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今回アラビア語が出てきます。
でも全く変換ができずに文字化けしてしまったので、アラビア語の部分は外しました。
「()」と表記されていう部分がエジプト人がアラビア語を話していると思って読んでください。
第2部
第31話 信頼か忠誠か
『女子高生が行方不明になっており、警察では捜査の地域を広げています』
朝から嫌なニュースだなぁ。
台所に入るなり聞こえてきたニュース。嫌なの聞いたよ。


31 信頼か忠誠か


テレビには行方不明になった少女の写真。
うわーかわいい子。17ってことは年上かぁ。

「怖いニュースばっかりね。足立区の高校っていったらここから近いじゃない」

え?本当だ。足立区だ。俺はテレビをマジマジと見た。

「拓也。貴方いつから行くつもりなの?」
「へ?」

急に話しかけられたので俺は素っ頓狂な声しか出なかった。

「へ?じゃないでしょ。エジプトに行くんでしょ?お弁当作ってあげるから」
「弁当?あーそっか」

なんか母さんとこんな話するなんて思わなかったな。くすぐってー。

「夜と思う。光太郎が言うには時差7時間だってさ」
「7時間……やだ。夜中に帰ってくるの?」
「うーん……11〜12時くらいじゃない?」
「じゃないじゃなくてねぇ……もういいわ。時間までにお弁当作っとくから」
「あんがと」
「別に」

気ぃ遣わせてごめん。その言葉は言わずに母さんの後ろ姿を見つめた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、そろそろ行くか」

夕方の6時30。俺は漫画をしまってベッドから起きた。
ストラスは、と……直哉だな。
そういや、直哉がストラス連れてったな。俺は直哉の部屋に向かった。

「直哉。ストラス返せ」

案の定、直哉はストラスを掴んで振り回していた。(哀れストラス)

「えーもう?ストラスともうちょっと一緒にいたいのに」
『十分一緒にいましたよ』

あ、ストラスぜーぜーしてる(笑)
俺はストラスを直哉から引っぺがし、1階に下りた。
台所には運動会の時に持ってきてた巨大な弁当、母さんか?

「あ、拓也。お弁当、そこにあるわよ」

やっぱり。
洗濯物を畳んでいたらしく、母さんはリビングから顔をのぞかせた。

「ってかこの大きさ」
「あんた1人で行くんじゃないでしょ?皆の分よ」

ありがたいけど。ありがたいけどさぁ……
とりあえず俺は弁当の袋を持って家を出た。

「気をつけてね」

その言葉は聞こえなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也、その袋は?」

案の定セーレがビックリした目で俺を見た。

「弁当だって。皆の分もって」
「そ、そうか。助かるな」

セーレ苦笑い。顔が引きつってるよ。ん?
ソファにはシトリーの姿。今日って土曜だよな。

「シトリーお前バイトじゃないの?」
「いやーパイモンがどうしてもってお願いしてくっからさ〜男としちゃ断れないっしょ♪」
「誰もお願いなどしてないのだが」
「お願いって言うか、あれは脅迫だよね。来なきゃ殺すみたいな」

殺す!?なんて怖い言葉使うのこの人は!綺麗な顔して!!

「馬鹿ヴォラク。行き過ぎた愛情表現だよ。ほんとに罪だな俺様」
「幸せだねシトリー。でも行き過ぎちゃ駄目と思う」
「そのまま地獄に堕ちてしまえ」

好き放題言われてますけど。シトリーはニヤニヤと笑ったまま(キモイな)

「ってかお前、好き勝手バイト休んで首になんないのか?」
「俺様首にしたら女性客の8割来なくなんだろー?んなことしねぇよ」

まぁいいや。右から左へ受け流そ。
俺達はそのままジェダイトに乗ってカイロに向かった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あれ?」

