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第72話 恐怖の指きり
澪からもらったチョコはメチャクチャ綺麗にできていて、食べるのがもったいないくらいだった。
とりあえず俺はチョコレートを写メでとってからチョコを食った。


72 恐怖の指きり


「金田さん受かったって!」

俺は家に帰ってストラスに一番にその事を告げた。
今日学校にいる時に金田さんから連絡があった。大学に受かったって!

『ほう、そうなのですか。良かったではありませんか』
「うん!だから今度会いに行くことにした!まじですげぇよなぁ!ってか金田さんこっちに住むんだよな!これからはいつでも遊べるな!」
『そのようなことばかり……』

そう言いながらもストラスは嬉しそうだ。

「ただいまー」
「直哉お帰りー。お前また遅かったなぁ」

また公園かどっかで遊んでたんだろ。
俺は玄関まで直哉をお出迎えしてやった。

「あ、ただいま……」

直哉は俯いて、そのまま俺の横を通り過ぎていく。
直哉どうかしたのか?暗い面持ちで自分の部屋に向かっていく直哉に俺とストラスは顔を見合わせた。

「拓也」

振り向くと母さんがこっちに手まねきしている。

「なに?」
「今日PTAから電話があって、直哉の学校の先生、ほらあんたもお世話になったでしょ?和田先生」

あぁ、あの怖い先生か。
俺あの先生が担任になった時は死ぬかと思った。
でも今思ったら生徒思いの熱い先生だ。

「和田がどうかしたの?」
「和田先生がわいせつ容疑で警察に捕まったそうよ」
「うそ!?」
「学校は和田先生を懲戒免職にしたらしいわ……そのせいできっと直哉元気ないのよ。あんた直哉に今日は学校どうだった?とか聞いちゃ駄目よ」
「わかった」

和田が?なんかの間違いじゃないか?
だってあの先生、怖いけどそんなことする先生じゃないし……
直哉は相当落ち込んでしまっている。

「ストラス、直哉の神経刺激させんなよ」
『私はそのようなヘマはしません。気をつけるべきは貴方でしょう』

う、否定できない。
とりあえずこの話には絶対に触れないこと!
母さんに釘をさされて、俺は頷くしかなかった。なのに……

『今日、都内の小学校教諭の和田公彦(わだきみひこ)さん(53)が、わいせつ容疑で警察に…』
「わ――――!!直哉アニメみたいよなぁ!?」

夕飯のときにテレビをつけたらニュースでいきなりの報道。
俺は焦ってチャンネルを変えた。

「見たくない。ご飯いらない」
「え、ちょ……直哉!」

直哉はご飯も食べずに自分の部屋に行ってしまった。

「『拓也』」

俺何も悪いことしてないよな。むしろ気ぃ使ったよな?なんかステレオで低い声が聞こえんだけど。
完全に委縮してしまった俺に母さんがため息をついた。

「直哉……早く元気になってくれるといいわね」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「っつーことがあったんだよ。おかげで昨日はさんざん」

次の日、学校で俺はこの事を後ろの席の上野に相談した。

「あー確かに昨日ニュースで言ってたよな。隣のクラスの持田もお前と同小でさー。なんかかなり気にかけてたけど」
「そうなんだよー直哉も完全に落ち込んじまってるし、どうしたもんかねぇ」
「持田は和田って奴はそんな先生じゃないんだけどなぁっつってた」

やっぱり!皆そう思ってんだよな!

「そうなんだよ!俺一回あいつが担任になったことあんだけどさ。怖いけど、生徒思いのいい先生なんだよ。なんでこんなことになったかなぁ」
「まぁ今回はもうしょうがないじゃん。お前もあんま気負うなよ」
「うん。そのつもり」

やっぱ俺と同じ小学校の奴は少し、今回のことを気にしてるようだ。
自分の母校がこんなニュースに取り上げられるなんて誰も思わないもんなぁ。
直哉本当に大丈夫なんかな……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「へぇ……直哉君きつかっただろうなぁ」

昼休み、話を聞いた光太郎が辛そうに眉を下げた。

「俺の部活もさー直哉君と同小の出身いてさぁ。でも皆言うんだよね。和田はそんな先生じゃないのにーって」

中谷の話を聞いて、やっぱ皆そう思ってんだなぁって感じた。
確かにあいつは怖かったけど、俺が財布を無くした時には見つかるまで一緒に探してくれたし、家庭訪問の時には、めちゃくちゃ母さんに俺のことを褒めてくれた。

本当に和田がやったのかな?

