第71話 ハッピーバレンタイン!
「ねぇ。拓也って生チョコ平気だっけ?」
澪にそう聞かれた時、俺は天にも昇る気持だった。
71 ハッピーバレンタイン!
「平気!全然平気!」
「よかったぁ。ありがと」
澪はそのまま教室を出ていく。
やった!今年もチョコもらえるんだー!
「義理チョコなのに偉い喜んでんな」
「俺達も聞かれたってことは黙っとこうや」
中谷と光太郎がボソボソと喋ってたのを俺は聞こえなかった。
毎年澪はバレンタインにチョコをくれる。
義理ってわかってるけど、やっぱ好きな子からもらえると嬉しいもんで……案の定俺は心の中で舞い上がっていた。
今日は2月12日。明後日がバレンタインデーな訳!!
今年は生チョコ作るのかぁ。嬉しいなぁ。澪は料理上手だからきっと美味いのができると思う!
あー!なんだか今からが楽しみになってきた!!
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「あれ澪」
学校帰りマンションによったらそこには澪がいた。
「あ、拓也と広瀬君。どうしたの?」
「いやー剣の稽古でもしようかな、と。そっちは?」
「あたしはヴアルちゃんとチョコ作るんだよー。2人で一緒に」
「そうだよー2人にもあげるね!」
「えーヴアルちゃん。それってお菓子業界の策略だぜ。1年のチョコレート消費量の2〜3割がこの日によって消費されるからな。騙されたら駄目だぜー」
「策略?悪いことなの?」
「広瀬君。そんなウンチクどうでもいいから」
澪の低い声に調子に乗っていた光太郎が真っ青な顔で首を振る。
「嘘です。セイントバレンタインデーは女子が男子にチョコレートを送る愛の日です」
光太郎達の会話を聞きながら俺はぼんやりと考えていた。
あれ?澪の単品じゃないの?なんだヴアルもいるのか。
「拓也の心の声、すっごくわかりやすかったー。むかついたから爆破していい?」
「すいません。勘弁して下さいマジで」
読まれてた……
ヴアルに頭を下げて、相変わらずパソコンをしているパイモンの所に向かう。
「主、稽古ですか?」
「あぁ、うん」
「そうですか。しかし今日はシトリーは留守なんです。光太郎、今日はヴォラクに稽古をつけてもらってくれ」
「わかった」
光太郎は頷くと、ゲームをしているヴォラクとセーレ(無理やりやらされてる)のとこに向かう。
「さて私達も始めましょうか」
「うん」
―ヴアルSide―――――――
「ヴアルちゃん。何の形にしようか?」
「やっぱハート!」
あたしの意見を聞いて、澪は雑貨屋さんの袋の中からハートの形の入れ物を取り出した。
澪が言うにはこれでチョコレートを作るんだって!
そう。あたしは今チョコレートという物を澪と作ろうとしてるの。
人間の世界ではバレンタインデーっていうお祭りがあって、好きな人やお世話になった人に女の人がチョコレートを贈るんですって!すっごく素敵な習慣じゃない!?
そんなお祭りを見てるだけじゃつまらない。
だから澪と一緒に作ってみることにしたの!
でも作り方がわかんないから教えてもらうんだけどね。
「作るのは簡単なの。まずチョコレートを湯せんで溶かして」
ゆせん?聞きなれない言葉に首をかしげる。
そんなあたしを見て、澪は慌てて簡単な言葉に言いなおした。
「あ、ボールにチョコレートを入れて、お湯の入ったお鍋の中にボールを入れるの」
なるほど。それを湯せんって言うのね!あたしはボールにチョコレートを割っていく。
えーっと……これをお湯の中に入れるんだよね。
お湯は澪が沸かしてくれている。この中にボールを突っ込むんだよね?
「ヴアルちゃん!待って!」
「え?」
ボールをお湯の中に入れようとしたときに澪が焦ったように大声を出した。
「確かにボールを入れるんだけど、ボールの中にお湯入れたら駄目!」
「つけるんじゃないの?」
「つけるんだけどー……湯せんは違うの。なんて言うか、とりあえずボウルの中にお湯は入れたら駄目だからね!」
言われたとおりにボールをお湯の中に入れる。(ちゃんとボールの中にお湯が入ってないことも確認した)」
こんなんで本当に溶けるのかしら。澪は横で白い粉の準備してるし。
でもなんだか楽しみ♪女の子と一緒に何かを作るって言うのも初めてだから。
やっぱり澪と契約してよかった♪
―拓也Side――――
『今日は止めにしましょう』
「へ?なんでだよ!?」
稽古をしている途中でパイモンは一方的にそう告げ、剣をしまう。
俺なんか怒らせるような事した?それとも俺があまりにも上達しないから!?
光太郎とヴォラクもきょとんとした顔でこっちを見ている。
『主、気づいてないのですか?』
「なにが?」
『浮足立っています。踏み込みも甘い。上の空ですね』
本当のことだけに言い返せない。
後ろではその話を聞いた光太郎とヴォラクが大爆笑している。
『拓也だっせー!あははは!!』
「お前そんなに松本さんのチョコが気になんのかよ!あっははは!欲しがりすぎだろ!」
恥ずかしい!恥ずかしすぎて死にそうだ!!
