひどい事をしたのは事実だ。恨みたくもなるだろう。
でもそれで殺してしまうなんてあまりにも短絡的だ。

「じゃあお前は何がしたかったんだよ!?本当にただ単に殺したかっただけなのか!?」

お前はそんな奴じゃないじゃん。
いっつも朝早くから夜遅くまでバスケ頑張って、でも弱音なんか吐かないで……

「何で?殺したところで何かが変わるわけないじゃん……」

信司は固まってる。
目は大きく見開かれ、何かを話したいのか、口がパクパク動いている。

「人、殺したら捕まるんだぞ?3ヶ月なんて話じゃない。ずっとバスケできなくなるんだぞ……」
「もう遅いんだよ」

信司は乾いた笑いを浮かべる。

「遅くない。まだ間に合う!」
「もう無駄なんだよ!どちらにせよあいつ等とチームなんて組めない!バスケになんかなりゃしない!チームプレイができないチームが試合で勝てるわけがない!ここにいる限りバスケなんてものはできないんだ!ここでできるのはただの玉ころがしだ!!」

信司の言葉を聞いた竹下さんが震える足で立ち上がり、信司の前に歩み寄る。
その目には怒りが宿っていた。

「なんだよそれ、玉ころがしとか……俺らはそんなのしてたつもりはない!」
「うるせぇな!万年玉拾いが!おめぇなんか玉ころがし以前の問題なんだ!」

竹下さんは言葉を詰まらせ、目に涙を溜めながら大声で信司に言い返した。

「っあぁそうだ!俺みたいな下手糞には玉ころがし程度だったかもしれない!でも俺はお前に憧れてた!俺だけじゃない!他の1年も2年も、みんなみんな1年でレギュラーになったお前に憧れてた!純粋にすごいと思ってた!なのに部長殺したって言うし、こんな状況になって……もう訳わかんねぇよ!」

信司は捲し立てるように大声で怒鳴った竹下さんを見て、黙ってそのまま俯いてしまった。
パニックになってそのまま泣き続ける竹下さん。目の前には剣をぶつけ合うヴォラクとサブナック。
確かにもう訳が分からない……俺は信司にまた近寄って行く。

「信司……」
「バスケがしたかった。それだけだった……」

竹下さんの言葉を聞いて話してくれる気になったのか…ぽつぽつと小さい声で話しだした。

「うん……」
「あいつ等のせいで怪我した時、もう自分の人生は終わったように感じた」
「……」
「父さんも母さんも信じてくれなかった。怪我してバスケができないからって僻むなって言われた」

おばさん達が?嘘だろ……信じてくれなかったって言うのか?
信司が訴えかけても……聞き入れてくれなかったのか?
竹下さんも信司の言葉に泣いて腫れた目を丸くした。
初めて本人から聞いた真実、それは自分が想像してたよりも悲惨なものだったんだろう。

「もう何もないんだよ。バスケ以外に何もない……俺の人生はバスケだけなんだよ」
「来年、来年まで我慢すればできるじゃん。そんなスターとかになんなくていいじゃん。大学生になっても社会人になっても趣味でやればいいじゃん」
「できねぇよ」
「なんで?なんでできないんだよ」

信司は涙を流しながら笑う。

「俺、部長を殺したら脚の腱をサブナックに切られるから」
「な!?」

どういう事だ!?
この発言に俺だけじゃない。竹下さんも中谷も驚きを隠せなかった。

「何で……ってかお前松葉杖ついて歩けてたじゃんか!なんでまたそんなこと言うんだよ!」
「奴らを殺すこと、そしてその事件の犯人が俺だってばれないこと。その代りにあいつらの魂を渡すことと二度と歩けなくなるのが契約条件だった」
「そんな……」

どうしてそんな契約を……

「そうまでしてでも俺はあいつ等を殺したかった。でもなんでこんなにイライラしてたのか、それが今やっとわかったよ」
「信司?」

「俺はこのチームでインターハイに出たかったんだ」

「!」
「嫌われてたのはわかってた。でも頑張って話しかけようともした。わかってもらえなくても構わなかった。少しずつ関係は良くなるって信じてた。なのにこれだ。全てが壊されたと思った。知らない振りを通す監督も、信じてくれない両親も、俺の怪我を大声あげて喜んでた先輩たちも、俺の夢も希望も全て壊したあいつらを殺してやりたかった」
「信司……」
「ただ俺はずっと、ずっといいチームメイトに囲まれてバスケがやりたかっただけなんだ」

