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第2部
第32話 歪んだ愛情
拓也はあれから部屋にこもってしまいました。
日曜はまったく外にも出ないし、ご飯も食べませんでした。
拓也の父上に事情を聞かれましたが、それは何も言わずにしておきました。


32 歪んだ愛情


「はよー!」

バァンッ!と勢いよくドアを開けたのは紛れもなく拓也。
拓也の母上が話しかけようとしたのを拓也は遮りました。

「拓也」
「早く飯ちょーだい!時間ねぇよ!」
「え?えぇ、わかったわ」

拓也は食パンにがっつき、テレビを見ています。
テレビはエジプトのニュースで持ち切りだったので母上がチャンネルを変えていました。

『現在、まだ女子生徒の行方は知られておらず警察は…』
「あ、おとといのニュース」

拓也は牛乳を飲んで、テレビに目をむけます。
ニュースを見て、食パンを食べ終えて立ち上がります。

「こえーよなー、足立区とかさ!すぐそこじゃん!この子かわいーよなー。んじゃ行ってきます!」
「無理しちゃって……何があったのかしら」

バタバタと騒々しい音を立てて、玄関を出てきました。
母は強し、なんでも見抜いてしまうのですね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
上手く笑えてたかな?
とぼとぼ歩きながら俺は学校に向かっていた。
気持ちが晴れない。また涙が出そうだ。

「池上!」

急に背中を叩かれて、後ろを向くと、桜井が手を振っていた。
できるだけ、顔を下げて挨拶をしたが、俺の赤い目を見て桜井は心配そうにのぞきこんだ。

「あ、桜井。はよ」
「泣いてたんか……何かあったのか?」

言えるわけないじゃん。テロにあったとか、みんな死んでしまったとか、人質にされたとか、銃で撃たれたとか。
頭の中にグルグル回る恐怖。
だめだ……笑えない。
すると桜井が急に俺の手を引いてどんどん学校とは逆方向に向かう。

「池上。ちょっと付き合えよ!」
「お、おい!そっちは学校じゃねーぞ!」
「駅前にスタバできたんだぜ?知ってるか?」
「いや……」
「行こうや。期間限定のマンゴーのみてぇ」

気を遣わせてる。桜井は空気の読める奴だ。なんか罪悪感。
でもこんな状態で学校に行くよりはスタバに行った方がよっぽど気分転換だ。
俺はひかれるがままスタバに歩いて行った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うめーなぁコレ!」

桜井はマンゴーを飲み、サンドイッチをほうばる。俺もカフェラテを飲みながら、ニューヨークチーズケーキを食べた。
桜井は何も聞かない。テストのこと、家のこと、上野たちと遊んだ時のこと、面白おかしく話して、場を和ませようとしている。

「なぁ今度また勉強会しようぜ。立川ん家で」
「そう言ってなったためしがないじゃん!」
「今回は広瀬に遊んだら怒ってもらうからよー。平気だよん様☆」
「きも……」
「んだと!」

なんか気分が少し晴れたや。普通の生活に戻ってる感じだ。
俺達は昼まで話し、そこから公園に行った。
そこは桜井が保育園の時、よく立ち寄っていたとこらしく、今でもだべりに使うらしい。

「そんでさぁーこのブランコで足引っ掛けてさぁ〜」
「馬鹿じゃん!!」
「てめぇ!純粋な子供心を……!」

桜井が立ち上がって俺に掴みかかろうとすると、公園の出口を誰かが突っ切った。
桜井はそいつを見ると大声を出して手を振った。

「あれ?亮太?亮太―――!!」
「あ、なんだ雄一か……」

亮太と呼ばれた少年はビクッと反応し、恐る恐るこっちに顔を向けた。
ホッと胸をなでおろし、桜井に微笑みかけた。
背は170ないかな?髪はショートボブ。めちゃくちゃ気弱そう……
制服は足立区の名門校の制服だ。

「なんだよ。サボリかよ?俺らと一緒だな〜♪つかまだ見つからないのか?真由さん」
「え?あ、うん……」

少し、気まずそうに顔を伏せ、そいつは頷いた。
何の話か気になった俺は話に首を突っ込み、桜井に問いかけた。

「何の話?」
「ほら、今ニュースになってんじゃん?足立区の17歳の生徒が行方不明って」
「うん。って……えええぇぇえ!?ここの高校!?」
「そうなんだよ!しかもマドンナって呼ばれてる子らしいんだよ。後藤真由ちゃん。写真でみたらめっちゃかわいいんだぜ!」
「見た見た!可愛かったし!あの子大丈夫なのかな」
「そうだな……」

亮太は目をずらし、しどろもどろに答えた。
なんなんだ?

