なんな訳あいつ。
人が心配してやれば調子乗っちゃってさ!
契約しようなんて…本当に何考えてんだか……
39 新たな主に祝福を
「ようセーレ。あいつもう行っちまったのか」
朝の6時40分。コーヒーを淹れていると、シトリーは頭を掻きながらリビングに入ってきた。
拓也も光太郎もまだ寝てる。あいつと指さすのは1人しかいない。
「おはよう。めずらしいね。君がこんな時間に起きてくるなんて」
昼夜逆転生活を送っているシトリーはあくびをしながら頷いた。
「おはようさん。いやな、ガサガサあいつが音出すからうっさくてよー。目が覚めちまったんだわ」
「どうせ2度寝するんだろ」
「あぁ。その前にあいつの様子を聞いとこうって思ってな」
様子って言われてもな……俺は少し困って頭を掻いた。
「少し機嫌が悪かったな。口数も少なかった」
「ビビってるだけか。まぁしょうがないわな。契約して寿命縮むなんて言われちゃな」
シトリーの言うことは恐らく当たってる。
きっと中谷はそれが怖かったんだと思う。でも今の状況もなんとなくシャクという感じだろう。
「パイモンももう少し優しく言ってやればいいのに」
「そうだね」
昨日のパイモンの説明は半分脅しがかってたからなぁ。
「あいつ、わかりやすいけど少しストレートだからな」
「言えてる」
俺が笑うと、シトリーも軽く笑って冷蔵庫から牛乳を取り出した。
「でもヴォラクのヤローもなんだかんだ言ってよぉ。満更じゃなかったよな」
「あんな風に言われるなんて思ってなかったんだろうね」
「妬けちゃうねーまったく」
シトリーは牛乳を飲んで、再びパックを冷蔵庫に直した。
「なんなら俺が契約してやってもいいんだけどな。どう思う?セーレ」
「……ヴォラクに焼き餅焼かれちゃうかもよ」
「そりゃ勘弁。焼き餅はかわいい女の子じゃなきゃ俺は受け取れないもんね」
彼はそう言ってあくびを1つし、部屋に戻って行った。
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『機嫌が悪いですね。ヴォラク』
優雅にクッキーを食べていたストラスが俺に言ってきたのはお昼の3時。
セーレはお菓子を用意したら、太陽の家に行ってしまった。
シトリーも今から友達と会うとか言って出かけて行って…家には俺とストラスとパイモン。
パイモンは悪魔の情報を探すためか、パソコンと睨めっこ。
必然的に俺の相手はこいつになるわけで……
「別に悪くない」
『自覚はないのですか?』
あぁありますよ!ありますとも!でもこういうのは他人に指摘されると頭にくるもので。
「ないっつってんだろ!このフクロウ!」
思いっきり理不尽な八つ当たり。
パイモンもこっちを横目で見て、肩をすくめてしまった。
なんなんだよ俺が悪いみたいな空気になっちゃってさ!
これもぜーんぶ中谷のせいだ!あいつが俺のこと避けるから!
そう考えると、だんだん気分も下がってくる。
俺は席を立ちあがって、そのまま自分の部屋にこもった。
ベッドに横になると、そのまま眠くなって眠りについてしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「でさー、あいつ急に元気になっててさー」
「でもそれっていいことなんじゃない?」
話が聞こえてくる。拓也とセーレの声……
ムクッと起き上がって時計に目をやると、時刻は夕方の5時。
拓也は学校が終わって、マンションに立ち寄ってるみたいだ。
俺はベッドにそのまま横になっていると、不意にドアが開いた。
「ヴォラクー。起きろー」
「なんだよ拓也、うっせーよ」
いきなり来て何なんだよ。
でも拓也は気にしない。ニコニコ笑って俺のベッドに腰かけた。
「なに?何か用?」
結構冷たい口調で話しかけても、相手は拓也。俺の声色に慌てることはない。
「今日さ、中谷と話しててさ。あいつ、お前と契約する気みたいだぞ」
「何いきなり?」
話が飛び過ぎてる。だって俺忠告したよな?
