「母さん。俺、お弁当は海老フライとねーハンバーグとねー唐揚げとねー」
「はいはい。直哉の好きなものを沢山入れてあげるからね」
「あれ?直哉、遠足でも行くんか?」
直哉はハァ?と言う顔をし、俺に向きなおった。
「なに言ってんの!日曜運動会だもん!!」
34 運動会の季節
次の日、学校に行った俺は宿題を写しながら上野と雑談していた。
「もうそんな季節かよ」
「あー。もう9月も終わるしな」
上野も宿題を写しながら(隣の席の霧立さんの)しみじみと呟いた。
「なんか直哉うっせーしさ。ぜってー俺も行かなきゃいけねーし」
「なんで?用事作ればいいじゃん」
「うちん家ダメなの。そういうの。行事にうるさいから」
「ふーん」
上野は大変だな〜と言いながら宿題を写し終えたのかノートをしまった。
俺は慌てて残りを写し、ノートを上野に返す。(上野が借りたから)
「おーい霧立ー、ノート机の上に置いとくなー。マジさんきゅー」
「はーい」
なんかこいつ等最近仲いいんだよな。あやしい……
「お前、最近霧立さんと仲いいじゃん。何かあったのかよ」
「べっつに。何もねーし。詮索すんなよバーカ」
上野はそういいつつも少し、顔を赤くしてそっぽを向いた。ほほう……
「やっべ――!俺今日古典当たっちゃうじゃん!誰かー俺にノート貸して―――!!」
中谷が部活の朝連を終え、慌てた様子で教室に入ってきた。
古典は1時間目。早く写さな間に合わんな。中谷の近くにいた山田がノートを中谷に投げた。
「しゃーねーな。俺の貸してやるよ。間違ってても文句言うなよー」
「さんきゅーべりーまっち!やっばいやっばい!誰か写すの手伝って!このままじゃ俺、立たされちまう!」
「そこまでメンドー見きれるか!」
桜井の突っ込みでクラスにドッと笑いが起こる。相変わらず元気だ。
古典の西井はわからなかったり、宿題を忘れると立たすことで有名だ。
実際、授業が始まって一番最初に宿題のチェックをするほどだ。
中谷は真ん中の列の席。後ろならともかく、真中から前は立たされるのハズいんだよ。
いつになく真剣な形相の中谷に藤森達や山田達がケラケラ笑っている。
あー平和な日々。この平穏を待ち焦がれてたよって大げさか。
でも本当にこのままで行ってほしいな……もうシャックスの様なのはうんざりだ。
俺は忘れるように首を振り、上野との会話に再び参加した。
結局、中谷は写すのに間に合わず西井に立たされてうなだれていた。
それを見て、光太郎が肩を震わせて笑っていたのを中谷は知らないだろう。
しかしその後、あてられた俺もわからずに立たされてしまった。
能ってなんか意味あったっけ?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さぁこぉい!俺のスーパーマグナムが火ぃ噴くぞ――!」
「ぬかせ馬鹿!」
4時間目の体育。授業はサッカーで中谷とサッカー部の藤森がメラメラと燃えていた。
その光景をDFである俺はボケーッと見ていた。
組み合わせは名前順。中谷と藤森、同じチームなのになぜ張り合っている(笑)。
そもそも男子20人しかいないのにサッカーって。1チーム10人じゃん。
「中谷と藤森すっげーなぁ。あんなん来たら俺、マジで避けるわ」
おなじDFの国崎が少し青ざめた顔であの光景を見ていた。
うん。その気持ちわかる。でも一番不幸なのはGKの立川だろ。あいつらのシュートを止められる自信は俺にはない。
案の定、うちのチームは3−1で負けた。
大体サッカー部の藤森と野口がいる時点で卑怯だろー。こっちには1人もいねーしさ。
俺達はへとへとになりながらも購買の奴らは急がないとパンが売り切れるので、慌てて着替えていた。俺は今日は弁当だからいいのだ。
「池上ー広瀬ー!先行っとくぞ――!」
中谷は弁当+パンだから桜井たちと購買に走って向かっていった。俺と光太郎はゆっくり着替え、のんびりと教室に向かった。
教室には女子が先に着替え終わっていたのか、弁当を広げていた。
端っこという理由でいつも弁当食べる時は、俺の席に集合する。俺は弁当箱を取り出して、イエモン茶を飲んだ。
秋でもまだ9月は暑い。汗がだらだら噴き出るようだ。
カーテンを閉めて、俺と光太郎は中谷が帰ってくるのを待った。
「くぅ〜〜〜メープルメロンパン売り切れてたぁ〜〜〜!!」
中谷はメロンパンを買えなかったらしく、焼きそばパンを握り、悔しそうな顔をして教室に戻ってきた。メープルメロンパン人気だもんなぁ…特に女子に…。
中谷は近くの机から椅子を引っ張っていき、俺の横に座った。
「ちぇー収穫は焼きそばパンだけ。だから4時間目に体育は嫌なんだよなー」
「お前、あんだけFEVERしといていまさら何を」
光太郎はコンビニっで買った冷麺を広げ、アクエリアスのペットボトルを取り出した。
中谷もデカイ弁当を出して、先に焼きそばパンを食べだした。
中谷は本当に良く食うよなー。なんでそれで太んないんだ?