「じゃあ俺もう……」
「あ、うん。がんばれよー」

桜井は手を振って俺に向きなおった。

「あいつ幼馴染で1歳年上なんだけどさー、いっつもビクビクしてっから小学校の頃、皆にいじめられてさー。しかもまたそれを我慢するからよ。それも尾を引いてたなー」
「へぇ」
「今は大丈夫なんかな……」
「大丈夫だろー」
「そうだな。なんか仲いい奴もいるみたいだし」

俺達は自己完結してまた辺りをぶらついた。

「でもさ、なんであいつさぁカップ麺2個も持ってたんだろ」
「へ?」
「コンビニの袋。あいつ、親父は働いてるし少食だから2個も食べるっけ?」
「腹減ってんじゃね?」
「そうか、そうだな!……」
「桜井?」
「へ?いや、なんでもない。ゲーセンでも行くか!」
「おう」

なんかはぐらかされた気がするけど……まぁいいか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま」
「お帰りー!」

直哉はストラスを頭にのっけて玄関でお出迎え。

「なんだよストラス。直哉の軽い頭が気に入ったのか?」
『離れようとすると怒るのです』

あ、そ。
直哉はニコニコしてクッキーを食べている。食べかすこぼしたら叱られんぞ。
俺は自分の部屋に上がり、寝間着に着換えた。

『拓也』

振り向くと直哉から離れたのか、ストラスが俺を見ていた。
ストラスは少し神妙そうな表情を浮かべている。

「なに?」
『……無理をしているのではありませんか?』
「無理?」

核心をつかれてビクッとなる。裏返ってなかったかな?
ストラスは大して気にした様子はなく、ぽつぽつと話し出す。

『言いたくなければいいのです。私の勘違いかもしれませんし……でも母上も心配していました。何かあれば相談して』

俺、頑張ってんだよ。頑張って皆に気使わせないようにしてんだよ。
そう思ってるのに声が出ない。
なんでわかってくれないんだよ。
忘れようって必死なのに、どうして聞いてくるんだ?俺が必死になって隠してるのに。
止めろよ、思い出させるなよ!こんなこと聞かれたくないのに!!

「相談したところで何か変わんの?」

自分でもびっくりするような低い声。俺ってこんな声出るんだ。
ストラスも驚いて俺を見ている。あ、やばい。1回口から飛び出した言葉は消えなくて……
俺の口はまた新たに言葉を紡ぎだそうとしている。

「何も変わんないじゃん。父さん達に相談しても何もできないんだからさ」
『拓也』

こんなこと言いたいわけじゃないのに、俺……人のせいにしたくてしょうがない。
なんでもいいんだ。
誰かを傷つけて安心しようとしてる。同じ悩みを共有させようとしてる。
悲劇のヒロインじゃないけど、同情をもらいたくて仕方がない。

「誰も俺の気持ちなんてわかんないよ。協力するって何?何を協力すんの?光太郎も中谷も付いて来ては足引っ張るだけで迷惑だし、父さん達だって話を聞くだけで解決策なんか持ってないくせに。結局は俺1人でやんなきゃなんないんじゃん」

ストラスを傷つけたい。そう思ってる。
俺、最低すぎるだろ……思ってもないことを口にしてでも、あいつを傷つけてやりたい。
だってあんな事件があったんだぞ?
皆死んじゃったんだ。
なのになんでそんなに普通そうにしてんだよ。俺はこんなに悩んでんのに何でそんなに平気そうな顔してんだよ!
そう思ったらイラつかずにはいられない。