スターとか皆が憧れる存在になるんじゃなくて、大学生になっても社会人になっても同じ趣味持つ奴と楽しんで。
いつか自分に子供ができたらその子供とバスケして……
信司は涙を流しながら言葉をゆっくりと選んで紡いでいく。

「ごめん光太郎、俺……大事なこと忘れてた」
「……」
「高体連に出れなくなった。先輩のせいで怪我を負わされた。俺の必死の呼びかけは届かなかった。それで頭がいっぱいになってた。俺は……ただ皆でバスケしたかっただけなんだ……」
「信司……」
「お前に酷い事言った。友達じゃないなんて……」

よかった、元の信司に戻ってくれた。
俺は信司の肩を軽くたたいた。

「友達だろ?俺らこれからもずっと」
『やはり人間とは脆いものだ』

え?
俺たちの目の前にはサブナックが立っていた。
シメオンから降りてゆっくり近づいてくる。
ヴォラクが斬りつけようと近づくと、シメオンが近づかせまいとヴォラクを蹴飛ばした。

『いってぇ!』
『囲め』

俺と信司、竹下さんとサブナックを結界が包む。
それと同時に体育館に拓也達が入ってきた。

「光太郎!?」

あ、体育館に張ってた結界を俺たちに張ったんだ。
こんな時に限って頭は冷静に働くもんだから嫌になる。
パイモンが剣を抜いて結界を斬りつけると、斬りつけた箇所は少しひびが入っていた。

『この結界は緩いな。壊せる!』

パイモンの真似する様に、ヴォラクも結界に剣を向ける。
それを邪魔しようとするシメオンをシトリーが必死で食い止めていた。でもひびが入るだけで中々壊れない。
その間にもサブナックはゆっくりと俺たちに近づいてきた。

『人間とはおもしろい』
「何言って……」
『面白いだろう?わずかな一生のうち、さらにわずかな栄光を忘れられずにいる。そしてそれに縋りついて生きている』
「それは……」

サブナックは信司を見て、薄く笑う。

『過去ばかり見つめ続けて……どうせいつかは無くなってしまうのに。なぜ前を見ようとしない?』

黙ってしまった信司にサブナックが剣を向ける。

「なっ!」
『用済みだ。理性という籠に再び鍵をかけたお前は私には窮屈すぎる…中々いいデータを貰ったよ。人間はやはり意見に左右され、完全に冷酷にはなれないのだと』

サブナックはそう言って、信司に剣を振り上げる。
拓也と中谷が結界に体当たりするけど、結界は壊れない。
ヒビは確実に大きくなっていく。もうすぐ壊れる。それはわかる。でももう間に合わない!
俺は咄嗟に走り出し、そして信司を力強く抱きしめた。

物が斬れる音と共に聞こえたのは結界が壊れる音と、拓也達の悲鳴。
そして目に見えたものは自分の真っ赤な血と、目を見開いている信司の姿。

―拓也side―――――
「嘘、だろ?」

結界が壊れて、やっと中に入れたのに何だ、この状況は……
光太郎?どうしたんだよ。
体育館に真っ赤な血を大量に流して倒れているのは紛れもなく俺の親友。
あれ?こないだまで普通に会話してたんだよな。なのに何でこんな姿になってんだ?
恐る恐る光太郎に触れてみる。手についた血は生ぬるい。

「光太郎、大丈夫か?」
「おい広瀬!寝てる場合じゃないだろ!?」

俺達が揺さぶるたびに光太郎からは血が噴き出る。
パイモンに腕をひかれて、光太郎から引きはがされる。

『主、中谷、もう手遅れです』

嘘だ。そんなの嘘だ。これは光太郎じゃない!
理解できない頭とは裏腹に目から涙が零れる。
泣くな。泣くな泣くな泣くな!
泣いたら光太郎が死んだってことを認めることになってしまう!!泣くな!!

「嫌だ……」

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
こんなの嫌だ!!

「嫌だ!嫌だ!!光太郎!光太郎!!」

お願いだ起き上がってくれよ!痛いって叫んでくれよ!!なんで反応してくれないんだよ!?

