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第2部
第77話 ピアニストを探しに…
「やったぁ!期末、しゅうりょー!!」

最後のテストの回答を集められた俺は思いっきり万歳ポーズをとった。
これで後は春休みを待つだけ!!
よかったぁ。直哉の件があったから勉強が全くできなかったけど、光太郎に教えてもらったおかげで、なんとか難を乗り切った。


77 ピアニストを探しに…


「あーやっと最後の難を乗り越えたな」
「これでやっと春休みだなぁ」

テストが午前中に終わった俺は光太郎と中谷と学校帰りに3人でスタバに寄っていた。
俺の安堵の言葉に光太郎も嬉しそうに頷く。
でも中谷は少し渋い顔。

「でも俺んとこ部活の顧問谷口じゃん。今年で転勤らしくてさぁ、マジで今年から誰が顧問になんだろ」

あ、なんかその話聞いたことあるな。
そっかぁ谷口いなくなんだ。何か少しだけ切ないなぁ……あんま交流がなかったからピンとこないけど。

「他に野球経験者って誰だっけ?」
「体育の石本が確か高校の時野球部って話は聞いた」

でもあんま当てにならなさそう。
中谷は気になるようだが、俺はそれ以上に自分が気になる話題を2人に振った。

「そういやさ、お前ら二人とも理系のクラスに行くんだよな?」

こないだの来年のクラス分けのプリントで中谷と光太郎は理系を希望してた。

「うん。兄ちゃんが行けってうるさくてさぁ」
「俺も親父が行けって」

中谷はわかる。でも光太郎はなんで?

「俺不思議だったんだけどさぁ。光太郎って経済行くんだろ?文系じゃね?」
「……なんでそれが決定事項になってんだよ。親父が理系に行っときゃ最悪文系に行きたくなったら変更できるからって。それに経済学部行っても数Ⅲ使うからーってさ。まぁ確かにそうだけどさ、でも勝手に決めんなよって話じゃね?」
「ふーん」
「池上は何で?」
「え?俺?なんとなく。お前らも行くし、上野達も理系行くみたいだし?」
「そんな理由かよ。まぁでも何人かはそう言う理由の奴いるよな」

光太郎は苦笑いしてカプチーノを飲む。
あーぁ、来年もクラス一緒になるといいなぁ。でも……

「俺達ももうすぐ2年か」

俺の言葉に中谷達は頷く。

「そうだよなぁ。何か終わってみればあっという間だよなぁ」
「ってかドタバタし過ぎてたくね?」
「確かに」

この半年は色々ありすぎた。
悪魔やらなんやら、いつの間にかもう3月になっている。
寒さも少しだけ収まってきている。
あーマジで本当にもうすぐ春だぁ。春休みだけが楽しみだぁ。

「さて、俺マンションにいこっかな」

カプチーノを飲み終えた光太郎が席を立ちあがる。

「何で?」
「剣の稽古をしようと思って」

光太郎は真面目だなぁ。まぁだからあんなに強いんだろうけど。

「じゃあ俺もいこ」

中谷も鞄を肩に掛ける。
2人が行くのに俺だけ行かないって言うのもアレだ。
結局俺も付いて行くことにした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ストラスー何でいるんだよー」
『ぷぎゅっ!やめなさい!』

マンションにはなぜかストラスの姿。
俺はストラスを抱きかかえ、羽毛を荒らした。

「主、やめてあげてください」

パイモンの静止で俺はストラスを手放した。
ストラスは一目散に俺から逃げて、パイモンの肩にとまる。

「パイモン、なに調べてるんだ?」
「乗るな中谷……少しだけ気になることが」
「気になること?」

俺とも光太郎も画面を覗き込む。
そこには1人の女性の姿。
20後半くらいかな?トロフィーを持って嬉しそうに笑っている。

「これがなんかあったのか?」
「彗星のごとく現れた女性が由緒あるピアノコンクールで優勝」
「うん?」
「イタリアのテルニ市で開かれたカサグランデ国際ピアノコンクールでオーストリア出身の女性が初出場で初優勝しました」
「えーっと……だから?」

意味が分からない。
それっていい事なんじゃないのか?

