「あんな奴らなんて俺がいなきゃ何もできないくせに……」
1人の少年がポツリと呟く。
何がチームプレイだ。バラバラにしか動けないくせに。
俺の人生はもう滅茶苦茶だ……
80 悲劇のエース
『主、だいぶ様になりましたね』
パイモンが剣を構えなおして笑みを浮かべる。
春休みにはいって3日目。
俺は剣の稽古をしにマンションに行っていた。
「マジで?結構できるようになった?」
『そうですね。踏み込みもだいぶ上手くできるようになりましたね』
「うん。結構慣れてきた」
『それはいい事ですよ。さ、打ち込んでみてください』
俺はまたパイモンに向かって走り出す。
俺の攻撃をパイモンが軽く防いでいる。まぁいわゆるボクシングのスパーリングって感じ?
パイモンは一切攻撃しない。
そんな中で、俺は自分で動きや攻撃方法を考えて如何にパイモンの裏を取るかの状況判断をするんだとか。
でもこんな状況で、やっぱ頭が回らない。
そうしたらやっぱ攻撃が同じになるわけで……
『主!攻撃方法が一定のローテーションになってます!もっと状況に合わせて組み合わせてください!』
パイモンに怒られて、必死で頭で考える。
でも体をこんだけ動かしてたら、そんなの考えられん!
結局パイモンの背後をとることはできなかった。
『まぁまだ始めたばかりです。こればかりは慣れるしかありません』
「でも……」
『戦いに余裕を持たなければ、頭で冷静に判断などできません。一刻も早く戦いになれることが大切ですね』
そうは言うけどさぁ。
稽古でさえこんなにテンパってんのに…実践とか大丈夫なんかなぁ俺。
悩んでも仕方ない。
とりあえず今日はこれでお終いってとこでいいか……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『おや、拓也お帰りなさい』
「うん」
夕方、家に帰り着いた俺は自分の部屋に向かった。
部屋には相変わらずポテトをつっついているストラス。
『大分まともになりましたか?』
「全然。まだまだって感じ」
苦笑いをして、俺はベッドに腰かけた。
『そう言えば光太郎達は一緒ではなかったのですか?』
「ん?中谷は部活だけど光太郎は……色々あったみたい」
『色々とな?』
「うん。俺もこないだ聞いたんだけど、なんか光太郎の幼馴染がいんだけどさ。そいつバスケ部らしくて結構つえーとこにいんだって。んで、そいつがなんか練習中に事故って、バスケができなくなったんだって」
ストラスも興味深いのか、ポテトをつつくのを止めて話を聞く体制になっている。
『ほう?』
「まぁ、一生ってわけじゃないらしいんだけどさ。全治3カ月だってさ。でも高体連には絶対に間に合わないだろうって」
『そうですか。まぁ仕方がありませんよね。無理をするわけにもいきませんし』
「だよな」
俺はベッドに横になる。
「大切なものを我慢しなきゃいけないって、どんな気持ちなんだろう……」
『そうですね……』
「俺無理だ。ゲームも漫画もカラオケもゲーセンも取り上げられたら死ぬー」
『無くても生きていける物ばかりですね…昔はそんなものありませんでしたよ』
「ごめんねー。俺現代っ子だからさぁ~」
『だから根性がないのですよ』
「なんだとコラ!?」
『ムギュ!止めなさい!』
俺はストラスをムギュムギュと鷲掴む。
ストラスーそんなこといっちゃあいけないよねー。
ストラスの悲鳴が俺の部屋に響き渡った。
―光太郎side―――――
「信司ー大丈夫か?」
中央総合病院、そこの入院患者の部屋に幼馴染が入院している。
俺は適当にフルーツかなんかを持って、病室に入る。
そこには1人の少年の姿。
俺の幼馴染の杉村信司。
小さい頃から家が近くてよく一緒に遊んでいた。
高校に入ってからはあんま会わなくなったっけ…?でも頻繁に連絡は取り合ってた。
「ちす」
信司はやっぱ元気がない。
俺はフルーツを棚に置いて、ベッドの傍に腰掛ける。
「足、大丈夫なのか?」
「へーき。こんなん金属入れれば退院できるし」
だけど信司は浮かない顔。それもそうだろう。
「しばらくはまともに歩けないけど」
バスケが大好きな信司。
小学校の時からクラブのバスケに入っていた。
実力もかなりある。
なんたってバスケ強豪校である京大高校で1年でレギュラー取るくらいなんだから。
きっとバスケができなくて辛いんだ。
「信司、大丈夫だよ」
「ん?」
「だってお前のとこ結構強いだろ?ベスト8まで行ってたじゃん。インターハイに行ければ、お前だってその時までには足治るかもしんないし」
「はは」
俺が必死になってフォローしてんのに信司は笑ってる。
「なんだよ笑うとこかよ」
「わりぃ。でも俺、もうバスケやんないから」
「は?嘘、だよな?」
「本当」
なんで?なんでそんなに平気そうなんだ?あんだけ好きって言ってたじゃんか。
バスケ嫌いになっちゃったのか?