「嫌だ、こんなの嘘だ。認めない。嫌だぁ……あ、うああああぁぁあああ!!!」
『主……』

その光景を呆然と見ていた光太郎の幼馴染はポケットから何かを取り出した。

『アマゾナイトのペンダント……』

あぁ、契約石ってやつか。それと同時に湧いてきたのは激しい怒り。
俺は幼馴染に罵声を浴びせた。

「お前のせいだ!全部お前のせいだ!!」
『拓也!落ち着きなさい!』

なんだよストラス!これが落ち着いていられるかよ!
その光景をサブナックはおかしそうに笑う。
幼馴染は黙ったままペンダントを見つめている。

「どけ!拓也、中谷!」

ところどころ怪我を負ったシトリーが俺たちを突き飛ばして光太郎の手を握る。

『シトリー!それは!』
「こうでもしなきゃ、本当に手遅れになる!いいからお前はあいつを倒せ!」

シトリーの怒声でパイモンとヴォラクはサブナックに向き直る。
ヴアルも再びサブナックに指をさした。

「光太郎、こうたろぉ!!」
『拓也、シトリーは光太郎と自分の体をリンクしているのです』
「何なんだよそれ……」
『リンクすることで契約石に貯まったシトリーと光太郎のエネルギーを光太郎に送り込んでいるのです。彼はエネルギーを送り込むことで光太郎の魂が肉体から離れていかないようにしているのです』

よくわからない。
でもシトリーは光太郎を助けようとしてくれてるんだ。
何も口出しすることはない。
パイモン達がサブナックと戦っている時に、幼馴染がゆっくりと立ち上がった。

「てめぇ……」

中谷は涙で顔がぐちゃぐちゃになりながらも怒りを抑えられない様に幼馴染に近寄った。
でもその幼馴染は泣いていた。

「ごめんな。お前のこと本当は友達だって思ってたんだよ。大切なもの、何もかも忘れてたよ……」
「何が友達だ!ふざけんなよ!お前が光太郎を殺したんだ!」

涙をぬぐう事もせずに俺は幼馴染を責め立てた。

「光太郎はお前のこと心配して見舞いにも行ってたんだ!なんで、なんでこんなことしたんだよ!?なんで光太郎が殺されなきゃいけなかったんだよ!!お前が死ねばよかったんだ!!」
「そうだな……俺が死ねばよかったんだな」
「ふざけんな、ふざけんなよ!今更後悔したとこでおせーんだよ!!何が、何が!」

泣き崩れる俺を横目で見て、幼馴染はペンダントを握りしめ、松葉杖でゆっくり歩きだす。

「どこ行くんだよ!」
「竹下先輩、すんませんでした」
「信司……?」

竹下と呼ばれた人に頭を下げて、幼馴染は体育館を出て行く。

「あいつ……逃げやがった!」
「追おうぜ!」
「2人とも!」
『拓也!』

走って追いかける俺たちにセーレとストラスが付いてくる。
俺達は4人で体育館を出た。
幼馴染はそのまま一番近くの建物に入って行く。

「待てコラ!!」

校舎の中に入った俺達はなぜだか姿を見失ってしまった。

「なんで!?あんなトロトロ走ってたのに!」
「拓也、これ」

横を見るとエレベーターがあった。
エレベーターはどんどん上にあがって行く。
今3階のライトが光っている。
そしてそのままライトは屋上、Rを指した。

まさか嘘だろ?

エレベーターなんて待ってる暇ない!
俺達は急いで屋上に向かって階段を走りだした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おい!」

屋上にたどり着くと、そこには柵をのぼっている幼馴染の姿。

「やめろよマジで!自殺とか馬鹿じゃねーの!?」

中谷が走って柵に近づく。
けど幼馴染は涙を流して笑ったまま。

「生きていくのが辛い。これから先が耐えられない」
「なに今さら言ってんだよっ……広瀬を殺しておいて!」

そうだ。死んで終わらせようなんて思うなよ。
生きて償えよ!一生!!

