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序章
第4話 悪魔ヴォラク
『フォモス、ディモス、落ち着いて』

子供は早く暴れたいとでも言うように雄たけびを上げるドラゴンを諫めた。
『まずはいいところを邪魔してくれたこのお兄さんから血祭りにしてあげようか』


4 悪魔ヴォラク


子供の言葉を聞いた2つの首を持つドラゴンは嬉しそうに雄たけびを上げた。
やばい……俺、狙われてる?
俺が軽く放心していると、ストラスが中谷に避難するように呼びかけた。

『中谷とやら!早くお逃げなさい!』
「ドラゴンが、フクロウがしゃべって……え?」

中谷は混乱して何がなんだか分からないという感じだった。

「中谷!このフクロウの言うとおり!あいつはお前を狙ってんだから早く逃げろ!」
「池上!む、無理だよ。腰が抜けて……」

中谷はガクガク震えた。
あぁもうどうすりゃいいんだよ!?

『拓也、私が時間稼ぎをしましょう。その隙にこの少年だけでも……』

ストラス……お前意外といい奴(?)だったんだな…
ストラスは俺から飛び降り、ヴォラクの前に飛んでいった。

「中谷!しっかりしろ!」

俺は中谷に肩を貸し河川敷をゆっくりと登った。
すると光太郎がこっちに駆け寄ってきた。

「拓也どうなってんだよ!?ここから出れないんだよ!」
「え!?どういうことだ!?」

光太郎の後を中谷に肩を貸しながら走っていくと見えない壁のような物に阻まれた。
なんだこれ……その壁の向こう側には通行人がこちらに気付かず歩いていた。

「助けてくれ!なぁ!!」

俺はその通行人たちに呼びかけたが、全く気付かない。まさか聞こえてない?俺たちのことも見えてない?
だって普通、あんなでっかいドラゴンや羽の生えた人間なんて見たら大パニックだよな?
なのに通行人たちは何食わぬ顔で俺たちの前を素通りする。
俺と光太郎と中谷は真っ青になった。
どうしろっていうんだよ……

『ぷぎゃ!』

ストラス!?今すっげー間抜けな声出さなかった!?
振り返るとストラスが倒れている。その姿を見て子供は高笑いしだした。

『あっははは!馬鹿じゃないのストラス!力もないくせに喧嘩売ってくんなよ!大体、人間なんかに加担しちゃって本当に馬鹿…悪魔の風上にも置けないね。なんだかムカついてきちゃった……ディモス…焼いちゃいな』

ヴォラクは双竜にストラスに炎を出すことを命じた。

「ストラス!」
「拓也!?」

あれ?なんで俺走り出してんの?
ストラスなんかが現れるから俺はこんな目に……
気付いたら俺はストラスを抱きかかえドラゴンの口から出た炎に包まれていた。

「拓也――――――!!」

あ、やべ……本当にここで死ぬんだ。こんな指輪買わなきゃよかった。
そしたら俺はきっと今頃楽しそうに夏休みが来るのを待ってて……ん?

「死んでない?」

俺は自らの身に起こったことが信じられなかった。
だって間違いなく俺いまストラスと一緒に焼かれたよな?
これってストラスが助けてくれたのか?でもストラスは俺の腕の中でぐったりしている。
何が起きたんだ?

『まさかその指輪……!?』

ヴォラクの声が聞こえ、俺は自分の指を見た。するとあの指輪が光を放っていた。
まさかこの指輪が俺を守ってくれたって言うのかぁ?
ヴォラクは俺を見て乾いた笑いを浮かべた。

『お兄さんが継承者だったなんてね……意外だったよ。じゃあ俺たち全員を召還したのもお兄さんって訳か。あんた、間抜けな顔してて結構なことしてくれるじゃない』

え?俺けなされてる?けなされてるよね?
しかし何がなんだかわからなくて答えることのできない俺をストラスが庇った。

『拓也は関係ありません。今、我々の身には何かおかしなことが起きているのです。貴方は召喚者に召喚されたのではないのですか?』

ヴォラクは首を横に振った。

『いや、俺たちが召喚されたときには召喚者は既にそこにはいなかったよ。俺たち悪魔から逃げ切るなんて、たいしたことしてくれるよ全く……』
「じゃ、じゃあお前も元の世界に返りたいんだろ!?協力してやるからもう攻撃はやめよう!な?」

