『拓也、今日はオーストラリアに行きますよ』
「え?」
朝起きた俺にストラスがオーストラリアに行くと言い出した。
『今日はヴェパールと約束をした一週間目の日です』
69 人魚姫の恋
「拓也……颯太さんの遺体が昨日見つかったんだって」
「そっか……」
マンションに着くと、先に着いていた光太郎が気まずそうに話しかけてきた。
朝から暗い気持ちになる。
光太郎も気まずそうに顔を俯かせた。
「さっきシトリーから聞いたんだ。そんで今日のサーフィンの大会は急遽場所を変えることになったらしい」
「場所を?」
「うん。最初は中止になりかけたんだけど出場者が反対してこうなったんだって。あの海は警察が調べるからって、その隣の海に場所が変わったんだ」
「そっか」
ヴェパールは今どうしてんのかな?
「なんか酷いよな……今日がその大会だってのに」
「うん……」
「なんか拓也達暗いなぁ。どうかしたの?」
事情をあまり知らないヴォラクとヴアルが俺たちに近寄ってくる。
説明するだけでもテンションが下がりそうだ。
「まぁ色々あんだよ」
俺が適当な言葉でごまかすと、ヴォラクは不満げな表情を浮かべた。
「なんだよそれー」
「主、準備が整いました。行きましょう」
「うん」
「あーまた俺留守番?中谷また部活なの?」
ヴォラクがブチブチ言いながらWiiのコントローラーを振り回す。
「いいじゃないヴォラク。また百貨店に行こうか♪」
「あんな女ばっかのとこ絶対に嫌だね」
どうやらヴォラクは昨日の買い物で百貨店は懲りたようだ。
たしかに毎年バレンタインフェアって人多いもんな。
俺達はヴォラクに挨拶して、ジェダイトに乗り込んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うっわー人多いな」
少し離れた場所に着陸して、俺達はサーフィンの大会の会場に向かった。
日曜ってこともあるけど、大会のせいか人が滅茶苦茶多かった。
本当ならこれに颯太さんも出れてたはずなのに。
「拓也達はここに居てくれ。俺とシトリーはヴェパールを探しにいつものとこ行くから」
「ケータイちゃんと出ろよ」
セーレとシトリーは頷き合うと、走ってその場から出ていった。
『拓也。始まりますよ』
腕の中のストラスが小声で呟く。
大きなラッパかなんかの音がスピーカーから聞こえて会場が一気に盛り上がる。
「うわ、すげぇ……」
それにしても、なんでここに来たんだ?
ヴェパールを返すだけなら別にここに来なくてもいつもの場所に行けばいいのに。
「パイモン」
「なんですか?」
俺は気になったのでパイモンに聞いてみることにした。
「なんでここに来たんだ?ヴェパールはここには居ないだろ?」
「あいつが何かしでかさないかチェックしておく必要がありましてね」
「ヴェパールはそんな奴じゃない!」
そんなこと考えてんのかよ!
だってあんなに、あんなに優しい人なのに、パイモン達はまだ信用してないのか!?
「……私もそうであることを願っています」
パイモンの声はいつもの凛とした声とは違い、小さく呟くようなものだった。
ヴェパールは優しい奴なんだ。何も、何も起こる訳ないじゃんか……
その後、サーフィンの大会が始まった。
選手が順番に出てきて、次々に波に乗って技を決めていく。光太郎が周りの人に合わせて、手を叩いて喜ぶ。
「すっげぇ!!」
「すごいですね。あんな板に乗って、あのように波に乗ることができるなんて」
パイモンも感心してるのか、拍手をしている。
でもやっぱ素直に応援することができない。
だって颯太さんの番ないんだよな。本当ならこの中に颯太さんもいるはずだったのに。
どんどん選手の名前が呼ばれて行って、1時間たったころには10人くらいの選手が泳ぎ終わっていた。
そして……
「Number13! Bruce!!」
その名前をナレーターが呼び終わると同時に歓声が上がる。
あまりの歓声でナレーションの声が聞こえない。
「なんだ?」
「去年の優勝者で、今回の優勝候補みたいですね」
聞こえていたパイモンが俺に教えてくれる。
名前を呼ばれて出てきたのは颯太さんと喧嘩していたあの男。
あ、そういえば颯太さんもあいつは去年の優賞者だって言ってたな。
「優勝者ってことはすっげー技見れそうだな!もっと前行けねーかな?」
光太郎が観客の間をすり抜けていこうとする。
パイモンが光太郎の肩を掴む。
「よせ光太郎。はぐれるぞ」
「平気だって!はぐれたってケータイあるし」
「そういう問題じゃない。それに海外は料金が高いぞ」
冷静だなパイモン。
俺たちが騒いでるその時に、観客から悲鳴のような大きな声が上がった。
「え?何何?なんかすっげー技でも決めたのか?」
それに気付かない光太郎が背伸びをして海を見渡す。
でもそこにブルースの姿はなかった。
「あれ?あいつどこまで泳いでんだ?」
ざわざわと会場がざわめきだす。
何がどうなってんの?