俺は不思議に思いながらも自分の弁当に手をつけた。
「拓也の弟ってたしか直哉君だよな?運動会となりゃ張り切ってんだろうなぁ」
光太郎は冷麺を食べながら俺も小学校は運動会ちょー好きだったと言った。
まぁ俺も小学校までは好きだったさ。
「高校の運動会も結構楽しいけどな〜」
中谷はご飯を食いながら、思い出したように呟いた。そういや応援団だったな。
確かに楽しいけどさー練習きついし、リレー死んだし。
俺達はそのままダベりながら昼休みを終え、授業を終え、放課後になった。
「じゃーな拓也」
「おう」
光太郎は6時から塾があるらしく、そのまま塾の自習室に向かった。
俺はそのまま自宅に戻り、リビングに入った。
リビングでは直哉が組み体操が種目に含まれているらしく、技を色々披露してた。直哉は目ざとく俺を発見して技を見せてくる。
「あ!兄ちゃん!」
「あーすごいすごい」
悪いけどその技、俺も小5でやったから。
俺は適当に相槌を打って、テーブルの上に置かれているスコーンを食った。
ストラスは本を読みながら、直哉の技に感想をあげていた。
運動会まであと4日もあんだろー?そんなに練習すんなよ。
案の定、母さんは俺と父さんに、当日は予定を開けておけと念を押してきた。
直哉は直哉で出る種目を1つ1つ説明してきた。しょうがないから俺と父さんとストラスはちゃんと聞いてやる。
こんなに運動会って楽しみだったっけ?
とりあえず、日曜の予定は埋まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
前日、本屋から家に帰ると、母さんは買い物に出かけるらしい。
「拓也、付き合ってちょうだい!」
「……えー」
嫌なんだよなぁ。運動会前のスーパーって弁当作る親でめっちゃ混むんだよ。
やっぱりスーパーは混んでおり、車の止める場所なんてなかった。
それを熟知している母さんは俺を連れて徒歩でスーパーへ。あれやこれやを何人分買ったんだぁ?かなりの量に重さになる。
それのほとんどを俺が持たなきゃいけない。なんだよこれ〜……俺はぜーぜーして荷物を持って帰ると、家には澪がいた。
「あ、お帰りなさい……拓也大丈夫」
「なによ拓也。男の子のくせに情けないわね」
澪は俺がゼーゼー肩で息をしているのを見かねて荷物を1つ持ってくれた。(優しい)
そんなこと言ったって母さん。袋5個はきついんだけど…母さんは2個でいいだろうけど。
俺はドシドシとリビングまで歩き、荷物をどさっと置いた。
「さぁ作るわよ。今日はお弁当の残りでいいわね」
あぁ、弁当のついでってこと。いいですよー。
「澪ちゃんは明日予定あるのかしら?」
「へ?明日は何もないですけど」
「じゃあ澪ちゃんも来なさいよ。澪ちゃんも母校めぐりよ」
「わぁ!ありがとうございます!」
澪は目を輝かせて頷いた。
澪も行くのかぁ。ならかなり楽しくなりそう。
澪と母さんがキャッキャとはしゃぎながら夕食兼弁当を作っている光景を見ていた。
それにしても、なんかこう平和だといいんだけどドキドキすんだよなぁ。いつ何が起こるか分かんないしさぁ、しっくりこないんだよなぁ。
『幸せをかみしめているんですよ。いいことではありませんか』
夕飯ができるまでの間、自分の部屋に上がり、そのことをストラスに相談すると、ストラスは平然と答えた。そういうもんなのかぁ?