「寿命が縮まるのは怖いけど、でもそれでも現実受け止めたいんだって。ここまで首突っ込んでエアリスの娘さんの事、忘れたまんまはつらいんだって。同じ事、また起こるかもしれないし……」
「……だったら俺じゃなくってセーレやストラスと契約すればいいじゃんか」
そうだ。俺にしなくって、戦わないあいつらなら中谷の寿命を削ることもない。
本当はほかのやつと契約するって言われても複雑だ。
でもなんかここまできたら認めるのも恥ずかしくて、つい思ってもないことを口にしてしまった。
でも拓也は少し困ったように笑ったまま。
「それ俺も言ったんだけどさ。契約、お前以外は考えられないって。それにストラスは俺が許さん」
「……っ!」
そんなこと言われたことない。俺は本当に必要とされてるってこと?
冷静な頭とは裏腹に、頬はだらしなく緩んでいる。
「でさ、そのことをストラス達と話してたんだ。こっち来いよ」
拓也に言われるがまま、俺はリビングに足を運ばせた。
リビングにはまじめな顔したストラス、セーレ、パイモンがいた。
言いたいことは…大体わかってんだけどね。
「ヴォラク、君は中谷と契約するのかい?」
セーレの言葉に俺は無言で答える。まだ決めたわけじゃないし。
そんな俺を見て、パイモンが釘を刺す。
「契約者を変えるということは主を変えるということ。もうお前は主の一存で動くことができない。中谷の命令にしか従うことはできない。それはわかってるな?」
「うん……」
「主と中谷、どちらかを取れと言われたら、お前は中谷をとらなければいけない。それも」
「わかってる。契約を変えるのはそういうこと。拓也との関係はこれで終わり」
拓也は少しさみしそうに笑ってる。
「別に何か変わるわけでもないけど、こう言われると悲しいもんがあるよな」
拓也は笑って頭を掻いた。
3人の視線を俺は真っ向から受け入れる。
『で、貴方は中谷との契約を望んでいますか?それなら、拓也は貴方に契約石を返さなければなりません』
俺は……別に何か変わるわけでもない。このままでも問題はない。
でもあいつが契約したいって言うんなら……してやってもいいじゃないか。
「俺は中谷と契約する。拓也との契約はこれで終わりにする」
「そっか」
拓也はそう言って、椅子から立ち上がった。
「拓也?」
「契約石。家から取ってくる。中谷、部活終わったら来るはずだから。行くぞストラス」
拓也はストラスを肩にのっけてマンションを出て行った。
静まり返った部屋は少し息苦しい。
「いいんじゃない?」
そんな中、セーレは優しく俺に声をかけた。
「お互いが認めあう契約なんて中々あるもんじゃないよ」
「お前がそれでいいのならな。だがこちらに迷惑掛けるなよ」
パイモンは相変わらず高圧的でうざいけど、俺は2人の言葉に頷いた。
中谷が来るまであともう少し……
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『拓也、本当にいいのですね?』
「いいって。引き留める権利なんか俺にはないんだし、それにもう十分守ってもらったよ」
俺は机の引き出しからルビーのネックレスを取り出した。
「別に何が変わるってわけじゃないんだ。あいつがいなくなるわけじゃないしな」
『それはそうですけど』
「ならいいよ」
契約石を箱に入れて、俺は再びマンションに足を運ばせた。
マンションに着くと、俺はヴォラクに契約石を返した。
ヴォラクは受け取る前に形式なのか、俺の前に悪魔の姿で跪いた。
「ヴォラク?」
『我が主よ。貴方と最後まで道を共にできないことをお許しください』
なんか改まって言われるとこそばゆい。
「んなこと言わなくていいからよ。ほら、契約石」
『それ返す前になんで飴も買ってこないんだよ。俺結構守ってあげたでしょ?』
前言撤回。やっぱもう少しお前は俺の前に跪いとけ。
でも本当に最後なんだなぁ。
ヴォラクが契約石を受け取った瞬間、俺たちの契約は切れた。
あっけないから何かが変わった実感がないけど、少しだけ……心にぽっかり穴が開いた気分。
ヴォラクは受け取ったルビーのネックレスを首にかけ、少しだけ笑みを浮かべた。
『さよなら。我が主』
「……うん」
ヴォラクは人間の姿に戻り、ルビーのネックレスをまじまじと見つめた。
「あーフリーになっちゃった。早く中谷来てくんないと俺このまま消えるー」
「お前らって何日間くらいなら人間のエネルギー借りれずに動けるんだ?」
「まぁ1〜2週間ってとこだね」
意外と長っ!1〜2時間程度かと思ってたよ。
そんだけ期間が長けりゃ、確かに1人くらいは契約できそうだけどな。
俺達はそのまま中谷が来るまでマンションで待っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「いらっしゃい。中谷」
なんでマンションに行ったら皆が一斉にこっち見るんだ?
