第8話 悪魔との遭遇
「池上ー!そこのペンとってー」
「おー」
って、なにのん気に俺は垂れ幕作ってんの―――――――!!?
8 悪魔との遭遇
俺は油性ペンを握り締めながら光太郎に伺った。
「光太郎……俺、こんなことしてていいんだろうか?」
「まぁ情報ないんじゃしょうがないんじゃね?それより今日上尾は学級閉鎖になったらしいな。同じ学年の生徒を2日間で8人もやられたんじゃ流石に洒落になんないよな……お、中谷――!今のホームランちょーすげー!!いかしてるー!」
光太郎はあんま深く考えてないのか中谷が打った打球の観戦をクラスの奴らとしだした。
しかし俺はいつまた事件が起こるかわからないのに…あんまり乗り気になれなかった。
「池上、悪いけど端っこ持ってくれ」
「あ?おう。できたのか?」
「まぁな♪おーい皆できたぞー!」
バサァッ!!
「おーすげー!俺ら天才じゃね!?めちゃくちゃ上手いじゃん!」
「ホント!すごーい!」
垂れ幕には「がんばれ!桜ヶ丘!」と書かれていた。
「マジで終業式までに終わってよかったよなー。夏休みまで垂れ幕作りはマジ勘弁」
「ほんとほんとー。あー明日から夏休みだぁ!楽しみー!」
垂れ幕が仕上がって余裕ができたのか、皆それぞれ明日の終業式の話で盛り上がりだした。
「俺通知表やばいかもなぁ。どうしよー……」
「なんだよ池上。お前そんなこと言って中間もそんなに悪くなかったもんなー!ぜってー余裕だろ!」
通知表のことも勿論酷だけど、俺はそれ以上にこれから来る夏休みが楽しみで仕方なかった。
夏休みかぁ……何しよう。あ〜また澪、家に来てくんないかなぁ?そしたらまた母さんとか出掛けたらさ、マジでチョーいい感じじゃね!?
最近妄想壁が出てきてやばいな。それよりも悪魔だよな!うん!
俺はカバンに荷物を詰めて家に帰ろうとした。
「池上、もう帰んのか?最近お前帰るの早いぜ。もっとゆっくりしてってもいいだろー」
「え?でも俺……」
「堅いこと言うなってー!久しぶりに今日は遊ぼうぜ!な?」
ま、待てよ―――――!マジで今はそんな余裕ないんだってば!!
「そうと決まればカラオケいこーぜ!今日は皆で遊ぼうぜー!」
「俺の意思は無視か!?」
「まぁ拓也、最近忙しかったし、ちょっとくらいは……な?」
光太郎、俺だって遊びたいのは山々なんだよ。でも、でも……これは、これは……
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「あー楽しかったなぁ」
俺は結局クラスの奴らとカラオケに向かった。(最後には俺もかなりテンション高かった)
解散したのは夜の8時。俺は1人でトボトボと帰り道を歩いていた。
「ん?あれ……中谷。おーい!」
俺は野球のユニフォームを着て家に帰っているのであろう中谷を見つけて声をかけた。
「あ、池上。こんな時間に何してんの?」
「あぁ、垂れ幕完成祭り?(笑)お前こそ今終わったのかよ」
「おう。もうヘトヘトだよ」
中谷はそういいながらもへラっと楽しそうに笑った。(本当に野球が好きなんだな)
俺はそのまま中谷と途中まで一緒に帰ることにした。
野球部のこと、甲子園のこと、クラスのこと、くだらないことをダベリながら俺と中谷は暗い道を歩いていた。
「だ、誰か助け……!あぁあああ!!」
「なんだ!?」
急に聞こえた悲鳴のような大声に俺と中谷は顔をこわばらせた。
俺と中谷は声のした方に走って向かった。
「たしかここら辺だったよな……」
「池上!」
急に中谷は俺の腕を引いた。
「な、中谷?なんだよ?」
「シーッ!」
中谷は口元に手を当て、そして曲がり角の奥を指差した。
そこには血まみれの人間と、その人間の肉を食べているカラスがいた。
手に篭手をもち、ズボンを履き直立した大きなカラスの姿。
「マルファスだ……」
「な……あれが?」
やばい。ストラスもヴォラクもいないこの状態で、こんな悪魔と戦えない。足がガクガクと震える。のどが震えて声が出ない。
鼻がどうにかなりそうな死臭と血まみれの人間、その肉を食べるカラス、今まで生きてきてこんな……こんな光景なんて当たり前だが見たことがない。
死んでる、本当に死んでるんだ!