俺はう〜んと首をひねり考えてみた。でも答えは見つからない。
まぁいいやと思い、ベッドに横になる。本当になんか楽だなぁ。悪魔が見つからない。それだけで日常に戻ったって感じだ。
『さて、私はヴォラク達の元に少し行ってきます』
「え?また?」
最近ストラスよく勝手に行くよな。前は俺も付き合わされてたのに。
『はい。私は拓也と違い、悪魔の情報を探さなければならないので』
「何だよそれ……あ、なぁストラス。ルシファー様って誰なんだ?」
ストラスはその言葉を聞くと、一瞬体を強張らせた。なに?禁句?
『……我ら悪魔の王ですよ』
「王様?そんな奴がなんで俺に会いたがってんだろ。ロノヴェも俺をルシファー様とやらに会わせるっつってたんだよなー」
『会ってはなりませんよ』
「当たり前だって!そんな怖い奴と誰が会うかい」
『ならばいいのですが……』
ストラスはそう言葉を残し、羽を広げて飛び立っていった。
何だよあれ。ぶっきらぼうに答えてさ。
「なんなんだ変な奴」
俺はさして気にもせずに、手元にあった漫画を見開いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『おや、中谷ではありませんか』
「よっす」
私がマンションに着くと、中谷が野球のバットを持ってソファに座っていました。
目の前にはパイモンの空間。なるほど…訓練をしていたのですか。
「だいぶ様になってきたんじゃないか?元々センスがあったのかもな」
パイモンは奥から出てきて、中谷に麦茶を手渡しました。
「さんきゅー。はぁ疲れた」
『貴方は部活とやらではないのですか?』
「今6時30だろ?もう終わったよ。明後日は部活休みだし、広瀬と一緒にくるよ」
「なかなかあいつも上達しているよ。でもまだまだ時間はかかるけどな」
『そうですか。そういえばセーレとヴォラクは?』
シトリーもいませんが、まぁ彼は神出鬼没ですからねぇ。
私の問いかけにパイモンは雑誌を開き、ソファに腰かけました。
「子どもの所に向かったらしい。誕生日会がなんだとか、ヴォラクも連れて行かれたよ」
沙織のところですか。と、いうことは今は私たち3人だけですか。
『ではパイモンが今日は中谷を鍛えていたのですね』
「あぁ。ヴォラクがいないからな」
「パイモンのがいいよ。ヴォラクの奴、マジで容赦ないんだもん」
「ふふ……確かにあいつの指導は感覚的なところがあるからな」
『それにしても頑張っているのですね。中谷も光太郎も』
「まぁね。もう足手まといはこりごり」
中谷は顔を俯かせました。そこまで気負うこともないでしょうに。
本人もやはりもう少しは役に立ちたいと思っているのでしょうね。
中谷が俯いてしまったのを見て、パイモンが優しい声で語りかけます。
「まだ時間はある。あせることはない」
「うん。まぁそうなんだけどさ」
「急激な上達はありえない。まずは基礎を固めないとな」
『ところで、悪魔の情報は集まりましたか?』
私の問いかけにパイモンは一度頷いて資料を見せてきました。
「一応。でもまだ確認はできない。それに実際そうだとしても俺たちだけでは分が悪すぎる。戦う場所が海になる」
『オーストラリアで漁に出た数隻の船が行方不明。乗組員の1人が水死体で見つかる……これは』
「ヴェパールかフォルネウスか……フォカロルだ。あいつ等の、特にフォカロルの力は巨大だ。空中戦力はヴォラクだけ、主の力も考慮して今は無理だ」
