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第2部
第66話 人魚
『ヴェパール?』
あの後、家に帰った俺はストラスに今日のことを伝えた。


66 人魚


「うん。なんか溺れた子供が人魚に助けてもらったらしくって……なぁヴェパールってどんな悪魔なんだ?」
『そうですね。人魚の姿をした悪魔です。海を操る能力を持っており、幻を見せたり、人間を海に引きずりこんだり』
「うそーん」
『しかし海は母の様だと言うでしょう?海を愛すものには加護を与えるのです。人間によっては天使にもなり、悪魔にもなるのです』

よくわかんないけど、いいか悪いかも微妙な悪魔なんだな。

『明日行ってみましょうか。日曜ですし』
「え?あーうん」

海っていうのが怖いんだよ。だって落ちたら最後じゃん。
とりあえず俺は次の日にもう一度オーストラリアに行ってみることにした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「暑いですね」

パイモンがげっそりと呟く。
やっぱ夏ってだけあって今日もオーストラリアは暑い。
パイモンの肩に乗ってるストラスも暑そうに口を開けて息をしている。
暑いだけあって海は相変わらず大賑わい。

「でもどうやって探すんだ?」
「そうだね。あれ?」

セーレが顔を向けた先には昨日出会った颯太さんの姿。
でも颯太さんは誰かと喧嘩してた。

「颯太さん?」
「主、知り合いですか?」
「あ、うん。まぁ」

男は颯太さんを突き飛ばして歩いて行く。
その姿が見てられなくて、俺は颯太さんに声をかけた。

「颯太さん!」
「え?あ、拓也」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なんで喧嘩なんか」
「喧嘩って言うか……まぁ今度のサーフィンの大会辞退しろってさ」
「え?なんで」
「あいつ去年の優勝者なんだよ。なんか俺に目つけてるみたいだけど、俺が優勝できるわけないじゃんか。なぁ?」

颯太さんは軽く笑うけど、表情は辛そうだった。
なんで颯太さんがこん目に遭わなきゃいけないんだよ?サーフィンやってる颯太さん……めちゃくちゃ楽しそうだったのに。

「なんかしけちゃったな。ごめんな?俺、泳ぎに行くわ」

颯太さんはネックレスを外して鞄に入れた。

「それ……」
「あぁ、錆びたら嫌だからいつも海に入る時はとってんだ」

パイモンの肩に乗っているストラスが顔をしかめる。
まさかウソだろ?
颯太さんは相変わらず人のいい笑みを浮かべてボードを持って海に入っていった。
その場に残された俺たちには気まずい空気が流れる。

『拓也』
「まさか颯太さんが契約してるとか言わないよな」
『おそらくあれはコーラルのネックレス。ヴェパールの契約石です』

そんなウソだろ……?

「とりあえず奴の動向を探るか」

パイモンはそう言って、颯太さんに目をつける。
でも俺は動けなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夕方くらいになって、海にいた人もちらほらと帰り始める。
その中に颯太さんの姿もあった。
颯太さんはボードと鞄を持って、歩いて行く。

「主、後をつけてみましょう」
「あ、うん」

颯太さんは海岸沿いをずっと歩いて行く。
歩くこと十数分、颯太さんはなぜか崖の前に歩いていった。

「こんなとこに何があるんだ?」

颯太さんはなぜか海に入って行って、海の中から崖を登っていく。
そして崖の中に入ってしまった。

「穴でもあいてるのか?」

パイモンが崖に近づいて呟く。
確かに海岸から見ても、どこに穴が開いてるのかなんて見えない。
恐らく、海からしか見えないんだろう。
30分くら経つと、颯太さんが出てきた。

「あ、颯太さん!」
「拓也、隠れて!」

セーレに腕を引っ張られて、少し離れた所に逃げる。
颯太さんは人がいないのを確認して、誰かに手を振った。その先には女の人の姿。
岩に隠れた俺たちに気づくことなく、颯太さんはその場から立ち去っていった。
そして、その少し後に崖から女の人が海に飛び込んだ。
その女の人は髪の毛は青く、人魚の姿をしていた。

「人魚だ……」
『やはり悪魔ヴェパールですね』
「主、ヴェパールを探してみましょう」

俺達はジェダイトに乗って、空から人魚を探すことにした。
人魚はすぐに見つかった。

「あ、いた!」

俺が指差した方向には海を泳いでいる人魚の姿。
すっげー!本物だ!
しかし俺の声が聞こえたのか、人魚は俺たちに気づいて海の中に潜ってしまった。

「待って待って!」
『拓也、あまり身を乗り出すと落ちますよ』
「わかってるよ。セーレ、近づいてよ」
『わかった」

ジェダイトは高度を下げて、海に近づいていく。
俺は身を乗り出してヴェパールを探した。
でもやっぱ海の中に潜られたんじゃ、見つけられない。

「うあ!!」
「主!」

それでも身を乗り出して探していた俺はバランスを崩して海に落ちてしまった。
やばい!落ちちゃったよ!!
慌ててもがくけど、服の重みで中々上手く泳げない。
まずい!そう思った時、急に腕を引かれ、誰かが俺を海面に引き上げてくれた。
目の前には人魚の姿。

「あ……」
『貴方何をしているの?危ないじゃない』
「ごめんなさい」

すっげー綺麗だ……これが人魚……
セーレの声が聞こえて、人魚は顔を上に上げる。

『拓也大丈夫か!?』
『セーレ』

気まずい空気が流れ込む。
人魚はソッと俺の手をとった。

『貴方が継承者なのね……じゃあ私を地獄に?』
「……うん」
『そう。でも待って。あと一週間待って』

意外な言葉に首をかしげてしまった。

『一週間後にはサーフィンの大会があるの。それを見たら私を地獄に戻してもいいし、殺してもいい』
「あの……」

なんで、そんなこと言うんだよ。
殺してもいいなんて……そんな簡単に言うなよ!

