あの日から俺は時々、その子のとこに見舞いに行くことにした。
その子の名前は足立利由という名前で、俺より1歳上の子と言うことが分かった。
47 最後の時
光太郎と中谷も紹介したせいか、すぐ足立さんは光太郎たちと打ち解けた。
でもやっぱ男ばっかじゃつまんないよな。
そう思った俺は澪も紹介した。案の定、足立さんは嬉しそうな顔をして澪とファッション雑誌等を見て盛り上がる姿をすぐに見ることができた。
藤森も退院して今ではいつも通り、学校で上野たちと騒いでいる。
もうすぐ足立さんと知り合って2週間。
「なぁ。今日見舞いいかね?」
放課後、俺は中谷と光太郎を誘った。でも……
「わりぃ。部活だ」
「俺も今日塾なんだわ。松本さんは?」
「澪は今日橘さんと遊ぶんだって」
「橘さん?あぁ、あの松本さんと仲いいショートの子ね」
光太郎はそっかぁ。と呟き、俺に提案してきた。
「シトリー連れてっていいぜ。今日バイトないっつってたし」
「あーそれならヴォラク連れてってくれていいから。しついっつも暇だし」
光太郎はシトリーの予定ちゃんと知ってんだぁ。俺、自分が契約してた時も知らなかった。しかも中谷その言い方って……(笑)
とりあえず、俺はストラス達を連れていくことにした。
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「ただいまー」
家に帰ってストラスを探す。
ストラスは直哉にもみくちゃにされて遊んでいた。(いや、遊ばれてるか?)
あの事件から3週間近くがたった。もう11月も中旬。
母さん達も俺たちの生活もゆっくり、ゆっくりだが少しずつ元に戻って行った。
直哉もいまじゃ元通り、ストラスをおもちゃにしてるくらいだ。
「直哉。ストラス借りるぞ」
俺は直哉からストラスをひきはがした。
「えー。今いいとこなのに〜」
『何がいいとこですか!羽毛を荒らして!』
ストラスはシャーっと怒りの声をあげた。
俺はストラスを肩に担いでマンションに向かう。
『拓也?どこに行くのです?』
「あぁ、病院に。最近お見舞いしてる子いるって言ってたじゃん?そこに」
『動物は入れるのですか?』
あ、そうか。
「無理だった」
『私はマンションで留守番してますよ』
あーじゃあストラスは無理か。
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「私もちょっとそういうのは得意じゃないですね」
パイモンばっさり……ってか得意とか得意じゃないとかあんのか?
「なぜ見ず知らずの者に気を遣い、励まさねばならないのです?主だけでどうぞ」
パイモン!?お前そんな酷い事言う奴だった!?
こいつは俺の言うことならなんだかんだ言って聞いてくれると思ってたのに!
なんか反抗された!!
「セーレ、お前は来てくれるよな?」
「俺でいいのなら……」
お前は最後の良心だよ!お前と契約してて本当に良かった!!
「ヴォラク、シトリーお前らも行くぞ」
「相手が女の子なら喜んで!」
「俺中谷がいないとさ〜」
シトリーお前こういうときはあっさり許可するな。
ヴォラクはそう言って逃げようとする。そうはさせない。
「中谷がヴォラク連れ回していいってさ。ちゃんと許可貰ったから」
「ブホッ!ごほごほ!あいつ!」
ヴォラクは飲んでいたコーラを吹き出しそうになり、悔しそうにコップを握りしめる。ハイ決定〜♪
俺はヴォラクとセーレとシトリーを連れて、病院に向かうことにした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、来てくれたんだ。なんかごめんね。気を遣わせちゃって……」
足立さんは申し訳なさそうにしながらも嬉しそうに笑った。
「うほっ!可愛い!」
「シトリー……」
あれ?そういえば男は?
「あいつはどこに行ったんだ?」
「あぁヴァ……翔太のこと?」
そうそう翔太。あの男は翔太と言う名前らしい。
足立さんは少し悪戯っ子のように笑った。
「飲み物買いに行ったの。あたしがジュースが欲しいってねだったから。それより拓也君。少し聞きたいことあるの?」
「ん?」
「その指輪ね?何?」
「え?あの……」
なんでそんなこと聞いてくるんだ?
何も知らないよな?足立さんはただの好奇心で聞いてるだけだよな?
