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第2部
第57話 奇跡の医師
「此処が名古屋大学医学部付属病院……でけぇな」
次の日、俺とセーレとヴォラクは3人で病院の前にいた。


57 奇跡の医師


「でも何で皆来れないんだよ」

今日は土曜で補講の終わった俺はマンションに行き、早速名古屋に向かった。
でも中谷は部活、光太郎も用事があると来れなくて、澪も一応誘ったんだけどヴアルと買い物に行くから無理と言われた。ヴアルの奴……
だからそのままストラス達連れて行こうと思ったのに。

病院だから入れないという理由でストラスには断られ、パイモンにも調べ物があると断られた。
シトリーはいつも通り不在。(笑)

なので俺とヴォラクとセーレの3人で名古屋に行くことになった。
まぁパイモンも様子を見てくるだけで、深く調べなくていいって言ってたからそんなに何もしないと思うけど。

「でもさー、この面子もなんか久しぶりじゃない?」
「確かに。最初は俺とストラスとお前とセーレだったもんなぁ」

ヴォラクは少し懐かしそうに呟いた。
その後にシトリーが入ってきて、パイモンが入ってきて、この間はヴアルが入ってきた。

「マンションももうギチギチだろ?」
「まぁ5人で暮らしてるからね。もう部屋に余りはないな」

俺の問いかけにセーレが苦笑いしながら頷く。
やっぱりな……これ以上悪魔と契約したくもないし。今のままで十分だ。
俺はそう思いながら、まじまじと病院を見上げた。
何階建てだ?つかでけぇな。駐車場には沢山の車が止まっている。
今も病院に入って行く人が確認できる。

「うーん……誰かの見舞いとかじゃないと病院は入れないんだよなぁ」
「俺が仮病使おうか?」

ヴォラクはそう言って「う、お腹が!」などと演技をし始める。(探してるのは精神科医なんですけど……)

「ダメだって。お前保険証ないじゃん。俺に何円払わすつもりだよ」
「え?保険証?」
「税金納めてないと、医療費全額払わないといけないの。保険証あったら3割でいいけど」
「なにそれ?すっげー!ちょー安売りじゃん!」

安売りって……使い方違うから。

「でも用もないのに確かに中には入れないな。拓也、君が仮病を使ったらいいじゃないか?」
「え、俺?」

なんでそこで俺の名前が出てくるのかなぁ〜?俺に仮病を使えというのか?

「うん。君なら保険証あるから大丈夫だろ?俺たちも付き添いって形とれるし、それに契約してるだろう相手も分かってるしね」
「ヤダよ。ばれたら滅茶苦茶恥ずかしいじゃん。それにそんな悪いことしたくないし」
「信号は無視するくせにこういうのはこだわるんだな」

いや、それとこれとは話し別っしょ。

「でもそうしないと近づけないんでしょ?グダグダ言ってないでやれよ拓也ー」
「無理だって。第一保険証持って来てない」
「今日どうすんのー?」
「3人揃えば文殊の知恵。って言うだろ!なんか考えりゃ、いい案浮かぶんじゃね?」
「そのいい案が浮かぶのにどれ位の時間かかるんだか……」

うっさいなぁもー。だって保険証母さんが持ってんだからしょうがねぇじゃん!
とりあえず付属病院と言われてるだけあって当然病院は大学の敷地内にあるの訳で、俺たちは名古屋大学のベンチに座って、考えることにした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あー俺もあと2年ちょっとで大学生になんのかー。無事なれるかなぁ」
「そんなこと考えに名古屋に来たのぉ?」

バカ。ちげぇよ。
でも大学は土曜なのにポツポツと生徒が歩いている。
なんか皆楽しそうだ。しかも大人だしお洒落だし。大学って楽しいんだろうなぁ。
はぁ……俺もこんな大学生になれんのかなぁ。勉強できないし……
俺は知らず知らずにため息をついてたらしく、ヴォラクとセーレは顔を見合わせた。

「どしたの拓也。そんなに大学生になりたいの?」
「そりゃなぁ。でもマジでなれるかなぁ。俺頭悪いし」
「急にネガティブだな。今あの医者に相談すればいいじゃないか」

いや、進路の事相談しても……
でもマジでどうすっかなー。本当に患者装っていくしかないよなー。
名古屋の病院に知り合いなんていないし(笑)

「よし、保険証取ってこよう」
「え?結局仮病使うの?」
「うん。やっぱ考えてもコレしか浮かばなかった」
「文殊の知恵はでなかったな」

そーですねー。
俺は一度家に戻り、保険証を取りに向かった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいまー。母さん保険証持ってない?」
「え?あんた風邪でも引いたの?」