「この女性は目が見えない……盲目のピアニストです。彼女は今までも大会には出ていたのですが、まぁ目が見えないハンデもあります。結果は予選落ち。しかし今回は見事に優勝しています。開催国であるイタリアと出身国であるオーストリアもこの偉業を大々的に讃えています」
「そんなのその人の努力の賜物じゃんか」
「彼女のコメントを見てください」

え、なになに?

“今回の優勝を何よりも大切な彼に渡したい。彼の力によって私は優勝することができたのだから。全部彼が現れてくれたおかげ”

これが何だってんだよ。

「これでなんかわかんの?」
「突然舞い込んだ奇跡、音楽の才能の開花、このような能力を持つ悪魔は1匹しかいません」
「わかるのか?」
「えぇ。恐らく悪魔アムドゥキアス、音楽を何よりも愛す地獄の音楽家です」

アムドゥ、キアス……

「それが今回の悪魔なのか?危険なのか?ってか本当に悪魔なの?文章見る限り、恋人にあてたコメントって感じもするぞ」

中谷が不安そうにパイモンに問いかける。
そこは大事だ。もうボティスとかラウムみたいな悪魔はうんざりだ。
しかしパイモンは首を振った。

「言っただろう?地獄の音楽家だと……音楽の才能を高める力があるだけで他に秀でた能力はない。まぁ悪魔ではないのならばそれでいいじゃないか」

それを聞いて安心した。でも何でその人は悪魔と契約したんだろう。
悪魔の力を手に入れてまで勝ちたかったのかなぁ。
パソコンの中の女の人は嬉しそうに微笑んでいて、とても悪魔と契約しているようには思えなかった。

『拓也、行ってみましょうか』
「え?今から?」

まぁいいけどさぁ。
パイモンもプリンターで何かを印刷する。

「幸い、彼女は有名になったので住所は割れています。本人が実家にいると言う事も確認されている。セーレ行けるか?」

話を振られてヴォラクのゲームに付き合っていたセーレが振り返る。

「構わないけど」
「よし、じゃあ澪がいないからヴアル、お前は留守番だ」
「えぇ?またなの?」
「シトリー、ヴォラク、お前達もだ」
「また俺かよぉ。今日はせっかく中谷もいるのにさ」

愚痴るヴォラクにパイモンが近づいて、膝を突く。

「昨日の怪我はかなりひどいものだった。まだ傷も治っていない。今動いたら余計に中谷のエネルギーを使う事になるぞ。傷が治るまで絶対に安静だ」

それを聞いたヴォラクは黙り込んでしまう。

「シトリー、お前も分かったな?」
「元から付いてくつもりねぇよ。まだ骨はつながってねぇ上に背中の傷も痛むんだよ」
「え?大丈夫なのか?」

事情を知らない光太郎が心配そうにシトリーに近寄る。

「わりぃ。お前の寿命、少し削っちまったかも」
「そっか。ぜんぜん実感わかないけどな」

そう言いながらも光太郎は俯く。
やっぱ心境は複雑なはずだ。自分の知らない所で怪我をされて自分の寿命を縮められたんだから。
その様子を見てヴォラクも気まずそうにしている。

「中谷、俺ね」
「お前も来いよ」
「え?」

ヴォラクは意外そうに顔を上げる。

「動けるんだろ?なら来いよ。俺のことは気にしなくていいから」
「……!うん!!」
「シトリーは?」
「俺は無理だって。骨折れてんだからさ」

シトリーは手をひらひら振って、早く行けと促す。

「では行きましょうか」
「よっしゃ!オーストラリアー♪」
「中谷オーストラリアじゃないから。オーストリアだから」

光太郎が適切な突っ込みを入れる。
どうやら2人とも今回は来れるみたいだ。
なんか3人揃うのも久しぶりだなぁ。中谷は部活でいつも居ないから。

「そういやさぁ、オーストリアって時差何時間なんだよ」

俺の呟きに一斉に視線が集まる。(何!?)