カイロは土曜なのに昨日より人が少なかった。なにかあったのか?
俺が首をかしげると、パイモンが地面に落ちている号外と書かれた新聞を手に取った。

「今日の午後のいずれかの時間にカイロで自爆テロの予告があったみたいですね。それで市民が街を歩いていないのでしょう」
「なんだ?自爆テロって」

シトリーが聞きなれない言葉に首をかしげる。

「自分自身に爆弾を巻いて、周りの人と一緒に爆発すんだよ」
「自分もか!?すっげーな……なんだそりゃ。なんかの宗教か?」

まぁ間違ってないんだけどさ。

「なんかこっちの世界もこっちの世界で終わってんな。自爆とか」
「とりあえずどうしよっか?なんか本当だったら怖くない?」

俺がしどろもどろになって言うと、パイモンが首を振った。

「言ってみればチャンスです。これで相手が動いてくれれば見つけるのも早くなる。ここは大人しく待ちましょう」
「それに賛成。むやみに動くよりも動いてくれた方が楽だしね」

チャンスって……いっぱい人が死ぬかもしれないのにチャンスって……
やっぱりこういうときに、見方が分かれるもんなんだな。別に人間はどうなってもいいってことですか。
俺が少し俯くと、俺を見ていたシトリーが意見を出した。

「おいおい待つって……起きる前に叩いた方がいいに決まってんだろ」
「じゃあ探すというのか?それの方が非合理的だな」
「合理とか非合理とかそんなんじゃなくてだな、わざわざ騒ぎをでかくすることねぇだろ」

パイモンとシトリーの意見は対立してしまった。

「時間がないのはお前も分かっているだろう?大事の前の小事、犠牲はつきものだ」
「だからっていってなぁ、それ以前を切り捨てるのもどうかと思うぜ」
「お前な」
「あれにはまだ時間がある。でもそれを守るために今生きてる人間が泣いてもいいのか?俺はそうは思わない」
「……」
「犠牲ばっかで得る物なんて……ちっとも嬉しくねぇよ」

シトリー……同じ考えを持っている事がくすぐったくて俺はまた少し俯いた。
パイモンはため息をついて俺に向きなおった。俺は反射的に構えてしまう。

「私が無神経でした。主の意見を聞きましょう」
「好きにしろよ拓也」
『あなたの思ったことを言えばいいのですよ』

全員の視線が俺に向かう。なんか気まずくなってきたな。
シトリーの言葉と腕の中で小さく呟いたストラスの言葉に俺は頷いた。

「俺、事件起こる前に、捕まえたい。もう人が死ぬとこ見たくない!」
「拓也……シトリーのせいだ――!!」

ヴォラクはシトリーをポカスカ叩いた。

「な、何だいきなり!俺のせいって!」
「シトリーがあんな現場を拓也に見せるからだ―――!!」

あぁ、あのドイツの……それもあるけど俺は……

「違うよヴォラク。俺さ、マルファスの時に1回見たことあるんだ。それが怖くてさ」
「拓也……」

やばい。なんか空気が沈んでる。
俺は明るく顔を上げ、とりあえず交通機関の多い大通りに行こうと提案した。

「渋滞だなぁ」

東京でも見慣れた状況に俺はうんざりして、カフェテラスの前に立った。
俺は弁当も持ってるから余計に重たい。

「とりあえず、俺おなかすいたよー」
「食う?」

俺達は座れる場所を見つけて、弁当を食った。
大通りで弁当を食う男たち。なんて滑稽な姿だろう、通行人のさらしものだ。
でもまぁいいや。この際さぁーどうせ二度と会わないんだし(笑)
弁当を食い終えて、中身が軽くなったところで、もう1度辺りを見回す。現在の時刻は日本時間で8時。っつーことは昼の1時。
俺達は車やバスを見て、怪しそうな奴がいるかを見て行った。
でもこんな多くの人を、しかも外から見れるわけもなく、結局はボケッとしていた。その間も時間はどんどんたっていく。

「(こんにちはお嬢さん。今日は危ないぜ。俺たちといれば安心だから、一緒に遊ばない?)」

エジプトの人間がパイモンに絡んできた。なに言ってるか分かんないけど。
顔がにやけてるから、たぶんナンパだろうなぁ。パイモンは見た目はマジで女だから。

「(死ね)」

パイモン!?なんか呟いたと思ったら急に男を殴った!
男はむせこんで何か大声で叫ぶと走って行ってしまった。
ますます注目の的。俺はいたたまれなくなって下を向いた。
そのまま探し続けて時刻は夕方の4時。

