第73話 喧嘩
和田の葬儀に行った俺と澪は小学校の時の友達にかなりあった。
中には事件を起こして軽蔑しながら葬儀に参列してる生徒、それでも涙を流す生徒、両極端だった。
俺は遺影の和田の顔を見て、また泣いてしまった。
73 喧嘩
「拓也、お帰りなさい」
和田に頭を下げて、俺達はすぐに家に帰った。
葬儀自体は身内だけで行うから生徒達は挨拶だけをして帰っていく。当然俺達もそうなので、和田の親族に挨拶をしてすぐに家に帰った。
帰り着くと母さんが俺と澪を出迎えてくれた。
家には全校生徒で一斉に昼に行ったので既に直哉が帰っていた。
直哉は相変わらずストラスと遊んでいるが。
「人かなり多かったよ」
「そう」
「やっぱ和田って皆に信頼されてたんだな」
俺の乾いた笑い声に母さんも表情を曇らせる。
「いい先生だったのにね……」
「うん。なんでこんな事になったのかなぁ」
そんなこと誰に聞いてもわからない。
和田はもういなくなっちゃったんだ。
「さ、玄関に立ってないであがりなさい。夕飯にしましょう。澪ちゃんも」
「あ、はい……」
しんみりした空気をほぐすように母さんが明るい声を出す。
俺たちは沈んだ気持ちを隠せないまま靴を脱いで、家にあがった。
―ストラスside―――――
「ストラス」
『なんですか?』
直哉はニコニコ笑っている。悲しんでいる拓也とは対照的です。
直哉は最近何かがおかしい。
「今日も友達と遊んだんだ。走るのも早いし、すごいんだよ」
『そうなのですか』
「そんでね。友達を絶対に裏切らないって。俺が困ったら助けてやるって言ってくれたんだよ」
直哉は嬉しそうに小指を出す。
その表情はただ単に嬉しいだけなのか、少しだけ妄信的なところも見え隠れしているような気がします。
「指切りしたんだ。友達の証しだって」
『あまり変な輩と付き合ってはなりませんよ』
「変じゃないよ。友達だ」
ならばいいのですがね。
拓也よりも直哉の方が現在は和田という人間と関わっているはずなのに、なぜ直哉はこんなにも平気そうなのか。
それが私にはわかりません。
直哉は葬儀に行った後もこの調子で、悲しんでいる素振りは見られませんでした。
私たちに気を遣っているのか、あるいは本当に何も感じていないのか、それは直哉にしかわからないことですね。
―直哉side―――――
今日はムカつくことがあった。
クラスメイトの奴がまた俺に掃除を押し付けて帰って行った。塾があるからって。
そんなの関係ないじゃん。掃除なんて15分で終わるのに。
そいつは俺たちのことを馬鹿にしてるし、クラスでもあんま好かれてなかった。
でも隣の席ってだけで、いつも俺に押し付けてくるなんてムカつく!
皆はしなくていいって言うけど…それでも先生は頼まれたならしてあげなさいって言う。
大輝も先に帰っちゃったし……最悪だよ。
「ってことがあったんだよー!なんで俺がやんなきゃなんない訳!?」
今日も俺は学校帰りに公園に寄り、ラウムとボティスと遊んでいる。
だって2人に愚痴を聞いてもらうとすっごい心が軽くなるんだもん。
2人は俺の味方だから。
「なんでやらないって言わないんだよ」
「だって押し付けてさっさと帰っちゃったんだ。先生もやってあげろっていうしさ」
「直哉は押しが弱いのが欠点だな」
ボティスが飲んでいた缶ジュースを俺に渡す。
「飲んでいいよ」
「ありがと!」
俺は残りを飲んでゴミ箱に捨てる。
そんな俺を見て、ラウムはまた笑った。
「なーそいつウザイな。塾だか何だか知んねーけどさー、甘えんなって感じじゃね?」
「でしょ!?でもなんか親もちょーうるさくて学校に何回も来たことあるんだよ!ママがモンスターペアレンツって言ってた」
「もんすたーぺあれんつ?怪獣両親?へー日本人はおもしろい言葉を考え出すな」
日本人はって……やっぱラウムって外国人なのかな?