俺の提案にヴォラクは怪訝そうに眉をしかめた。

『なんで?』
「え?」
『いつ俺が召喚されて迷惑だなんて言った?それに楽しいしね。これから人間狩りができると思うとウズウズして仕方ないくらいだよ。戻されてたまるかよ』

狂ってる……これが悪魔ってやつなのか?

『拓也、魔法陣を。ヴォラクを魔法陣に閉じ込めましょう』
「え?でもそれお前の時だって成功しなかったじゃん!できるわけないよ!」
『魔法陣は他にもあります。元の世界に戻すことはできなくても、その場から動けなくすることのできる魔法陣もあります。私が魔法陣を描くので拓也はヴォラクを引き止めてください』

無茶言うな!!!俺は心の底からそう思った。
だって相手は悪魔、勝てるわけがない!!
しかしストラスは細い木の棒を加えて俺の腕から飛び去ってしまった。
あぁぁあああぁあぁぁぁもおおおおおぉぉぉぉおおぉぉ!
俺は覚悟を決めた。(大丈夫、きっとさっきみたいに指輪が何とかしてくれる!)

『ストラス!魔法陣に俺を閉じ込めようって訳!?その前に焼き鳥にしてやるよ!』

ヴォラクの攻撃をストラスは傷ついた体で一生懸命かわす。
中々攻撃があたらないヴォラクは苛立ちから舌打ちをした。

『うざいなぁ!』

ストラスが必死に攻撃をよけてる中、俺はヴォラクに(正確にはヴォラクが乗っているドラゴンに)できるだけ大きい石を投げつけた。(我ながらかっこわるいわ)

ガツンッ!!

当たった!!それと同時にいやな予感。
恐る恐る上を見上げるとヴォラクが呆れた目で俺を見ていた。

『なに今の。それで攻撃したつもり?あんた指輪の継承者なら魔法でも使ってみなよ!』

足に石をぶつけられたドラゴンは鼻息を荒くした。(怒ってる!怒ってる!!)

『フォモス、ディモス焼き殺すまでもない。じわじわと八つ裂きにしてあげな』

おいいいいいぃぃぃいいぃいぃぃいいいぃいぃいい!!!
俺は必死に逃げ回った。(足だけには自信がある)
でもそんなのドラゴンにはお構いなしだったようだ。

「いったぁ!!」

俺は背中をドラゴンの爪で思いっきり切られた。マジで?てゆうか痛い。やばいくらい痛い!
俺は痛みのあまりそこから動くことができなくなり膝を突いてしまった。
どうしよう。逃げないと……今度こそ本当に殺されちまう。早く、早く!
なんとか起き上がり、ズキズキ痛む背中を庇って必死で走る。

『いい光景……今お兄さん絶望してるでしょ?もっと聞かせて、絶望と恐怖の声を!!』

ヴォラクはそれでも手加減なんてしてくれない。
またドラゴンの爪が俺のほうに向かってきて、俺は思わず目をつぶった。

『拓也!強く念じるのです!魔法を唱えるのです!』

念じる?何を?どうやって?
死にたくない。

死にたくない。死にたくない!死にたくない!!
こんなとこでこんな死に方、絶対にいやだ!まだ遊びたい!もっともっと生きていたい!
いやだ。澪に……怖がられたまま死ぬなんて絶対にいやだ!こんなとこで死んで……たまるか!
そう心で思った瞬間、指輪が光り俺は眩しさから目をつぶった。

『ちょ、冗談!?なんなのコレ!?』

目を開けるとそこには光に包まれたヴォラクがいた。
ヴォラクの体は見る見るうちに崩れていく。
ヴォラクは自らの体が砂のように崩れ落ちていく姿に動揺を隠せなかった。

『これは!?』

ストラスも魔法陣を描くのをやめ、その光景をただあんぐり見ていた。
なんだこれ……こいつこのままじゃ死んじまう。

『うわあああぁぁあぁあぁああ!!』

ヴォラクはパニック状態に陥り、体制を崩し、フォモスとディモスから転落した。
待てよ!こんなつもりじゃ……!殺すつもりなんてないのに!やめろ!やめろ!!