母さんは俺の額に手を当てて「熱は無いわね」などと言っている。

「違うって。悪魔の情報見つけたから、そこに行くの。んで、そこ病院だから仮病使って中に入るの」
「あんた……そんな悪いことしちゃ駄目でしょ!」

母さんは急に怒り出す。

「俺だってしたくないよ!でも相手は病院の医者なんだよ!こうでもしなきゃ会えないじゃんかよ!」
「う……それもそうね」

母さんはしぶしぶ俺に保険証を渡す。

「いい。仮病は悪いことなんだからね。そこはわかってるわね?」
「わかってるよ!もう高校生なんだから」

俺は保険証をもらい、そのまま家を出た。
母さんのついたため息は俺には聞こえなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これで大丈夫だな」

保険証を持って、俺は病院の前で唾を飲む。

「ねぇさっさと入ろうよ」

ヴォラク!俺がこんなに緊張してんのに、何普通に自動ドア開けてんだ!
ヴォラクが中に入ってしまって、俺は仕方なく後をついて行った。

「はい。今日は診察で?」

病院内はかなり混雑していた。
やっぱ大学病院ともなるとこんなもんなのかなぁ?
俺は受付の人に保険証を出して目的を言う。

「えーっと精神科の溝部先生の診察を受けたいんですけど」
「池上拓也さんですね。今回はご予約はされていましたか?」
「いえ、予約はしてないんですけど」

俺がそう言うと、受付の人は「ちょっと待ってくださいね」と言ってパソコンで何かを調べ出す。

「えーっとですねぇ、溝部先生の診察は今予約で一杯なんで、一ヶ月先の予約になるんですけど宜しいですか?」

一ヶ月!!?一週間の間違いじゃなくて!?
その言葉を聞いて固まったのは俺だけじゃない。
セーレとヴォラクも固まっている。

「あの、絶対に一ヶ月はかかりますか?」
「そうですね。もう予約でいっぱいなんで、これ以上前を取るのは無理ですねー」
「……じゃあいいです」
「え?宜しいんですか?」
「はい」

俺はそう言って、病院を出た。

「マジどうしよー!一ヶ月とか待てるわけ無いじゃん!!」
「確かに一ヶ月は少し長すぎるな」

また名古屋大学のベンチに俺たちはいる。
一ヶ月とかマジどんだけ待てばいいの!?
やっぱテレビに映る医者となるとこのくらいは覚悟しとかなきゃなんないのかぁ?あーマジ嫌過ぎる。
セーレも頭を抱えている。

「会えないんじゃ確認のしようがないな。どうするべきか」
「とりあえず、1度戻る?ストラスとかなら何か考えてくれそうじゃない?ほら、俺ら頭脳派じゃないからさぁ」

ヴォラクは開き直ったように笑う。
俺もそんな風に開き直りたいよ。
ここに居ても何もならなそうなので、俺たちはマンションに戻ってみることにした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『なるほど……だから戻ってきたのですね』
「マジどうしよう。これじゃリアルに会えないんだけど」
「またシトリーに頼っちゃう?」
「えーまた張り込みすんのかよ。名古屋まで行って?」
「福岡でもやったじゃんか」

ストラスも頭を抱える。
マジでどうすりゃいいんだよー。

「主、メールを送ってみましょうか」

パソコンをしていたパイモンが俺たちに振り返る。

「メール?」
「はい。この大学病院のHPには各専門医にメールが送れるそうです。恐らく1人1台ずつ病院からパソコンが支給されているのでしょう。そこに送ってみてはいかがです?」

それは確かにいい考えな気もするけど。

「悪魔と契約してるんですか?とか普通送れる?悪戯メールって思われちゃうよ」
「何回でも送ればいいじゃないですか?」
「その内、警察とかに言われたらどうすんの?こんな脅迫メールが来てんだけどーみたいな……」
「それは困りますね……ではどうします?」

どうしようか。どうしようもない?

「なんかいい案ないのかよー」
「今のところは無いですね」

どうすんだよ。マジでこのままじゃお手上げじゃん。
やっぱメールしかないんかなぁ。

「やっぱメールしてみる」
「主は切り替えが早いですね」

そうなのか?
俺はパイモンの隣に行った。
パイモンが画面を開いて、メールのウィンドウを開く。

「できるだけ細かく、状況を書いていこう。嘘だって思われないように」
「わかりました」

パイモンは的確に文章を打っていく。

「お前タイピング早いな」
「そうですか?普通だと思いますが」

いや、手の動きがマジで早い。すげぇ。
パイモンはメールを送り、画面を消した。

「とりあえず送ってはみましたが、返信が来るかはわかりませんね」
「うん。なんか来ない気もするけどな」

いきなり悪魔ですか?なんてメールきたら俺もまぁ迷惑ボックスに即投入するしな。
あんま期待できない気がする。
でも他に方法なんてないし、とりあえず今日は様子見かな?

