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第2部
第38話 新たな決意
エアリスに追い返されて俺達は日本に戻ってきた。
でもその表情は暗く、中谷と光太郎だけが顔を見合わせていた。


38 新たな決意


「つまり俺たちにはその記憶がないってことか……」
「なんだよそれ……」
「別に2人が悪いわけじゃないよ」

マンションについて、話を聞いた光太郎は肩をすくめた。
中谷も悔しそうにこぶしを握る。
セーレがたしなめても2人の顔は晴れない。

「なぁ、どうやったらその記憶を俺たちにも留めることができるんだ!?」

光太郎は弾かれたように顔を上げ、ストラス達を見つめる。
ストラスは言いにくそうに顔をゆがめた。

『悪魔と契約するしかありません』
「やっぱそれしかないのかよ」

光太郎はガックシと肩を落とした。
でも中谷は何かいい案が思い浮かんだようだ。

「じゃあさ!お前らが俺らと契約すればいいんじゃん!と言う訳でヴォラク!契約しようぜ!」
「意味わかってんの?」
「おう!」
「わかってないね」
「なんだよ急に……」

ヴォラクはプイと機嫌が悪そうに反対を向いてしまった。
でも理由がわからない中谷はそれが不満だったらしく。

「そんなに俺と契約すんのが嫌かよ。嫌味な奴」
「そんなんじゃねーよバーカ」

なんだこの一色即発……火花飛んでるし。

「中谷、悪魔と契約することは契約者にも危険が回ってくるんだぞ」
「?そんなん平気だって!ヴォラクが俺を殺すとかありえねーっしょ!」
「そうじゃない」

パイモンは首を振って中谷を見つめた。

「悪魔が人間と契約してる時、契約者の寿命を使って行動してるんだ」
「は?」

え、そうだったのか?俺も知らなかったんですけど。

「悪魔がなぜ現世に召喚されるのに人間との契約が必要か……それは人間の力がないと、この世界に存在できないからだ。だから契約石を渡して人間と契約する。そして契約石を通して、その人間のエネルギーを使って行動するんだ。行動するだけなら大したエネルギーは使わない。だが悪魔が大けがした場合、傷の治療に大量のエネルギーを使う。そのエネルギーは契約者から採取され、結果として寿命が縮んでしまうんだ。俺達は契約者がいないと存在すらできない。それを知っていて、なおかつ人間と契約したくない奴は魂を奪うためだけに、契約していた人間や他の人間の魂を食って、そのエネルギーを一時的に採取するんだ。」
「じゃ、じゃあ池上は大丈夫なのかよ!マルファスの時とか……ヴォラクたち怪我やばかったじゃん!」

確かにその話が本当なら、俺はかなりの寿命をとられたってことになる。
何でそれを先に言ってくんないんだよ!?

「主には指輪がある。俺達はそのエネルギーを使ってるからなんの問題もない。でもお前達は違う」

あ、そうなんだ。よかったぁ……ってわけでもないが。
安心している俺とは違い、パイモンに諭されて中谷は黙ってしまった。

「もう遅いな。俺は寝るぞ。おやすみー」

この気まずい空気を読んだのか、シトリーが逃げるように立ち上がる。
なんだよシトリー、相変わらずマイペースだな。

「そうだね。もう休んだ方がいい。2人とも今日はここで寝るといい」
「俺帰る。明日も朝連あるし」
「中谷」

中谷は荷物を持って出て行こうとしたが、

「放せよシトリー」
「もう夜中の3時だぞ。お前の家、鍵空いてんのかよ」
「……」
「とりあえず、こいつは俺の部屋で寝かすわ。ヴォラクとはいたくないだろ」
「別に」

