「野球部すげえなぁ〜。上田商業に勝っちまったぜ」
「あぁ、あれだろ?中谷の逆転サヨナラホームランだろ?ニュースに載ってたぜ?」
「すげえなぁ中谷」
それは悪魔の力……
3 不思議な力
「すげえじゃん中谷」
次の日、ひきずる思いで学校に向かうと、そこには中谷のことを噂しあう生徒でいっぱいだった。
なんでも中谷が逆転サヨナラホームランを打ち、甲子園常連校、上田商業を破ったらしい。
中谷はもはや学校のアイドル状態だった。
俺は10分休み、席でボール磨きをしている中谷に声をかけた。
「いや、まぐれだよまぐれ。たまたま運がよかったんだ」
中谷は微妙な笑みを浮かべた。
「んな謙遜することじゃないじゃん、運だって実力だよ」
「そうだといいな……」
中谷は少し腑に落ちなさそうに笑った。
なぜそんな顔をするのか俺には分からなかった。
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「拓也ー。お醤油きれちゃったのー買ってきてー」
「えー俺がぁ?」
夕方、ゲームをしていると母さんからおつかいの命令が下った。
母親は怒ると怖い。それを身を持って理解している俺は逆らえず、しぶしぶ金をもらい近所のスーパーに行くことにした。なぜかストラスも一緒に。
「なんでついてくんだよ!?」
『貴方の部屋に篭りっぱなしは面白くありませんからね』
ストラスは俺の肩に乗って平然と言ってのけた。
昨日の話を聞いてしまった澪はさらに怖がってストラスを家に泊まらせようとしなかった。
しょうがないのでストラスは俺の部屋に泊まり、そこから一歩も外に出さなかった。
それがストラスは気に入らないらしい。
「とにかく俺から離れろよ!フクロウっつーのはなぁ、普通の人間はあんま飼ってねぇんだよ!」
『細かいことをうるさい方ですねぇ……』
「細かくねぇ!」
「ままーフクロウだー。お兄ちゃんフクロウとお話してるー」
「声に出しちゃいけません!」
子供が俺に指をさし笑っている。そしてそれを止める母親。
何この完全な変質者扱いの図は。
「わかっただろストラス。このままじゃ俺、変質者扱いだよ」
『なんとなくなら』
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「お前さぁ絶対わかってねーだろ!俺に乗っかるなっつってんだろ!」
あの後ストラスは俺の言うとおり、俺から離れたのはよかったが、醤油を買い、家に帰ろうとした途端また肩に乗ってきた。
この河川敷は人が少ないからまだいいけどな。
「あ、中谷だ」
俺は河川敷で中谷を見つけた。
中谷はバットとグラブ、ボール数個、そして縄跳びを持っていた。しかし練習をしている感じではない。
中谷は河川敷に座ってる1人の子供と話をしていた。
中谷って弟いたっけ?あいつ兄ちゃんしかいなくなかったか?
俺の肩に止まっているストラスがその子供を食い入るように見ていた。
「ね?お兄さんホームラン打ったでしょ?」
「ビックリしたよ。まさかほんとに打つなんて思ってなかったから……」
子供はにっこり笑って中谷に手を伸ばした。
「じゃあまた約束してあげる。今度お兄さんは守備でも大活躍、エラーは1つもないし、際どいボールも全部キャッチ、もちろん打撃でも活躍かな」
「当たるのか?」
「うん。俺の言うことは百発百中だよ?」
「中谷!」
俺が中谷に声をかけると中谷は慌ててこっちを振り向いた。
え、俺なんかタイミングまずかった?
気まずくなって俺は無難な話題を出すことにした。
「野球の練習か?すげえなぁ〜。頑張ってんな!」
「あ、うん…」
「中谷?」
中谷はまた少し違和感のある返事をした。
俺は心配になって中谷を見ると中谷が話題を振ってきた。
「そういえばさ、昨日フクロウ学校に来てただろ?あれお前のとこのだったんだな」
「へ?」
俺は横を見ると、そこにはストラスが当たり前のように居座っていた。
ストラス!!テメェ!なんで離れていかねえ!?
