「いない」
公園についた俺はチャリを止めて、急いで直哉を探した。
ここに居るかもって思ったのにいない。どこにいんだよ!?
74 本当の約束
「くそっここじゃないのか」
じゃあどこへ?
直哉が行ける場所なんて限られてる。
いつもの公園か、大輝君の家か、それだけなのに。それ以外の場所になるとマジでわかんねぇ。
『拓也、どうしましょうか』
考えろ。直哉が行きそうなとこを。
その時、俺の名前を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、こっちに向かって走ってくるシトリー達の姿。
「わりぃな。光太郎は塾、中谷は部活、澪ちゃんは連絡取れなかった。」
「あの泣き虫いなくなったんだって?本当に迷惑ばっか掛けるねー」
ヴォラクが呆れたように直哉の事を言うから俺は慌ててそれを否定した。
「いや、喧嘩がエスカレートしちゃってさ」
「拓也お兄さんなんだから、大人げなく怒ったらダメよー」
ヴアルに言われて改めて反省する。
そうだな。マジで気をつける。
「わかった。でも直哉ここにはいなかったんだ。どこに行ったんだろ」
「いない?他に当てはねぇのか?」
「いつも泊まりに行く友達の家にも行ってなかったみたい」
「そっか……おい拓也、ケータイ貸せ。んで直哉の写真出せ」
「え?うん」
言われたとおりに俺はケータイのメモリから直哉の写真を出した。
シトリーは俺のケータイを持つと、砂遊びをしている子供のとこに歩きだす。
「なぁこの子見たか?」
「この子さっきまでここにいたよ?」
「マジか!?」
何だ?シトリーが手まねきしてる。俺達はとりあえず砂場に向かった。
「こいつら直哉を見たって」
「本当か!?いつ見たんだ?」
若干俺の勢いに押されながら子供達は顔を見合わせた。
「えーっとね30分くらい前かなぁ?2人組の男の子といたよ。1人は頭が尖ってて牙みたいなの生えてた」
「あれすごかったよなー!本物かな!?」
子供がその事を思い出して盛り上がっている。
「この子どこに向かったかわかる?」
「さぁ、わかんないけど、でもあっちの出口から出て行ったよ」
子供が指差した方は北の出口だった。
俺は礼を言って、北の出口に向かった。
「直哉はこっから出たらしいんだけど」
北の出口から行ける場所ってどこがあるのかな……
―直哉side―――――
「ここだぜ直哉」
ボティスとラウムに連れて行かれた場所は建設中のマンション。
まだコンクリートでかたどっただけで屋根以外の壁はない。
目の前にはクレーンやらがいっぱい止まってる。
「ここに行くの?ここって入っていいの?」
「いいって。心配すんなよ」
ラウム達はその中をどんどん進んでいく。
「待ってよ。本当に入っていいの?怒られないの?」
「大丈夫だっつってんだろ。このマンションな、今は建設止まってんだよ」
そうなんだ。でもなんかワクワクする。
悪戯する感覚に似てる。
俺達は3人でマンションの中に入って行った。
◆◇◆
「すごいねー屋根しかないや」
横を見ると、マンションから夜景が見える。
「すっげーすっげー!!」
「気に入ったか?」
「うん!」
俺はその場に座り込んでお菓子を出す。
「なんだそれ?」
「おなか減った時の非常食。ラウム達も食べようよ」
「じゃあもらう」
夜になって少し肌寒くなっていく。
「っくしゅん!」
「おい大丈夫か?」
「平気。でも2人は寒くないの?」
ラウムは7分袖のTシャツの上に半袖のTシャツ。ズボンも7分丈。
ボティスにいたっては袖なしのタートルの上に薄いパーカーを羽織っただけで、ズボンも半ズボンだ。
「全然。俺ら寒さに耐性あるから」
そんなもんなのかな?俺なんか3枚着こんだ上にダウンを来ても寒いのに。
あー家にいたら暖房付いてて、コタツに入ってたのに。
少しだけ家に帰りたくなる。でも折れたら負けだ。
それにもう夕飯の時間だ。ママも怒ってるはず。今帰ったら絶対に怒られる。そんなの嫌だ!!