「ねぇ。ラウムとボティスって外国人なの?」
「まぁそんなとこ。日本からはスッゲー遠いとこ」
やっぱりそうなんだ!
ボティスとかは色白いし、髪も金色だもん!
「で、話は戻るけどさぁ。そいつ皆から嫌われてんだろ?」
「うん。友達いないしね」
「直哉も嫌いなんだろ?」
「うん。嫌い」
「じゃあ痛い目にあうといいなぁ」
ラウムは笑みを深くする。
確かにあいつは一回痛い目に逢うべきなんだ!
俺達を馬鹿にして、いっつも親を連れてくるし。
「本当に!あいつ2日後、塾内で全国模試があるーとか言っててさ!ビリっけつになればいいのに!」
「……直哉はそうなってほしいのかぁ」
「うん!ざまぁみろって思う」
「そっか!そうだよなぁ!そう思うよなぁ!任せとけよ」
「ラウム?」
「俺がお祈りしといてやるよ。痛い目見ますようにーって」
何それ。なんかおもしろい。
思わず俺は吹き出してしまった。
「変なのー!なんでラウムがお祈りすんのさー」
「そりゃ友達がムカつくって言ってんだ。俺もむかつくよ。なぁボティス」
「ほんとにね」
やっぱラウムとボティスは友達思いだ。
俺、本当に2人と友達になれてよかったぁ。
「でも多分お祈りしても無駄だよ。あいつはいっつも塾内の模試でかなりいい点とってるから」
「わかんねぇじゃん。カンニングとかするかもよー」
「あいつプライド高いから絶対にしないよ。っつか普通はしなくない?」
「プライド高い、か。そういう奴ほど堕とし甲斐があるんだよな」
どういう意味だろう。ラウム達は時々難しい言葉を使う。
おとすってなんのこと?
「ふーん……よくわかんないけど、まぁいいや。それで本当に悪い成績とって親に怒られちゃえばいいんだ」
「直哉は悪い子だねー」
ボティスがケラケラ笑う。
「俺は悪くない。悪いのはあいつだもん」
「そうだよねぇ」
あんな奴、いなくなっちゃえばいい……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「直哉ー!」
一週間後、クラスに入った俺に大輝が慌てて走り寄ってきた。
「なにぃ?」
「ちょっと聞けって!」
大輝は俺の耳元に口を近づける。
「あいつ今回の模試でさ、カンニングして全教科0点になったらしいぞ」
あいつって……あいつ!?
まさかの展開に大声が出た。
「嘘ぉ!?」
「本当だって!」
「何で大輝知ってんの?」
「3組にあいつと同じ塾に行ってる奴から聞いた。おばさんカンカンになっててあいつ滅茶苦茶怒られてんだって!」
ラウムが言ったとおりになった。なんか凄い。
馬鹿な奴……あいつは今日は学校に来てない。親にこってり絞られてんのかなぁ?
今日も掃除当番はあいつだ。でもあいつがいないから、もう俺に頼んでくる奴はいない。
俺もう掃除しなくていいじゃん!!
「ざまぁみろって感じだね」
「マジでうけるよなー。そこまでして点とりたいかよ。リアルに引くし」
俺は大輝と軽く笑い合う。
そいつは嫌われてるだけあって、今回のことは笑い話みたいに広がっている。
ざまぁみろ。
次の日、学校に来たあいつは皆にこの事でからかわれ続けた。
泣くことはなかったが、泣きそうになることも何回かあった。
先生も止めるけど、こういう時だけ俺達は頭が働く。
先生がいないときを確認して、今までの鬱憤を晴らすかのようにそいつをからかい続けた。
2日後からそいつは学校に来なくなった。
「流石にやばくね?」
この事に大輝だけじゃない。クラス中がざわついてる。
何でやばいんだろう?俺たち何かした?