俺の殺気に気付いたのか、ストラスはホーホーと下手糞な鳴き真似をした。なんて野郎だ!
中谷はおもしろそうに笑った。
「ところでさ、お前ペットにそんなティアラなんて付けてやるなよ。かわいそうだよ」
これは俺がつけたんじゃ!
ストラスは相変わらずホーホー言っている。(うるさいんだよ!)
俺は中谷の後ろにいる子供を見つめた。
子供は明らかにストラスを見ていた。(まぁフクロウなんて珍しいからなぁ…)
「ところでその子さ、中谷の弟?お前、弟いたっけ?」
俺がその質問をした途端、中谷はえ?と気まずそうな声を出した。
「あー、近所の子かな?な」
「うん」
子供はニッコリ笑って頷いた。(可愛い子だなー)
子供は俺に近寄りストラスに手を伸ばした。
「可愛いフクロウだね。ね、名前はなんて言うの?」
「え?ストラスだよ」
俺がそう答えると子供はストラスの羽を撫でた。
ストラスは明らかに嫌がっていた。なんだよ、羽触られるの嫌いなのか?
「可愛いね」
「と、とにかく俺、これから練習だから」
中谷の言葉に俺はハッとした。
「練習邪魔して悪い」
「いや全然、息抜きになったし」
俺はストラスを捕まえようとする子供を抱き上げて中谷のほうに向かわせた。
子供はしばらくこっちを見ていたが(相当ストラスが気に入ったんだな…)しばらくすると、中谷のいる方向に走っていった。
俺は買い物袋を持ち直して、岐路に着いた。
『拓也』
「ん?」
人通りのない路地でストラスが俺に話しかけてきた。
『あの子供……おそらく悪魔だと思うのですが』
ストラスの急なカミングアウトを俺は信じられず笑って流した。
「んな訳ないじゃん。あんな可愛い子がさ。お前触られるの嫌だからってそこまで言うか」
『信じないのなら構いませんけどね』
俺はその言葉すら聞き流した。
次の日、中谷がヒットになるはずのボールをキャッチしたという噂を聞いた…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「中谷まじですげえよな〜」
クラスメイトが中谷に賞賛の言葉を述べた。
ウチの学校が決勝戦まで残るなんて誰も思っていなかったから。俺だってそうだ。しかし中谷はあまり嬉しそうじゃなかった。
その日、中谷は次の日が決勝戦だというのに、学校を早退した。
先輩たちはそろって中谷のことを心配していた。
「中谷、どうしちゃったのかな?」
昼休み、俺の言葉にパンを食っていた光太郎の手が止まった。
「中谷さ〜最近、練習真面目に受けてないらしいぜ?」
「え?」
嘘だ。だって昨日、中谷は河川敷で練習を……あれ?昨日、俺が中谷にあったのって確か夕方の5時半だったよな?野球部って毎日暗くなる夜7時近くまで練習してたはず。
光太郎の言葉が頭から離れなかった。
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俺は心配になって夕方の5時に河川敷に向かうことにした。
しかしそこには昨日あった子供しかなかった。
気になった俺は子供に話しかける。
「中谷は?今日は一緒じゃないのか?」
「うん。今日は来ないんだ。明日決勝なのにね」
子供は寂しそうに語った。
「お兄さんこそ今日ストラスは?」
「え?今日は1人なんだよ」
そんなにストラス気に入ってたのか。あんな可愛くないのに。