今日はここにいるしかないのかなぁ。布団もないし絶対に寒いよ。
でもしょうがないよね。むしろ付き合ってくれた2人に感謝するべきだよね。
「なぁ、直哉」
ラウムに話しかけられて顔を上げる。
「なに?」
「お前さー今も兄ちゃんムカつくか?」
「え?」
ムカつくのかなぁ……家を出て少しだけ気分が落ち着いた。
自分が悪い事言ったのもわかってる。
でも理解してくれなかった兄ちゃんのことを思い出すと、少しだけ腹が立つ。
「少し」
「そっか」
ラウムは嬉しそうに笑う。
なんでそんなに笑ってるのかが俺には分からない。
「なぁ直哉、俺ら3人でお前の兄ちゃんボコっちまおうぜ」
「え?」
兄ちゃんをボコる?
「だってお前の兄ちゃんムカつくじゃん。お前が嫌な思いしてたのにさぁ、相手の心配ばっかして。お前の事、本当はどうでもいいんだって」
どうでもいい?
ラウムに言われた言葉に頭が真っ白になる。
だって兄ちゃんは前病院で俺が悪魔に足を斬られた時も必死で戦ってくれて……
「そ、そんなことないよ……」
声が震える。胸を張って答えれる自信がない。
なんでだろう?いつもだったら「そんな訳ないじゃん!」って言えるはずなのに。
そっか。俺が兄ちゃんが嫌なこと言ったからだ。
人殺しなんて言ったから……
殴られた頬をさする。
ヒリヒリしてるけど、風が冷たくて少しだけ痛みは治まっていた。
兄ちゃんは軽蔑した目で俺を見てた。きっともう俺は嫌われたんだ。
自分でそう思えば思うほど兄ちゃんに腹が立ってくる。
なんでこんな事になるんだよ。
「な?お前の兄ちゃん最低じゃん。大体、お前が出てく時だって追いかけても来なかったんだろ?」
そうだ。俺が荷物を詰めてる時も兄ちゃんは部屋に来なかった。
いっつもなら喧嘩しても兄ちゃんが折れてくるのに、今日は何も言ってこなかった。完全に俺のことを無視してきた。
兄ちゃんはもう俺のこと嫌いなんだ。
今頃、ママとパパとストラスと一緒にご飯食べて、皆で楽しそうにしてるんだ。俺のことなんか皆どうでもいいんだ!!
「泣くなよ直哉」
ラウムが服の袖で俺の涙を拭いて行く。
でも涙は次から次にどんどん流れていく。
「もう嫌だ」
「ん?」
「もう嫌だ!こんなのやだ!!全部兄ちゃんのせいだ!兄ちゃんなんか居なかったらよかったのに!!」
「……それでいいんだよ。お前には俺がいる」
ラウムは優しく笑い、俺の頭を撫でる。
「なぁ直哉、俺とずっと一緒にいよう。世界の終焉まで……あんな奴殺して俺と一緒に堕ちよう?指切りしただろう?俺はお前を見捨てない」
ラウムとボティスしか味方がいない。
でもそれでも俺の味方でいてくれる。
俺にはもう2人しかいないんだ。兄ちゃんなんて居なきゃいいのに……
―拓也side―――――
直哉を探し続けてもう30分以上になる。
北の出口から出たって言う証言以外に当てになる情報はない。
たったそれだけで直哉を見つけるのは難しく、俺達はただ闇雲に探し回っていた。
「拓也ー!」
「ヴアル!見つかったか!?」
俺達は北側の出口から出て、近くの人に直哉の写真を見せて聞いて回った。
「あのねー。拓也の弟君に似た子がねー3人組であっちの方向に歩いて行ったんですって」
ヴアルが指差した方向には建設中のマンション。
「あっちか……」
「あっちでまた聞き込みしてみましょう?」
「うん」
俺達はマンションの方向に走って行った。
◆◇◆
「その子ねぇ、あのマンションの中に入って行ったわよ」
井戸端会議をしていたおばさんに直哉の写真を見せたら、マンションに入って行ったと言われた。
直哉がなんでそんなとこに!?
「建設中のマンションにですか?」
「そうなのよー。あそこねぇ10階建てのマンションが建つ予定なんだけど、あのマンションが建つと、南向きの家が陰に隠れちゃってねー。近隣住民が反対の署名を出したのよ。そのせいで、今も揉めてて建設が止まってるのよねー。今じゃ子供たちのいい遊び場よ。入ったらダメだってテープは張られてるんだけど、そんなのかいくぐって入っちゃうの。まぁ今のとこは事故も起きてないし、私達も何も言ってないんだけどね」
そんなとこに入って行ったのか?