そう言いつつ、シトリーは中谷を引きずって行った。

「俺はこのソファで寝るよ」
「光太郎、俺がここで寝るから君は俺のベッドを使うといい」
「別にいい。ほっといて」

顔を伏せてしまった中谷にセーレは軽く肩をすくめ、自身も部屋に戻って行ってしまった。

「主はヴォラクの部屋で寝るといい。私はストラスと少し話がありますから」
「あ、うん」

俺はいまだぶすくれてるヴォラクを引っ張ってヴォラクの部屋に向かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ヴォラク。中谷別に怒ってるわけじゃないと思うけど?」
「わかってるよ。でもあからさますぎてスゲーうざい」

ベッドの中で俺とヴォラクは少し話をした。

「あいつさ、自分もしないから仲間外れとかそういうのすげー嫌いだからさ。それが悔しいだけと思うんだ」
「そんな単純な理由で俺と契約してほしくない。大体拓也に飴をまだ貰ってないしね」
「んなこと忘れてたわ」
「ちゃんと約束果たしてくんなきゃ魂食っちゃうから」
「やめろよ!こええな!!」

嘘とわかってても悪魔に脅されるのはやっぱ怖い。
ヴォラクはケタケタと笑ったが、すぐに大人しくなった。

「……なぁ、お前はさ、さっきの中谷の発言聞いて中谷と契約してもいいって思ったんじゃないか?」
「なんでそう思うんだよ」
「だってお前ら仲いいからさ」

俺の中のヴォラクと中谷はいっつもキャッキャと騒いでいる。
俺はストラスとかとそんなはしゃぐわけでもないし、セーレやパイモンも性格からして違うだろう。シトリーとはまだ友達感覚的なとこはあるが。
でもこいつ等は本当に兄弟みたいに一緒につるんでるように見える。
中谷がいつも一番に話しかけるのはヴォラクだし、ヴォラクがいつも一番に話しかけるのは中谷の気がする。
中谷の剣、あれバットか?の稽古も自ら見ると言いだしたし。
俺がそんなことを考えると、ヴォラクはポツリと話しだした。

「前、あいつを殺そうとしたじゃん?」
「うん」
「そんなの普通の人間としては……その、怖いでしょ?」
「そりゃあなぁ……殺されるなんて、まず自分が体験するとか思わないし」
「のくせにあいつも光太郎も平気で話しかけてくるしさ」
「うん」
「また契約しようとか言いだすしさ」
「うん」
「馬鹿なんだよあいつ。自ら危険に首突っ込むなんて」
「でも嬉しかったんだろ?」

いつもなら「ちげーよ!馬鹿拓也!」ぐらい言ってきそうなのに、今日のヴォラクは弱弱しい。
悪魔って怖いイメージが強いけど、こいつらは本当に人間みたいだ。

「なぁ、あのときはお前、人間殺すのが楽しいって言ってたけど今はそうか?」

少しだけ前から気になることを聞いてみた。
契約の為だけに俺を守ってくれるのなら、そんなの悲しいから。

「……違う」
「光太郎や中谷や澪に死んでほしくない?」
「死んでほしくない。だから契約もしたくない」
「お前の優しさってわかりづらいんだよ」

俺はヴォラクの頭をポンポンと叩いた。
ヴォラクはブスッとしてこっちに振り返った。

「だってさぁ!だって……こんなの初めてだもん!こんな悪魔としてじゃなくて、ヴォラクとして付き合おうとする奴らなんて……利用目的もなしに話しかけるなんて!」
「このツンデレめ!」

俺はヴォラクの頭をくしゃくしゃに撫でてやった。

「なにすんだよ!馬鹿!!」
「それ、あいつにも言ってやれよ。な?」
「はぁ!?誰が言うかよ!はずいな!!」

ヴォラクはイーッとすると、反対を向いて寝てしまった。
ありゃ……まぁお前が言わなくても俺が言うけど。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あれ?中谷もう行ったのか?」
「うん。朝連があるからって」
「あいつすげーなぁ。2〜3時間しか寝てねぇんじゃねぇか?」

朝起きてリビングに入ったら、セーレがコーヒーを淹れてくれて俺は席に着いた。
光太郎はコーヒーを飲みながらも眠そうにしている。

「ヴォラクはまだ起きなかったぞ。いいのか?」
「いいよ。いつも9時ぐらいに起きるから」
「シトリーもいないけど?」
「彼は勝手にやってるから別にいいさ」

あ、そうですか。
俺達はセーレが作ってくれた朝ごはんを食い、そのまま学校に向かった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也。広瀬君」
「澪!」

光太郎と2人で歩いていると、声がかかった。
朝からラッキー!!今日ついてる!