「結局デマだったのかなぁ?」

ヴォラクは足が痛いとこぼし、首を振った。
それはそれで嬉しいけど、いや嬉しい。

「そうだな」

俺はそう言って、ヴォラクに向きなおった時、けたたましい音とともに突然巻き起こった爆風。
え、何だこれ……
咄嗟にシトリーに腕を掴まれて、俺は何とかその場に踏みとどまった。

「みんな!何かにつかまれ!」

セーレの言葉に、それぞれが電柱や、店の柱などに掴まった。
俺とシトリーは電柱に掴まり、爆風に耐えた。
どんどん巻き込まれていく人、吹き飛ぶ車、目の前に迫ってきた煙。怖い、この先はきっと……
震えた足をなんとか保ち、俺は恐る恐るだんだん静まり返った爆風の中に足を運んだ。

「拓也?危険だって!まだここにいろ!」

シトリーの言ってることは正論。こんな危険なとこ、いつもの俺なら絶対行かないのに。
俺がゆっくり歩いていると、突然腕をひかれた。

「(道を開けろ!さもないとこいつを殺すぞ!)」

え?俺まさか……人質ぃいいいいぃぃぃ!!!!!?????
わわわ、あ――――――――――――!!!何が何だかわからねぇ!!!!!
ってか自爆テロじゃないの!?仲間か!?こいつ仲間か!!?
男はシトリー達に銃を向けた。周りのエジプト人達も逃げながらこっちを見ている。
そして音を鳴らして、警察がたどり着いた。
でもその瞬間、男は俺の頭に銃を突きつけたのだ!!ギャ―――――――――――!!ぱにっく!!!!

「拓也!」
「あの馬鹿っ!」

ヴォラクとシトリーが身を乗り出すと、2人に銃口を向ける。
俺は腕にストラスを持って固まったまま。
頭の中まっしろ。今俺どんな目にあってる?マジで怖いんだけど。
泣き出すこともできず、腕をひかれるがままに男に引きずられる。

「(自分で歩け!!)」

すいません。なんて言ってるかわかりません。
俺はガタガタ震えて、とりあえず頷いて見せた。

「(おい、いい加減にしとけよ)」

シトリーはいつもと違い、怒りを抑えきれない様子で前に出た。
警察官の腕も振り切って、前に進んでいく。

「(来るな!撃つぞ!!)」

俺は声も出なくて、首をフルフルと横に振った。
すると、男の肩に鳥が乗ってきた。剣を腰を刺したカラス……こいつもしかして悪魔シャックス?

『久シブリダナ。シトリー』
「シャックス……」

シトリーの後ろで構えてたヴォラク達は声を荒げた。じゃあこいつは契約者ってことなのか!?

「契約者!」
「しまった!」

シャックスは俺を見て、契約者に囁いた。

『(私ガ探シテイタ人間ダ)』
「(こいつが……)」

ごくり。なんかよくわかんねぇけど俺見てる。
銃を突き付けられてるせいで、指輪のことを俺はすっかり忘れていた。
ストラスは警察官と通行人と悪魔で板挟みになっており、うかつに動けないらしい。
そしていつまでも俺に銃を突き付けている男。いつの間にか、テレビ局の取材も来ている。
警察官の後ろに隠れて実況。待てよ、こんなの世界のニュースに映るんじゃ……学校の奴らにもばれるんじゃ!
さらに頭が真っ白になる。俺はガタガタ震えて、何かが切れた。

「ぎゃああああああああああああ!!!放せ!!映すなぁ!!!!!」

俺は暴れて男の指にかみつき、急いで腕を振り払って走り出した。
男は俺に銃を撃とうとした。
すべてがスローモーションに感じた。すると同時に腕をひかれる。

「無茶しやがって!」

シトリーは俺を掴んで抱き込み、近くの鉄板を蹴り上げた。
弾が鉄板に食い込み、俺はそれを呆然と見ていた。
改めて自分がしたことの無謀さを思い知る。

「シトリーごめん……」
「ほんとだぜっ馬鹿!とにかく無事でよかったな」

シトリーはそのまま俺の腕をひいて、陰に隠れた。
ヴォラクは俺たちに駆け寄って、顔を覗き込んだ。

「シトリーナイス!拓也、ストラス大丈夫?」
「俺は大丈夫。それより」
「シャックスか」
「なんか滅茶苦茶俺を睨んできてんだけど」
『拓也を探してたと言っていましたが、まさか……』