「3人組でですか?」
「そうねー確か3人だったわよねぇ?」
「うん。そうだった」
隣にいたおばさんも頷いた。
どうやら間違いないんだろう。
「ありがとうございました」
俺は頭を下げて、母さんに電話をかけた。
『拓也!?直哉は見つかったの!?』
「いや、でも多分居そうな場所は分かったから今からそこに行ってみる」
『拓也!』
「父さん、帰ってたんか」
『話は聞いたよ。直哉が悪魔と契約してたんだって?頼む拓也。直哉を、直哉を連れ戻してくれ……お前にしかできない』
「わかった」
俺はそう言って電話を切った。
父さん達にまで心配かけて、直哉の奴……
早く直哉を見つけないと本当にシトリーの言ってた通り、魂をとられてしまうかもしれない。
そんなことになったら俺、俺……!急がなきゃ、急がなきゃ!
俺は走ってマンションの中に入って行った。
―直哉side―――――
さっきまで俺の頭を撫でて慰めてくれていたラウムの表情が急に険しくなった。
ボティスもマンションから地上を見つめている。
「ラウム?」
「直哉、嫌な奴が来たぜ」
「え?」
俺の頭を撫でていたラウムは顔をしかめる。
「お前の兄ちゃんが来たようだ」
何でここがわかったんだ?
怖い。何を言われるかはわかってる。俺を怒りに来たんだ。
怒ってそのまま俺を放って帰っていくんだ。
「怖い……怖い怖い怖い!」
「安心しろよ直哉。俺らが追い払ってやる」
ラウムはそう言って立ち上がる。
追い払ってやるって何する気なの?
「直哉、持っとけよ」
ボティスが俺に近づいて何かを投げてくる。
それを受け取った俺は目を丸くした。これって……
「鉄の棒……」
「お前の兄ちゃん、またお前を殴りに来たんだよ。もう殴られたくないだろ?」
ボティスが俺の頬を優しくさする。
嫌だ。またあんな痛い思いはしたくない。
俺は棒を握りしめる。
兄ちゃんがいなくなれば俺は家に帰れるのかなぁ?
ママとパパは俺の味方してくれるかな?
「いなくなればいいんだ。兄ちゃんなんて」
些細なことで喧嘩になって、そこから生まれた感情が黒く変化していく。
兄ちゃんが居なくなるってことは兄ちゃんを殺すって事。
通常ならおかしいとさえ思う考えでもそれを静止する頭は働かない。
全部なくなれば……
「はは……なんかスッキリしたや。簡単じゃん」
「それでいいんだよ直哉。あいつはお前の味方なんて決してしない。でも俺らはお前の味方だ。一緒にあいつの存在を消してやろう?」
ボティスの言葉に俺は頷く。
他のことが考えられない。そのことしか考えられない。
「お前は本当にいい子だな直哉君。俺はお前の味方、お前の一番の理解者だ」
ラウムは俺のことを必要としてくれる。
この2人さえいればいい。それだけでいい。
「ラウム、継承者を地獄に送ったら直哉はどうすんだ?」
「気に入った。俺の側近にする。一生退屈はさせないぜ」
「はっ。継承者をあぶりだす為に契約したくせに虜にされちゃって」
「純粋な人間ほど堕とした時のギャップがおもしろい。直哉は合格だぜ」
ラウムとボティスの会話は俺には聞こえなかった。
「直哉、来るぜ」
その言葉に棒を握り締める。
そして……
「直哉!」
来た。兄ちゃんが来た。
―拓也side―――――
直哉を見つけた俺は大声で名前を呼ぶ。
振り返った直哉は見る限りでは怪我をしている所はなかった。
良かった無事だ……
直哉はボティスともう1人の少年の間に囲まれていた。
あいつがラウムか……
ボティスとラウムはニヤニヤ笑ってその場を動く気配はない。
でも今はあいつらに構ってる暇はない。俺は直哉に手を伸ばした。
「直哉、こっち来い」
直哉は動かない。
『直哉、何をしているのです。早くこちらに来なさい』
「うるさい」
直哉?