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「先生、お疲れさまです」
「あぁお疲れ様」

診察時間に少しだけ余裕ができて、私は遅い昼食をとろうと部屋に向かう。
ついでにメールボックスも確認しなくてはな。
部屋について私は椅子に座って、パソコンの電源を入れた。
そして妻が作ってくれた弁当をカバンから取り出す。

「いただきます」

誰も居ない空間にそっと呟いて、弁当の包みを開けて中身を口に運ぶ。
パソコンも立ち上がり、私はoutlookを開く。
中には患者からの現在の容態や感謝のメールなどが受信されている。
私はそれらを一通り見ていく。

「たくや?」

件名は「たくや」とだけ書かれたメールが来ている。このような患者はいたかな?
私はそう思いながらそのメールを開けてみる。

「これは……」

『始めまして。少し伺いたいことがあって連絡を入れさせてもらいました。最近のご活躍が著しく飛躍していることに、失礼ながら少々疑問に感じるところがあります。もしかしたら、契約をしているのではありませんか?契約と言う言葉を見て、何も感じないというのならば、こちらの人違いです。申し訳ありません。しかしこの言葉を見て、思うところがあったならば返信を頂きたいです。よろしくお願いします』

思わずガタッと音を立てて立ち上がってしまった。なぜ、このことを……!
誰かが、このたくやと言う人間が感づいている。
私が悪魔と契約していることを……

「もしこれが広まれば……」

テレビに出てしまったことで、私の知名度は上がってしまった。
マスコミの耳にも入る可能性がある。
最初はマスコミも悪魔などデタラメだと言って取り合うことなんて無いだろう。
しかし一部の物好きは私のことを調べてくる。だが調べていけば、時期にブエルの存在がばれてしまう。
そうなれば私は確実に魂を奪われる。

ブエルとの契約内容は「患者を助ける力を貰う代わりに、安穏な生活を与える」ということ。

だから私はブエルを家族のように振舞った。
娘にも妻にも口止めをして、ブエルに安息を与えてやった。
今のところ何も言ってこないということはブエルも今の生活に満足しているんだろう。
でもマスコミなんかが出てきたらどうなる?それこそブエルだけじゃない。
私たち家族の安息も奪われてしまう。

「どうすれば、どうすればいいんだ?」

こいつは気づいている。
私が返信を送れば、契約していることを認めたという形になってしまう。
しかし送らなかったら、このまま放っといてくれるかはわからない。
何も言わないかもしれないが、もしマスコミや新聞社に言われたら……

「お終いだ……何もかも」

どうすればいい?何とかしなければ、何とか!
手が震えているのが分かる。こんなこと妻に相談できない。家にはブエルが居るから。
あいつに悟られてはお終いだ。
気づけば15分間の昼食の時間がもうすぐ終わる。弁当は半分以上残っている。
しかし、そんなことを気にしている場合ではなかった。

私はなんて奴と契約してしまったんだ!

まずい状況になると初めて人間は後悔するもので、今までこの事に何の不満も持っていなかった。
ただこいつと契約して患者が救えれば、そう思っていたんだ。

私の力不足で亡くなったあの子のような子をもう二度と出さないために……

『お前の悲しみは我が胸にも深く刻み込まれた。我にしばらくの安穏を与えたれば、お前の願い、叶えてやらん事も無い』

その言葉通りになった。
私が思ったとおりに事は進んでいった。患者はみるみる元気になっていった。嬉しかった。
有難うございます。そう嬉しそうに礼を述べ、病室を出て行く患者の姿が。

その姿を見たかっただけなんだ。私は何も悪いことなどしていないじゃないか!

診察時間が近づいている。
私は我に帰って、急いで弁当を片付けて部屋を出た。
しかし頭の中はあのメールのことで一杯だった。

駄目だ。集中しろ!