信じたくなくて、未だに疑い続けてる自分がいる。
事実だったら、なんでそんなことしたんだろう。
和田って結婚してて、子供も確かもう大学を卒業するって聞いてたんだけど。
別に普通の家庭、むしろ、結構幸せな部類に入るんじゃないかな?
一体何があったんだ?

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「じゃあな光太郎、中谷」
「おう」

放課後、俺は塾がある光太郎と、部活がある中谷に手を振って教室を出る。
今日も直哉は公園で遊んでんのかな?
なんか公園で友達で来たって言った日から、ずっと公園で寄り道してる。
今日も俺の方が先に家に帰り着くんだろうな。
そう思いながら昇降口を降りていると、澪が俺の名前を呼んだ。

「拓也!」
「あれ?澪帰んの?一緒帰ろうや」
「うん。それはいいんだけど」

それはいいんだけどって何?俺結構ドキドキして一人浮かれてんのよ?(笑)
ってか何で澪、そんなに顔が青ざめてんだ?
俺達はそのまま一言も話さずに靴をはきかえて、学校を出た。

気まずい。

学校を出たけど澪は黙ったまま。
何があったんだ?何か嫌なことでもあったのか?まさか……!

「澪、何かあったんか?まさかイジメ!!?」
「違うってば!拓也、話聞いてない?」
「何を?」
「和田先生が……自殺したんだって」
「は?う、嘘だろ?なぁ……」

思わず声が震える。
和田が死んだなんて嘘だよな?
澪も俯いて辛そうにしてる。

「本当。だから明日の夕方にお葬式やるから元生徒も来れたら来てほしいって。多分、拓也の家にも連絡来てると思う。あたしも仕事場に電話かかったって、お母さんからさっきメールきた」

何も言葉が出なかった。信じられなかった。
和田が死んだ?本当に?

「俺、え?嘘だろ。だって今回の事件も、なんかの間違いって思ってて……」
「あたしも信じられない。和田先生、すっごく優しい先生だった。あたしね、お父さんもお母さんも働いてるでしょ?だから買いものとか結構自分でしなきゃいけなかったんだけど。でね、和田先生とスーパーでよく会ってたんだ。和田先生、いっつもあたしの買い物袋持って家まで送ってくれた。時々、その中にこっそり自分が買ったお菓子とかも入れてくれてたの」
「うん……」
「あたし和田先生大好きだった。卒アルにも書き込んでもらったんだよ?これからも元気で頑張ってくださいって、先生も頑張るよって。なのに、なんで……なんでなのかな?」

澪はそう言い終えた瞬間、頬に涙が伝った。
泣いてるんだ。
澪の泣き顔を見てたら、俺もこらえてたものが一気にはじけ出した。
道路で2人で泣きながら帰った。
そんなのを人に見られて、すごく恥ずかしかったけど、でもそれ以上に悲しかった。

学校の恩師が自殺するなんて夢にも思わないじゃないか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也、言わなきゃいけないことがあるのよ……」

家に帰って母さんとストラスが俺を気まずそうに出迎えた。

「知ってる。和田が自殺したんだって?」
「知ってたの……あんた泣いたの?」
「澪につられて」

本当は悲しくて泣いたんだけど、それを知られたくなくて、もらい泣きしただけだって言った。
でも母さんは何も追求しては来なかった。

「そう。明日葬儀をやるみたいなんだけど、中央葬儀場あるでしょ?あそこでするみたいよ。夕方の多分5〜6時くらいと思うんだけど……あんたはどうする?出る?」
「うん。明日学校終わったら行くつもり」
「わかったわ。拓也、辛い事があったらいっぱい泣いていいんだからね?」