手には鉄の棒が握られている。何する気なんだよ……
「直哉、何してんだよ……」
「俺をまた叩きに来たんだろ?何だよ今さら。俺のこと最低ならほっとけよ」
そんなつもりじゃない!そんなつもりじゃ……
思わず固まってしまった俺を見て、ストラスが必死に直哉を説得する。
『直哉、拓也は貴方の事を本気で嫌っているわけではありません。貴方もわかっているでしょう?』
「うるさい。お前も兄ちゃんの味方したくせに」
『直哉……』
「相変わらずうっぜぇよなぁ継承者は」
ボティスが俺の事を指差してケラケラ笑っている。
「お前らが、お前らが直哉を操ったのか!?」
「はぁ?俺らはそんなことしてねーよ。第一、俺らは人を操るなんて能力は持ってねぇ。これは直哉が選んだことだ」
「嘘つくなよ!」
『拓也、本当です。彼らに人を操作するという力は持ちません』
そんな……じゃあ直哉は本当に……
「兄ちゃんなんかいなきゃよかったのに」
俺のことを嫌いになった?ショックで足が動かない。
ヴォラクが俺の背中を支える。
その支えがなければそのまま倒れてしまいそうだ。
「馬鹿な継承者。自分の身の回りの人間も守れないくせに他人が守れるかよ」
ラウムのその言葉で俺は大声を張り上げた。
「ふざけんな!直哉を返せ!てめぇが直哉と契約してることはわかってんだ!!」
「契約ぅ?はは。指切りって言ってほしいね。友達として指切りしたんだ」
「なに訳のわかんねぇこと言ってやがる!直哉!帰るぞ!!」
「来るな!!」
直哉の左手をもった俺に直哉が棒を振りかざす。
その瞬間はスローモーションのように感じた。
鉄の棒で頭を殴られた俺はその場に倒れこんだ。
「拓也!」
「てめぇ……泣き虫!いい加減にしやがれ!!」
ヴアルが真っ青になって俺を起こし、ヴォラクが声を張り上げる。
頭がくらくらする。
血が出てる。あんだけ力強く殴られりゃ血が出てもおかしくない。
頭が痛い、焦点が合わない。直哉をまっすぐに見ることができない。
「に、兄ちゃんが悪いんだ。あいつの味方するから」
何震えてんだよ。そんな震えんなら最初からすんなよ。
なぁ直哉、俺怒ってなんかねぇよ。そう言いたいのに、口が動かない。
この痛みを我慢するのに必死だった。
『直哉、いい加減にしなさい。拓也になんてことをするのです』
ストラスが静かに、でも怒りの篭った声で直哉を叱りつける。
「うるさい。嫌いだ、お前らなんか……」
「それでいいんだって直哉」
直哉の後ろに待機しているラウムが笑みを浮かべる。
「殺してやれそんな奴、お前の味方じゃないんならいらないだろ?」
「直哉君止めて」
ヴアルが震えながら俺を抱きしめる。
でも直哉は一歩一歩、俺に近づいてくる。
『これ以上やったら殺すよ』
悪魔になったヴォラクが直哉に剣を向けた。
「皆皆、兄ちゃんの味方」
『あ?』
「だから嫌いなんだ……」
「直哉……」
俺の言葉は直哉に届かない。
直哉は俺に近づいて鉄の棒を握りしめた。
「兄ちゃんなんか嫌いだ、嫌いだ」
『おい泣き虫。いい加減にしろよ。何がしたいんだよ』
ヴォラクが剣を抜こうとする。
「ヴォラク!直哉に手ぇ出すな!」
『だって拓也こいつは!』
「あはは!麗しき兄弟愛!でもお兄さん、直哉を裏切ったのはあんただろ?直哉悲しそうにしてたぜー?兄ちゃんが理解してくれないってさぁ。だから俺が理解してやるんだ」
ラウムの言葉に直哉は少し笑みを見せる。
ふざけんなよ……何だよそれ。
「お前の言う事は友情なんかじゃない」
「あ?」
「本当に大切な友達なら、悪いことしたら止めるはずだろ?なのにあんたは直哉を止めるどころが悪いことじゃないって教えつけた」
「それの何が悪いんだ?友達だからこそ諌めないんだよ。意志を尊重してんだよ」
「ふざけんな!何が尊重だ!ごっこ遊びなら余所でやれ。直哉に手ぇ出すな!」
俺の言葉を聴いたラウムは顔を顰めた。
「おいボティス。お前の言うとおり、こいつマジでウザいわ」
「だから言ったろ?」
ボティスはフフっと笑い声を上げる。
何笑ってやがる。直哉まで巻き込みやがって!