あいつが悪いから仕返しされただけじゃないか。
「大輝何言ってんの?来なくなったのとか俺たちのせいじゃないじゃん。勝手にあいつが来なくなったんだよ」
「でもさぁ登校拒否とかまでは」
「意味わかんない。俺たちは悪くないよ。もう来なくていいじゃん」
「直哉……なんかお前こえーよ」
大輝が言ってることが俺にはわからなかった。
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「兄ちゃん」
その日、俺は家に帰って兄ちゃんの部屋に入った。
兄ちゃんはストラスに手伝ってもらって英語の勉強をしていた。
もう今日は2月26日。
兄ちゃんは3月のはじめから期末テストらしく勉強で忙しそうだったけど、勉強を中断して俺に振り返る。
「なに?」
「今日ねーおもしろいことがあったんだよ」
俺はあいつが学校に来なくなったことを兄ちゃんに話したくて仕方がなかった。
今までのあいつの態度、カンニングしたこと、それをからかわれたこと、学校に来なくなったこと……俺は全部兄ちゃんに話して聞かせた。
きっと兄ちゃんは笑ってくれる。そう思ってた。
でも兄ちゃんの反応は予想外のものだった。
「その子大丈夫なのか?」
え?
兄ちゃんは心配そうな顔をしている。
なんで?あいつが来なくなったのは自業自得じゃん。
「直哉、お前もまさか一緒になっていじめてないよな?」
「なんで?兄ちゃんはあいつを庇うの?」
「庇うって言うか……俺もそういうタイプの奴嫌いだけどさ、登校拒否まで行ったら可哀想だろ」
なんで?なんで可哀想なの?なんで大輝とおんなじ事言うんだろう。
マジで意味わかんない。
「可哀想じゃないよ。自分が悪いんじゃんか。自業自得だよ」
「直哉、どうしたんだよ。お前らしくねぇぞ」
俺らしい?俺らしいって何?今の俺は俺じゃないって言いたいの?
「訳わかんない。いつも通りじゃん」
「それ本気で言ってんのか?可哀想とか思わねーの?」
なんであいつの味方するの!?兄ちゃんは俺の兄ちゃんでしょ!?
あいつの今までの態度だってちゃんと説明したじゃん!
「兄ちゃんウザい」
「え?」
「兄ちゃんなんか嫌いだ。あいつの味方して……あんな奴学校に来なきゃいいんだ」
俺がそう言った瞬間、兄ちゃんが椅子から立ち上がってベッドに座ってる俺の隣に腰かけた。
「直哉、言っていい事と悪い事があるぞ。小5にもなってそんなこともわかんねぇのか」
「何で俺を怒るの!?あいつが勝手に皆に嫌われて、勝手に学校来なくなったんじゃん!」
「お前らが寄ってたかってその子を苛めたからだろ」
「訳わかんない!兄ちゃんマジウザいし!ストラスもなんとか言ってよ!」
今まで黙ってたストラスが口を開く。
俺は何も悪いことしてない!ストラスだってそう思うよね!?
だってからかったのは俺だけじゃないんだから!
『直哉、貴方がしてることは相手を傷つけている。それは悪いことですよ』
ストラスまでそんなこと言うの?
むかつく……むかつくむかつくむかつく!!
「なんだよ皆して……マジむかつく」
「今回のはお前が悪い。やっちゃったことはしょうがないけど今度その子が来たら、ちゃんと接してやれよ」
「うっさいなぁ!偉そうに言うなよ!なんで俺が悪いんだよ!あいつだって散々俺たちのこと馬鹿にしてきたんだよ!?ざまぁみろじゃん!」
「直哉、そう言う考え方は良くないって……」
「なんだよ。兄ちゃんの方が俺よりもっと酷いことしてるくせに」
「俺が何したって言うんだよ……」
呆れた様な兄ちゃんの口調が頭にくる。何だよ忘れたのかよ。
あんだけ泣いてたくせに。俺よりもそっちのが酷いことしたくせに!
