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第49話 優しすぎた殺戮者
直哉は澪に抱きついて怯えている。
直哉にとっちゃ剣を見るのも初めてだもんな。
俺は手に浄化の剣を出す。

『マジでやる気かよ。聞いたぞ、お前ろくに魔法も使えないし剣技も素人なんだろ?』


49 優しすぎた殺戮者


ヴァッサーゴは剣を構えてこっちに斬りかかってくる。
俺は慌てて剣にイメージを込める。

『いいのか?お前の魔法加減ができないんだろ?この狭い場所で使って、うっかりこいつ等に当たったらお終いだな』

それを聞いてイメージを吹き込むのを止める。
でも気付いたらヴァッサーゴが俺の目の前で剣を振る体制に構えていた。

「拓也!!」

やばい!!
どうしようもなくて恐怖で目をつむる。
しかしヴァッサーゴは振るった剣を俺の首筋で止めた。

『2回目』
「え?」
『お前が俺に首をよこしてきた回数。さっきで1回目、これで2回目。指輪の継承者のくせに情けねぇな』
「うるさい!!」

俺は剣を振り回す。
しかしヴァッサーゴはそれを簡単に避ける。

『お前やる気あるのか?そんな剣技でよく今まで戦えてきたな』
「それは……」
『お前に他人は守れない』
「!」
『自分さえも守れないのに、利由を守るなんて夢のまた夢だ。お前は誰も守ることなんかできない』

ヴァッサーゴはまた俺に斬りかかる。
あいつの言うとおり、俺は剣技なんてまともなことはできない。力任せに振り回すしか……
俺は剣をヴァッサーゴめがけて上から下に振り下ろした。
予想通り、ヴァッサーゴはあっさりと剣を受け止める。

『力も弱いな』

どんどん剣は俺の顔に近寄ってくる。
こっちがいくら力を込めても、ヴァッサーゴはびくともしない。

「ぐ、ぎぎ……」
『殺すのがそんなに嫌か?』

一瞬の隙。その言葉により俺が力が抜けた瞬間にヴァッサーゴの手が俺の頭を掴む。
なんだ!?

『拓也!ヴァッサーゴは相手の記憶を盗み取ります!貴方の記憶を盗むつもりです!』

ストラスの悲鳴が聞こえて自分の状況を理解した。
俺の記憶を盗むだって!?

『見せてみろよ……お前の過去を』

ヴァッサーゴがそう告げた途端、頭に黒いものが流れてくる。なんだよこれは!
突然頭痛が襲いかかり、俺は大声を上げた。

「うああぁあああぁぁぁあ!!」
「拓也!」
『なるほど』
「兄ちゃんを放せー!!」

直哉がヴァッサーゴに飛びかかる。

「直哉君!」
『糞ガキが!』
「うわ!」

ヴァッサーゴに飛びかかった直哉が蹴り飛ばされる。

「直哉!てめぇ!!」

俺は頭を掴まれながらも必死で腕をのばしてヴァッサーゴに掴みかかった。
そのまま首を掴み力を込める。
ヴァッサーゴは苦しいのか、俺の頭から手を放した。でも抵抗する気が全くない。
何なんだこいつ……抵抗しないのか?
そのまま震える手で首を絞める力を強めていく。
でもヴァッサーゴは苦しそうな顔を1つもせずに口元に笑みを浮かべたまま。

『また殺すか?シスターみたいに』
「な……っ」
『またその手を汚すのか?今度はもう戻れないかもしれないぞ?』
「あ、あぁ……」

ヴァッサーゴを掴んでいた手が外れて頭を押さえる。
あの感触が再び思い出される。

『お前は正義の為にやってるみたいだけど……やってることはただの殺戮だ』
「さつ、りく……」

そんな俺の耳元でヴァッサーゴが囁いた。

『この人殺し……』

フラッシュバックされる光景。
血に染まった自分、倒れているシスター、呆然としているストラス。

「違う違う違う!俺はそんなつもりじゃない!」

違う!俺は殺したくて殺したんじゃない!
俺は殺戮したんじゃない!