『どういう事なのです?パイモンは何か見えましたか?』
「さぁ、俺には何も」
ライフセイバー達が浮き輪等を持って、海に入っていく。
え?まさか溺れたのか?
「まさか……」
パイモンの呟きにハッとした。
違う。そんな訳ない……絶対に違う!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『いない』
崖に向かった俺とシトリーは崖の中の洞窟に入って中を確認した。
でもそこにヴェパールの姿はない。
「どうなってんだ?」
シトリーもおかしいと思ったのか、いろんなところを探しまわる。
PLLLL……PLLLL
『シトリー。電話だよ』
「お?あぁ、あ?光太郎か。どしたい?……は?うん。マジかよ……わかった。すぐ行く」
シトリーは携帯を切って、血相を切らしたように俺に向きなおる。
「サーファーが1人溺れて海の中に沈んでったそうだ。ライフセイバーが探してるけど見つかんねぇらしい」
『まさか彼女が?』
「わかんねぇ。とりあえず行こうや」
俺達はジェダイトに乗りなおして、拓也の元に急いだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、セーレ!」
「どうなったんだ!?」
セーレとシトリーが血相を切らして走ってくる。
「なんかまだ見つからないんだ。もう10分くらい探してるのに」
「もうこれだけ時間がたっている。死んでると見て間違いないな」
「ちょ……縁起でもないこと言うなってパイモン」
なんでそんなこと言うかな?でも次の瞬間、観客が悲鳴をあげて一斉に逃げていく。
「な、なになに!?」
「何があったんだ!?」
光太郎がシトリーにしがみつく。
「離れろ!オーストラリアでもイギリスでも暑苦しーなてめーは!」
「なんでそんなこと言うんだよ!?こえーんだよ!」
「何があったんだ?」
パイモンとセーレが観客の悲鳴や言葉を聞きとってる。
「主、どうやらライフセイバーの男が2人海の中に溺れて沈んでいったそうです」
「え!?」
この事態に残りのライフセイバーも救助ボートを出して、捜索しだす。
「誰かがサメだ!って大声で叫んだから観客がパニックになっちゃったのかもね」
「サメェ!?」
セーレ、そんなのんびり言ってる場合か!
「ってかサメって滅茶苦茶危険じゃん!俺らも離れようや!」
「ですが他のライフセイバーはサメが出たというのにはあまりに反応が落ち着いている。サメというのはデマでしょう」
「じゃあ何だよ!?」
「足をつって溺れたか、誰かに引きずり込まれたか……」
引きずり込まれたって……まさか……
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「Help!Help me!!」
海の中でもがいているのは愚かな男。何が助けてくれよ。颯太がそう思った時に貴方は颯太を見捨てた。
貴方がこんな事態を招いた。
『Help doesn't come(助けなんて来ないわ)』
もしそんな奴が来たら、私がそいつら全てを海に沈めてやる。
『You should die.(あんたなんか死ねばいい)』
男の首に手をかける。
男は必死であたしの手を振りほどこうともがいている。
辛いでしょ?苦しいでしょ?
この苦しみを貴方はなんの関係もない彼に与えたのよ。
男の口から息が漏れる。
こいつの限界はもう近い。
手が力を失っていき、目が虚ろになっていく。
『Your soul is suitable for going to the hell(あんたの魂は地獄に行くのにふさわしい)』
永遠に地獄の業火で焼かれるといい。
ルシファー様だって、こんな下衆の魂なんていらないだろうけど……二度と輪廻できないようにしてやる。
男の腕が完全に力を失った。瞳は固く閉ざされていく。
終わった。
『Please give your soul to me(あんたの魂を私に)』
男から魂を引き抜く。
男はそのまま海に沈んでいく。
さよなら。肉体はもう滅んでしまうけど、どこかの部位が残ってたら、ちゃんと供養されるといいわね。
人が泳ぐ気配がする。
そこにはあの男を探しに来た男達。
貴方達もあいつの後を追う?