「やめろ!!!」

俺は気付いたらヴォラクに手を伸ばしていた。
目を開けると腕の中には体を取り戻したヴォラクがいた。ヴォラクは腕をクイクイ動かしている。これも俺がやったのか?

『あれ?生きてる?』
『ギュオオオオオ!』
「のわ!」

俺はドラゴンに服を噛まれそのまま吊るされた。(ひいいいぃ!怖い!食われる!)

『やめな!フォモス!ディモス!』

その声に反応するがごとく俺はドラゴンから振り落とされた。
「ぐえ!」
なんて情けない声だ。てゆうか高いとこから落としやがって……骨折れたらどうすんだよ。

『負けだよ。魔法陣も出来上がったみたいだしさ』
「え?」

俺が足元を見てみると、ヴォラクとドラゴンを囲むように魔法陣が完成していた。

『ふぅ……ようやく完成しました』
「ストラス!」

俺は背中の傷のことなんかすっかり忘れてストラスを抱きしめた。
ストラスも俺に頬を寄せてきた。

『で、お兄さん、ストラス。俺をどうする訳?殺す気?』
「そんな気なんかねーよ」
『え?』

俺はなんて言っていいか分からず頭をかいた。

「本当は元の世界に戻してやりたいところだけどなんかそれができないみたいなんだ。だから別に何にもしねえよ。人を襲わなきゃな」
『そんなの約束できないよ』

ヴォラクは含み笑いを浮かべた。(どこまでも生意気なガキだな)

「約束じゃない。お前負けたんだから俺の言うことは絶対。じゃなきゃこの魔法陣消してやんねー」
『な!この魔法陣はあんたが描いたんじゃないじゃないか!』
「うるさいな!!いいんだよ!コンビプレーってやつなんだよ!……なんだよストラスその目」
『……いえ』

俺はいまだに俺を睨み付けてくるヴォラクを見て、ある提案が浮かんだ。

「なぁ、お前さぁ、俺の護衛する気ないか?」
『はぁ?』
「いや、また今回みたいに襲われたら危ないじゃん?ストラスは弱いからあてになんねーしさ」
『誰のおかげで魔法陣に閉じ込めれたと思ってるんですか!』
「いいからいいから。お前みたいな強いやつがいてくれると俺も助かるんだけど」
『指輪の継承者のくせに悪魔に頼るなんて……あんた何考えてんの?』
「へ?別に何も?やんのかやんないのか?」
『してあげてもいいけど。それ相応の報酬はくれるんだろうね?』
「報酬?」

なんだそりゃと言う俺に、ヴォラクはため息をつきながらも教えてくれた。

『悪魔との取引の基本は等価交換、あんたがその気ならそれ相応の物をよこしな』
「それ相応の物かぁ……」

俺は首をひねり光太郎たちに向き合った。

「光太郎、なんかお菓子とか持ってない?」
「え!?飴ならあるけど……」
「それでいいや、それくれ」
「お、おう……」

俺は光太郎から飴をもらうと(光太郎の手は震えてた…)ヴォラクに手渡した。

『まさか毒殺?』
「ばーか、んなわけあるか。いいから食ってみ?」

ヴォラクはしぶっていたが決意したのか飴を口の中に入れた。

『甘い』
「うまいだろ?」

ヴォラクはコクコクと頷いた。(こうしてると可愛い)