『そうですね。戦場も海の上になる。確かに分が悪すぎますね』
「なんだよ〜そんなに強いのかよ……ってかそんな情報どこで仕入れてんだ?」
中谷は話についていけないのか、ブーブー文句を言った。
パイモンは軽く解説をしてあげました。
「普通にネットでだな。きな臭かったら悪魔と思えるけどな。数隻の船が行方不明になってるんだ。明らかに怪しいだろう?」
「そんなニュース日本では流れてないぞ。まさか世界中のニュースから探してる?」
「そう。それで可能性の高いものを選んでいるだけだ」
「へぇ、なんか大変そう」
中谷は考えたくないのか、その一言で終わらせてしまいました。
パイモンもその態度をさして気にもせず、私にもう1つの資料を手渡しました。
『これもですか?』
「あぁ。格下の企業が格上の企業を破格の値段で買収している。ありえないだろう」
『私は経済は専門外ですが、確かにこれはおかしいものですね』
「だろう?アメリカの大手保険会社だ」
『調べてみる価値はありそうですね』
「なぁなぁ。よくわかんねーんだけどさ〜、海の奴の方が危なくない?死者出てんでしょ」
『戦力はヴォラクとパイモンだけ。海の悪魔は我々には不利過ぎます。今出るのは得策ではないでしょう』
「でもさぁ……」
中谷は納得していないようですが戦力的に圧倒的に不利なのです。
仕方のないことなのです。中谷も私とパイモンの空気を察したのか、渋々頷きました。
中谷は中々に正義感が強いようですね。もう少し冷静にならないと。
「でもアメリカかぁ〜〜♪うっひょ♪たぁのしみ」
「立ち直りの早さは天下一品だな」
『えぇ』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ストラス、遅かったな。何してんだよ。今日は豪華だぞ〜〜♪」
家に帰り着くと、拓也がテーブルの上のごちそうに目を輝かせていました。
「ストラス。貴方も早く席に着きなさい。みんな食べてるのよ」
『あ、そうします』
私は拓也の隣に腰掛けました。
拓也は大人げなく、直哉の皿に入っていた唐揚げを取り上げて騒いでいます。なんという……
賑やかな家…地獄にいたときには考えられなかった光景に思わず気が緩んでしまいます。
気をつけないと、この平穏は束の間なのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おい直哉。日焼け止め塗っとけよ。焼けんぞ」
日曜日。直哉は体操服に着替えてウキウキと運動会のしおりを見ていた。
俺はそんな直哉に日焼け止めとタオルを投げて渡した。
直哉は日焼け止めを塗って、ご飯を食べて勢いよく家を出て行った。父さんはタオルなどを丸めながら玄関を見てつぶやいた。
「直哉ははりきってるな」
「そうねー。あたし達ももう少ししたら家を出ましょう」
「へーい。俺澪迎えに行ってくるわ。ストラス、行くぞ」
『はいはい』
俺はストラスを肩にとまらせて澪の家に向かった。
「あ、拓也。じゃあ行ってきまーす」
「拓也君。澪をいつもありがとう。澪、あちらさんに迷惑掛けちゃだめよ」
澪のお母さん!久し振りに見た!相変わらずきれいだな〜。
俺は軽く頭を下げて挨拶し、俺の家に向かった。
準備はもう出来ているらしく、母さんは大きな弁当の包みを俺に押し付けてきた。
「ちょっ!俺が持つのかよ!」
「あら、一番若い力持ちが持つに決まってるでしょー」
「だからって」
運動会は駐車場が混むから、歩いて行くんだろー?