『拓也!』

ストラスが俺の傍に寄ってくる。
澪はこの光景を見て、震える指でケータイのボタンを押す。

『もしもし』
「セ、セーレさん助けて!拓也が、拓也が!」
『澪!?どういうことだ!?』
「病院で拓也が……きゃっ!」
『澪!』

ケータイが床に落とされる。
俺が振り返ると、澪がヴァッサーゴに胸倉を掴んで持ち上げられていた。
澪は苦しそうに息を吐く。

「澪!」
『なんだ?一丁前に助けるつもりか?人殺し』
「違う!俺は人殺しなんかじゃない!」
『何が違うんだ?血に染まったシスターは紛れもなくお前がその剣で斬ったからだろう!シスターの未来を奪ったのは誰だ?お前が手を下さなきゃシスターは死ななかったはずだぞ!!』
「それは……」
『理由はどうあれ、お前は殺したんだよ。今から俺がするようにな』
「やめろ!」

「澪ねえちゃんを放せ―――!!」
『ヴァッサーゴ!止めるのです!』

直哉がもう一度ヴァッサーゴに掴みかかり、今度はストラスもそれに参戦する。
ヴァッサーゴは掴みかかった直哉に怒りのこもった視線を向けた。

『てめぇ……今度は殺すぞ!』

そして澪を突き放し、剣を直哉に振り上げる。
その瞬間、直哉の足をヴァッサーゴの剣が切り裂いた。

「うわああぁぁぁああ!」
「直哉ぁ!」

ヴァッサーゴは剣で直哉の足を斬りつけた。
直哉の足からは血が吹き出し、痛さのあまり涙を流してその場に倒れこむ。

「ああぁあああ!痛い!痛いよぉ!!」
『てめぇもだストラス!』
『ぐぅ!』

ストラスも腹を切られ、その場に倒れこんだ。

「直哉君っ……ストラスっ!」

澪は乱れた息のまま、血を流している直哉に駆け寄りポケットからハンカチを取り出して直哉の足を縛る。
直哉は足だからまだいいが、ストラスは腹をかなり斬られている。

「誰か、誰か!誰か助けてよぉ!!」

澪はストラスを抱き抱え、泣き叫ぶ。
でも誰も駆けつけてくれない。

『無駄だ。結界を張ってるからな、誰も気づきはしない。だぁれも……』

結界?じゃあまさかあいつらも……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「結界が張られてる」
「くそっこれじゃ入れねぇ!」

病院では4方を角にして正方形の結界が張られていた。
シトリーはガンガンと結界を蹴りつける。セーレもどこかから入口がないか探している。

「澪の電話ではかなり焦った感じだった。それに電話の途中で……」
「相手がヴァッサーゴならおそらくどっかにタリスマンがあるはず。あいつはそれで結界を張ってるはずだ」
「でもタリスマンは多分院内でしょ。しかもおそらくそのエネルギーは中の人間から吸い取ってるはず。そう考えたらこの院内の人間全部のエネルギーってことだよね?この結界壊すのって簡単じゃないでしょ」

ヴォラクの言うとおり…この結界は膨大なエネルギーの塊。
壊すのはかなりの時間がかかる。
しかしこのままでは主はまた……!

「いや、正方形の結界。おそらく4隅に小さなタリスマンが設置されてるはず」
「セーレ?」
「そのうちの1つを見つけて壊せば、そこから中に入れると思う」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
どうすればいいんだ?どうすれば!
目の前には倒れている直哉とストラス。そしてそれを抱きかかえてる澪。

『足手まといがいると大変だな』
「うるさい!」

俺は立ち上がり震える手で剣を握りなおす。

『殺し合いするか……』
「してやる。なんだってしてやる。澪や直哉やストラスをこんなにして、こいつ等を守る為なら殺戮者でも人殺しにでもなってやる!!」
『その決意がいつまで持つか』

ヴァッサーゴが剣を向ける。
俺も真似するかのように剣をヴァッサーゴに向ける。
ヴァッサーゴは一気に俺に斬りかかってくる。さっきまでとスピードはダンチで今度こそ本気を出してきたんだ!
俺は慌てて剣を立てて、その攻撃を防ぐ。目の前で剣がすれるのは怖い!
でもそれ以上に直哉達を傷付けたこいつが許せないんだ!!