「人殺したくせに」
『直哉!なんてことを言うのです!?』
ストラスが俺を非難する。
なんだよ。本当のことじゃん。
「人殺しが俺の兄ちゃんとかマジありえないし」
『直哉!』
ストラスが俺に大声を出した瞬間、俺は顔をはたかれた。
目の前には俺を見降ろしてる兄ちゃんの姿。
「いった!何すんだよ!?」
「殺したくて殺したと思うのかよ……」
兄ちゃんの声が震える。そこで俺は自分が言ったことにやっと気づいた。
肩を思いきり掴まれて、痛さで顔が歪む。
「お前は!俺がそんな簡単に人を傷つける人間だと思ってんのかよ!?」
「いっ!」
「お前、最低だよ……」
その言葉は俺の心に深くのしかかった。
それと同時に湧きあがるのは怒り。
俺は兄ちゃんの手を払いのけて、立ち上がる。
「最低で悪かったな!人殺しの兄ちゃんの方がよっぽど最低だ!警察に捕まればいいんだ!!」
『直哉!』
俺は勢いよくドアを開けて部屋を出ていく。
「ほっとけストラス」
『しかし……』
「俺、直哉にそんな風に思われてたんだな……」
『拓也……』
「人殺し、か」
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俺は自分の部屋に入って荷物を積める。
大きめのリュックにお気に入りの洋服、財布、部屋に置いてあったお菓子。
片っ端から詰めていく。
「出て行ってやる!」
兄ちゃんもストラスも理解してくれなかった!
ママもパパもきっと同じ事言うんだ。皆、あいつと兄ちゃんの味方なんだ!!
俺はリュックを背負って、夕飯を作ってるママに何も告げずに家を出た。
向かったのはあの公園。
「あ、直哉だ」
ボティスが俺に指差してくる。
2人の姿を見つけて、俺は顔がほころぶのが分かった。
「何でお前そんな大荷物なんだ?」
俺のリュックを見てラウムが顔をしかめる。
俺は今までのことを全部2人に話した。
「お前の兄ちゃんうぜぇな」
「だろ!?」
「あぁ、いい人ぶってさぁ。結局はあれだな。当事者にしか分かんないって奴だな」
やっぱ2人は俺のことを理解してくれる。
俺の味方をしてくれてる!友達だから!
「んで、お前は家出でもすんのか?」
「うん。兄ちゃんに会いたくないし、結局は皆あいつの味方だ」
「そっかぁ……よし。ボティス、俺達も家出するか」
「はぁ?」
「3人一緒なら怖くないってね!」
「そんな悪いよ!」
「平気平気」
ラウムは笑ってボティスに何やら小声で話しかける。
それを聞いたボティスも頷いた。
「そうだなぁ。直哉1人は可哀想だし、付き合ってやるかぁ」
俺、マジでいい友達もった気がする。
俺達は暗くなるまで一緒に遊んでいた。
―拓也side―――――
「拓也ー、直哉ー、ストラスー御飯よー」
母さんに呼ばれて、俺は勉強を中断した。
あれ?直哉ってリビングにいたんじゃないのか?