私はゆっくり近づいて、男の足を掴んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
海の向こうから悲鳴が聞こえて振り返るとボートがひっくりかえってる。
男の人たちが海の中に沈んでいく。
「な、なんだよこれ!」
逃げていた見物客が「サメだ!絶対にサメがいるぞ!」と騒ぎ出したことで海岸は大パニックに陥った。
「本当にサメなのか?」
「そんなわけねーだろ。ヒレ見えねーし」
光太郎がシトリーにしがみつきながら怯えてる。
嘘だ。ヴェパールのせいだなんて嘘だよな?
でももし本当だったら?そう考えるといてもたってもいられなくなった。
「止めろ、止めろよ……止めろ!」
俺は海の中に足を突っ込んでいく。
「拓也!?」
「主!止めてください!」
パイモンとセーレが追いかけるけど、人ごみに邪魔されてなかなか前に進めない。
そんなセーレ達を尻目に俺は海の中にどんどん進んでいく。
足がつかなくなって、泳いで先に進む。
「The boy enters the sea!(男の子が海の中に入っていくぞ!)」
誰かの声が聞こえて、また海岸がパニックになる。
後ろから声がすごい聞こえる。
『Please stop.(止まってください)Please do not advance earlier than it.(それより先には進まないでください)』
しまいにはアナウンスが流れる始末。
俺めっちゃ恥ずかしいじゃん。
でもここまで来たら止まれない。もし本当にヴェパールの仕業なら止めなきゃ、止めなきゃ!
ストラスが俺の近くに来て怒鳴りつける。
『拓也!何をしているのです!早く戻りなさい!』
「うるさいな!ここまで来て戻れるかよ!」
『拓也!』
ライフセイバーの人たちが数人、俺を見つけてこっちに向かってくる。
「やっば!」
それを何とか逃れようと俺は必死に沖に泳いでいく。
そして少し離れた場所にひっくり返ったボートが見える所まで泳いできた。
服が重くって体が疲れてくる。
やっべぇ……もう泳げねぇ。でも逃げないとライフセイバーの奴泳いでくるし。
『あなたまで……結局はあいつの味方をするの?』
え?
その声が聞こえた瞬間、足が引っ張られた。
「がぼ!」
『拓也!』
「That boy was drowned.(男の子が溺れたぞ!)」
「主!」
「わぁああ!拓也!!」
「くそっ……おい光太郎!セーレにしがみついとけ!」
「え?君はどこに行くんだ!?」
「決まってんだろ!」
シトリーが海に飛び込む。
「Stop!Stop!!」
見物人の制止も振り払って海の中に進んでいく。
「シトリー!」
「あの馬鹿!無茶をして!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「がっごぼ……!」
口から空気が出るのを必死で手で押さえる。
足を何かに掴まれてる!でも海の中、目が開けれない!
『嫌い』
声が聞こえて反応する。
まさか本当にヴェパール?
そして首を掴まれ、空気が口から出る。
『みんな死ねばいい』
ヴェパールの声が聞こえる。
やっぱヴェパールなんだ。なんでこんなことするんだよ……
首を絞める力が強まる。やばい。このままじゃ本当に…・・
意識が朦朧としだし、最後の力を振り絞って声を絞り出す。
口の中に水が入って上手く喋れない。
「なんでこんなことするんだよ……これが颯太さんが望んだことか!?」
その言葉を言った瞬間、意識が遠のいた。
◆◇◆
『シトリー!』
「くそっ見つかんねぇ!」
ライフセイバーの奴が腕を掴んでくるのを捻りあげて、拓也を探す。
なんで見つからない。何してんだあいつ……まさか……
「殺されちまったのか?」
『そんな……』
ストラス、絶句してる場合じゃないだろ?
海岸では騒いでる野次馬の姿。うぜぇな……騒いでねぇで行動起こせっつーんだよ。
でもこの中じゃ無駄に体力を消耗していくだけだ。
ったく……あいつは何してんだよ!?