「くっそおおぉぉおおぉぉぉおおお!!!」

でもいくら押し返してもヴァッサーゴはビクともしない。
逆にどんどん力を込めてくる。

『これなら!?』
「ひっ!」

ヴァッサーゴは一瞬で交えていた剣を受け流し、横から俺に切りかかった。
避けれない!
腹部を切り裂かれる痛みが走る。そしてその場所から血が飛び散るのが見える。
ウソだろ?俺、斬られたのか?

『威勢の割にあっけないな』

痛い痛い痛い!
腹からはドクドクと血が流れる。

「拓也、拓也ぁ……」

澪は涙をボロボロ流しながら直哉達を抱きしめる。
俺は腕を地面につけることでなんとか倒れずに踏みとどまっている。

『まだ立つか』
「当たり、前だ。お前は皆を傷つけた……足立さんの魂、どうする気だ?」
『地獄に持っていく。それが契約内容だった』
「お前は本当にそれだけで足立さんに笑顔を見せてたのか!?あの笑顔は全部ウソだったのか!?魂をとるためだけに笑ってたのか!?」

『だったら…なんなんだよ…』

「なっ!」
『これが契約内容だった!しょうがないだろ!?アイツは…最後まで内容を変えようとしなかった!だからこんなことになったんだろ!』
「だからって、もう生まれ変わることできないんだぞ!次こそは幸せに生きてほしいって思わねーのか!?」
『……だったらお前の大事な人間の魂をよこせ。その魂をよこしたらこいつの魂は解放してやる』

つまり……直哉や澪たちに死ねってことか?
そんなの!

『させるとおもってるのか?』
『パイモン……』

ヴァッサーゴの首筋に剣を突き付けるパイモン。
全然気配を感じなかった。でも良かった、これで……!
するとなぜか剣が俺の腕から消えてしまった。出したくても剣は出せない。

「あれ?なんで!?」
『おそらく体力と精神力の限界なのでしょう。疲れた体では剣は出せない。それだけです』

そういうことか。確かにこいつ等が来て体の力が抜けたのは確かだ。

「すまない拓也、遅くなった」
「お前平気かよ」

セーレが申し訳なさそうに謝り、直哉と澪の方に近付いて行き、シトリーが俺に肩を貸す。
ストラスはヴォラクに抱きかかえられてぐったりしている。

『ストラス大丈夫?』
「この怪我なら大丈夫だ。とりあえずヴァッサーゴを地獄に戻したら治療をしよう」

セーレは血が出るのを抑えるため澪がまいたハンカチを更にきつく縛る。
血はまだ固まっていないのか、少しずつ流れている。
直哉はそれを見てまた大声で泣き始める。

「うあああああ!!」
「大丈夫だ。よく頑張ったね。澪も頑張った」
「……うん」

澪はまた涙を流してセーレにしがみついた。
セーレは澪を受け止めて、あやすように背中を叩く。

「お前パックリやられてんな」

シトリーは俺の肩を叩きながら俺の傷を見て顔をしかめた。

「頑張った」
「ナイスガッツ」

俺とシトリーは拳を軽くぶつけ合う。

『いますぐその女の魂を放すんだ』
『無理だね。もう地獄に送ったからな』
『送っただと?』

ヴァッサーゴはフンと鼻を鳴らした。

『逃がしてはくれないよなぁ……』
『そりゃあね』

ヴォラクも剣を構えてヴァッサーゴに向き直る。
前には俺とシトリー、横にはヴォラク、後ろにはパイモン。
分が悪くなったのか、ヴァッサーゴは剣を落とした。

『降参だ。地獄に戻すなり好きにしろ』
「好きにしろって事は、死んでもいいってことか?」
「拓也?」

澪が不安そうな声を上げる。
でも許せないんだ……

『構わない』
「生き返ることができなかったとしても?」
『俺の罪は一生消えない。地獄に落ちた人間の思念があればいつでも蘇る。生憎、俺の罪はそんなに重い物じゃないんでね。少しの思念でもすぐに蘇れる。まぁそれでも50年くらいはかかるけどな』
「……」

『それでも審判の日には俺は確実に蘇る。そんなに先の話じゃない』

「審判の日?」
『主、こいつを地獄に還しましょう』
「パイモン?」

パイモンが話を遮って俺の前に立つ。

『……殺しても我々悪魔はいつかは蘇ります。これ以上血は見たくないでしょう?』
「俺は最初から殺すつもりはねーよ。聞いてみただけ」
『でしょうね』

でも召喚紋はどうするんだ?
このコンクリの床削って作るわけにはいかないだろ?