階段をドタドタ降りる音は聞こえたんだけど、俺はストラスと1階に降りた。
「母さん、直哉こっちにいないのか?」
「えー?リビングには来てないわよー。部屋にいないの?」
「いや、まだ確認してない」
「確認してきてちょうだい。今日はパパも早く帰ってくるんだから」
「今日残業ないの?」
「仕事が早く終わったそうよ?だからあんたたちにケーキ買ってきてやるーだって」
「マジで?ラッキー!」
「あの人なりにあんた達に気を遣ってるのよ」
「……うん。ありがとう」
後で父さんにもちゃんと礼を言おう。
そう思いながら、俺は直哉の部屋に向かう。
「入りづらい……」
あの事があった手前、部屋には入りづらい。でも直哉も意地になってるだけだよな。
だって俺が本当に落ち込んだ時には、一緒に寝るとか言い出したし。嫌われてなんかないよな。
そう思う事で何とか平常心を保ち、俺は直哉の部屋を開けた。
「あれ……いない」
『どういう事でしょう?』
「あいつ散らかして……」
部屋は少し散らかった状態だった。
俺はそう呟いて、部屋の中に入った。
でも何か様子が違う。
「お菓子がない」
直哉のお菓子箱は空っぽ。常に何かしらが入ってるのに。
いつも机の上に置いてる財布もない。
え、どういう事?もしかして……
「家出……?」
俺は真っ青になって慌てて1階に降りた。
ストラスはまだ直哉の部屋にいたけど、そんなの気にしてられない。
『これは!』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「母さん!直哉部屋にいない!財布もお菓子もなくなってる!」
「え?どういう事!?」
母さんが慌てて俺の肩を掴む。
「家出したのかも……俺のせいだ!」
「拓也?」
罪悪感が俺を包み込む。
涙がこぼれそうになる。
「俺が直哉を殴ったから!」
「どういう事なの!?」
俺は今日のことを洗いざらい母さんに話した。
母さんは俺の頭を優しく撫でる。
「貴方は悪くないわ。きっとあたしも同じことを言ってたと思う。でも貴方のことを人殺しなんて……どうしてそんな酷い事を……」
「直哉もムキになってただけと思うんだ。俺が過剰に反応しただけで」
「そんなこと言われて笑ってられる人なんているんもんですか!拓也の反応は正しいわ」
母さんは俺に優しく笑い返して電話の受話器をとる。
「とりあえず直哉を探さなきゃ……大輝君の所に行ってるかしら?電話かけてみるわね」
『拓也!大変です!!』
母さんが電話をかけようとしていると、ストラスが慌てて俺のところに飛んできた。
口にはなぜかベルトを咥えて。
「なんだよストラス。今それどころじゃないんだよ!直哉を探さなきゃ!」
『違います。このベルトです』
ストラスはベルトをテーブルに置く。
ベルトには宝石がちりばめられていて、かなり高そうだ。
俺と母さんはそれを覗き込んだ。
「高そうなベルトだけど拓也のなの?」
「違うよ」
『直哉がお菓子箱の下の引き出しに入れてました』
「まさか万引きしたとか言うんじゃねぇだろうな?」
『違います。アイオライトのベルト……アイオライトは悪魔ラウムの契約石です』
目の前が真っ白になる。
直哉が悪魔と契約した……?
母さんも固まってしまっている。
『パイモンに聞いたのですが、ラウムはボティスと行動を共にしています』
ボティス!?あのエアリスの娘を殺した奴か!
手が震えるのがわかる。
なんで直哉はあんなのと契約したんだよ!?