「おはよー松本さん」
「おはよう。拓也もおはよう」
「はよ!いい天気だな!」

なに言ってんだ俺……
だけど澪はおかしそうに笑っただけ。

「ほんとだねー。でも相変わらず拓也元気そうで良かった」

それから俺達は3人で登校した。
クラスの前で澪と別れて俺たちがクラスに入ると、なぜか中谷がそこにいた。
あれ?朝練あんじゃなかったっけ?
俺はいつも早く登校してる藤森に聞くと、コソッと耳打ちしてきた。

「なんで中谷いんだ?」
「なんか監督に怒られたらしいぜ。やる気ないなら朝練くんなってさ」

中谷も気にしてんのかな……
中谷は机に突っ伏して眠ってるように見えた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「澪、ノートありがとう」
「ううん。いいよー」

3限目が終わって、あたしは教科書をしまっていた。
そんな時、あたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。

「松本さーん、教科書かして」

声が聞こえた方を見ると、ドアの前に中谷君が立っていた。
時々中谷君は教科書を借りに来る。
あたしはいつも通り貸そうと思ったんだけど。

「中谷君?どうかした?」
「ちょっと、いろいろあって……」
「悪魔のこと?」

小声で聞いてみると、首を軽くひねって少し笑っただけだった。

「なにか悩んでるんなら聞くよ。役には立たないかもだけど」
「……じゃあ少しだけいい?」

中谷君は少し困ったような顔をして遠慮気味に言ってきた。
あたしは保健室に行くから4限目は遅れると裕香に言って、中谷君と中庭に向かった。

やっぱ授業があるのか中庭には生徒はほとんどいなかった。(それでもさぼり場所のここにはいっつも誰かしらいるけど)
そのなかでも隅っこに歩いて行く。
ここは死角になっていて、窓から見えないんだ。
そこに座りこむと、中谷君は少しずつ話しだした。

今回の悪魔のこと、消えてしまった娘さんのこと、その記憶がないこと、ヴォラク君に契約を断られたこと、寿命が縮まること。
また拓也達はそんな辛い目にあってたのか。

「なんか悔しい」
「松本さん?」
「だってあたしはその場にすらいなかったんだもん。拓也達の悲しさもわかってあげられない。励ますこともできない。やっぱり待ってるだけじゃダメなのかなぁ……」
「そんなことないと思う」
「ごめんね。逆に愚痴っちゃって」

今辛いのは中谷君だ。あたしじゃない。文句を言ってもしょうがない。わかってるのに……中谷君は鼻を鳴らしながらまた話す。

「寿命縮まっちゃうとか怖くて……」
「うん」

そんなの聞いて、怖くない人なんているのかな。絶対いない。

「でも記憶がないのが悲しくて、蚊帳の外みたいで結局役に立てなくて……」
「そんなことないよ。中谷君たちいなきゃ拓也きっとここまで来れてないもん」
「人が死ぬって怖いよな。俺、今までそんなの全然考えたことなかったし。でもマルファスに人が殺されてるの見て、思い出したら今でも怖くて、暗くて形が見えなかったから、まだなんとか平気だけど、エアリスの娘が殺されたのを俺はきっと見てたんだ。考えたら正気でいられない。人の死体なんか見たら、俺どうなっちゃうんだろう……」

「……あたしはすごく怖い」

「え?」
「前、シトリーさんが女の人を殺したの。今でも忘れられない。あたしね、拓也に家まで送ってもらった後、家で何回も吐いて、ずっと泣き続けた。今でも忘れることなんてできない。なんで付いてったんだろうって」
「池上は……やっぱもう違うのかな」
「中谷くん?」
「だって昨日マンションについた頃には何もなかったような顔してたんだよ!きっと慣れちまったんだ!もう俺たちとは違うんだ!」