「(ぎゃああああぁぁぁぁあああぁぁぁあ!!)」

急に悲鳴が聞こえて俺達が顔を覗かせると、そこには血まみれになって倒れている人達。
そしてその人間の目の前には羽をバタつかせているカラス。

『今、目ノ前ニイルノハ、貴方ガ殺シタ亡霊。殺セ殺セ殺セ……』
「ぼう、れい……ころす、殺す、コロス!」

男はそう呟き、マシンガンを向ける。
それを見て、テレビ局の記者も一般人も一斉に逃げだす。

「あいついかれてるぜ!」
『まさか……三角形の方陣内に召喚しなかったというのですか!』

三角形の方陣?

「どゆことだ?」
「その中に召喚しないと、シャックスは契約者であれ、人を欺く悪魔でしかない。そしてシャックスの能力は相手の思考を奪うこと。あの男もきっと」

セーレはそう言って、哀れだな…と言い、男に目を向けた。

「きっと目も耳も聞こえなく、思考も支配されているだろう」
「思考も……?じゃああの男は!」
「操られてる。簡単に言えばそういうことになります」

そんな……でもこんな光景……こんな、こんな!

「(うわあああああぁあああぁぁぁぁ!!!)」
「(ぎゃあああぁぁぁあああぁぁぁああ!!!)」

銃に撃たれていく人間から血が噴き出る。地面が赤く染まっていく。
その場にいた人間は全て撃ち殺されてしまった。
むごい。むごすぎる!

「う、うえ……げほっ!がはっ!」

俺はその場で膝をついて吐いてしまった。
ヴォラクは慌てて俺を支えた。

『やはり拓也にはこの場は酷すぎる。ここは一旦引いて』
『逃ガシハセンヨ。ルシファー様ガオ待チダ』
「ルシファー様…?」

パイモンは目を丸くしてシャックスに歩み寄った。

『パイモン、コンナ所デ何ヲシテイル?オ前ト“バティン”ガ居ナイコトデ、“バルマ”ガ1人デルシファー様ニ仕エテイルゾ』
「なぜルシファー様が待っているんだ」

何のことだ?なんで平気で話せるんだよパイモン。そいつは、そいつは……

『ジハード……審判ヲ受ケテ立ツトナ』
「嘘だ……ルシファー様は人間界に干渉するつもりはないと」
『確カニアノ御方ハ人間ニ興味ハナイ。干渉スルツモリモナカッタ。最初ハソウダッタノダ。ダガ事情ガ変ワッタ。我ラモ準備デ忙シイ』

シャックスの言葉に全員が凍りついた。
受けて立つ?いったい何を?でも何も考えられない。

『ソノ為ニハ戦力ハ多イ方ガイイ。指輪ノ継承者ノ(ちから)ヲ欲シテイル』
「その為に主を……」
「ふざけんじゃねーよ!」

パイモンとヴォラクがシャックスに大声を上げる。
でも俺はその会話が耳に入らないし、頭が回らない。
シャックスは俺の前に降り立った。

「ひっ!」

俺は慌ててヴォラクの後ろに隠れる。
恐い恐い恐い!目から熱いものが流れる。
それが涙だとわかるのに時間はいらなかった。

「シャックス、手を引け」
『駄目ダ。ルシファー様ハ邂逅ヲオ望ミダ。連レテ行ク』
『駄目って言ってるでしょ』

ヴォラクは天使の姿になり、手に剣を握った。

『人間ノ味方ヲスルカ?』
『少なくともお前の味方にはなれないな』
『ソウカ。ナラバ(ちから)ヅクダ!!』

シャックスは剣を構えて上空に舞い上がった。
ヴォラクも悪魔の姿に変わり、剣を持って上空に舞い上がった。

『逃がすか!』
「セーレ!拓也をジェダイトに乗せろ!」
「シトリー!君はどうするんだ!?」
「俺は戦う。最後の審判なんか行わせてたまるか。たとえそれで汚名を着せられてもな」
「……考えは一緒だね」