そう自分に言い聞かせて、私は診察室に向かった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「パイモン。返信は来た?」

次の日、俺はストラスと光太郎の3人でマンションに向かった。
マンションでは相変わらずパイモンはパソコンで調べもの。
シトリーは雑誌を読んでるし、ヴアルは少女マンガを読んでいる。(どこで手に入れた?)
セーレとヴォラクは由愛ちゃんの所に行っているらしい。
俺はパイモンに問いかけたが、パイモンは首を振った。

「いえ、来ていません。まぁ予想していた結果ですけどね」
『まぁ、そう簡単にはいきませんよね』
「やっぱその人、悪魔と契約してないのかな?」
「その可能性も無きにしも非ずですが……隠している可能性もありますね。どちらにせよ様子を見るしかありませんね。また同じ内容の文を送るわけにもいきませんし」

パイモンは立ち上がってキッチンへ向かう。

「そういえば、セーレがジュースを買ってきたんですよ。いかがです?」
「あ、もらうわ」
「わかりました」

パイモンが消えたリビングで俺と光太郎はソファに座る。

「あのおっさんから何の連絡も来ないんだな」
『知っていたのですか』

まぁな。とシトリーが呟く。

「昨日セーレから聞いた。すっげー医者が悪魔と契約してるんだって?」
「そうかもってだけ」
「パイモンが間違えることって滅多に無いぞ。恐らく契約してる」

黙り込んでしまった俺にシトリーは雑誌をテーブルに置く。

「まぁ、そう気にせんでもストラス達が何とかしてくれんだろ?」
『貴方は他人任せですか』
「まぁな。俺役に立たないし?なーヴアルちゃん♪」
「なんであたしに聞くのよー」

シトリーはへラッと笑う。本当にやる気のない奴だ。

「でも、危険な悪魔じゃないんだろ?」

光太郎の問いかけにシトリーは曖昧に頷く。

「あー一応、事件が起きてるって訳でもないしなぁ…まぁ危険ではないんじゃね?」
「何だよそれ」
「ウダウダ言ったってわかんねぇよ。とにかくどんな悪魔かわかんねぇんだからわかんねぇんだ」

それより、とシトリーは光太郎を睨み付けた。

「お前、最近家に帰っても稽古してんだろ」
「え?何のこと?」
「とぼけんじゃねぇ。一日二日で人間急に成長するか。回避しながら攻撃なんて高度な技を急に使ってきやがって。無理するなっつってんだろ」

シトリーに指摘されて光太郎は焦る。

「だって稽古しなきゃ強くなんないじゃん!俺早く実践レベルまで行きたいんだよ」
「やっぱしてたのか……」
「あ」

どうやらシトリーはカマをかけたようだ。
光太郎は気まずそうに頭を掻く。

「お前なぁ、無理したって何にもなんねーぞ。怪我でもしたらどうすんだ」
「だって」
「普通、実践まで行くのって結構な時間がかかんだぞ。寧ろここまで強くなったってこと自慢に思っていいくらいなんじゃないのか?」
「でも悪魔はもっと強いんだし……」

「当たり前だ。お前らみたいに数ヶ月しか剣振ってない奴らと一緒な訳ねーだろ。俺たちは数千年以上も戦って生きてきたんだぞ。昨日今日練習しましたーみたいな奴にやられるわけねーだろ。お前らは護身用に学ぶ程度でいいんだよ」

「だってそれじゃ役立たずだろ!?」
「だってとかでもばっか言うんじゃねぇ。役立たずなもんか。付いて来て捕まったり怪我した方が役立たずだ。自分の身が守れれば、付いて来たって何の迷惑にもなんねーんだからよ」

光太郎は黙ってシトリーを睨み付ける。

「睨んだ所でお前なんか怖くねぇよー」
「うっせぇ豹男!豹柄だせぇ!!」
「んだとゴルァ!豹バカにすっと噛み殺すぞ!」

フンッと鼻を鳴らし、そっぽを向く光太郎にシトリーはお手上げのポーズをとった。

「主、光太郎どうぞ。ストラス、お前はお茶でいいんだよな」
『えぇ。構いません』

パイモンが注いでくれたジュースを俺たちは飲んだ。

「よし、やることないなら今日も稽古しよっかな。パイモンいっちょ頼むわ」
『御意』

パイモンは悪魔の姿になって空間を出す。

「お前らはどうすんだ?やんのか?」
「おい、やるんだろ?俺を倒したいんだろ?ま、無駄な努力だけど」
「なんだとぉ!?やってやろうじゃん!」

光太郎は勢い良く立ち上がって、竹刀を取りに走って行った。

『……煽るのは止めたらどうだ?』
「すいませんねっと」

俺はそんなシトリーを尻目に空間に飛び込んだ。
俺たちはそのまま夕方まで剣の稽古をした。

そして月曜日、あのメールの返信が帰ってきたことをパイモンから聞くことになる。


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