部活帰りにヴォラクに契約のことを話そうと思って寄ったら、皆がこっちを見てる。
『中谷。何をしているのですか?早くヴォラクと契約なさい』
なんだ、もう全部知ってんじゃんか。
俺は頷いて、悪魔の姿のヴォラクの前に立った。
『わかってる?契約の意味を。悪魔との契約を……』
ヴォラクは真剣な顔で俺を見る。
『悪魔なんかと契約して、人間の寿命全うできなくなるよ?』
「うん」
そっか。俺はもう寿命を全うできないんだ。
『もしかしたら30歳くらいで死んじゃうかもしれない』
「うん」
『それでも本当にいいの?後悔しない?』
するんだったらこんな事言わないし。俺、決めたんだ。
何か形がなくちゃ、覚悟なんて言っても語れない気がする。
池上の重荷を少しでも共有できれば。少しでも力になれれば……
「しない。絶対」
声は震えなかった。
自分でもビックリするくらい、はっきりと返事ができた。
ヴォラクは少し笑い、呆れたように呟いた。
『馬鹿正直……退屈させんなよ』
ルビーのネックレスが俺の前に渡される。契約の証。
俺はそれを手に取った。
『新たな主に祝福を』
手に入れて、何かが変わるわけではない。でも俺は契約者になったんだ。
ネックレスを握りしめて、俺は皆に笑いかけた。
「またこれから宜しくな!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『中谷は満足したようですね』
「うん。あいつ等ほんっとーに仲いいよな」
マンションから家に帰る途中、ストラスがポツリと呟いた。
少し嬉しくて、少し悲しい。
『しかし、ヴォラクと契約するくらいなら、私かシトリーかと契約すればよいのに』
は?今なんて?
「どういうこと?」
『ですから戦わない者の方がいいではありませんか。セーレは悪魔を探す際に絶対に必要ですから貴方以外と契約はできませんし……パイモンも拒否するでしょう』
なんだそりゃ……お前はそれでいいんかい。
「お前は俺と契約しときゃいいんだよ」
『は?』
「中谷がお前がいいって言ったってお前だけは俺が許さない」
『拓也……』
「俺と一番初めに契約したのはお前だ。俺はお前を一番頼りにしてるんだから」
なんか自分で言って恥ずかしくなってきた。
でもストラスは満更ではなかったようだ。
『そうでしたね。主の前でなんと無礼なことを申しましたね。申し訳ありません』
「わかればいい。お前は俺の相棒なんだから」
『相棒ですか。そうですか』
ストラスはなんだか嬉しそうだ。
「それにもうお前は池上家公認のペットなんだからな」
『……はぁ?』
一瞬の沈黙の後、俺たちは軽くふきだして笑い合う。
『契約者から相棒やペットだなんて……初めて言われましたよ』
「そっか」
俺達はのんびりとした気分で家に帰った。
その時、俺たちは知らなかった。
もう1人、契約を決意した奴がいたことに。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、シトリーお帰り。遅かったね」
「おーセーレ。光太郎と飯食っててな。拓也もう帰ったんか?」
「うん。何か用だったの?」
「まぁな。その前に、中谷どうなったんだ?」
「結局契約した。ヴォラクもなんだかんだ言って嬉しそうだったよ」
「そっか……」
「シトリー?どうかした?」
「あぁ。俺、光太郎と契約することになったから、契約石返してもらおうかな……と」
「へ……?」
その後、俺はケータイで連絡を受けて、後日また契約石を持って行った。
一気に2人と契約をなくなってしまったのが少しなんか寂しかったり。
でもま、いっか。
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