『貴方は……そう思っていたのですか』

ストラスの呆れたような声。俺を見るのは軽蔑の眼差し。
少しだけその目に怯んでしまう。

『彼等は何とか力になりたくて、時間が空いた時に2人でヴォラクとパイモンに稽古をつけてもらっているのですよ。それを迷惑ですか……』

俺は何も声が出せない。
出せてもきっと言い返せない。だって本当のことだから。
本当に光太郎たちは頑張ってくれてるから。俺に協力するって言ってくれてるから。

『貴方の身を心配して、それでも何とか力になりたいと思う家族も迷惑ですか』

ストラスはギッと俺を睨みつける。
そして何も返事が出来ない俺に言葉を乱暴に投げつけた。

『貴方がそんな人間だとは思ってもみませんでしたよ』

ストラスの言葉が心にのしかかる。そして湧き上がってきたのは怒り。
俺の口調はさらに刺々しくなっていく。

「なんだよ。じゃあ俺をどんな人間だって思ってたんだよ。いっつもヘラヘラして臆病で情けなくて、皆に頼って、1人で戦ってるんじゃないって思ってる拓也か?」
『拓也?』
「俺は1人だよ。この指輪をもった瞬間から1人ぼっちだ。言葉だけじゃ理解できないもんだよ。結局悪魔のいるとこに連れてかれるのも、戦いに巻き込まれるのも…挙句の果てには狙われるのも俺。全部、俺にしかわからないことだ」
『……』
「お前が知ったかぶって話したってどうせ何も変わんないんだ!誰も俺の気持ちなんてわからないんだよ!!」

ストラスは俺の言葉に悲しそうに目を伏せて、部屋から出て行った。
俺はそのまま床にズルズル腰を落として、膝に顔を埋めた。
何が何だかわからない。頭がおかしくなりそうだ。
人が斬られる瞬間がまだ頭に鮮明に残ってる。血が噴き出る瞬間が焼き付いて離れない。
鉄の匂い、煙の臭い、すべてがまだ鼻にかかっている。
こんなの忘れられる訳がない。自分がこんな目にあったのに笑ってる皆が頭に来る。
なんでストラス平気なの?パイモンは一瞬でも俺を裏切ろうとした?あぁ駄目だ。気分悪い……

『私は拓也に無理をさせていたのでしょうか…』
「なぁに?何か言ったの?ストラス」
『何も。はい、チェックメイト』
「わぁ―――――――!!!」

その後、母さんが飯を作ってストラスも一緒に夕飯を食べた。
でも俺は謝る機会を見つけれなくて結局一言も話さずに夕飯を終えた。
寝る時どうすんのかな?直哉の部屋で寝んのかな。
案の定、ストラスは直哉の部屋で眠ったらしく、俺の部屋には来なかった。

ストラスのいない部屋はなぜか広く感じられた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おはよう」
「あら拓也、おはよう。今日は和食よ」

あら、朝から和食って珍しい。母さん時間あったんだな。
俺は味噌汁をすすりながらテレビをつける。テレビはエジプトのことと……

「またこのニュースか」

足立区の行方不明の少女のこと。
母さんも複雑そうな表情でニュースを眺めている。

「怖いわねぇ。この子、勉強も出来て、かわいくて人気者らしいわよ。誰かが誘拐したんじゃないかって話になってるみたいね」
「あんがと。桜井が言ってた。マドンナって言われてるらしいよ」
「あらそう。無事に見つかるといいわねぇ……」
「ん」

そう言って俺は朝飯を平らげた。
それからはいつもの通り、学校に行って普段通り過ごして、中谷は部活に行って、光太郎は塾に行って、俺はそのまま大人しく帰宅……しようとしたんだけど。

「桜井?……なぁ上野、桜井どうしたんだ?」
「なんか幼馴染がどうとか……詳しくは俺も知らないんだけど、なんかヤバいもん見たらしいぜ?」
「ヤバいもん?」
「そこまでは俺も知らないんだけど……ヤッてる現場にでも遭遇したんじゃねぇのー?」
「お前下品すぎ……」