『とりあえず、話を聞きましょうか』

ストラスの提案で、俺達は人のいない浅瀬に足を運んだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
人魚はポツポツと話しだす。

『彼を見てると心が安らぐ。この世界が愛しいと感じてくる。彼ほど海を愛してる人はきっといないわ』
「ではお前はあの男と契約してるのか?」
『彼は私が未だに人魚だと思ってるみたいだけど、それでもいい。それで彼が微笑んでくれるのなら』

パイモンはため息をつく。
なんか物腰が柔らかい、そして儚い。守ってあげなくちゃいけない気がする。

『拓也、気をしっかり持ってください』

ストラスに小声で話しかけられ、ハッとする。

『彼女は絶世の美貌を持っています。しかしその美貌に引き寄せられるが故に…何人もの男が今までに命を落としてきました』

そんな怖い事言うなよ。見る目が変わるだろ。
でも目の前のこの人がそんなことをしていたとは思えない。

「オーストラリアで漁師が海に出たまま水死体で見つかった事件があったな」
『そうよ。私がやった』

その言葉で背筋が凍りついた。

「な、なんでそんなことするんだよ!?」
『これが命令だった。それにあいつ等は嫌い。生き物を殺してるわ』
「生き物って……」
『彼ら泣いてたから。それを殺していくのよ。可哀想じゃない。それに私は魂を集めてた。ちょうどよかったと思ってた』
「生き物とは魚のことか」

パイモンがやれやれとため息をつく。
人魚はそのまま泣き出した。

『彼が溺れた時も殺すつもりだった。でもできなかった。彼は何も悪いことなんてしてないから……』

人魚はネックレスを手に取る。

「それ」
『契約石を渡したら、自分のお気に入りだって交換してきたのよ?変なの……』

そう言いながらも人魚は嬉しそうに目を細める。
本当に人間の女の子みたいだ。

「なぁ、俺いいと思うんだ」
「拓也?」
「その大会が終わるまで待っても」

人魚の顔が華やぐ。

「しかし主」
「俺だったらきっと耐えれない。きっと同じなんだよ。この人も一緒なんだ。最後の望みくらい叶えてあげてもいいじゃんか」

俺の言葉にパイモンも何も言い返さない。
人魚はそっと俺に近づいてくる。

『貴方も好きな人がいるの?』
「うん……」
『ふふ……そっか。おんなじね』
「……」
『有難う。わかってくれて有難う』
「うん」

この人は本当に颯太さんのことが好きなんだ。
悪魔を倒すことがいい事だって思ってた。でも俺、今……人を不幸にしようとしてる。
颯太さんとこの人を傷つけようとしてる。
目の前で優しく微笑む人魚の姿に、思わず涙が溢れる。

『優しい子……継承者』

優しいのはあんただ。
いきなり出てきて、地獄に返すって言ってきた俺を励ますなんて。
優しいのはあんたの方だ……

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「主、大会までできる限り毎日来て、あの人魚を見はりましょう」

ヴェパールと別れ、ジェダイトに乗って帰っている途中でパイモンが俺に提案してきた。

「うん。それは別にいいけど」
「騒ぎを起こしたら、すぐに地獄に返します」
「あの人はそんなことしねぇよ絶対に」
「そうなればいいですけどね」

絶対にしないよ。
だってあの人は優しいから。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから毎日、俺達は人魚の所に行くことになった。
人魚は夕方くらいは大体あの崖にいた。俺に気づくと笑顔で手を振ってくれる。
そんな彼女に、いつしか俺達の警戒心も薄れていった。

今日で彼女と出会って3日目。

今日はセーレと2人でオーストラリアに来た。
だけどヴェパールの元気がなかった。

「どうかしたのか?」
『昨日から来てくれないの颯太が……』

ヴェパールは悲しそうに呟いてネックレスを握る。
颯太さんが来てないってどういう事だ?
俺とセーレも顔を見合わせた。

「来ないって……忙しいかなんか?」
『わからない。こんなこと今までなかったから……わからないわ』
「そんな……俺、颯太さんを探してみるよ!」

俺はセーレを連れて、颯太さんを探しに出かけた。

「拓也、当てでもあるのか?」
「ない。けど海岸で人に聞いたら誰か知ってるかなぁって」
「拓也はぶっつけが好きだね」

しょうがないじゃん。思い浮かばないんだから。
俺達は海岸を歩いて、いろんな人に聞いて回ったけど、何一つ有力な情報は入らなかった。
どうしようか悩んでいる所に、1人の男が通り過ぎた。
あいつ、颯太さんと喧嘩してた……

「あの!」

俺が思い切って声をかけると、青年は振り返った。

「What’s?」
「あのーえーっと……」
「Do you know Sota. His appearance was not seen yesterday.(颯太を知ってるかい?昨日から姿を見ないんだ)」

セーレが咄嗟に助け船を出してくれた。
しかしその男は軽く笑って首を横に振った。

「I don’t know.」
「I see.(そうですか)」

男は手を挙げて、俺たちに背を向けた。

「くっそーなんで見つかんないんだよ颯太さん」
「何かしら事情があるのかもね……」
「だけどヴェパールあんなに寂しがってたのに……」

その後に俺は思い知ることになる。颯太さんがなぜ消えてしまったのかを。


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