血は中々止まらない。ヴアルが必死でタオルを当てて、止血をしてくれている。
「くっ……」
「ごめんね。痛む?」
「平気。ごめんなヴアル」
「そんな……セーレがいてくれれば白魔術で何とかなったのに」
ヴォラクは直哉と睨み合ったまま。
その光景をシトリーとストラスも心配そうに見守っている。
俺は直哉に手を伸ばした。
「俺、別に怒ってなんかないよ。母さんも父さんも心配してるんだ。一緒に家に帰ろう」
「嘘だ。パパもママも兄ちゃんの味方だもん。俺なんかいてもいなくても変わらない」
何だよその考え。あの喧嘩からどうやったらそんな考えに行き着くんだよ。
でも俺もそんなもんか。ガキのころ父さんと喧嘩する度に思ってた。
自分なんて要らないんだって……直哉はただ意地になってるだけなんだ。
「本当にそう思ってたら父さんがクリスマスにお前にプレゼントなんか渡すはずないだろ。母さんが毎日、お前の飯作るわけないだろ」
「そんなの兄ちゃんのついでで……」
「じゃあお前の運動会にあんなに張り切るわけないだろ。父さん、ずっとビデオ回してたんだぞ?母さんだってお前の好物いっぱい入れた弁当作ったんだぞ」
「……」
「お前が風邪ひいた時、母さんがつきっきりで看病してくれるのは何でだ?お前が食べたいって言ったから、父さんが仕事帰りにケーキ買ってくるのは何でだ?」
「それは……」
「皆お前のことが好きだからじゃんか」
直哉はその言葉に固まってしまう。
「お前が優しい奴ってのはわかってる。運動会だって1人で弁当食ってた子を連れてきたのも知ってる。だからお前があんなこと言うのが信じられなかった」
「だって、それはあいつが……」
「うん。いっつも話し聞いてたよ。確かにあいつの普段の態度は悪い。でも前の直哉ならなんて言ってた?学校に来なきゃいいなんて一言も言ってなかっただろ?」
「……」
「直哉、みんなお前のことが大好きなんだ。俺が約束してやる。俺はお前の味方だ」
鉄の棒が直哉の手から落ちる。
頬を涙が伝っていく。
「兄ちゃん、兄ちゃん……」
泣きだしてしまった直哉がすごく小さく見える。
「へへ。俺に似て泣き虫になりやがって……早く家に帰ろう」
「……うん」
「それはちょっと虫がよすぎるんじゃないのかねぇ直哉君」
「え?」
直哉の腕が引かれて、ラウムに後ろから抱きかかえられる。
「約束しただろ裏切らないって。お前は俺を裏切るのか?」
「なんで?兄ちゃんと仲直りしたの、なんでラウムを裏切ることになるの?」
「わっかんないかなぁ?直哉はおバカさんだねぇ」
ラウムの手に光が集まり、剣が出てくる。
そしてその剣が直哉の首に添えられる。
「ひっ!」
「直哉!!」
『こいつは俺を地獄に返そうとしてんだよ』
「地獄って……まさかラウム……」
直哉の目が見開かれていく。恐怖で顔が真っ青になっていく。
『ソロモン72柱が一角「ラウム」。以後お見知りおきを』
「ひっ悪魔!うわああぁぁぁぁああ!!」
『あの泣き虫。何にも知らずに契約してたの!?』
やっぱり直哉は何も悪いことなんてしてなかったんだ!
こいつが直哉を騙して契約してたんだ!
『なぁ直哉、あんだけ他人を巻き込んでおいて元の生活に戻れると思ってんのか?』
「な、何のこと?」
まさか……あいつ直哉に真実を言う気か!?
「やめろラウム!」
俺の怒声を聞いてラウムは更に笑みを深くした。
『なぁ直哉、俺の力って少し変わっててな?他人を奈落の底に落とすことができんだよ。でもそれは契約者が命令しないといけないんだけどよ』
「やめろやめろやめろ!!」
「何が言いたいの?」
直哉の声が震えてる。顔が真っ青になっていく。
『契約者はお前だろ?そしてお前は俺に言った。痛い目を見ればいいってな』
「う、そ……」
『嘘じゃないさ。和田って奴が捕まって自殺したのもクラスメイトの奴がカンニングして母親からの信頼を失ったのも俺の力が働いたからだ。そしてそれを命令したのはお前だ』
何て事を!
直哉は恐怖からか涙を流す。
「嘘だ。じゃあ俺が和田先生を殺したって言うの?あいつをカンニングさせたって言うの!?」
『あぁそうさ。全てお前が俺に命令したからだ。楽しかっただろ?クラスメイトを苛めるのはよぉ。お前は被害者面してたけど立派な加害者だよ。いや殺人犯か?ははは!』
「ひっひっく……うああぁぁあああ!!」
ふざけやがって……ふざけやがって!