「そうですね。それがありましたね」

パイモンはがっくり項垂れる。
なんでそんなにがっくりすんだよ。

「日本って他の国と離れてるから少し厄介だよね」
『そうですね。我々はヨーロッパを中心に活動していましたからねぇ……あまり時差の概念はなかったのですが』

いや、そんなこと言われても。
パイモンはパソコンを開き、検索していく。
どんどん手慣れてってるなお前。

「ってかオーストリアってどこなんだ?」
「何で俺に聞くのさ中谷。俺がわかるわけないじゃん」

中谷はヴォラクに聞いている。
確かにヴォラクがわかるわけないよなー。俺らだって知らないのに。

「時差は-7時間ですね」

今って昼の2時だよな。
それってあっちじゃ朝の7時ってこと?

「そんな早くから訪ねていいのかぁ?礼儀知らずって思われたら俺ヤダぞ」

光太郎の突っ込みにパイモンもうーん……と言って考え込む。

「そうですね。主、日本を出るのは5時程度にしましょう。それならば時間的にも大丈夫です」
「それならまだ」
「でも時差って本当に不便ねー」

ヴアルの言うとおり。夕方の5時まで何もできないってことだよなぁ。

「じゃあ今のうちに稽古しとこかな……パイモン。宜しくな」
「わかりました」
「なぁなぁ俺もしたい!」

中谷が手を挙げて、名乗り出る。

「だがヴォラクが傷を負っている。無理だろう」
「えーでも……」

「光太郎、お前中谷と真剣勝負してみろよ」

シトリーの提案に光太郎の目が丸くなる。

「俺よりも本気になれるんじゃね?実力拮抗してる奴との方がよ」
「それもそうかも……」

光太郎はソファから立ち上がる。

「中谷やろうぜ。負けた奴はマック奢りな」
「乗った!」

光太郎が別の部屋に竹刀を取りに行く。
その間に俺はパイモンの広げた空間の中に飛び込んだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
中谷と光太郎も中に入ってしまい、室内は静かになる。

「あいつ等は元気だなぁ」
「シトリーおじさんくさい」
「なんだよー。ひっどいなぁヴアルちゃんは」
『拓也も少しは進歩したのでしょうか』
「稽古をつけだして、もう2か月になる。素振りと踏み込みは結構様になってきたみたいだよ」

セーレがコーヒーを飲みながら、印刷した用紙を眺める。

「後は回避と、重心の比重、実践ってとこだね……まぁ光太郎達があそこまで行くのに4か月かかったから、拓也もあと2ヶ月はあの調子じゃないのかな?」

セーレの会話を聞いていたシトリーとヴォラクがこぞって声を出す。

「光太郎は贔屓目なしに見てもかなりつえーぞ。やっぱ剣道やってたってだけあって基礎できてるしな。魔法主体の悪魔なら接近戦に入ればいい線行くかもな」
「中谷だってかなり強くなったよ。ディモスに乗って俺と両脇固めれば最強だ」
「いーや、光太郎のが強いね」
「中谷だってば!」

「契約者自慢はそこまででいいから」

睨み合っているシトリーと光太郎をセーレが諌める。

『しかし時間はあとどのくらい残されているのでしょう。最低でも1年はありますよね?』
「わからない。でもできるだけ早くしないとな。状況はいつどういう風に転ぶか分からないからね」

ヴォラクとシトリーの間に挟まれてるヴアルが少し気まずそうにしている。

「まったく……なんでこうなのかしら。どっちが強くても別にいじゃない」
「「良くない」」
「はぁ……」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『主、だいぶ剣の振り方は様になってきましたね』

本当に!?パイモンに褒められるのなんか初めてだ。

「マジで?」
『はい。重心も前に比べても大分取れるようになっています』
「そっか!じゃあもう実践に……」
『それはまだ早いです。前より良くなったと言うだけで、実践までにはいっていません』