「何でやめんだよ……お前あんなに上手かったじゃんか」
「お前には分かんないよ」
そんな言い方あるかよ!少しくらいは話をしてくれたって……もしかしたら力になれるかもしれないのに!
あまりにもばっさり切り捨てるような言い方に俺もつい声を荒げてしまった。
「わかんないって何なんだよ!?」
「何でもいいだろ?もう2年だし、勉強始めよっかなって」
「嘘だ」
「嘘じゃない。もう退部届も出すつもりだ」
緊迫した空気を壊すかのように、勢いよく扉が開いた。
「信司」
「竹下先輩」
先輩?学校の?
その先輩は走ってきたのか、まだ肌寒い季節の中、汗だくの状態で信司の前に歩み寄った。
「お前バスケやめるってマジかよ……」
「うす……」
「何でだよ……お前あんなに練習してたじゃんか。怪我が治れば大丈夫だよ。お前、まだ1年だろ?先があんだからさ」
「先なんかないですよ」
信司の声は驚くほど冷たかった。
「信司?」
「あんなチームに先なんかない。先輩には分かんないですよ」
「何でだよ……お前はうちのエースなんだぞ?」
「エース、ねぇ……先輩は表面しか見てないっすからね」
「なんだよそれ……」
「所詮、万年玉拾いには俺の気持ちなんて分かんないって言ったんすよ」
俺は思わず立ち上がった。
その先輩は呆然としている。
俺はその先輩を庇うように前に出た。
「信司!何でそんなこと言うんだよ!?失礼にもほどがあるぞ!」
「んだよ光太郎、外野が口挟むなよ」
「そんな問題じゃねぇだろ!」
「じゃあどんな問題なんだ?言ってみろよ。失礼なことでも言ったか?でも実力主義の部活内じゃよくある光景だよ。先輩みたいな才能ない奴は何やっても無駄なんだよ」
「お前!」
やっぱり信司は何かがおかしい。こんな事言う奴じゃないのに!
なんで?なんで!?何があったんだよ信司!
しかしその緊張状態を破ったのは他の誰でもない、信司の先輩だった。
「そっか。そう言われちゃしょうがないよな……じゃぁ気が向いた時でいいんだ。また体育館に来てくれよ」
先輩はそう言って軽く笑い、病室を出て行った。
残された俺は信司を睨みつけた。軽蔑の意味を込めて。
「っお前最低だな!」
「……ならそんな奴のとこに見舞いに来なくていいよ」
「言われなくてももう来ねーよ!!」
俺は勢いよく病室を出て行った。
あんな最低な奴だったなんて思いもしなかった!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
病院を出ると、そこにはさっきの先輩がいた。
「あ、あんた信司の……」
「すみません。あいつ……あんなこと言って」
先輩が俺に気付いて話しかけてきたので、俺は先輩に返事を返した。
何でか俺が頭を下げる。でも先輩は優しく笑った。
「いいんだ。あいつがそう言うのは当り前で」
「でも……だからってあんな言い方!」
「信司の足を折ったのは、うちの部活のレギュラーの先輩なんだ」
「え?」
どういう事?信司が足を折られたってこと?
その先輩も自嘲気味に笑う。
「どういう、事なんですか?」
「ごめんな。それは言えないんだ」
「言えないって……ふざけんな!信司の全てを奪っておいて!警察にばれたくないからだろ!?」
先輩は悲しそうに笑う。
「そうだな、そうなるかもな。でも証拠がないんだよ」
「なんだよ証拠って……」
「練習中の事故だったんだ」
「事故?」
「だから、な」
「詳しく話せよ!」
悔しくて涙が溢れそうだ。
あんなにバスケが好きだった信司をこんな目に遭わすなんて!