桜井、明らかに目が遠くに行っちまってる。どうしたんだ……?
俺と上野はソロ〜っと桜井に近寄り、話しかけた。

「桜井〜?どうした〜?」
「あぁ、池上と隆司か。実は……でも言えねぇ」
「なんだよ。ここまで来て言えないかよ!」

俺と上野はブーイング。桜井は力なく笑い、誰にも言わないか?と聞いてきた。

「言わないって」
「じゃあついて来てくれ」

俺達は何かな等と軽くはしゃぎ、桜井の後を付いて行った。
でもついて行かなきゃよかったことを嫌というほど思い知らされる…。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なぁここどこ?目黒区じゃん」

俺たちが桜井の後を付いて行ってたどり着いたのは、目黒区の普通の一軒家の前。
何があるってんだ。

「なぁ、隆司も池上も知ってるよな。俺の幼馴染」
「あぁ、あの気弱そうな」

俺がそう言うと、桜井は頷いた。

「どうかしたのか?ついに登校拒否ったか?」
「そんなんじゃねぇよ。てかもっとヤバい……かな」
「やばい?」

桜井は場所移動しようと言って、人通りの少ない道路まで歩いた。

「なんだよ。家の前行った意味あんのかよ?」
「あのさ、信じてもらえなくってもいいけどさ……もしかしたら亮太がその……真由さん監禁してんじゃないかなーって」
「「はぁ!!?」」

真由ってあのニュースのかわいい子だよな!?どういうことだ!!?
上野がアハハと桜井の肩を叩く。しかし桜井は固まったまま。

「おま……何かの間違いだって!」
「昨日さ、池上と別れた後、亮太ん家に行ったんだ。そしたら鍵空いててさ。でも亮太いなくて俺何回も遊びに来たとこだから勝手に家ん中入っちゃってさ。そんでなんか屋根裏部屋から音がすると思ってさ、覗いたんだ。そ、そしたら……」
「い、いたのか?」

俺と上野は息をのんで話の続きを聞いた。

「よく見えなかったんだけど……でもあれは真由さんだった。でさ、ここからがその……問題なんだけど……」
「なに言ってんだ!もう十分問題だろ!ニュースになってんだぞ!警察に行くべきだろ!」
「ってか家族気付かないのか!?」
「亮太の親父、夜遅くに帰ってきて、すぐに風呂入って寝ちゃうんだ。屋根裏なんかのぞかねぇよ。黙ってれば絶対にばれない」
「そうか……ってそんな問題じゃねぇだろ!すぐ警察に!」
「待てって隆司!き、聞いてくれって。俺その部屋で化け物見たんだ」
「!」
「はぁ〜?人形じゃね?」

上野は冗談だろうと笑い飛ばしたが、俺は目を丸くした。

「人形じゃねぇって!動いてたんだ!真由さんを監視するみたいに!真由さんメチャクチャ怯えてて……俺も怖くなって逃げてきた……」
「「……」」
「なぁ、警察に言おうや。その化け物のことも屋根裏調べたらわかることだしよ……」

もしかして悪魔なのか?
上野の言葉に俺が駄目だと言う前に、桜井が言葉を遮った。

「だ、ダメだって!んなことしたらあいつ1人になっちまうだろ!」
「1人?」

桜井は顔を伏せ、少しずつ話しだした。

「あいつさ、小さい頃に母親が蒸発してさ、若い男とどっか行っちゃったらしいんだ」
「え?」
「そんで親父は働いてるし、しかも親父はエリート会社員だ。家に帰るのもいっつも遅くてさ……亮太いっつも1人で飯食ってた。勉強も厳しくってさぁ〜亮太、悪いけどそこまで頭良くなくってさ。必死で勉強してあの高校に入ったけど成績は中の下。親父さんも呆れちゃって、ほったらかしになってさ。ただでさえ自信ない奴なのに、ますます縮こまっちゃって。だから誰かに執着したら一直線になりそうで……」
「だからって監禁はねーだろ」
「そうだけど!でも……俺が警察に言ったら亮太捕まんじゃん。親父さんも見放したら亮太1人ぼっちだ。そんなことできない。だから遠まわしに何回も言ってみた。でもどもるだけ……何も言葉を返さない」