こっから小学校って15分くらい歩くし、その間は俺が持たなきゃいけないんだろぉ。
父さんも巨大な水筒やらパラソルなどで重たそうだ。
男はつらいね……
運動場に着くと、もう鼓笛隊の開会式が始まっていた。
お、直哉いるいる。リコーダーかよ、小太鼓ぐらいやれよ〜
俺達は昨日とっておいた席に座り、父さんが傘をさした。
鼓笛隊の演奏が終わった後、開会式が行われ、準備体操、そして競技に入った。
「拓也、直哉の種目は何番目だ?」
「あ?え〜っと午前は4番目に徒競争、8番目に組み体操で14番目にムカデ」
「そうか。よしわかった」
父さんはビデオを手に持ち、いつでも取れる準備をしていた。
「パパ!直哉の番よ!カメラ回してるの?」
「もちろんだ。右から4レーン目だな?」
徒競争、直哉の番になった瞬間に母さんと父さんは騒ぎだした。
「すげぇな母さん達」
「おばさん楽しみにしてたもの。しょうがないよ」
澪は暑さの苦手なストラスに団扇で煽いであげながら笑って答えた。
でも直哉は順位は3位だった。なんか個性ないなぁ……
直哉は青いリボンをつけてもらって、でも嬉しそうにしていた。
「きゃーパパ!直哉3番よ!」
「流石私たちの息子だ!」
「そういうのって1番とった時に言う言葉じゃんかよ」
「拓也いいじゃない。ね、ストラス」
『えぇ。澪の言うとおりです。興奮的になっているのです。好きにさせましょう』
その後、組み体操で直哉は飛行機やサボテン等の技を披露していた。
この技って大変なんだよなぁ……直哉よく覚えたな。
おぉ〜と言う歓声や、拍手をもらいながら組み体操はケガ人もなく無事終了した。
ムカデは直哉の団が1番を取り、みんなで喜んでいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也。直哉は場所分かんないと思うからテントまで迎えに行ってあげなさい」
「はいはい」
昼休み、俺は人混みを避けながら直哉のいる5年生のテントまで足を運ばせた。
直哉は友達と騒ぎながら俺が来るのを待っていたようだ。
「直哉ー行くぞ」
「あ、兄ちゃん。じゃーな!」
直哉は友達に手を振り、俺のところまで走ってきた。
「なぁ兄ちゃん、ちゃんと見てた?」
「見てた見てた。直哉が徒競争で1番じゃなくて3番だったとことか」
「んなとこは見なくていいんだよ――!」
直哉と俺は騒ぎながら母さん達のいるテントに向かった。
母さんは髪のお皿とコップを広げて弁当の包みを開けていた。
「うっお―――!すっげー豪華――!」
俺は敷物の上に座りストラスを膝に置いた。
直哉もおしぼりで手を拭いて、唐揚げやらおにぎりやらなんやらを好きにとっていた。
「俺もいっただっきまーす!」
「拓也も直哉も澪ちゃんもストラスもパパもいっぱい食べてね。いっぱい作ったんだから」
「あ、はい。いただきます」
『ではお言葉に甘えて』
澪も箸を割り、おにぎりや肉じゃがやパイナップルと桃をとっていた。
俺はストラスに色々とってやり、食いやすいように細かく刻んでやった。
俺達が食べようとしたとき、直哉の箸が止まった。
「ごっちゃん……」
直哉の視線の先にはクラスメイトの姿。
小さい弁当を持って、1人でポツンと座っていた。
「親来てないのか?」
「ごっちゃん家ってなんか忙しいみたい。参観日もいっつも来てないもん」
でもなんか寂しそうだなぁ。
両親に囲まれている子供ばっかの空間で、あの子だけ後ろ姿がえらく悲しく見えた。
「直哉、あの子誘ってこいよ」
俺の言葉に母さんも頷いた。
「そうよ。1人はさみしいわ。まだあんな小さいのに」
「うん!」
直哉はあの子のとこまで走って行き、俺たちを指差して場所を教えていた。
その子は俺たちを見て、最初は気まずそうにしたが、直哉が腕を引くと嬉しそうに来た。
「あ、あの……お邪魔します!」
「どうぞ。直哉、少しずってあげなさい」
父さんの言葉に直哉は頷いてごっちゃんとやらを座らせた。
「お弁当、こっちのもどんどん食べてね。いっぱい作りすぎちゃってるから」
「あ、はい!」
ごっちゃんとやらは直哉と楽しく話しながらお弁当を食べていた。