「俺を守ってくれたらこの飴いっぱいお前にやるよ」

なんて安上がりな商談なんだと我ながら思う。命を守ってもらう褒美が飴なんてな(笑)
しかしヴォラクは必死で考えた末、頷いた。
『約束どおりしてくれるなら守ってあげてもいいけど?』
安上がりな商談、成立。

「嘘言ってねえだろうな?」
『嘘なんか言わないよ。魔法陣の中だもの』
「そうなのかストラス?」
『はい。我々悪魔は魔法陣に閉じ込められるとその中から出られないだけではなく、召喚者の質問にも嘘偽りなく答えなければなりません』
「ふーん……なら交渉成立だな」
『わかったならさっさとここから出せよ』
「口の減らねー奴だなー。出してくださいって言えよ。ったく」

俺は魔法陣の線を足で消していった。(魔法陣はストラスが木の枝で描いた物だから)
するとヴォラクは魔法陣から出てきた。

『これ、お兄さんにあげるよ』
「なんだこれ?」

ヴォラクから受け取った物を見ると、それはルビーのネックレスだった。

『契約の証だよ。このルビーは俺の心臓そのもの……契約者に渡すことが義務付けられてる』
「ん?ストラス……お前、俺にくれてねーよな」
『貴方を主だと認めていませんでしたからね』
「てめ!」

コロン……

「ん?これ……」
『タンザナイトのペンダント。私と拓也の契約の証です。なので拓也、私にも』
「わかってる。お前はポテトチップスでいいんだろ?」
『それのコンソメです』
「注文すな」

ヴォラクは会話を聞いていたかと思えば俺の腕に抱きついてきた。

『となると今日からお兄さんの家に住むけどいーい?』
「え!?」
『こんな可愛い子を野宿なんてさせないでしょ?』
「んなこと言われたって……家族に黙って飼えるのはストラスくらいで……」
『飼えるとはなんです!?飼えるとは!!』
「だってよ〜」
『なんでストラスは良くて俺は駄目なんだよ!?なんでなんでー!?』
「だ、だってお前ドラゴンとかいるし……」

「拓也!」
「へ?」

俺は後ろを振り返ると、そこには光太郎と中谷が青ざめて立っていた。

「あ、えっと……これにはその……」

言い訳なんてできないことはわかってる。
だってこれだけ見られたらもう誤魔化せないしな。

「ちゃんと話してくれ。納得ができなきゃ……俺どうにかなっちゃうよ」

光太郎の問いかけに俺は頷いて説明した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「信じられない話だけど実際こんなの見ちゃったらな……」

光太郎は首をひねった。

「ごめん光太郎」
「いやいいよ。怖かったけど拓也はちゃんと中谷守ったもんな。俺なんか怖がって固まってて、俺のほうがかっこ悪いよ」
「光太郎……」

光太郎は苦笑いを浮かべた。

「まぁ黙っとけばいいんだろ?ていうか言ったところで誰も信用なんてしてくれないし……」
「うん」
「池上……」

中谷は申し訳なさそうに俺の前に来た。

「中谷」
中谷は俺に頭を下げてきた。
「巻き込んでごめん!最近調子悪くって……なんかがんばっても意味ないって思ってきてて、だから力を借りちゃったんだ。最初は嘘だって思ってた!でも本当に練習しなくてもホームラン打てたりヒットボールをキャッチできちゃったり……なんだか怖くなってきちゃって……」
「うん」
「でももうやめた。自分の力でがんばるよ!後ろめたいことあるほうが気分悪かったし……馬鹿がふさぎこむとホントろくなことないよな!」

ヴォラクは中谷の前に歩いてきて中谷の顔を覗き込んだ。

『お兄さんとの契約、これで終わりだね。ま、今回は特別に見返りなしで終わらせてあげるよ』
「ありがとな」
『いえいえ』

ヴォラクはニッコリ笑うと元の少年の姿に戻った。
後ろを見るとドラゴンも消えていた。

「あれ?お前……」

ヴォラクはにっこりと笑った。

「ふふ。悪魔は人間に変身できるのだっていっぱいいるんだよ。さすがにフォモスとディモスをいつまでもこっちにだしとくわけにはいかないでしょ?」
「へぇ……ストラス。お前も変身できんのか?」
『カラスになら』
「可愛くないからいいや……」
「でも拓也……その子どうする気だ?」