『直哉は公園で2人組の少年と仲良くなったと言っていました。おそらくラウムとボティスのことでしょう。それから直哉は少し変わったように思えます』
「変わったって?」
『和田という男性が亡くなった時もケロリとしていましたし、クラスメイトの少年のことも。それに何より拓也を人殺し扱いしたこと。直哉はそのようなことを言う子供ではありません』
「どういう事なの?」
母さんの声が震える。
その気持ちは俺も同じだ。
「直哉は操られてるのか?」
震える口で出した言葉にストラスは首を横に振った。
『ラウムの能力はプライドの崩壊、地位の剥奪。契約者が望んだ相手のプライドを崩壊させ、相手の地位を奪います。おそらく和田という男性とクラスメイトの少年は直哉がラウムに命令させたと思われます』
「ちょっと待てよ!直哉のせいだって言いたいのかよ!?いくらお前でもそんなこと言うと許さねーぞ!」
『全てではありません。しかし直哉は前々からあの2人に対しての不満は夕飯の時、貴方と話している時、節節で語っていました。恐らくラウムにも同じような形で不満を言ったのでしょう。そこをラウムは見逃さなかった。ラウムは直哉の不満を言った相手をプライドの崩壊を望んだ相手として解釈し、事を起こしたのでしょう。彼の能力は契約者が望んだ相手にしか効果を及ぼすことができませんから』
なんだよそれ……直哉の悪口が原因って言いたいのかよ。
違う。そんなはずはない。
『ラウムは話術も巧みです。直哉を丸めこみながらも、自分がやっていることは悪いことではないと教え込んだのでしょう。だから直哉は感情のコントロールが効かなくなった。自分の不満を受け入れてくれなかった拓也に苛立ちが爆発したのでしょう。今までの直哉だったならば、あんな過激な中傷はしなかった。「あいつは酷い!」その程度だったはず』
確かに今日の直哉の悪口は目に余るものがあった。
いつもなら聞き流すけど、それが出来ないくらい酷いものだった。
「俺、探さなきゃ……直哉を助けなきゃ!」
『しかしどこを探すのです?』
「母さん!大輝君に電話掛けてくれ!居そうな場所を教えてくれ!俺が探すから!」
「わかったわ!」
母さんは連絡網のプリントで大輝君の家の電話番号を探す。
その間に俺はシトリーに電話した。
『もしもし』
「シトリー!?俺だよ拓也!」
『ディスプレイに名前でんだからわかるよ。何そんなに慌ててんだ?』
このテンションの違いがもどかしい。
のんびりしてる暇もないのに!
「直哉が、直哉がいなくなっちゃったんだよ。たぶん家出したんだ」
『はぁ?直哉って確かお前の弟だろ?なんでまた』
「俺と喧嘩になっちゃって」
『自己責任だろ。まさか俺に探させる気か?』
「違うんだ。契約してたんだよ」
『は?』
「直哉がラウムって奴と契約してたんだ!」
『冗談だろ!?くっそ……こんな時に』
「え?」
『今、パイモンとセーレがいないんだよ。あいつらケータイ持ってねぇし連絡つかねぇ。何で早めに俺らに報告しないんだ!』
「俺だって今気づいたんだ!じゃあ俺だけで戦えってことかよ」
『いや、ヴォラクとヴアルはいる。契約者はお前じゃねーけど状況が状況だ。俺が光太郎達に連絡入れとくから、お前は直哉探せ。急がないと魂取られるかも知れねぇぞ』
「魂とか……そんなこと今言う必要ないだろ!?」
『わりぃ。焦らすだけだな。とにかく、俺も出るから直哉が行きそうな場所をメールで教えろ』
「わかった」
俺は電話を切って、母さんが電話を切るのを待つ。
「拓也、大輝君の家には直哉はいないみたい。でも“やまびこ公園”ってあるでしょ?あの隣が幼稚園でかなり大きい公園」
「うん」
「そこで直哉と大輝君はその悪魔たちと遊んでたらしいの。特に直哉は毎日通ってるって」
「ストラス!」
『行ってみましょう!』
「私も行くわ!」
母さんも行こうとするもを俺は慌てて止めた。
「ダメ。怪我するかもしれないから」
「直哉が危険な目に遭うかもしれないのよ!?黙ってられる訳ないでしょう!」
「直哉は俺が絶対に助け出す。だから待ってて。怪我とかされたらたまんないよ」
母さんはその場でへたり込んでしまう。ごめん母さん。
俺は何も言わずにストラスと家を出た。
シトリーに公園の場所をメールで教えて、その場所へチャリを飛ばす。
直哉、無事でいてくれ!