『召喚紋はどうしましょうか。拓也の剣がない今、どうやって作れば……』

俺は指輪を見つめる。
すると指輪はいつものように薄く輝きだす。

『召喚紋は何とかなりそうですね』
「俺、こいつの召喚紋知らない」
『そうだと思いましたよ』

パイモンは俺の腕をとって召喚紋を描いていく。
ヴァッサーゴは悔しそうに呟いた。

『ちっ……まんまとしてやられたな』
「おい。お前の契約石はどこだよ」
『あ?棚の上にあんだろ』

シトリーの問いかけにヴァッサーゴは首を動かす。言われて見た場所には何かが置かれていた。

「クリソプレーズのタリスマン……これだな」

シトリーはそれをヴァッサーゴに投げつける。
ヴァッサーゴはそれをキャッチした。

『投げんなクソ』
「うっせぇバーカ」

なんか子供の喧嘩みたいだな。
ヴァッサーゴは少し笑いながら俺を見る。

『継承者』
「え?」
『お前は強いな』
「強い?」

強くないからこんな傷負ってんじゃん。滅茶苦茶痛いんだぞ。

『人殺しなんて言って悪かったな』

パイモンが呪文を唱える。
ヴァッサーゴは少しだけ笑みを浮かべていた。

「あ、おい!」
『利由、今度こそ幸せに……』

そしてヴァッサーゴは消えていった。残された俺は何が何だかわからず、ただ呆けていた。
すると、ヴァッサーゴがいなくなった場所から青白い光が出てきた。
これは魂?魂はゆっくりと消えていった。成仏したんだろうか。
この光景を見ていたヴォラクがポツリと呟く。

「あいつ食ってもなかったし、地獄にも持って帰らなかったんだね」
「お前にも随分手加減して戦ってたしな」
「え?そうなの?」
「当たり前だろ。本気だしたらお前なんてもう胴体半分こだ。それに直哉とストラスにも…斬りつけること自体はアレだけど、わざと足や腹を狙ってるし動脈や静脈には一切傷つけてない」

それはそれで怖い。でもやっぱりあいつ……

「優しかったんだよな……」
「彼は拓也に倒してほしかったんじゃないかな。彼女の魂を持っていくことに抵抗があった。でも手ぶらで自ら地獄に戻るのも裏切り者として認識されるから気がひけた。だから敢えて負けて地獄に戻されることでそれを回避した……俺にはそう思えてならない」
「買いかぶりすぎだ」

パイモンはバッサリと切り捨てる。それでもセーレは笑ったまま。

「彼は優しい奴だったよ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ヴァッサーゴ……あいつ敢えて地獄に戻った。サボりやがったな」
「ちょっとぉ〜これで戻されたのって何匹目?マジ洒落になんないって」
「逃げてきたお前が言うな」
「だってパイモン達を一気に相手には無理っしょ」
「まぁな。でももう計画は確実に進んでる。あいつ等が俺達全部を地獄に戻そうったって間にあわねーよ」
「ラウムはせっかちだな」
「お前だって俺達もう10人の人間の魂は地獄に送ったぜ。フォカロル達なんか競争してるしな」
「ぷぷ……あいつ等らしいわ」
「行くぞボティス」
「了解」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『!?』
「どうしたパイモン」
『なんでもありません。一度ひきましょう。もうすぐここは結界が切れて院内の者も目を覚ますでしょう』
「でも今思ったら病院って監視カメラあるよな?あれに俺たち映ってないかな」
「大丈夫だ。カメラは止まってた」

なぜそんなことをちゃんと確認してるんだ?シトリー。
とりあえず俺達は病院から逃げるように外に出た。

「痛いよぉ〜痛いよぉ〜〜」

直哉はセーレにおんぶされた状態で泣き続ける。
俺とストラスは腹が切られている。
俺たちを通り過ぎて行った人達はみんな、俺たちに振り返る。

「早く家に帰りたい」
「そうだね。じゃなきゃ治療もできないもんね」
「そうだけど、この体勢も嫌なんだよ!」

今の俺の体勢はシトリーにおんぶされてる状態。
高校生がおんぶって……めちゃくちゃ恥ずかしくないですか!?

