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第2部
第48話 さよなら
かすめ取るつもりだったんだ。
楽して魂は取れた方がいいって……最初はそう思ってた。

違ってきたのはいつ?


48 さよなら


目の前のこいつはいつも笑ってる。辛い事があっても表面では隠すように笑ってる。
指輪の継承者と初めて出会ってから1か月、あいつ等は何も言ってこない。
時々俺がいないのを見てこいつのとこを訪ねてるようだ。
あいつ等が俺の前から姿を見せなくなって2週間ですべてが変わった。
目の前で苦しそうにしながらも笑うこいつも。
利由は前よりもはるかに歩けなくなった。歩けなくなるどころか体を動かすのも億劫そうだ。
それでもあいつは笑う。俺の話を聞いて笑う。

予言の日まであと3日。

3日後、12月6日にこいつは死ぬ。
それを知らないこいつはそれでも笑い続ける。
でももう俺が告げて4か月、さすがに勘づいてはいるんだろう。
胸に大きな虚無感が襲い掛かる。こんなつもりじゃなかった。楽して魂が手に入って…最高のはずだった。
それなのに……

「ヴァッサーゴ?」

なんでお前が心配そうな顔するんだよ……
最後に聞かせてくれ。今ならまだ間に合うんだ。

「本当に魂とっていいんだな?この契約内容でいいんだな?」

今ならまだ契約内容は変えられる。お前は輪廻できるんだ。

「変なの」
なんで笑う?
「これは決まったことなんだから気にしなくていいのに」
あいつはまた笑う。
「今まで楽しいと思ったことなんてなかったから……あの時間は楽しかった」
それは本心?死んだ後の事を考えてもまだそう言えるのか?

「だからあたしが死んだら魂……好きに使っていいよ」

――――――――――――お前は本当にそれでいいのかよ――――――――――――

わかってるのか?お前の魂の行方を。
俺が地獄に送るんだ。地獄に送ってルシファー様に捧げるんだ。
そうしたらお前は死んでからも永遠に煉獄で苦しむことになるんだ。幸せなんて2度と来なくなるんだぞ。
本当にいいのか?お前の契約なんて軽いもんだ。話して喜ばせる。本当に軽いものなんだ。
お前の魂で採算をとらなくたっていいじゃないか。
もっと他の物でもいいんだ。魂じゃなくたって何でもいいんだ。
お前が、お前のじゃなくてもいいじゃないか……頼むから、お願いだから一言言ってくれ。

天国に行きたいって。

そうしたら契約内容を変えられるから。
多分お前の指1本くらいは持っていかなくちゃいけないかもしれないけど…死んだ後だから何ともないだろ?
それで契約してやるから……
だからそう言ってくれ。この契約で行かないでくれ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「お前またいくのか?」

放課後、俺が病院に行こうとしたら光太郎が不安そうな声をあげた。
あの日に起こったこと、光太郎にも中谷にも澪にも俺はすべて話した。
やっぱり不安なんだろうな。
でも信じられないんだ。嬉しそうに笑う足立さんを見ると信じられない。

翔太、ヴァッサーゴがそんな悪い奴に思えないんだ。

中谷と光太郎は今日は部活と塾だ。
なので俺は澪を誘って病院に行くことにした。
澪は快く頷いてくれた。そして少し寂しそうに笑った。

「多分ヴァッサーゴって悪魔はセーレさんみたいな悪魔なんじゃないのかなぁ」
「セーレ?」
「うん。優しいんだよきっと……本当はすごく」
「俺もそう思いたい。だから信じられないんだ。あいつが足立さんの魂をとるのが」
「そうだね」

足立さんは最近ほぼ寝たきりになっている。
だからあいつは付きっきり。
あいつがいなくなったのを見計らって俺達は足立さんに会いに行く。
今日もそう。あいつがいないのを見て、俺と澪は病室に入った。

「いらっしゃい。ごめんね」

足立さんは寝ながら挨拶。
顔色も悪い。

「気にしなくていいよ。具合は?」
「平気平気。今日はだいぶいいんだよ」

嘘だ。手が震えてる。本当はどこかが痛くてしょうがないのか……足立さんは強い人だ。
でも今日は珍しい人が来た。

「利由」

声が聞こえたら、そこにはおじさんが立っていた。

「ぱぱ……」
「具合はどうだ?」
「来なくていいって言ったのに」

戸惑いながらそう言う足立さんにおじさんは少し悲しそうに笑う。
足立さんのおじさんは少し気まずそうに笑い、花瓶に花をさした。

「利由。その子たちは?」
「お友達。お見舞いに来てくれてるの」
「そうか……いつも利由が世話になっているね」

なんか想像よりも全然やわらかい。
見舞いに来ないからもっと印象が悪かったけど全然そんなことない。優しそうなおじさんだ。
澪と足立さんが2人で話しているのを見計らって、おじさんが俺に声をかけた。