まだまだってことか。俺、早く強くなりたいのに……でもまだ駄目なんだよな。

「俺……何か駄目な気がする」
『主?』
「だってこないだボティスの時も……肝心な時に足がすくんじゃうんだ!」

結局みんなに怪我させて、俺を庇ったパイモンも顔が溶けちゃって……
落ち込んでいる俺にパイモンが近づいて、優しく肩を掴む。

『まだ実践練習もしていないのに、いきなり戦えるわけがありません。スポーツ選手がルールを知ってストレッチをしただけで試合に出れますか?』
「……出れない」
『それと一緒です。皆練習をして、さらに実践練習を積んでいます。いきなり戦える者などいません』

パイモンの言葉に胸のつっかえが流れていく。
頑張ればきっと何とかなるんだ。絶対に。

―光太郎side―――――
「中谷ー俺は容赦しないからな」
「俺だって!」

俺達は竹刀を構える。
中谷はヴォラクのあの無茶苦茶な指導について行ってるからなぁ。
ヴォラクのは指導って言うか、実践で学んで強くなれって感じだったから。
俺や拓也みたいに素振りや重心の取り方、基礎的なことをあんま学んでない。
でもその分最初から実践練習をしてたから、状況判断や回避の仕方、そういうのは多分俺よりもうまいと思う。

「俺が勝ったらテリヤキバーガーセットな!ポテトはLサイズで!!」
「勝てたらな!俺が勝ったらダブルチーズバーガーセット+中谷が店員にスマイルくださいっていう事!スマイル0円ってね!」
「そりゃもう罰ゲームだよ!!」

少しだけ笑って緊張をほぐす。
練習だってわかってるけど俺達は2人とも負けず嫌いだ。

「行くぞ」
「おう!」

「「ぜってーに負けねぇ!!」」

俺達は見事にハモってお互いに向かって走り出す。お互い真正面に竹刀を振りおろし、竹刀がはじき合う。
中谷は一瞬で後ろに飛びのいて、俺の胸めがけて、竹刀をついてくる。
スイング音が聞こえて、俺はしゃがんでその攻撃をかわして中谷に走っていく。
よっしゃ!懐に入った!もらった!
俺は中谷の首に竹刀を持っていこうとした、んだけど……
中谷はそのまま体を倒して、俺の攻撃をかわす。

「な!!」

倒れるとか……避けるのに必死になって体制崩したのか!?
しかしそう思って油断した俺に中谷は寝そべった状態のまま、足払いをかましてきた。
そしてそれをもろにくらった俺は見事に倒れてしまった。

「ってー……!」
「もらった!」

首元に竹刀があてられる。

「負けちまった……」

セコイ戦い方だけど実践的だし、負けは負けだ。
中谷は嬉しそうにニヤリと笑う。
あーぁ負けちまった。

「くっそー……」
「俺テリヤキね♪」
「りょーかい。今日帰りマックいこう」

悔しいけどしょうがない。
俺ももっと稽古しなきゃ。完璧に中谷の動きに動じちゃったもんな。
もっと冷静になって戦わなきゃ。

―拓也side―――――
結局タイマンは中谷に軍配が上がったようだ。しかし結構本格的だったな。
その後、夕方の5時前まで稽古していた俺達はパイモンの空間から出た。

「中谷!光太郎!どっちが勝ったの!?」
「光太郎!お前が勝ったよな!」
「中谷に決まってんでしょ!?」

空間から出てきた俺たちにシトリーとヴォラクが話しかけ、お互いに火花が散る。
なんであいつらがそんなにムキになってんの?
すると、隣にいた中谷がピースサインを出した。

「俺ー♪」

それを見たヴォラクが嬉しそうに笑う。

「ほら見たかシトリー!中谷のが強いんだよ!」
「くっそー……光太郎!油断しただけだよな!」
「え!?確かに動揺はしたけど……」
「ほら見ろ!冷静に戦ってたら勝ってたのは光太郎だ」
「はい言い訳ー♪」
「ち・げ・ぇ!!!」

シトリーとヴォラクの間に更に火花が散る。

「さっきからこの調子。契約者自慢が飛び交ってるよ」

頭に?を浮かべていた俺にセーレはやれやれと肩をすくめて状況を教えてくれた。
ストラスとヴアルにいたっては我関せず。お菓子を食っている。
ん?シトリーとヴォラクが自慢しあってたって事は……

「セーレは俺の自慢しなかったのか?」
「え!?あーっと……」

なぜつまる。

「主に自慢できるとこはないでしょう」

酷い!パイモンはっきり言いすぎ!!
確かに中谷と光太郎よりも遥かに弱いけど…でもそんなに言わなくっていいじゃん!