母さんはそう言って、ストラスを俺に手渡してキッチンに入っていく。
母さんはわかってるんだ。
自分の目の前じゃ俺が強がって泣かないことに。確かに俺は高校生にしてはよく泣くと思う。
ヴェパールの時も家で号泣した。
でもそれでも、やっぱプライドってもんがこんな時にも存在する訳で…できれば母さんの前では泣きたくない。
男なんだからって思われるのが嫌だから。
それがわかってるから母さんはストラスをその場に残して行ったんだ。
母さんの優しさにまた涙が出てくる。

『拓也、とりあえず部屋に行きましょう。玄関は流石にまずい』
「ぞうする」

涙で鼻水が出て、声がくぐもる。ぞうするって何だよ。
俺はストラスを抱えて自分の部屋に向かった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「俺さぁ、和田が担任になったことがあってさぁ」
『はい』
「そん時はあいつすぐ怒るから嫌いでしょうがなかったんだ。まぁ理由は授業寝てたりとか、宿題忘れたら怒るし程度のものだけどさぁ」
『子供にありがちな理由ですね』
「でも実際、本当に生徒が困った時は絶対に生徒を見捨てないんだ。解決するまで一緒になって頑張ってくれるんだ。今考えるといい先生だったんだよな」
『教師の鑑のような人物ですね』
「うん……」

俺はベッドから立ち上がって、本棚をあさる。

『拓也?』
「あった」

手にしたのは小学校の卒アル。
俺はページをめくっていく。

「これが和田」

俺が指差した先には1人のおっさんの姿。
そこには7:3分けで、少しぽっちゃりした男が映っていた。

『この方ですか』
「うん。でももう6年前だからなぁ。今はもっと剥げて太ってたりして」

はははと笑いながらページをめくる。
そこには修学旅行や運動会の写真が載っている。
その中に、徒競争で1位のリボンを誇らしげに持って映ってる俺と友達が、和田と一緒に写っている物もあった。
俺は黙ってページをめくっていく。最後に皆に色々書いてもらったページを開く。
そこには和田も書き込んでいた。

“もう少ししっかりして下さい。先生はいつも心配でした。
でも明るく、人懐こいところが池上のいいところだと先生は思っています。
中学生になったらその性格のまま、もう少し大人になってください。”

最初見たときに、俺は和田になんだよこれー!って言った記憶がある。
でも和田は笑って、本当のことだろうと言いながら俺の肩を叩いた。

『拓也……』

涙が卒アルにこぼれた。
俺は卒アルを閉じてベッドに置く。

「なんで、こんなことになっちまったんだよ。馬鹿じゃねぇの和田の奴……これ絶対何かの間違いだって。和田は絶対なんかに巻き込まれたんだって」
『……』
「和田がこんなことするはずねーもん」

ストラスは黙って俺にすり寄る。
何も言ってこないストラスに嬉しいのか悲しいのかわからなかった。

励ましてほしいけど、気休めは言われたくない。
でも何も言われないと、ちゃんと話を聞いてるのかって思う。

悲しいのと複雑なのがごっちゃになってよくわからない。
でもきっと一番つらいのは直哉の方だ。今、和田が同じ学年にいたのに…直哉の前でだけは泣くまい。
あいつを励ましてやらなきゃ。

だから今だけは我慢しないでいいよな……

―直哉side―――――
「直哉暗いなぁ。何かあったのか?」

ラウムに話しかけられて現実に引き戻される。
大輝が行けないって言ったから、俺は今日1人で公園に来ていた。
和田先生が自殺したってことで学校は今日は急に授業を中断して全校集会になった。
和田先生が担任の子は皆すっごい泣いてた。
俺も悲しい。運動会の練習の時、あの先生は怖かったけど、でもそれ以上に一緒にできた時には喜んでくれた。
悲しくって涙が出そうになる。