直哉はごっちゃんの弁当の卵焼きをもらったり、ごっちゃんは直哉からハンバーグをもらったり、なかなか楽しそうだった。
「いい感じじゃねーか」
「ね、直哉君は優しいね」
俺と澪は微笑ましそうにその光景を眺めていた。
直哉達は昼飯を十分に食ってそのまま午後の競技に向かった。
「拓也、直哉の午後の競技は?」
父さんはまたカメラのセットをしだし、俺はまたパンフレットを広げた。
「え〜っと5番目に大玉ころがし、9番目に玉入れ、んで15番目に最後、騎馬戦だな」
「え?騎馬戦って6年だけじゃないの?」
「確か5年からも1部駆り出されんだよ。直哉、駆り出されたみたいだな」
俺は駆り出されたことなかったけどな〜
騎馬戦って一番盛り上がるんだよなー♪父さんも騎馬戦と聞いて燃えたのか、ウキウキしながらカメラを回した。
澪と母さんは心配そうに怪我しないといいけど等と話していた。
あのなぁ怪我する奴の方が珍しいんだから、気にすることないんだって。
『拓也、騎馬戦とは?』
「あぁ、人間3人の上に人が乗ってな。お互いの帽子やら鉢巻をとり合うんだよ。人間3人は馬って言われるんだ。上に人乗せるからな」
『なるほど。ですから騎馬なのですね』
ストラスは自分の疑問が解消されて満足したのか、運動会に視線を戻した。
競技はまだ1番目の台風。4年生が必死で棒を持って走っている。
そして5番目の大玉ころがし。これは4、5、6年全員の種目だ。しかも4列に並んでいる。
父さんは直哉を見つけることが出来なかったらしく、悔しそうにしていた。
そして玉入れ。これは5年生の種目だ。
直哉はいっぱい球を持って皆と話しながらたくさん投げていた。でもあんま入ってないな。
直哉の団は3位と言う微妙な順位で、みんな肩を落としていた。
《次は6年生による騎馬戦です》
「お、来たな」
俺はストラスとポテトチップスを食いながらグラウンドを見た。
父さんは必死でカメラで直哉を探している。
「拓也、直哉はどこだ?」
「あれじゃね?左から3番目の馬のさぁ、斜め後ろ」
「おぉ、本当だ」
あ、カメラ回しだした。
総当たり戦で、しかも全滅戦らしい。これきっついなぁ。
ピストルの音で、皆がいっせいに駆けていく。
うおー結構激しいなぁ…まぁ俺達の騎馬戦ほどじゃないけどなぁ(当たり前)
あ、あいつ落ちた。いったそう。
「きゃーすごい……そういえば拓也も体育祭の時、騎馬戦で上の人が崩れたとき一緒に崩れたよね」
澪は思い出したのかクスクスと笑い、恥ずかしい話を持ち出してきた。
「しょうがねぇだろー?あの先輩、よりにもよって俺の頭上に落ちてくんだからさー」
「あぁ!直哉!」
母さんの声でグラウンドを振り返ると、どうやら上の奴が鉢巻をとられたらしい。
直哉達は走って騎馬戦の枠から出ていく。
「あぁ心臓に悪いわ。直哉が倒れたらどうしようかと思ったもの」
それは心配し過ぎだろ。
でも直哉の団は見事勝利していた。会場からは拍手の声。
そしてそのあとも騎馬戦は続き、直哉の団は2位で終わった。(全部の団は4つある)
その後、最後に団の代表者によるリレーが行われ、閉会式になった。
直哉の団は2位で優勝はできなかった。
みんな悔しそうにしてたけど、それ以上に楽しそうだった。
直哉は片付けがあるので、俺達は荷物をしまい、先に帰ることにした。
あー弁当箱空になってよかった。楽だわ。
「拓也。弁当は軽いだろう。水筒と敷物を持ってくれ。父さんパラソルで手いっぱいだよ」
世の中そんなに甘くない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
帰り道、ストラスは小声で俺に話しかけた。
『拓也、悪魔の情報が集まったので明日調べてみましょう』
「え、どこに?」
『アメリカです』
また大層なとこに行くね……また現実に引き戻される。
今度はどんな悪魔が来るのか。
また戦わなきゃいけないのか……血なんてもう見たくないのに。
俺はため息をついてその言葉に頷いた。
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