その時、気を失ったあいつを抱えたヴェパールが姿を現した。
「おい!」
ヴェパールは俺を一瞬見て、そのまま拓也を連れて泳いで行ってしまった。
追いかけるけど、やっぱ人魚と人間じゃ泳ぐ速度が違う。
まったく追いつけない。
「ストラス、追いかけろ」
『わかりました』
ストラスがあいつを追いかけるのを見ていた俺は今度こそライフセイバーに捕まった。
どうやら俺が腕を捻ったのも溺れてたから無我夢中で腕を掴んだらそうなってしまったんだろうと言っている。
とりあえずすみませんとだけ謝って俺は岸に運ばれた。
「He returned!(彼が戻ってきたぞ!)」
野次馬の1人が大声を出す。
海岸に上がった俺に野次馬達が集中する。
「うぜぇな!」
俺はそれを掻きわけて光太郎の所に戻る。
「シトリー!拓也は!?」
「あいつが連れてった。ストラスが付いてったから大丈夫だ。恐らくいつものとこに戻ったんだろ」
「拓也生きてたのか!?」
「あぁ。たぶん気を失ってただけだ」
「良かった」
光太郎はホッと胸をなでおろす。
俺は光太郎の頭をポンと叩く。
「安心してる場合じゃねー。拓也追うぞ」
「あ、うん」
「Are you alright?(大丈夫か?)」
ライフセイバーの男が1人俺に話しかけてくる。
「Yes. Please help other people early because I am good.(俺はいいから、他の奴を助けてやってくれ)」
まぁもう手遅れだろうけどな。
「Thank you.」
男は頭を下げて、またボートに救助道具を詰めていく。
俺達はその光景を見て、いつもの崖に急いだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ん、んぅ……」
目を覚ますと、洞窟のような場所に寝そべっていた。
『拓也!』
「ストラス!」
ストラスが俺の胸に飛び込んでくる。
俺はそれを受け止めて辺りを見渡した。あれ?ここっていつもの……
起き上がると、そこにはヴェパールがいた。
「ヴェパール……」
『ごめんなさい。貴方に酷い事をしたわ』
「俺のことはいいよ。それよりもあいつ等は」
『殺した。魂ももう抜き取ったわ。そしてそれを地獄に送った』
そんな……なんでこんなこと……
「なんでそんなことしたんだよ」
ヴェパールは悲しそうに眉を下げる。
『颯太はブルースに殺されたのよ』
「え?」
颯太さんがあいつに?
ヴェパールは握り拳を作る。
『許せなかったのよ!あんなに綺麗なあの人を殺したことを!私も人のことは言えないけど……』
なんでそんなに悲しそうに笑うんだよ……なんでそんなに悲しそうにするのに、こんな事するんだよ……
「拓也!」
「光太郎!皆!!」
ジェダイトに乗った光太郎が俺に駆け寄ってくる。
「平気か!?」
「おう!心配かけてごめんな」
光太郎は安心したように笑う。
心配かけちまった。本当にごめん。シトリーもずぶぬれになってる。
「シトリーなんでそんなに濡れてるんだ?」
「はぁ!お前覚えてねーのかよ!お前を助けるために海に飛び込んだんだぞ!…まぁ助けれなかったけど」
え?そうなんだ。
「ごめん……」
「まぁ無事で何より」
シトリーも軽く笑う。
本当にこいつって肝心な時に役に立つんだよなぁ。
『ヴェパール、あなた……』
ストラスの声でヴェパールに振り替える。
ヴェパールは足の方から段々泡のように消えていっていた。
「ヴェパール?」
『ふふ……私はもうすぐ消えるのよ。何も心配することはないわ』
「消えるって!」
『契約者の力も借りないまま悪魔の力を使ったのです。魂を地獄に持っていくなど、かなりのエネルギーを使ったはずでしょう。契約石のエネルギーも使い果たし、彼女は人間の力無しでもうこの世に存在することができません』
「じゃあ地獄に戻るのか?」
「違います」
「パイモン?」
「彼女はこのまま消える……地獄にも戻れず死ぬのです。まぁまた人間の罪が地獄にたまれば彼女は復活を遂げますが、それまでには相当な年月を費やすはずです」
「じゃあ急いで地獄に戻せば!」
俺は浄化の剣を手に持つ。
でもヴェパールの手がそれを拒んだ。