俺がのんきに考えてたら子供はつまらなさそうな顔をした。
「ふーん……ならいいや。もうかーえろ」
「あ、おい!」
子供は立ち上がって河川敷を歩き出した。
俺が慌てて声をかけると、子供はこっちを笑いながら振り返った。
「いいこと教えてあげよっか?」
「いいこと?」
「あのお兄さん、俺と約束したんだよ?甲子園に行くってね。それが一番の望みだって」
子供はそれだけいい、河川敷から帰っていった。
意味がわからねぇ。そんなの俺だって知ってるし。
なんとなく心に疑問を持ったまま、俺は家に帰った。
「ただーいまー」
「お帰り」
玄関を開けると澪がたっていた。
「よっす澪」
「……」
澪は少し俯いてさっさとリビングに入っていってしまった。
ストラスが来てからというもの澪は俺に対しても恐怖を抱いてきている。
俺はなんかもうストラスがいることにあまり違和感を感じなくなっていたからだ。
澪はそれが信じられないらしい(当たり前だけど)
「聞いたわよ拓也。中谷君すごいらしいじゃない」
「へっ!?」
夕飯の途中、急にふられた中谷の話題に俺は声がひっくり返った。
「練習もあんま出ないのに試合に出れば大活躍!本当にスターって感じね」
母さんはうっとりしたと思いきや俺にもなにか部活やれと言い出す始末。(嫌だよ。俺、運動神経ないもんね)
澪は少し考えたような感じで会話に加わった。
「でも中谷君、少し変わったよね」
「うん……」
そう。中谷は変わった。あんなに大好きだった野球も真面目にしないなんて……いったい何があったんだ。
ニュースでは地元のニュースで明日の決勝戦で中谷がどう活躍するかを述べていた。
そっか……明日が決勝か。
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「うちんとこ甲子園出場決まったぞ!」
それはクラスメイトが10分休みに大声を出したことがきっかけだった。
「今、ケータイの速報に書いてる!中谷が決勝打だってよ!」
「中谷すっげー!!」
どうやら中谷がまたしてもチームを救ったらしい。
俺が呆気にとられていると、光太郎が怪訝そうな顔をした。
「なんか中谷すごすぎるな。落とし穴の予感……」
その言葉に違和感を持ったのは気のせいじゃない。急に昨日の子供とも会話を思い出した。
今日も河川敷に行ってみよう。もしかしたら中谷がいるかもしれない。
俺は公欠を取っている中谷の席を見つめながら早く学校が終わるのを待った。
それはとても長く感じた。
「拓也ー今日遊ぼうぜー」
放課後、光太郎が俺を遊びに誘ってきた。
「悪いけど今日は急いでんだよ」
今の時間は4時30分。はやく河川敷に行かないと。
焦る俺を見て、光太郎は怪訝そうに俺を見た。
「お前今日おかしいぞ?どした?」
光太郎の言葉に俺は一瞬思ってしまった。
光太郎なら信じてくれる?ストラスを見ても、この指輪のことも信じてくれる?光太郎は中学校からの大親友だ。きっと光太郎なら……
そう思う反面、巻き込みたくない気持ちと否定されたときのことを考えるといても立ってもいられなかった。
「ほんとになんでもない!また明日な!」
「あっおい!」
俺は光太郎の呼びかけも聞かずに走って昇降口に下りた。
本当になんだか嫌な予感がするんだ。そうだ!ストラスも連れて行こう!