「これは普通に店で買ったんだ。傷が入ってるからって理由で50円で買ったんだけど」
「そうなの?なんかかっこいいね」
足立さんは少し安心したように笑った。その時扉が開く音がした。
どうやら翔太が帰ってきたみたいだ。
「おい利由、買って来てやったぞ。アクエリアスでいいんだよな」
「よっす翔太。お邪魔」
何かが床に落ちる音が響いた。
何かと思って振り返ると、ペットボトルを落とした翔太が目を丸くして立っていた。
「お前ら……」
「ヴァッサーゴ!」
ヴァッサーゴ?まさか!
「悪魔?」
俺の言葉に翔太は反応して掴みかかる。
かなり切羽詰まった眼で睨まれて、思わず固まってしまった。
「てめぇ!初めからこれ狙ってたんだろうが!!」
「な、違う!俺はそんなことしてない!」
「なんでお前がここにいんだよ……」
シトリーが翔太の肩を掴んで俺から引きはがす。
将太は忌々しそうにシトリー達を睨みつけた。
「クソがっ!裏切り者どもが!俺を地獄に返しに来たのか!?」
なんで、なにがどうなってんだ?こいつは翔太で、足立さんをいっつも笑わせて……
なんでこんなことになってんだよ!?
「翔太!なんで、なんで……!」
「ヴァッサーゴは……あたしと契約してるんだよ」
足立さん?
足立さんは悲しそうに笑った。
「まだヴァッサーゴを地獄に返さないで。あたし達の契約はまだ終わってないの」
「契約って……」
「貴方には関係ない」
足立さんはそれ以上は言わないとばかりに口を閉ざす。
「ダメだね。ヴァッサーゴはこの場で地獄に帰ってもらうよ」
ヴォラクはそう言ってヴァッサーゴを睨みつける。
だけど足立さんはそれを拒否する。
「ダメ。あたしが死ぬまではダメ」
「死んだらあんたの魂はヴァッサーゴにとられちゃうんだよ」
ヴァッサーゴはこっちを睨みつけてくる。
「とりあえず今日はいいから!今日はもう帰ろう!」
「拓也、だけどさっ!」
「いいから!」
俺はヴォラクの腕を引っ張って、病室を出る。
ヴァッサーゴと足立さんは俺たちが病室から見えなくなるまでこっちを睨んでいた。
「行っちゃったね」
「あぁ。ばれちまったな」
「ごめんね」
「お前のせいじゃない。俺は契約が終わるまでお前と離れるつもりはないからな」
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「なんで俺達が逃げなきゃいけないんだよ!」
帰り道、ヴォラクは納得がいかないという様に声を張り上げる。
「しょうがないじゃん。だってあいついい奴なんだよ……いっつも病室にいて、足立さん励まして、それをすぐサヨナラなんて……」
「あいつがいい悪魔と思ったらそれ間違い」
「は?」
「あいつの能力は過去、未来の透視。あいつは入院してるあの子の未来が見えてるってこと。それで契約してるってことは、あの子の寿命がもうすぐ切れるってことだ。あいつはその魂を狙ってる。そしたらボティスの二の舞だ」
そんなの……そんなこと……
「嘘だ。あいつはいい奴なんだ!だって俺にも普通に接して……」
「エアリスもボティスのこと悪い奴とか言ってなかったでしょ」
どうしよう。この話が本当なら足立さんは……
「俺……知らせてこなきゃ!」
気づいたら走り出してた。
ヴォラク達の制止も聞かずに。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
病院に着いた俺は安達さんの病室に向かって走る。
そしてそのまま足立さんの病室のドアを開けた。
「いない……」
そこに足立さんはいなかった。そして翔太も……
まさか!
俺は慌てて前を通りかかった看護士さんに聞いてみた。
「足立さんは!足立さんはいませんか!?」
「え、足立さん?あの子ならこの時間はいつも散歩に行ってるけど?」
よかった……看護士さんの記憶があるって事はまだ死んでないって事。
「散歩って中庭ですか!?」
「大体そこに行くけど、結構屋上から中庭を見てたりもするわよ」
あ〜〜どっちなんだ!?
俺は窓から中庭を覗き込む。
俺が見る限りは中庭に足立さんの姿はなかった。屋上か!