「うっせーなぁ……じゃあ1人で歩けよ。俺だってな、お前なんかを担ぎたくねーんだよ」

俺だって担がれたくねーよ!!
俺はその恥ずかしい体勢のまま、家まで運ばれて行った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也!直哉!どうしたのその傷!!」

家に帰っての第1声は母さんの悲鳴。
シトリーは俺を靴置場に投げ捨てた。(なにすんだよ!)

「いてーな!」
「うるせぇ。あー男臭が移った」
「お前も男だろ!!」

セーレは直哉を優しく降ろす。(俺もこんな風に降ろせ)

「直哉君。傷の手当しようね」
「痛い?」
「痛くない。すぐだよ」

セーレの手に不思議な光が放出される。
直哉の傷は綺麗に閉じていく。直哉は興奮してはしゃぎだす。

「すっげーケアルだケアル!!」
「けある?」

聞きなれない言葉に首をかしげるセーレ。

「ゲームの回復魔法の名前だ」

なぜ知ってるシトリー。
セーレは直哉の頭を軽く撫で、俺に向きなおる。

「拓也は結構深いね。全部は直せないけどいい?傷は残らないだろうけど」
「うん。風呂で沁みない程度までな」
「それってほとんど直せってことだよな」

セーレは苦笑いして俺の腹にも手を当て、同様に傷を治していく。

「はい」
「サンキューな」
「次ストラスね」

セーレはストラスにも手を伸ばす。しかしストラスはそれをやんわり断った。

『私は悪魔なのですぐに治ります。それよりも白魔術は専門の悪魔でないと、体に相当な負担がかかるはず。無理しなくていいですよ』
「お見通しか」

セーレは少し困ったように笑う。
無理させちゃったんだな……

「じゃあ私たちはこれで。主、お大事に」

俺たちの傷が治ったのを確認して、パイモン達は頭を下げて玄関から出て行こうとする。
しかし母さんが皆を呼びとめた。

「待って!」
「なにか?」
「説教か」

パイモンは少し緊張気味に…シトリーはうんざりした様子で振り返る。

「ありがとう。拓也と直哉を助けてくれて……」

母さん……
皆ビックリしてる。まさかこう帰ってくるとは思わなかったのだろう。

「こちらこそ」

パイモン達は少し笑って、そのまま家を出て行った。

「母さん」
「今日、助けられたんでしょ?」
「うん。めちゃくちゃ助けられた」

母さんは俺の言葉に少しだけ笑みを浮かべ、夕飯にしましょう。といって台所にはいって行った。直哉もその後を走って付いて行く。
そんな俺に澪が近寄る。

「おばさん、よかったね」
「だな」

でも俺は助けてもらってばっかりだ。
今度こそはあいつ等の力なしでも澪と直哉を守れるようにならないと。

「ストラス」
『なんでしょう?』
「俺もパイモン達に稽古付けてもらうよ。いい加減強くならないとな」
『拓也……』
「夕飯食おうぜ」

俺達はそのまま台所に移動した。でも澪は浮かない顔。

「澪?」
「利由ちゃん、本当に死んじゃったんだね……」
「あ……」
「これは悪魔のせいじゃないよ。病気だもん。だけどね……」

澪は両手で顔を覆った。

「だけどごめんね……今だけ泣かせて……」
「……うん」

声を殺して涙を流す澪に俺も知らず知らず涙がこぼれた。

優しかった足立さん。とっても明るい子だった。
明るくて優しくて、少しだけ強がりで寂しがり屋な女の子だった。
どうか次こそは笑って過ごせますように。
病気なんかになりませんように……もしまた出会えたら、また一緒に遊ぼう。

俺と澪は母さんが俺たちを再び呼びに来るまで、玄関で涙を流した。