そう、それが問題なのだ。だっていきなり知らない子供つれて帰ったら母さんなんて言うか……それこそ警察沙汰になっちまう。
俺が悩んでいると光太郎が提案を持ちかけてきた。

「なんなら俺の親父のマンション、一部屋かそうか?」
「は?」
「俺の親父、仕事用にマンション一部屋買ってんだけど、仕事場に近いとこにもう一部屋買ってさ、今そっちばっか使っててそのマンションあんま使ってないんだよ。駅にも近いし便利もいいから、もし良かったらマンションこの子に貸してあげるけど……」

光太郎…お前はなんていい奴なんだ!!?
「えー?拓也と別々に住むのー?ちょーつまんなーい」
かなり懐かれてる?嬉しいような怖いような……

『ふむ……これからの事を考えるにあたり、拓也の狭い家では不便ですからね。その発案はなかなかこちらとしては喜ばしい申し出ですね』

ほーう……そういう事を本人の前で言っちゃうのかいストラスよ。
今度ポテトチップス、お前の嫌いなノリ塩味買って来ちゃる。
ていうか今頃になって背中の傷が痛み出した。

「いでででで……」

俺は痛みのあまりその場に倒れこんだ。

『拓也!大丈夫ですか!?』
「拓也!」

駄目だ痛すぎて死ぬ。忘れてたときはなんともなかったのに思い出すとやばいくらいに痛い。

「しょうがないな。傷つけたのは俺だし」

そうだお前だ!だから責任とれっつーんだよ!
……あれ?痛くない?

「はい、終わったよ。まぁこの程度の傷だったから俺でも何とかなったけどね。ま、悪魔だから?このくらいのことはできるけど」

背中を手で触ってみると傷が完全に消えていた。
改めて悪魔に恐怖。
光太郎と中谷も驚きを隠せなさそうだった。(そりゃそうだ)

『少し情けないですねぇ』

ぜってーノリ塩味買って来ちゃる。
しょうもない復讐を胸に俺はとりあえず光太郎と中谷とそのマンションに行くことにした。

「そういえばもうこの結界みたいなやつ、通れるのかな?」

中谷が手を伸ばしたらもうそこには既に結界なんて物は存在しなかった。

「ヴォラク、お前が結界壊したのか?」
「壊したなんて失礼なこと言わないでよ。俺が作った結界なんだから俺が消してあげたの。大体結界あったから助かったでしょう?」

確かに……ヴォラクやストラスの姿を一般の人が見てたらそれこそ町中大パニックだよ。
そしてそれにかかわってる俺も疑われる。

「でも気をつけたほうがいいよ。俺はまだ結界とか張ってあげるけど、虐殺好きな悪魔は結界なんて張ってくれないからね。街中だろうとどこだろうと暴れ回るよ」

考えたくない。ていうかできればそんな悪魔とは遭遇したくない。
俺たちは結界を抜け、そのまま光太郎についていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ここだよ」

光太郎が立ち止まったのはかなり高級そうなマンションだった。
マジかよ……そういや光太郎の親父さんはなんかデカイ会社経営してたな。光太郎の家もマジででかいからな。

「ここの10階ね」

おぉオートロック!しかも10階かよ。すっげーなぁ……ん?

「ここ父ちゃんのマンションだろ?なんでお前鍵とか持ってんの?」
「親父使わないから今は俺の第2の家なの」

光太郎はニッと笑った。(さすが金持ち)

「さ、どうぞ」
「うおー」

広い……マジで広い。てか俺んちと大して変わんないんじゃないか?(俺の家は一軒屋)
光太郎が第2の家代わりにしていたおかげか冷蔵庫や洗濯機、ベッドまでちゃんと用意されている。
俺のがここに住みたくなってきちゃったよ。
ヴォラクは目をキラキラさせてベッドに飛び込んだ(ずるい!俺もやりたかったのに!)