「ちょっといいかな……」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
屋上で俺は足立さんのおじさんにコーヒーを貰った。

「すいません。で、話って何ですか?」
「娘のことなんだ。最近病状が悪くなる一方らしい。これからも利由のこと宜しくな」
「おじさんも見舞いに来てあげたらいいじゃないですか……」

子供が苦しんでるのに、他人にそんなこと言うなよ。
でもおじさんは寂しそうに笑う。

「利由は私たちを恨んでる……それだけはわかる」
「恨んでる?そんなことないですよ。恨んでなんか……」
「あの子の病気は先天性の物なんだ」
「先天、性……」
「胎児の時に利由の母親、私の妻がね、仕事を辞めたくない、母親になるのが怖い。その恐怖からストレスがたまってね、煙草やら体に悪い食事やらを取り続けてたんだ。彼女は一流企業に勤めてたから、辞めたくない気持ちはわかるけどね。子供のためを思って私が会社を辞めろというのが気に食わなかったんだろう」

そうだったのか……でもそれでなんで?

「煙草や偏った食生活のせいで利由は脳に障害を持って産まれてきた。それは体が動かなくなる病気だったんだ。自分の自我などには影響はなかったが……「筋ジストロフィー」のデュシェンヌ型だそうだ。
根本的な解決法はなく、昔では20まで生きられないと言われていた病気らしい」
「そんな重いものだったんですか?」

「今の医療では20過ぎでも生きられるらしいんだが、でもやはり不安でね……その病気はうつ病も引き起こすらしくしね。昔泣きながら言われたよ。なぜこんな体に産んだんだ!?って」

「そんなことを……」
「それを聞いた時感じたんだ。この子は私たちを恨んでると……こんな身体に生んだ私たちを憎んでいると……それから私たちにわずかに距離ができた。私たちは利由の気に障らないように会話をすることを心がけた。だから利由が具合が悪くなっても妻はできる限り入院はさせずに家に居てほしいと言っていたんだが、あの子が私たちを恨んでる気がして入院させた。それでも見舞いには行ってたんだが、来なくていいって言われてね。それ以来時々しか来てないんだよ。やはり恨まれていたんだな」

すれ違ってるんだ。本当はお互い思い合ってるのにすれ違ってた……
俺はいたたまれなくなって首を振った。

「違います!足立さんは仕事で忙しい両親が自分に興味を持ってくれないって……だから来てもらっても悲しいって気を遣って……」
「それは、本当なのかい……?」

俺は頷く。

「なんてことだ……あの事を言われて以来気を遣って私たちの態度がよそよそしかったのを気づいてたのか……っ」
「大丈夫。まだ間に合うから……だって20より先も生きれるんでしょ。ならまだ大丈夫」

おじさんは頷くと走って行ってしまった。
恐らく足立さんのとこに行ったのだろう。俺はもう少しだけ屋上で過ごすことにした。
暫くして病室に戻ると、足立さんと楽しく話しているおじさんの姿。

「利由。今日は母さんも呼んで、3人でどこかに食べに行かないか?」
「本当に?嬉しい!」

足立さんは嬉しそうに笑う。
その光景を見て、俺と澪も顔を見合せて笑う。
でも気付かなかった。
病院の違う棟の屋上から俺たちを眺めているヴァッサーゴがいたという事に。

「もうおせーよ……今さら和解したところで、そいつはあと3日の命だ」

足立さんのおじさんから電話で足立さんが死んだことを知らされたのは、その3日後だった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「足立さん……」

俺達はその日、学校が終わってすぐに病院に向かった。
足立さんは静かに眠っている。
足立さんのおばさんは泣きながら足立さんを見つめる。

「利由……どうして?」

おばさんは医師に声を張り上げる。

「どうしてなんです!?利由は20までは生きれると仰ったじゃないですか!!」
「申し訳ありません……」
「利由……全部あたしのせいだわ……あたしがこの子をこんな風にしたんだわ!」
「落ち着きなさい!」

おじさんに抱きしめられるおばさんを見て、俺達はいたたまれなくなった。
澪も泣きながら病室の外に出てしまった。

「なんでこうなっちゃうんだろうな……1週間前までは普通に笑ってたんだけどな……」

光太郎は寂しそうにつぶやいた。
病室には俺達のほかに足立さんを見舞いに来る人は高校の担任以外いなかった。
主治医も出て行って、俺たちだけが残される。
夕方の6時を回り、俺達も家に帰ろうと病室を出た。