信司が辞めたくなるはずだ!
俺はなんてこと言ったんだ!
「先輩のせいって言っても結局は事故なんだ。場所、変えるか」
竹下さんは軽く笑って、病院から歩きだした。
俺はその後を付いていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
近くの公園にたどり着き、先輩はベンチに腰かけた。
俺もその横に腰掛ける。
「信司はすごい選手なんだ。俺みたいな下手糞から見ても」
「……」
「だから実力主義のバスケ部で、唯一1年でレギュラーになれた。羨ましかったよ。俺なんか厳しい練習積んでも、万年玉拾いなんてレッテル貼られてさ」
先輩はまるで自分が今まで憧れていた人の事のように話し出す。
その光景を見て、この先輩はいい人なんだろうなと勝手に決め付けた。
しかし先輩の顔は曇った。
その表情で、この先の話がなんとなく見えてきたように感じた。
「でも信司が入ったことによって1人の先輩がレギュラーから外された。その先輩はうちの部活のキャプテンで、監督に抗議したんだけど実力第一だからって」
確かに実力主義の部活内ではよくある光景かもしれない。
中学の時、俺は剣道をやってたけど、やっぱ1年でレギュラーになった奴によって去年レギュラーだった先輩が外れた光景を見たことがあったから。
でも問題はそこから先だ。
「それからだな。先輩の嫌がらせが始まったのは……信司には2倍のメニューをやらせたり、無理に走りこみや筋トレさせたり」
「それで足を折ったってことかよ!?なんで止めなかったんですか!?」
「レギュラーは練習メニューも練習場所も俺たちと違うんだ。何にも分からなかった。噂を聞いて信司に確めても違うって言ってたし……足を折って初めて確信したよ。これ自体、俺の勝手な思い込みなだけなんだ」
「そんな……」
「でもうちの学校はあんたも知ってる通り強豪校で名が通ってる。出場停止にはなりたくない。だから監督も極力その事に触れなかったし、俺たちも探るのは禁止みたいな暗黙のルールがあった」
そんな事があるもんなんだろうか。そんな隠ぺいみたいな……
でも信司はそれに巻き込まれて、あんな事に……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「信司」
1人の青年が病室に入っていく。
「何?」
「もうすぐだな」
「あぁ」
明後日、退院できることになっている。
金属を入れて、ギプスをつけて、歩く練習をして、そしたらやっと……
「……何もかもが憎いよ」
あぁどうして俺がこんな目に?神様はなんて不公平なんだ。
「神様はいないんだな」
「神は存在する……けど何も見てないんだよ。人間の善も悪も」
そいつが言うと何か納得せざるを得ない気がする。
そっか。何も見られてないんだ。
「何も見られてないんなら、何しても構わないよな?」
「好きにすればいい。それが契約内容だった」
「全部の処理はやってくれるんだよな?」
「あぁ。お前に疑いがかからないようにしてやる。その代り、わかってるな?」
「わかってるさ。殺した奴の魂は全てお前が地獄に持っていく、だろ?」
「わかってるならいい。もう1つの条件も忘れるなよ」
あんな奴ら…どうにでもなってしまえばいい。
奴らの魂なんか知ったこっちゃねぇ。
「理性は人間を縛りつける。なぜ人間はそれを拒まないのか」
「あ?」
急に何か難しいことを呟くもんだから、間抜けな返事しか返せなかった。
「理性は人間にとって生与なものなのか」
「お前の言ってることは難しい」
「哲学は嫌いか?」
「やったことないし、嫌いだね」
「そうか。なぜ人間と言う物は固定観念にとらわれ、そこから抜け出せないのだろう」
またなんか訳分からん事を言い出した。
「何事もやってみて決めるものなのに、意見に左右される…それは人間の自由を侵害しているのではないのか」
もういいや。言わせておこう。
「だがお前は面白い」
「え?」
青年はあやしく笑う。
「理性という概念を捨てて、感情の赴くままに行動しようとしている。人間の最も傲慢な部分であり、また最も高貴な部分でもある。そして、それを行ってしまうお前もまた、興味深いデータになるだろう」
「そりゃよかったな」
「あぁ。いい結果が得れそうだ。人間とは何か?その理論の1ピースを埋めれそうだ」
勝手にすればいい。
なんだかよくわかんねぇけど、もうどうだっていいんだ。
「誰も俺の味方なんかいない」
こんな世界消えてしまえ。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。