『いいの。このまま消えさせて』
「でも!」
『あたしはこの世界に存在していたい。死んでもこの世界で。青くて綺麗な世界…あたしはこのまま消えたいの』
その間にもヴェパールの体は泡になっていく。
ヴェパールは自分の体を愛おしそうに見つめる。
『知ってる拓也?』
「何を……?」
『王子様との恋が報われない人魚姫は泡になって消えるのよ』
慌てて顔を上げると、そこには微笑んでいるヴェパール。
『私は泡になって消える。物語みたいね』
ヴェパールは笑うけど俺は笑えない。なんであんたがそんな目に遭わなきゃいけないんだよ。
俺の頬をヴェパールの手が撫でる。
『泣かないで』
あ、俺泣いてるんだ。
でも涙は止まらない。
ストラスもパイモンもシトリーもセーレも光太郎も…皆つらそうにヴェパールを見ている。
『私は人魚姫になりたいの』
「何でだよ……何でなんだよ!?死んじゃうんだぞ!?」
『いいの。化け物は化け物にしかなれない。だから最後は人魚姫と同じように死にたい。このまま泡になって』
ヴェパールはそのまま微笑む。
その笑みは、今までで一番きれいに見えた。
『普通に生きたかったの。だってこの世界、とっても綺麗だったから……』
「……」
『ありがとう』
そう言って、ヴェパールは俺の横を通り過ぎて、崖の淵に立つ。
パイモンは何かをヴェパールに呟いて、顔を伏せる。
ヴェパールはそんなパイモンに笑みを送った。
『これでいいの』
彼女は崖から落ちた。
落ちたヴェパールは泡になって消えていく。
ねぇ颯太。
もし生まれ変わることができたら、また一緒に居てくれる?
今度は悪魔としてじゃなく人間として、貴方と一緒に……
泡になって消えたヴェパールの後には首につけていた颯太さんのネックレス。
それがポチャンと海に落ちる音が聞こえた。
残された俺は呆然としていたが、ふと俺の手元に契約石が置いてあるのに気づいた。
「これ……」
『コーラル……サンゴのネックレス。ヴェパールの契約石です』
サンゴのネックレス、ヴェパールにぴったりの契約石。
契約石はみるみる泡になって消えていく。そしてネックレスは完全に消えてしまった。
消えた。すべて……
涙が止まらない。
あの人はただ好きな人と一緒にいたかっただけなんだ。
颯太さんとこの場所で語り合っていたかっただけなんだ。
なんで……なんで……
『拓也』
ストラスが俺の顔を心配そうにのぞきこむ。
「ストラス」
『はい』
「……きついよ」
そのまま地面に膝をついて俺は泣いた。
ヴェパールは化け物じゃない。化け物なんかじゃない。
ヴェパールは人魚姫だったんだ。
王子様との恋が報われない人魚姫は泡になって消えていった。
物語の結末と一緒だ。その結末に涙が止まらない。
「う、うぅ……うあぁ……」
俺は声を出して涙を流した。
光太郎も涙を流して、その場にうずくまってしまった。
その光太郎の肩をシトリーが励ますように軽く叩く。
俺達は暫くそこから動けなかった。
―――――――――――――――――――――
恋をしました。
恋をしていました。
辛くて少し苦しかったけど、でもそれ以上に嬉しくて幸せでした。
1匹の人魚が泡になって消えていく。
王子様と一緒に泡になって消えていく。
それは悲しい恋物語。
ヴェパール…ソロモン72柱序列42番目の悪魔。
29の悪霊軍団を指揮する侯爵であり、人魚の姿をとる。
海の統治者であり、海を愛する者には深い慈愛を以って加護を与えるが、海を汚す輩には恐怖を以って惨たらしい死を与える。
契約者である颯太に恋心を抱いており、人間になることを望んでいた。
最後は化けものである自分を恥じ、人魚姫と同じ結末になることを望み、泡となった。
契約石はコーラル(サンゴ)のネックレス。
颯太…キャンベラに留学している大学生。
英語が得意なことと、サーフィンをしたいが為に留学先をオーストラリアに決めた。
幼いころからサーフィン好きの父親に影響されて、サーフィンと海をこよなく愛していた。
波にさらわれた時に助けてくれたヴェパールと契約し、彼女に恋を抱いていた。
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