「すっごー!ふかふかだ!」
「なぁ光太郎、本当にこの部屋借りていいのか?」
「いいよ?」

光太郎はあっさりと答えた。
もうヴォラクとストラスは完全にその気だった。ん?

「ストラス。おめーは俺と一緒に帰るんだぞ」
『な、なんですって…?私はここに住みたいです!』
「わがまま言うなよ。オメーが居なきゃ悪魔に狙われたときどーすんだよ?」
『私は弱いから当てにならないんでしょう?』

嫌なとこばっか覚えてやがるな。

「いいじゃーん。ストラス羨ましいー。俺も拓也と帰りたいー」

ヴォラクは思い出したのか両手足をジタバタ動かした。

「まあまあヴォラク。頻繁にこっちくるからな」
「ホント?」
「おお(だって光太郎の部屋だし、こいつ荒らしそうだしな)」
「ならいいや」

ヴォラクはそのままベッドに横になった。光太郎はまだヴォラクが怖いのか恐る恐る話しかけた。

「ヴォラク、君。鍵はそこの壁にかかってるから」
「はーい。お兄さん達も遊びに来てねー」

とりあえず俺はヴォラクに1000円渡し(飯代、ヴォラクは使い方は分かるみたいだった)マンションから出た。

「どうしよー俺今月もう金ないよー」

財布の中にはもう1500円しか残ってない。俺、月6000円しか小遣いないのに……
毎日ストラスにポテトチップス買ってやったりしてたり(かなり地味に金がかかる)、今みたいにヴォラクに飯代やってたら間違いなく俺は金がなくなる。
やばい。母さんにせびろうかなぁ……

俺はその後光太郎と中谷と別れ、ストラスと家に帰った。
自分の部屋にストラスを戻し(ストラスはまたポテトを食べだした)、俺はとりあえず母さんに小遣い昇格を試みた。(結局駄目だったけど)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『しかし地獄に戻せないとなると困りましたね』

ストラスは部屋で俺が書いた魔方陣をしげしげと眺めていた。

「あぁ。今回は良かったけど、これからどうすんだよー。さすがに72匹の大所帯は嫌だぞ」
『わかってますよ……ん?』

ストラスは何かを見つけたのか眉をひそめた。

「どーしたストラス?」
『私を地獄に戻せなかった理由がわかりましたよ』
「え!?マジか!!?」
『えぇ。拓也、貴方のせいだったのです』
「俺の?」

『魔方陣が間違っているではありませんか―――――――!!!』

なんだって――――――――――――――――!?

地獄に戻せなかった理由はどうやら俺が魔方陣を写し間違えてたらしい。
安心したような情けないような。
突き刺さる視線を俺は目をそらすことで避けた。
登場人物

ストラス…ソロモン72柱の36番目の悪魔。
      26の悪霊軍団を率いる魔界の王子である。
      見た目は王冠をつけたフクロウの姿だが、カラスに変身することもできる。
      薬草学、鉱物学、天文学に詳しく、また人間に危害もくわえないので、呼び出しやすい悪魔の1匹でもある。
      博識ということも有名。
      契約石はタンザナイトのペンダント。

ヴォラク…ソロモン72柱の62番目の悪魔。
      38の悪霊軍団を率いる長官であり、統領ともされている。
      天使の翼をもった少年の姿で現れ、2つの頭をもつドラゴンにまたがっている。
      努力をしないでも召喚者の欲するものが入手できる能力を持ち、その力は形にこだわらず、大会での優勝など見えない物にでも働く。
      一見いい悪魔に見えるのだが、ヴォラクは裏切られた時の人間の表情が大好きなので、迂闊に信用はできない。
      契約石はルビーのネックレス。


*契約石は作者が話の流れ的に勝手に作ってるものなので、実際の悪魔とは関係ありません。


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