「ですよねー」
「はは、は……」

セーレももう笑うしかない。
そして時間が来たので、俺達はオーストリアに向かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なぁなぁ!そのアムジュ……何とかってどんな悪魔ー?」

光太郎をおんぶした中谷が大声でセーレに問いかける。

『アムドゥキアスね。ユニコーンの姿をした悪魔さ。性格は温厚で穏便。契約者に音楽の才能を与えることができる。彼自身も大変な音楽好きでね。地獄でいっつも音楽を奏でてるのさ。よく演奏会もしてた』
「演奏会~?」
『俺も何回か行ったことある。すごい上手いんだよ』

ふーん。なんか悪魔にそんな芸術的センスがあるのが意外だ。
しかもユニコーンって……ユニコーンが楽器弾くのかよ(笑)
なんかそれはそれでおもしろい。

「でも本当に危なくないんだよな?」
『そうですね……心配しなくても大丈夫ですよ。多分』
「多分って何だよ」

そんなこんなしているうちに、俺達はオーストリアに到着した。

「すっげー!ここがオーストリアかぁ!」
「どうやらウィーンって場所みたいだね」

中谷とヴォラクが看板を眺めている。
俺達は人の通っていない場所にジェダイトをとめて、広場に出る。
広場は人で賑わっている。

「オーストリアって初めて聞く名前だけど、結構都会なんだね」

中谷は周りをキョロキョロと見渡す。
そんな中谷に解説するようにパイモンが調べてきた事を棒読みで話し出した。

「ウィーンは欧州有数の世界都市だ。「楽都」と呼ばれるほど音楽が盛んであり、永世中立国であるオーストリアの首都として、スイス、リヒテンシュタインとオーストリアがあげられる。またニューヨーク、ジュネーブ、ウィーンは国連の……「難しいからその話はいいよ!」

中谷が慌ててパイモンの言葉を遮る。
それをパイモンは嫌そうに睨みつけた。会話中断させられるの嫌なんだな(笑)
セーレは女の人の住所を印刷した紙を出す。

「彼女、ウィーンに住んでるんだね。ここから結構近いよ」
「なんかストーカーか追っかけみたいだな」
「……じゃあ光太郎がこの紙を持つといい」
「ちょ、押し付けんなよ!」

俺達は騒ぎながら、彼女の家に向かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
美しい音色が室内を包み込む。
その中心にはピアノと1人の女性の姿。

『Mit schönem timbre Schaft.(美しい音色だ)』

そしてそれを満足そうに眺める、角をもった馬の姿。
それに女性は嬉しそうに微笑む。
目は開いていない。
それでも指は鍵盤を叩いていく。

『Ich dachte nicht, daß diese Art des Tages mit kommen.(こんな日が来るなんて夢にも思わなかったわ)』

ピアノが好きだった。何より好きだった。
別に賞をとれるとかそんなことはどうでもよかった。
趣味ででもいい。死ぬまで、ピアノを弾く楽しさを失いたくなかった。

鍵盤の見えない手から紡ぎだされる旋律はとても美しい。
馬もそれを心地よさそうに聞いている。

『Was mich anbetrifft sehr mögen wir das Klavier, das Sie abstoßen.(私はお前の奏でる旋律がとても心地いい)Bitte direkt abstoßen das Klavier sogar ab sofort.(これからもその美しい旋律を私に聞かせておくれ)』
「Es wurde verstanden.(勿論よ)」

今があるのは貴方のおかげなのだから。


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