「ありがとうございます!!」
「あ、君!」
俺は看護士さんに礼を言って、屋上に向かって走った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
屋上にはちっさい子供や、入院患者などで結構な人数がいた。
そんな中でベンチに座ってる足立さんを俺は見つけた。
どうやら翔太はいないようだ。
「足立さん」
「拓也君」
俺が話しかけると、足立さんはビックリした顔をこっちに向けた。
「どうしたの?帰ったのに」
「契約の事を聞きたいんだ」
「……ヴァッサーゴが言ってた。自分を地獄に返そうとしてる人間がいるんだって。その子は指輪の継承者なんだって、君のことだったんだね」
「なんで契約したんだ?悪魔と契約するなんて、なんでそんなことを……?」
「だって寂しかったから」
足立さんはポツポツと話しだした。
俺は足立さんの隣に腰掛ける。
「お父さんとお母さんはあたしのことなんて心配してない。いっつも仕事が大事。小さい頃は心配してくれてたんだよ。でも入院と退院を繰り返して関心薄れちゃったのかな?また入院するの?って感じになっちゃって」
「ひでぇ……なんで」
「2人は悪くないの。あたしがいつまでたっても良くならないから……入院のせいで友達もできなくって、いっつも1人で病院にいた。寂しかった、すっごく寂しかった。でも時折お父さん達はお見舞いに来てくれたの。でもそれが申し訳なくって、本当は来たくないんだろうなって思って……それを考えたら悲しくなっちゃって……もう来なくていいって言ったの」
「……」
「強がってたんだけどね、やっぱり悲しくて病院でいっつも泣いてた。その時にヴァッサーゴがあたしの前にいたの。最初は怖くって大声をあげようとしたんだけど、頭撫でてくれた」
足立さんはそう言って頭を触る。
「すっごい嬉しくて、でもその時知ったの。自分がもう長くないって」
「長くない?」
「持って4か月……そうヴァッサーゴから言われた。だからなんて失礼な奴なんだーって思ってたの。でもね、先生に聞いたら……」
『利由ちゃん。残念だけど我々ではここまでが限界だ。頑張って延命させるしか……』
「自分の体が悪くなっていってたのは誰も教えてくれなかったけど気づいてた。だって段々走れなくなった。歩くのもここまでが精いっぱい。話せるだけまだマシ、体動かすとすぐ疲れちゃうの」
「足立さん……」
「自分の体だもん。わかるよ。あたしはもうすぐ死ぬ。それなら最後くらいは楽しく生きたいじゃない?だからね、ヴァッサーゴが契約しようって言った時、契約したの」
「条件は?」
「あたしが死ぬまで楽しく過ごさせてくれること……その代償はあたしが死んだあとの魂は好きに使っていいってこと」
なんて契約をしたんだ!?
「意味わかってんのか!?魂を好きにされるってことは…もう生まれ変わることができなくなるかもしれないんだぞ!?」
俺の大声に周りにいた人たちが一斉にこっちを見る。
「わかってる。ヴァッサーゴはそう忠告してくれた。それでもいいの」
「良く……ないだろ!」
「いいの。だから今こんなに楽しいんだから。だからね」
足立さんは空を見上げた。
「彼に会えてよかった」
足立さんが消えそうな気がしたのはきっと俺の気のせいだと思いたい。
涙をこらえて足立さんは上を向きながら笑う。
「よかったな……」
それ以上は何も言うことができない。
俺はそのまま何も言わなかった。
本当にいいのか?だって魂とられちゃうんだぞ……
なのになんでそんな割り切れるんだ?怖くないのか?
いろんな感情がごっちゃになってなんて言っていいか分からない。
ただ1つわかるのは目の前のこの子が、もうすぐ死んでしまうということ。
心にぽっかり穴が開いた気分だった。
登場人物
ヴァッサーゴ…ソロモン72柱3番目の悪魔。
26の軍団を持つ偉大なる王子とされ、穏和な性格を有するという。
ヴァッサーゴはゲーティア以外の文献には登場せず、姿形も含め謎が多い悪魔である。
ヴァッサーゴは過去、現在、未来の出来事全てを見通すことができる。
契約石はクリソプレーズのタリスマン。
魂を盗む目的で利由に近づいたが、利由の性格に触れ彼女に恋心を持つようになる。
足立利由…高校2年生の女の子。筋ジストロフィーと言う難病を患っている。
明るく、人に弱音は見せない性格だが人一倍寂しがり屋でもある。
ヴァッサーゴに淡い恋心を抱いていた。
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