パイモンもため息をついてしまっている。
そうだよ欲しいよ馬鹿やろー!澪のチョコ欲しいに決まってんじゃん!!
それが貰えるし、ましてやこの空間出たら隣の部屋で澪が作ってんだぞ!?気になるに決まってんじゃん!
他に誰かに渡すのかとか考えちゃうに決まってんじゃん!!
「うるせーな!かんけーねーだろ!!」
俺が騒げば騒ぐほど悪循環。
ヴォラクなんて転げ回っている。
なんて失礼な奴なんだこいつ!人の純粋な想いを馬鹿にしてぇ!
はぁ、なんか嫌になってきた。パイモンも完全にやる気を無くしてしまってる。しょうがないな。
俺は浄化の剣をしまう。
「今日はなし」
「それがいいと思います」
そんなバッサリ言わないで。
正直言って滅茶苦茶恥ずかしいし切ないんだから。
俺は仕方なくパイモンの空間を出た。
「拓也、早いね」
セーレがビックリしたように俺に振り返る。
「うん、まぁ色々あって」
「浮かれてるんだね」
そうですね。
わかってるなら聞かないでください。
俺はさらに恥ずかしくなり、セーレの隣にどかっと腰掛けた。
キッチンからは甘い香り。
―ヴアルSide――――
「じゃあ後はこれを冷やすだけ」
「チョコって簡単ね!」
澪はそうだねって笑って、象ったチョコを冷蔵庫の中に入れる。
あとは数時間待つだけなんだって。
楽しみ!
生チョコって前に澪に貰ったことがあるけど、すっごい甘くてすっごい美味しかった!
これを男の人は貰えるなんて羨ましい!
光太郎が言うにはお菓子業界の策略?とか言うらしいんだけど、そんなの関係ないよね!
「そう言えばヴアルちゃんは皆にあげるの?」
「皆よ!セーレにもパイモンにもシトリーにもストラスにも拓也達にも!」
だってあげなかったら可愛そうじゃない!皆チョコレート貰えなさそうだもの!
あ、シトリーとセーレは貰えるかな?
「そうなんだ。じゃああのおっきいハートは誰に上げるの?」
そう。あたしの作ったチョコで一際おっきいチョコがある。
そしてそれはハート型の容器に入ってる。それだけは生チョコなんだけど少し固めに作ってるんだ。
「あれはヴォラクの」
「ヴォラク君の?」
うん。だってヴォラクはあたしに居場所をくれたから。
グレゴーリーに嫌われて行くとこのないあたしに手を差し伸べてくれたから。
澪はにっこりと笑う。
「そっか。ヴォラク君喜ぶよ」
「拓也も澪から貰って喜ぶよ」
あたしがそう言った瞬間、澪は「え!?」という顔をした。
気づいてないとでも思ってんのー?
澪が作ったチョコレート、1つだけ他のよりも少し大きいのがある。
それが誰の物かなんてお見通しなんだから。分かってないのはお互いだけ。
光太郎も中谷もストラスもパイモンもセーレもシトリーもヴォラクもみーんな分かってる。
だって拓也があれだけオープンなんだもの。何で澪は気づかないの?ってくらい。
澪は顔を少し赤くして照れたように笑った。
「喜んでくれるといいな」
そんなの喜ぶに決まってる。世界一大好きな女の子からチョコをもらえるんだよ?
世界中のどんな男よりも拓也は幸せじゃない!
早くチョコ固まんないかな?
冷蔵庫を何回も開けてあたしはチョコレートを確認する。
「2人とも、コーヒー淹れていい?」
あたしが冷蔵庫を覗き込んでると、セーレがドアを開けて入ってきた。
「あ、セーレさん。どうぞ。もう後は待つだけだから」
「お疲れ様。綺麗に出来た?」
「生チョコなんで型をとってもあんま意味ないんですけどね」
「そう。拓也は酷く楽しみにしてたみたいだよ。稽古中に集中力がないってパイモンに言われて稽古を打ち切られちゃったからね」
拓也が?その話を聞いて可笑しくなる。
セーレも思い出したのか、少し笑みを浮かべながらコーヒーを淹れ始める。
「セーレさんコーヒー好きだね」
「あぁ、そうだな。紅茶よりは好みかな」
「そうなんですか」
澪と軽く話をしながらセーレは慣れた手つきでコーヒーを淹れていく。
あたしはその会話に耳を傾けながら、まだかまだかと待ち続ける。
このチョコを渡したら皆どんな反応するかな?
シトリーとセーレは喜んでくれるわよね。パイモンもこれを食べたらあたしが料理できるって見直すかしら?ストラスも褒めてくれるわ。
光太郎と中谷もきっと有難うって言って受け取ってくれるはず。
中谷は数日前に稽古に来たときにあたしに頂戴って言ってきたから。
拓也は澪から貰ったって言うのが嬉しすぎて、あたしのこと忘れてそうだけど、仕方ない許してあげよう。
ヴォラクはどうかな?チョコの形なんて見ないでパクパク食べちゃいそう。でも美味しい!って言っておかわりをねだってくるかも!
そうしたらあたしの分を分けてあげよう。
そのことを考えるとワクワクしてくる。
チョコレート早く固まんないかな?
澪ともチョコを交換するって約束もしたし。
あぁ早く来いバレンタイン!!