セーレは俺を抱き上げてジェダイトに乗せる。
そしてガタガタ震える俺の頭を優しく撫ぜた。

『怖かったね。よく頑張った』

その言葉に更に涙は溢れ、俺はジェダイトに顔を埋めて泣いた。
恐怖が体の全てを支配してる。泣く以外の発散法がわからない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『ヴォラク、ナゼ結界ヲ張ル必要ガアルノダ?ココニモウ人間ハイナイ』

結界を広げようとした俺を見てシャックスは笑う。
俺は死体が転がる大通りでシャックスと剣を交えていた。
でも相手はシャックス。なかなか結界を張らせてくれない。

『もしかしたらまた人間が来るかもしれないのに!』

ギリギリと剣が音を上げ、俺達は空中で剣を向け合った。
やっぱりシャックスは強い。そして考えている。この高さじゃビルに挟まれてフォモスとディモスを召還しても使えないことを。そしてシャックスはこの高さを保っている。

『くそ……!』

剣技は互角。しかし素早さはシャックスが上。だんだん追いつめられる。
まずいな。そう感じた瞬間、シャックスに翼の生えた豹が襲い掛かった。
それは間違いなくシトリーが悪魔に変わった姿。

『シトリー!』
『シッカリシロヨ!カス!』

こいつ……いきなりそれはないでしょ。
でも2対1なら!

『何カ忘レテハナイカ?我ガ(しもべ)ヲ』

その言葉とともに銃声が聞こえて、慌てて身を翻す。あの男!
間違いなく俺たちを狙っている。ちょっとでも隙を見せたら所構わず撃ってくるだろう。

『マダ来ルノダ。(しもべ)達ハ』
「(なんだこれは!)」

声がする方を見ると、そこには警察官の姿。

「(おい!しっかりしろ!)」
「(爆破テロがあったと聞いてきたのだが……これは天使、天使なのか!?)」

やばい!シャックスは!
シャックスは一気に警察官のもとに急降下していく。
そして警察官たちをその剣で切り裂いた。

「(ぐあ!)」
「(ぎゃああ!)」

『何ナンダ!?』
『思考を奪う気だ……』

シャックスは相手に傷を負わすことで、自分の能力を相手に流し込む。
そして思考を奪って操る気だ!

『我ガ剣ニテ血塗ラレタ兄弟達ヨ!今コソ我ガ命ニ従ウノダ!!』

警察官が一斉にこっちに銃口を向けてくる。
やばい囲まれた!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『パイモン』

ヴォラクとシトリーが戦っている間、パイモンは呆けていました。

「なぜ、ルシファー様……そんな嘘だ。なぜまた平穏を乱そうとするのです……」
『シャックスの言っていたことは真実。どうするのですか?』
「どう、する?」
『このままシャックスにつけば、拓也を捕え、貴方はルシファー様から祝福を受けるでしょう。しかし貴方が拓也につけば、裏切り者の汚名は2度と消えません』

パイモンは考え込んでしまいました。
元々、パイモンは戦闘好きな悪魔ではありません。
しかし彼はルシファー様の側近。最も裏切りづらい立場にいるのです。

「私は……」
「パイモン」

拓也は真っ赤になった目でパイモンを見つめます。見てるこっちが痛々しいくらい。

「主……」
「怖いんだよ。こんな殺し合い、もう嫌なんだよ…。行くなよ、裏切るなよ……行かないでくれよ!」
「私はルシファー様を裏切るなんて……」

拓也は涙を流してまだジェダイトに顔を埋めてしまいました。
パイモンは迷っています。主君をとるか主をとるか。
切り捨てなければならないもの。そしてその代償の大きさ。
平穏か名誉か。信頼か忠誠か。
パイモンは拓也に近づいていきます。

「私は……平穏がほしいのです。今までの通りでよかったのに……主、私はルシファー様の部下です」
「うん」
「でも主の部下でもあります」
「……うん」
「私はルシファー様の為なら……でも」