「そこは危ない。こっちに来るんだ」

セーレの呼びかけにも首を横にする。

「もう何もない。生きていけない。それにお前も俺が死ねばいいって言った。これでいい」
「……あぁそうだ!お前が死ねばよかった!光太郎の代わりにな!でも違うだろ!光太郎が命かけて守ったのに、なんで更に自分まで死のうとするんだよ!?」
「これでいいんだ。大事なものって、本当に無くしてから気づくよな……何にも考えてなかったよ」

幼馴染がそのまま屋上から飛び降りる。
それと同時に俺たちは悲鳴を上げた。

『っジェダイト!』

セーレの声でジェダイトが現れて、幼馴染を追いかけた。
間一髪、地面にたたきつけられる前にジェダイトは幼馴染を背中に乗せて、俺たちの元に戻ってきた。

『よかった』
『とっさの判断にしては冷静でしたね』

セーレが安堵して、ジェダイトの頭を撫でる。
本当に咄嗟でよくやってくれたよな。こいつ……
幼馴染は状況が飲み込めないのか、呆然としている。

「死んで終わらせようなんて思うなよ」

俺が言った言葉に幼馴染の目が見開かれる。

「光太郎をあんな目に遭わせて……人を殺して、死んで全て終わらせようとするなよ!」
「あ……」
「光太郎が命かけてまで守ったのに簡単に捨てんな!!」

言ってることが矛盾してる。死ねばいいって言ったのは確かに俺だ。
でも本当に死のうとされたら止めてしまう。
でもそうだろ?そんなもんだろ?だって光太郎が身を呈して守ったんだぞ?
なのにそれを無駄にするようなことしようとするんだ。そんなの止めるに決まってる。
涙がまた溢れる。
目の前の幼馴染は目を背け、顔を俯かせる。
セーレがその肩を優しく叩いた。

『君にも色々事情があったんだろう?でも人を殺しちゃいけない。今回はもう君が殺した人たちは死体もなくなってるからどうしようもないけど、でもきちんと償うべきだ』
「ひぐっ……う、うぅ~……」

幼馴染が膝をついて涙を流す。
セーレが背中を撫でながら俺たちに向きなおった。

『ここは俺に任せてくれて構わない。サブナックを止めてくれ』
「うん」

セーレも怒りが抑えられない声だった。
それは俺も中谷も同じだ。

ぶっ殺してやる!

できもしないけど言葉にするとこんな気持だ。
それほどまでに俺達はやるせないし、怒ってる。

俺達はセーレ達を屋上に残して、体育館に向かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『やはりパイモン、お前は格が違うな』

体育館に戻ると、サブナックとパイモンが剣を合わせていた。
パイモンをサポートするかのようにヴォラク、ヴアルが戦っている。
すげぇ。パイモンとヴォラクとヴアル…3人に囲まれてるのに対等に渡り合ってるよあいつ。
改めてサブナックがどれだけ強い悪魔かという事を思い知らされる。
光太郎の傍に近寄ると、竹下と言われた人が怯えた目で俺たちを見てきた。
この人は巻き込まれちゃったのか……ならまぁ、そりゃそうだわな。怖いよな。
俺達は光太郎に近づいた。
ストラスが俺の肩から降りて、光太郎の前に立つ。

『シトリー、光太郎は……』
「状況はかわんねぇ。これは蘇生術じゃねぇんだ」

なんだかよくわからない。
生き返らせれないのに、なんでそんなことしてるんだ。
それより生き返らせる魔法を使ってくれよ!

早くあいつを倒さないと、光太郎の仇討たないと。

俺は浄化の剣を手に持って、サブナックを睨みつける。
ボロボロにされても構わない。半殺しにされても構わない。何とかしてあいつを倒したい。

『継承者。彼がそうだったのか』
『余所見をするとは余裕だな!』
『余裕などないさ。現に追い詰められている』
『その割には焦りは見えないが?』
『戦いを生業とする者が冷静な判断を怠ってどうする。焦るなど言語道断だ』
『ふん』

俺、あん中に入れんのかな。しかしシトリーの痛烈な一言で、俺はその場に立ち止まった。

「おい拓也、足手まといだ。ここにいろ」
「でも……」
「守る対象がいるってのはハッキリ言って迷惑だぜ。それだけで気が散るからな」

ハッキリ言いすぎ……へこんじゃうよ。

「光太郎の仇を取りたいんだ」
「できねぇこと口にしてもしょうがねぇだろ。お前が二の舞になるぞ」
『シトリーそのような言い方は……』
「できないことをできるって勘違いするのは死を早めることと同じだ。このくらい言わなきゃわかんねぇだろ」

確かにそうかも知んない。でもあいつのせいで光太郎は……
竹下さんが遠慮気味に話しかけてくる。

「あの、信司は?」
「屋上。行ってやった方がいいと思います」


竹下さんは震える脚で立ちあがり、ゆっくりと体育館を出て行く。

「あいつ逃げるかもよ。そんで警察に」
「大丈夫だよ。多分」

頼むパイモン、あいつを倒してくれ!


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