拓也はきっと違う。それはなんとなく感づいてる。
だって拓也はサミジーナを倒したんだもん。悪魔を倒したんだもん。

「でもあたしは拓也の味方でありたい」
「松本さん?」
「だってこんなの……あたし達しか知らないでしょ?悪魔のことも、力ではまったく役に立てないんだもん。心は一緒にいたい」
「……」
「中谷君は剣の稽古してるんでしょ?羨ましいよ」
「どっかで憧れてたんだよ。そんなすごいことの中に自分がいるなんて……空飛ぶのも、いろんな国に行くのも、悪魔の姿見るのも、怖いもの見たさだったんだ」
「それでもいいよ。それでも拓也は心強かったんだから」
「今までも覚悟はあったんだ。でも中途半端な覚悟だった。でももう決めた。迷わない。俺はヴォラクと契約する」
「でも、契約するならセーレさんとか戦わない人の方がいいんじゃないの?だって怪我の回復とかにエネルギー使うんでしょ?」

中谷君はそうだけど。と言っていつものように笑った。

「契約するのはあいつしか考えらんないんだ」

中谷君とヴォラク君はやっぱり仲がいい。
そのままあたし達は4限目は出なくて、2人で中庭で話していた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「中谷、お前どこ行ってたんだよ。連絡くらいしろよ。探したんだぞ」
俺は教室に帰る途中、購買の前を通ったら桜井に声をかけられた。

「え?ごめん」
「ったくよー。購買行くのかメールしても返信返ってこねーし」

そういやケータイ、かばんの中だった。

「いちおうコロッケパンは買ったんだけど、いる?」
「マジで!さんきゅー!」

俺は手を出そうとしたらスカッと避けられた。

「金払ってからー」
「ちゃっかりしてんなぁ」

桜井は当たりめーだろといってケタケタ笑っている。
でもなんだかんだでこうやって買ってくれるとこがこいつのいいとこと思う。

「あ、章吾(俺の下の名前)。池上達探してたぞー。早く行ってやれよ」

池上達にも迷惑掛けたな。ちゃんと謝ろう。
おれはポッケの財布から金を払い、桜井からコロッケパンを貰った。
欲しいものを買ったのか、立川が俺たちのところにきた。
立川は俺を発見するなり、ポッケからチロルチョコを出して、俺の手に置く。

「あ、中谷。いいとこにいんなー。これやるよ。お前好きだろ?」
「マジで?いいんか?」
「おう。やるよ」
「さんきゅーな」

俺はチロルチョコとパンを持って教室に向かった。

池上と広瀬は弁当をまだ食べてなかった。どうやら俺を待ってたらしい。
椅子もちゃんと用意されている。なんかくすぐったいや。

「あ、中谷、その……」

池上は少し、気まずそうに頭を掻いた。
昨日のこと(今日か?)気にしてるみたいだ。
俺は笑って首を振った。

「遅れてわりーな!席さんきゅーな!」

俺は自分のカバンから弁当箱を取り出して、椅子についた。
池上と広瀬は俺の急な変化に目を丸くしたが、俺はニコニコしたまま。
なんか吹っ切れたや。悪魔でも何でもかかってこいっつの。もう絶対に迷わない。
このまま俺は真っすぐ突き進んでやる。

絶対出来る気がするから。

池上も広瀬もいるし、ストラスやセーレ、シトリーにパイモン、それにアイツもいるし。
そう考えると、怖いものなんてないと思えた。

稽古がんばろう。絶対にもっともっと強くなろう。

こいつ等を守れるように。
こんないい友達をなくさないように。

父さん、母さん。
俺はいま、自分から大変なことに首を突っ込んでいます。
でもいい友達もいて……俺、とっても幸せです!!


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