「サイテーな野郎だな」
シトリーが手をポキポキ鳴らす。
それを見て、ボティスも笑いだす。
「何が直哉のせいだ!てめぇが直哉を騙してただけだろうが!人間なら誰だって少しぐらいは不満を持つに決まってんだろ!それをてめぇが大げさにしただけじゃねーか!!」
『くく……まぁ騙したってとこは否定しねぇよ。結果的には直哉が命令したんだ。でも元はと言えばお前が悪いんだぜ継承者』
「俺が?」
『お前が俺たちの邪魔をするから。だからお前にはいい刺激になるだろうこいつと契約しようと考えたんじゃねぇか』
なんだって?そんなことの為に直哉を……直哉を巻き込んだってのか!?
『折角いいとこまで行ってたんだけどなぁ……最後にはこいつは俺を裏切るし、とんだ駄作だ。お前を殺すために近づいたのに、こんな結果になるなんてなぁ』
「ふざけんじゃねぇよ!直哉を放せ!!」
ラウムは笑って直哉の首に剣を押し当てる。
「うあ、うああぁぁあ!!」
「止めろ!」
『じゃあ一緒に地獄に来てもらおうか。それならこいつを解放してやってもいいぜ?』
「おい拓也、こいつの話しを聞く必要はねぇ」
「だけどこのままじゃ直哉が!」
『地獄に行ったら本当に戻れなくなりますよ!』
『早くしてくれよ。俺は短気なんだよ。そうだなぁ、指1本ずつ斬り落としてくか』
「い、嫌だ嫌だ!止めてよラウム!!」
「止めろ!頼むから直哉には手を出すな!」
どうしよう。このままじゃ直哉が、直哉が……
「あはは!まぁた無駄骨だなぁ継承者。俺を逃がした時とおんなじ」
うるさい、うるさいうるさいうるさい!!
「拓也、あたしに任せて」
「ヴアル?」
「直哉君とラウムの間を爆発させる。ラウムは避けるだろうけど、直哉君を抱えては避けれない。絶対に直哉君を手放すはず。でも……もしかしたら直哉君が怪我するかも」
それ以外に方法を考える。
だけど浮かばない。
「ヴアル頼む」
「わかった」
『さぁどうすんだ?小指から行こうかなぁ』
「ひっやめて!」
ラウムの剣が直哉の指に近づいて行く。
「やだやだやだ!!」
「その子を放しなさい!!」
ヴアルが指をさした瞬間、ラウムと直哉の間で軽い爆発が起こった。
ラウムは直哉を突き飛ばして、そこから飛び退く。
「うわぁ!」
「ちっ!」
シトリーが直哉を抱きこんで、そのまま走って逃げる。
やった!上手く行ったんだ!
直哉はすこし服が焦げていたが、大きい怪我はしてなさそうだ。
「直哉!」
「兄ちゃん!うあぁあああぁぁぁああ!!!」
直哉は涙を流しながら俺に飛びついてくる。俺はそんな直哉を思いっきり抱きしめた。
「直哉、お前は悪くないんだ。何も何も」
「ひっく……うえぇええ……あああぁぁあああ!!」
なんで、なんで直哉がこんな目に遭わなきゃなんないんだよ。
他の奴が契約してたってきっとあいつは同じように少しの悪口を聞いて事を起こすだろう。
なんでその相手が直哉なんだ……
『くそがっ調子に乗りやがって!』
ラウムの声で現実に引き戻される。
先ほどとは違う。目が血走っている。
『ボティス、こいつら殺すぞ』
「ルシファー様は邂逅を望んでるけど?」
『知るもんか。指輪さえ手にはいりゃいいだろ。殺さなきゃ気がすまねぇ!』
「ふふ……同感だ」
ラウムが剣を構え、ボティスも強大な棍棒を構える。
「ストラス、直哉を避難させてくれ」
「兄ちゃん!」
「直哉、兄ちゃんは絶対に戻ってくるからな。行ってくれ」
『わかりました』
ストラスが渋る直哉を押して、俺たちから離れていく。
『畜生が。最後の最後でとんだどんでん返しだぜ!』
『そのまま地獄に戻った方がいいんじゃない?』
ヴォラクも剣を構えて、ラウムを睨みつける。
『へ。それはお前の方だろ』
俺は浄化の剣を手に持つ。
ヴアルが悪魔の姿に代わり、シトリーも体をほぐして、スタンバイOKのようだ。
『生意気な継承者風情が。後悔させてやる』
『どこまでもオイタが過ぎるな継承者……』
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