パイモンはシャックスを見据えた。

「覚悟は決めました」

そう言い残し、パイモンは剣を取り出し、シャックスの元へ走って行きました。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『来タカ。コイツ等ニトドメヲ、ソレヲ忠誠ノ証トシテルシファー様ニ持ッテイク』

ヴォラク達は全身に銃弾を浴び、息もとぎれとぎれだった。
ヴォラクはゼーゼー言いながら俺を睨みつけた。

『パイモン、世界の破滅は拓也への裏切り、だよ……』
『愚カナ……有能ナ将ダッタノニ情ケナイ』
『オ前……アノ拓也見テモ何トモ思ワネーノカヨ。現実ヲ受ケ止メヨウト必死ナンダゾ!』

わかってる。俺から見てもそう感じた。
だからこれが俺の答え。
俺は剣を抜いて、一瞬でシャックスの体を真っ二つに切り裂いた。シャックスはその場に血をはいて倒れた。

「ガ、ハ……!」
『ルシファー様の考えが理解できない。争いをこれ以上起こすことはない』
『貴様……裏切ルノカ!ルシファー様ヲ!』
『(さよなら)』

のど元に剣を突き刺せば、シャックスはそのまま気を失った。
意識を失ったことにより、警官達の思考も正常に戻った。

「(大丈夫ですか!?)」

警官達は自分の体についた傷に驚いていたが、目の前のヴォラク達に駆け寄ってきた。
俺は慌てて、ヴォラク達を見たが、抜け目はない。ちゃんと人間の姿に戻っていた。

「銃弾抜いて」

ヴォラクは血まみれになりながら俺に手を伸ばした。
その手を受け取ると笑みを向けられる。

「見なおした」
「お前の為じゃない。主の為だ」
「何でもいーや。騒ぎになる前に早くかえろ」

ヴォラクはシトリーを引っ張って立ち上がらせた。
動くたびに噴き出る血に、警察官が慌てて駆け寄ったがそれを払いのけた。
もう騒ぎにはなっているがな。
俺はあたりを見回し、シャックスと男が持っていたブラックオパールのチョーカーを手にした。

「アーメン」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そのあと、何とか警察を振りきり、ジェダイトに乗って上空に上がった。
傷をいやすために悪魔の姿になっているヴォラクがため息をつく。

『それよりシャックスどうすんのさ。持ってきちゃってさ』
「心配しなくても契約石もある。大丈夫だ」
『大丈夫ッテ……契約者ガイナキャ返セネーダロー』

シトリーは死にそうな顔でつぶやいた。無理にしゃべるな。

「主がいれば大丈夫だ。主、剣を」
「……わかった」

主は力なく笑い、剣を出した。薄い光を帯びており、その光でシャックスの召喚紋を描いた。

「空中に……」

セーレもあっけにとられたように見つめている。
シャックスとチョーカーを入れ、俺は手をかざした。
シャックスは吸い込まれるように姿を消した。

『上級の悪魔ならではの技術。すっげー』
「動いたら血が出るからダメだってヴォラク」
『はぁい』

セーレに諭され、ヴォラクはまたぐったりになる。
それを眺めていると不意に主に名を呼ばれ、俺は主を見つめた。泣きはらした真っ赤な目で優しく笑った。

「パイモン、ありがと」
「……もったいなきお言葉」

地獄では聞けない言葉。それがすこしこそばゆい。
もう戻れないな……
俺は失ってしまった物を考えると、頬を伝いそうになる水滴を必死に抑え、空を見上げた。
登場人物

シャックス…ソロモン72柱44番目の悪魔。
       30の軍団を率いる侯爵であり、その姿はかすれた声で話す野鳩である。  
       人から聴覚、視覚の二感を奪い、さらに思考能力をも奪う能力を有している。
       召喚する際には必ず三角形の方陣内に召喚しなければ、シャックスは契約者を欺く悪魔でしかない。
       悪魔学者のレギナルド・スコットはこう伝えている。
       「召喚する者にいかなることでも忠実なりと約束するも、かくあらず。シャックスは嘘つき」と…
       契約石はブラックオパールのチョーカー

武装集団の男…シャックスに思考を奪われて操られていた。


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