マルファスは満足したのか、その場から飛び去った。
人間の目の前に赤い羽根を残して。
「ひっ死体……何だよこれ……」
中谷も口元を押さえて震えだす。やばい、逃げたい、逃げたくてたまらない。
でも見逃すわけにはいかなくて、俺は中谷とその場を後にしてマルファスの後を追った。
現実味のないことが途端に現実味を帯びてくる。俺も下手したらあんな風になっちゃうのか?あんな血と肉の塊に……そう思うと吐き気がした。
俺は中谷とマルファスの後を必死で追いかけた。
中谷は流石現役野球部だ。走るのも速いし息もまだ乱してない。
俺は既にヘロヘロで、正直これ以上はもう無理と思っていた。
もう無理だ。そう中谷に言おうとした途端、中谷が急に足を止めた。
「はぁはぁ……中谷?」
「あれ、あのカラスあの家に入ったぞ」
中谷が指差した場所はごく普通の一軒家だった。
ていうかここどこだ?俺はとりあえず回りのものから場所を整理した。
あ、ここ隣町じゃん。ていうか俺どこまで走ってきたの―――!?
とりあえず俺はこの場所を忘れないようにケータイに場所の特徴と家の特徴を打ち込んだ。
中谷はその家の前にゆっくりと近づいた。(パッと見、俺ら変質者だよな)
「池上、この家……」
「え?森岡幸雄……まさか森岡啓太の家?」
やっぱりあのカラスは森岡と契約してたんだ。
俺と中谷は急いでその場から離れた。
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「どうする?明日とりあえず呼び出してみるか?」
「あぁ。ストラスとヴォラクも連れてく。中谷、ここら辺でいい場所知らないか?できれば人の少ないとこがいいんだけど」
「この近所に誰かの土地なんだろうけどデカイ草むらがあるんだ。そこは人通りもけっこう少ないからこの周りでは1番適してると思うけど…問題はどうやってあいつを呼び出すかだろ」
「張り込んで出てきたときに無理やりにでも連れてきゃいい」
「ガチンコだな。とりあえず明日は終業式だから多分学校あると思うから田中にメールで予定を確認してみる」
「何から何までホントごめん!中谷」
「気にすんなよ。これは協力するしかないだろ」
中谷は相変わらず人のいい笑みを浮かべた。
「それよりもさっきのどうなったんだろうな……もう発見されたかな」
「俺、死体なんて始めて見たよ」
「そんなん俺もだし……」
「俺も下手したら……あんなになんのかな」
「池上……」
俺は怖くなって指輪を握り締めた。
「死にたくねぇ……」
中谷は何も言わない。それが今の俺にはなによりもありがたかった。
下手な慰めなんか今もらっても何も嬉しくない。
「とりあえず帰ろ。池上」
「おう」
俺はイソイソと中谷の後をついて自宅に帰った。
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家に帰ると母さんが心配して玄関の前に立っていた。(そういえば連絡してなかった)
「お帰り拓也。遅かったじゃない」
「ごめん。甲子園の垂れ幕作ってて…」
まぁ嘘ではないし(笑)
「まぁ無事でなによりよ。今、上尾の高校生が狙われてるって話じゃない?また1人被害にあったってニュースで持ちきりよ。本当に早く捕まってほしいわね」
明日その犯人と俺、会うんですけど。
黙ったままの俺の肩を母さんが叩く。
「とりあえず、お腹すいたでしょ?夕飯あるから食べなさい」
母さん……ほろり。俺、明日死ぬかもしんないんだよ。この事件みたいに切り裂かれるかも知んないんだよ。
今日は直哉と遊んでやろう。そうしよう。
俺は1人で不吉なことを思いながら母さんの後を追って家に入った。
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「また死んだ……俺が消えればいいって思った奴が皆……」
『クウゥ……』
「エマ、俺どうすればいい?今度は俺の番なのか?」
イイエ。主ノ番ハマダ先、全テヲ失ッタソノ後。
「怖い怖い怖い!」
ソウシテ恐怖ニ怯エルトイイ。
追イ詰メラレテ追イ詰メラレテ、ソノママ壊レテシマエバイイ。
「こんな、こんなはずじゃ……」
なんでこんなことに……?