そう決めた俺は急いで家に駆け込んだ。
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「ストラス!」
家に帰った俺はただいまも言わないで急いで俺の部屋へ向かった。
ストラスは俺があげた昼飯のポテトチップスを突いていた。(かなり散らかしてる)
『なんですかいきなり……騒々しいですね』
「嫌な予感がするんだ。一緒にきてくれ!」
『ようやく信じる気になりましたか?』
それが何を意味しているかが今の俺にははっきりと分かった。
「あぁ」
『なら宜しい』
ストラスはポテトを食べるのを中断して俺の肩に飛び乗った。
俺はできるだけ人にストラスを見られないようにストラスを腕に抱えなおし河川敷に走った。(腕の中からはストラスの文句が聞こえた。うるせーし!)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「いた!」
『拓也。ここはいったん様子を見ましょう』
時間は4時30分。そこには昨日の子供がたっていた。
俺はストラスの言うとおりに河川敷から少し離れたところから子供を観察した。特に目立った行動もしてないけど……
「あれ?拓也?」
「光太郎……」
様子を見て30分、なんだか自分が探偵になった気分でいると後ろから声がかかった。
そこには帰りであろう光太郎が立っていた。
「お前、今日用事あるって言ってたじゃん。何してんの?そんなとこで」
「えっとこれは……その……」
『拓也!来ましたよ!』
ストラスの声に気付き俺は河川敷を見た。
そこには小走りで子供に近づいていく中谷の姿があった。
「拓也、そのフクロウ今しゃべった……?」
「後で話すから、とりあえず黙ってくれ。気付かれたらまずい」
光太郎はストラスに気を取られて中谷に気付いてはいなかった。
光太郎は何がなんだか分からないという顔で俺の隣に腰掛けた。
耳を澄ますとなんとなくだか会話が聞こえてきた。(俺、耳はいいほうなんだよ)
「お兄さん、優勝おめでとう!」
「本当にすごいな。お前の力」
子供はニシシと無邪気な笑みを浮かべた。
しかしその笑顔の裏には何かが隠されている雰囲気があった。
「ねぇお兄さん、今幸せ?」
「え?うん。めちゃくちゃ幸せだよ。だって甲子園だぜ?まだ実感すらわかないよ」
「今までの中で一番幸せ?」
「あぁ。最高の気分だ!」
「そっか。ならもう十分楽しんだよね?」
「え……?」
「次は俺が楽しむ番だよね?」
『やはりヴォラクでしたか……』
俺はストラスに向き直った。
「ヴォラク?」
『ソロモン72柱の悪魔ですよ。努力をしないでその人が一番欲するものが入手できる力を持っています』
「だから中谷は練習を……でもそれって結構いい悪魔なんじゃねぇのか?」
ストラスはまさかと首を振った。
『ヴォラクは大変恐ろしい悪魔ですよ。彼の最も愛すべき人間の姿は、幸福の絶頂から奈落に突き落とされた惨めで哀れな姿なのですから』
ストラスの言葉で頭に昨日の少年の言葉が思い浮かんだ。
“あのお兄さん、俺と約束したんだよ?甲子園に行くってね。それが一番の望みだって”
まさか、それが中谷とあの子供の?
「たたた……拓也!!何なんだよあれ!?」
「え?なぁ!?」
『ついに正体を現しましたか』
だってこんなの驚く以外の方法を知らない。
中谷の前に現れたのは、頭を二つもつドラゴンにまたがった、天使の翼をもつ少年の姿だったのだから。
「あはは……俺夢でも見てんのかな?」
光太郎、俺もそう思いたいよ。でもこれが現実なんだ。
『拓也、急がなければあの少年はヴォラクに舐り殺しにされてしまいます』
あぁもお!ちくしょお!!
戦い方なんて全くわかんないし(当たり前だ)どうしたらいいかもわからないけど、俺は中谷のほうに向かって走り出した。
「拓也!」
光太郎……俺はきっとここで死にます。
「な、何が起こってるんだ?」
『ねぇお兄さん。お兄さんの願い叶えてあげたでしょう?だから今度は俺の願い叶えてくれてもいいよね?いい声で鳴いて恐怖におびえて……それだけでいいんだよ』
「待てよ!!」
「池上!?」
『なんだ……昨日のお兄さんじゃない。なんで出てきたの?折角無視してあげたのに』
「とにかく!中谷から離れろ!化け物め!」
俺これからどうなっちゃうんだろう……
登場人物
中谷章吾…拓也と同じクラスの野球部の少年。明るくて少し馬鹿。
1年でレギュラーを取っているあたり、野球の実力はなかなかのもの。
ちなみにポジションはセンター。
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