俺は上野と顔を見合わせた。桜井は暗い表情のまま固まっている。
でも桜井の言葉に俺達はそれ以上、何も言えなくなってしまった。

「早く元の亮太に戻ってほしいんだよ!あいつあんなことする奴じゃないのに!」
「わかったよ。じゃあ説得してみれば?でもこのままだったら俺が警察に言うからな」

上野は気まずそうに頭をかいて、じゃあな。と手をあげて帰路についた。

「俺……説得できるかな?」
「大丈夫だよ。桜井!俺も協力するから、な?」
「ありがとな。池上」

桜井は軽く笑って、今日は帰ると手を振った。
俺もそのまま家に帰ることにした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
家に帰ってもストラスはいなかった。確かに酷い事を言った自覚はある。
でも謝りたいのに、こうあからさまに避けられると寂しさとイラつきがいっぺんに来る。
俺はムカついて枕をバコバコ殴った。

「んだよ!あのフクロウ!せっかく人が謝ろうと思ったのに!どうでもいい時はウゼーくらい周りを飛び回ってんのによ!!……なんでいねぇんだよバーカ……」
『いきなり馬鹿とはよく言ったものですね』

ん…………?

「ストラス!」
『むぐっ!』
「マジでごめんな!俺本当はあんなこと思ってないんだ!あれは、あれだ!言葉のあや!急に避けんなよバカヤロー!不安になったじゃねぇか!!」

俺はおもいっくそストラスを引っ張って引き寄せた。
謝ってたら少しだけ涙があふれた。
ひどいこと言ったってわかってる。嫌われてもしょうがない。でも本心じゃないんだよ。
決して嫌いなんかじゃないから!!

『次からは思っても口に出さないでください。私も貴方に言われたら流石にへこみます』
「言わないって絶対!」
『いまいち信憑性がないですねぇ。光太郎やご両親のことも本心ではないのですね?』
「うん。本心なんかじゃない。ただカッとしちゃって……聞いてほしくなかったんだ」
『……』
「怖いんだよ。でも心配かけたくない。だから頑張ってたのに……駄目だったんだ。俺がこんなに悩んでるのに、お前はケロってしてるから……そしたらお前、聞いてきただろ?あれで爆発しちまった。こんなことあって落ち込むのは当たり前だろ!って。なんで察してくれないんだ!ってさ」
『良かれと思ったのですがね……まぁ感じ方は人それぞれでしょう』

ストラスはやれやれと言いながら、抵抗するのを止めた。
俺は肝心なことを思い出し、ストラスに聞いてみた。

「あ、そうだ!あのさぁ。なんか桜井がさ、化け物見たって言っててさ」
『桜井?』
「あ、俺のクラスメイト。なんか今ニュースになってんじゃん?足立区の行方不明の女子高生。それを監禁してるかもしんないって奴が桜井の幼馴染でさ。桜井がそいつの家に行った時に化け物見たって。そいつもそんな監禁なんかする性格じゃないって言ってたし……もしかしたら悪魔かなって」
『監禁、執着……ふむ……』

ストラスは考え込むように首をひねり、とりあえずその家に連れて行けと命令した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「確かここら辺だった気が……あ、あの家!」
『見たところ普通の家ですが』
「なぁ……あれ桜井の幼馴染の亮太ってやつだ!」

指を指した先には先ほどまで桜井たちと見ていた家。目の前からは亮太の姿。袋の中にはコンビニの袋。

「池上」
「のぅわ!!って桜井!」

急にかけられた声に俺は声がひっくり返ってしまった。
後ろには桜井の姿。

「出た。前に学校来てたフクロウ。お前のペットかよ」

覚えてたんかい!
俺は否定をすることもなく、桜井に問いかけた。

「なんでここに?」
「なんでって……俺ん家この近くだし?まぁ様子を見に……」

桜井は頭を気まずそうに掻いて、心配そうな顔をした。

「だって亮太のこと上野が言うって言ってたし」
「桜井」
「雄一なにしてるの?」

目の前には亮太の姿、なんでばれた!?結構距離合ったはずなのに!!
桜井は真っ青にして亮太に指をさした。(さすなよ)

「なななななな……なんで!!!?」
「なんでってあんな大声出したら……」
「池上ィイイ―――――――――――!!!!!」

俺のせい!?確かに大声出したの俺だけど!