空気が重い。

足立さんの話を聞いてもうすぐ死んでしまうと言うのは知ってた。
でもその日が訪れるのを頑なに心の中で先送りしてた。まだ大丈夫だって……

「なんかやな気分だよな」

中谷はそう言って大声であ―――――!!!と叫んだ。

「ダメだもう!なんかやるせねぇ!俺今からバッティングセンター行ってくる!」

中谷はそう言ってバッティングセンターがある方向へ歩きだす。

「俺も行こうかな…意外とすっきりするかも。拓也と松本さんは?」
「俺らは帰るよ。母さん待ってるし……な、澪」
「うん……」

俺達はそこで別れた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也、澪ちゃんお帰りなさい」

母さんは少し気まずそうに俺たちを迎え入れた。
今日、足立さんのおじさんからの電話を受けたのは母さんだった。
話を聞いていた母さんは俺たちにその話題には触れずに接してくれた。
俺達は夕飯ができる時間まで2階に上がった。
ストラスは相変わらず直哉に遊ばれてる。

「何やってんだよお前ら」
『拓也、聞きましたよ。あの少女のこと』
「うん」
『ではもうヴァッサーゴは地獄に返してきたのですか?』

え、なんで?

「なんでだよ」
『なんでですと?彼女の契約条件は死せば魂を好きにしていいという契約。死んでしまった今こそ魂をとられる時ではありませんか!?私はてっきり貴方がパイモン達と地獄に返してきたのだと思っていましたよ!!』

え―――――!!

「俺そのまま帰っちゃったぞ!」
『何をしているのです!魂をとられてしまいますよ!』
「行かなきゃ!」

俺はストラスを引っ張って何も言わずに家を出た。

「拓也!」
「一大事だ!」

展開についていけない澪がとりあえず俺を追いかける。

「ん?……待ってよ〜俺も行く〜」

直哉はわかってないのか走って俺についてくる。
でもそれに気づかないほど俺は焦っていた。

早くしなきゃあの子の魂が!!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「タイムアウトだ。この契約、実行させてもらう」

ヴァッサーゴは利由の額に手を置いた。
最後まで言わなかった。この契約のままでいいと……でも最後に楽しい思いをさせたのは俺じゃなくこいつの家族。
契約は果たせていないのかもしれない。
だが契約は契約だ。

「お前の魂、俺が地獄に持って行かせてもらう」

そしてルシファー様へこの魂を……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「どういうことだよっこれ!?」

病院はまだ6時30くらいなのに真っ暗だ。
なおかつ医者、患者、看護師……全ての人が倒れている。

「おい!おい!」

俺は倒れているおっさんの1人をゆすってみる。
だけどまるで起きる気配がない。

『ヴァッサーゴの仕業ですね』
「え?」
『彼の契約石は私たちの物と違い特別な物。契約者ではない他人からエネルギーを吸い取ることができるのです。おそらく彼がエネルギーを吸い取っているのでしょう』

あいつ……やっぱり魂を!あいつを信じた俺が馬鹿だった!!
俺はストラスを連れて足立さんのいる病室に急ぐ。

「拓也!」「にいちゃ〜ん?」

その後ろを澪達が付いてくる。でも振り返る余裕なんてない。
だから気付かなかったんだ。俺たちが病院に入ってすぐに病院全体に結界が張られたことなんて……
電気が切れて真っ暗な病院を俺達は必死で走る。
足立さんの病室が見えてきた。そしてそこにいたのは足立さんの魂をとろうとしているヴァッサーゴの姿。足立さんの両親も倒れている。

「待てよ!!」

俺の声に反応してヴァッサーゴが振り返った。

「こんないいタイミングに来るなんて全くいい嗅覚してるよ。でももう遅い」
「な!」

あいつが手に力を込めると、足立さんの体から青色の浮遊体が出てきた。

「あれが……魂」
「きれいな青色。寂しさと苦しさと悔しさと喜びが混じり合った魂、理想的だな……この魂ならルシファー様も満足してくれるだろう』
「させるかよ!」

俺はあいつに飛びつこうとした瞬間、首元に剣が添えられる。

「!?」
「拓也!」「兄ちゃん!!」

病室にはいってきた澪と直哉が悲鳴じみた声を上げる。

『ついでにお前も来てもらおうか継承者』

ヴァッサーゴが悪魔の姿に代わる。
見た目的な変化はそんなにはないが……耳が尖ったくらいか?それでも空気は全く違う。

「ぜってー付いていかねぇ」
『それでもいいさ……殺さない程度にならぶちのめしてもいいんだからな』

俺は浄化の剣を手に持つ。
でも今回は悪魔との一騎打ち。俺に勝ち目はあるんだろうか。



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