「俺の学校のね和田先生って人が死んだんだって」

その言葉を聞いたボティスとラウムは目を丸くした。

「マジで?」
「うん」
「だから泣きそうになってんの?」

俺は何も言わずに俯く。
だから見えなかったんだ。ラウムとボティスがその時、笑みを浮かべていたことを。

「でもそいつ、お前こないだ嫌いって言ってたじゃん。痛い目見ればいいって」
「言ってたけど……でも死んでほしいとまでは……」
「甘いなぁ直哉は」

ラウムが俺の目の前にしゃがみこむ。

「このまま一生ムカつく奴に逆らわないまま終わる気か?」
「え?」
「それなら最後は痛い目見せたいって思うだろ?」

ラウムの言葉に背筋が震える。

「そんなの思わないよ」
「優しいんだなぁ直哉は……俺だったら地獄に落としてやるぜ」

なんでラウムそんなに笑ってるの?
なんで人が死んだって話をしたのに、そんなに平気でいられるの?

「直哉がそう言ったから俺が不幸にしてやろうと思ったのに」

その言葉で何かがはじけた。

「まさかラウムのせいじゃないよね?ラウムがやったんじゃないよね!?」
「おいおい冗談だろ?どうやって俺がそいつを殺したんだよー」

ハッとして、ラウムを腕を掴んでいた手を放す。
そうだ。和田先生はわいせつ容疑ってやつで捕まって自殺したんだ。
ラウムは全く関係ないじゃんか。

「ごめん。なんかムキになった……」

俺が俯いているのを見て、ラウムが俺の肩を優しく叩く。

「気にしてねぇよ。テンパっちまうのはしょうがねーじゃん。このくらいで怒んねーよ」
「ラウムは優しいんだね」
「友達にはな」

その言葉で顔を上げる。
目の前には微笑んでいるラウムとボティス。

「辛かったら俺に言えよ?愚痴でも何でも。嫌なことあったら溜めこむことはねぇ」
「……ありがとう」
「いいって。友達だろ?お前が嫌なことがあったら俺が助けてやるよ」

ラウムは小指を差し出す。

「なに?」
「指きりしようぜ。お前が困ったときは助けてやる。友達は裏切らない」

俺、すっごいいい友達をもったんだ。
嬉しくて、思わず笑顔になって指きりをした。

「指きり千万、嘘付いたら地獄におーとす。指切った」
「違うよ。針千本だよー」

俺が訂正するとラウムは笑う。

「針千本とかなんか現実味わかないだろ?アレンジアレンジ♪」

地獄も実感わかないけど…まぁいいや。ただの指きりなんだし。
ボティスも小指を差し出したから、俺はボティスとも指切りした。

「そういや直哉」
「ん?」
「お前、あのベルト兄ちゃんとペットに見られてねぇよな?」
「うん。見せてない。お菓子箱の中にしまってるよ」
「そっか」

ラウムは安心したように笑う。

「あいつらに見られてねぇならいいんだ。どっか出かける時はつけてもいいんだぜ。あれは値打ちもんだぞ」
「そんな……あんな高そうなのつけれないよ」
「気にしなくてもいいのに。ま、見られてなかったらいいんだ」

なんでラウムはベルトを見られたくなかったり、自分の名前を教えたくなかったりするんだろう?
俺は友達が自分の親に俺のことを友達って話してくれてたらすっごく嬉しいのに……でもいいや。
なんかこういうのって大人の友達って感じ。
ラウムとボティスは大人っぽいし、そんな子と友達になれたことが嬉しい。
時計の針が5時30を指す。辺りはかなり薄暗くなっている。

「俺、帰らなくちゃ」
「マジで?じゃあな」

ラウムとボティスに手を振り、俺は公園を出る。

「約束破ったら地獄に送るぜ。直哉」

ラウムがそう呟いたのは俺には聞こえなかった。
指切りしたこと、助けてやるって言われたこと、それだけで心が軽くなった気分だ。
俺は自分の小指に目をやる。
指切りしたことがなんだか嬉しくて、少し笑ってしまった。

悪魔との約束は破れない。
破ったら恐ろしいペナルティが付いてくる。それは恐怖の指きり。

「少しずつお前のペースになってきてんなラウム」
「ひひ……さぁな」

さぁ堕ちて来い直哉、俺の元に。

継承者と一緒に……