「い、いやー……ちょっと散歩もいいかなぁって」
「そ、そうそう」

桜井、目が泳いでる。こんなんじゃ怪しいって思われても仕方ない。
亮太は顔をしかめて俺たちを見ている。
俺はそれから目をそらすようにコンビニの袋に目をやった。
あ、また……

「おにぎり……こんなに」

何個あるんだ?6個くらいある。俺はついうっかり呟いてしまった。
亮太は途端に真っ青になって袋を後ろに隠した。なんでそんなに慌てるんだよ。まさか……

「俺が食べるから!もう嗅ぎまわらないでくれよ!」
「嗅ぎまわる……」

亮太はそう言い残し、家の中に走って入ってしまった。

「なんであんなに慌てんだよ。しかも嗅ぎまわるなって……」
「気づいてたんだ」

桜井はハハッと青ざめて笑った。

「やっぱり亮太が真由さんのこと……」
「さ、桜井……」
「やばいって、やばいって!どうしよう池上……このままじゃ亮太」

桜井は完全にパニックに陥っていた。

「大丈夫だって!絶対になんとかなるから」
「でも……」

そうは言いつつも、どうやって調べるべきなのか。
あのままじゃ亮太さんを説得する前に、上野が警察に連絡する方が間違いなく先だろう。
急いで悪魔かどうかを見極めないと……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「真由、ご飯……」

亮太は真由におにぎりを手渡した。しかし真由は首を横に振るだけ。
そんな眉に亮太は悲しそうな顔をした。

「食べてよ真由。朝も食べてくれなかったじゃん……お願いだから」
「出して。ここから出して」

真由はやつれた顔で亮太を見据えた。
監禁されて3日、一向に開放してくれる気はない。
しかし亮太は怯えた顔で首を横に振るだけ。

「いやだ……だって真由、絶対どこかに行っちゃう」

どこで間違えてこうなったんだろう。
こいつだ、こいつが現れてから。

『ゴ主人ガ困ッテル……真由、食ベテ……』

口調こそ優しいが、それでもあたしを解放する気はさらさらないようだ。
こんな化け物が本当に存在するなんて……そして亮太がこんな化け物を飼ってたなんて……怖い。
あたしは仕方なくおにぎりを口に含み、麦茶を飲んだ。
亮太はそれを安心して見ている。

「ありがとうロノヴェ……」
『ゴ主人ノ為ナラ』

なんなんだろう、この化け物は。なんで亮太がそんなのを飼ってるの?
亮太は弱弱しくあたしの腕をつかむ。

「真由、ここにいて?一緒にずっと……」

前なら頷けてたのに、今はそれができない。亮太に向けていた感情が黒くなっていく。
殺したい。亮太を殺したい。
あたしが何をしたっていうの?こんな犯罪じみたことして……絶対に逃げてやる。警察に言って捕まえて晒し者にしてやる!
そういう気持ちとは裏腹に目の前で不安そうに顔を伏せる亮太が心配で仕方がない。

あぁ末期だ。

こんなことされてるのに、まだ憎みきれないなんて。
でもここから出して。あたし家族に会いたいよ、友達にも会いたいよ、普通に貴方とも会いたいよ。

流しきったと思った涙はまた溢れ出てくる。あぁ麦茶なんかを飲んだからだ。
場違いなことを考えて、少しでも緊張をほぐそうと脳は無駄な努力をしている。

「真由……だ、大丈夫?どうしたの?」

お前のせいだっつーのバーカ。
亮太は慌ててあたしの涙を指で拭う。
それに顔を背けて抵抗しないのは、きっと弱ってるからなんだ。
亮太の指が心地いい。なんでこんなのに優しいのに、こんなことするの?
わからない。亮太が何を考えてるのかわからない。

ねぇ、亮太が遠いよ……

登場人物

桜井雄一…拓也のクラスメイト。
      立川、藤森、上野とつるんでいて、特に上野と仲がいい。
      空気の読める奴で、誰にでも気さくに話しかける。
      
上野隆司…拓也のクラスメイト。
      席が拓也の後ろなので、桜井達4人組の中で、拓也と一番仲がいい。
      桜井達といつもふざけあっている。


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