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序章
第28話 継承者の条件
「おぉ!?」

空間を落ちていくと一番下まで落ちたのか、マットの上に落ちたような感覚がした。
全く痛みはなかったので、俺はすぐに立ち上がりあたりを見回した。


28 継承者の条件

あたりを見回すが周りには何も存在しない。真っ暗だ。

「ここがパイモンの空間?」
「ぎゃ!!」「うわ!」

後ろから中谷と光太郎の声が聞こえて、俺は後ろを振り返った。
光太郎は尻から、中谷は顔から転落したらしい(笑)。顔って……

「大丈夫か!?特に中谷」
「おう。でも鼻の骨が粉砕骨折した」
「へーきへーき。でも痔になったかも」

そんなことは言わないでください。
ヴォラク達はちゃんと着地できていたみたいで、辺りを見回している。
シトリーは文句をブチブチいいながらキョロキョロ首をかしげている。

「ったく……やりすぎだぜ。パイモンの奴」
『君がパイモンを非難するとは珍しいな』

セーレの問いかけにシトリーは頭をかいた。

「だぁってよ〜やりすぎじゃん?拓也たちは人間だぞ?こんな大人げないことしなくても」
「シトリー」

お前、そんなこと思ってくれてたのかぁ。俺ってちゃんと仲間って思われてたんだな。
光太郎たちもじ〜んと見ていた。
シトリーはあたりを見回してため息をついた。

「しっかしこの空間から出るのってかなりめんどくさいぞ。出口隠しやがった」
「あ、それならこれで」
『へぇ、浄化の剣まで手に入れてたのか。予想以上の成果だこと』
「へ?」

俺は突然腕をひかれた。
そこには微笑みを浮かべるパイモンの姿。
艶やかで美しいその笑みは全てを凍らせるように冷え切っていた。

「な!」
『この剣を持っていて俺と戦えないとはどういうことかな?』
『パイモン!拓也を放しなさい』

ストラスはパイモンを睨みつけたが、パイモンは笑みを浮かべたまま。

『なぜ俺が命令されなきゃならない?』
『拓也は悪魔を地獄に戻すために戦っているのです。貴方ならわかるはず。悪魔がこの地上で暴れまわることの恐ろしさを……本来なら貴方も協力するべきはずでしょう』
『確かに。人間界への関与にあの御方は興味を示していないからな……だが』
『だが?』
『そこから先はシトリーに聞くといい。色々嗅ぎまわってるんだろう?』
『シトリー?』

シトリーは気まずそうにガシガシ頭をかいた。

「あぁ、そうだ。俺には調べ物があるからな。でもそれとこれとは話は別だ。拓也がいなきゃ、為すべきことも為せないんだよ。お前だってわかってるだろ?」
『そうだね。この子がいないと沈黙は防げない。だからこそだ』
「いって!!」

パイモンは俺の腕を握りしめてくる。こんな細い腕のどこにこんな力があるってんだよ!?

『この子にその沈黙を救えるかどうかの力があるか見極めたいんだよ』
「沈黙……なんの事だよ?」

光太郎たちは目を丸くして話を聞いている。
セーレはハッとして、シトリーに問いかけた。

『シトリー、お前まさか俺たちを召還した人間を知ってるんじゃないのか?』
「……」

無言、それは肯定を意味するものだった。

『お前!なんで今まで言わなかったんだ!?』
「言ったところで俺の望むことは起きねぇ!拓也が強くならない限り沈黙は防げない!!」
「なんなんだよ。沈黙って……なぁ!?」

俺は腕を掴まれたまま、シトリーに大声で呼びかける。

「お前にはまだわからない。いや、わからない方がいいんだ」
『君にはまだそれを受け入れる覚悟もなさそうだからね。心の成長が出来ない限り、崩壊を防ぐことはできない……か。お前にしては中々考えてるなシトリー』

パイモンは軽く鼻を鳴らす。

『だから拓也君。俺とサシで勝負しようか。俺が負けたら仲間にするなり、殺すなり好きにしてくれて構わない』
「な!」

サシなんて、そんなの勝てる自信なんて全くない!!冗談じゃねぇ!!
俺は頭をブンブンと首を横に振った。
パイモンは拒否されたにもかかわらず薄い笑みを浮かべている。

『そう。じゃあしょうがないね』

パイモンが呟いた瞬間に放たれた黒い霧のようなもの。
それはパイモンの部下の悪魔たちだった。

『少々手荒な真似してもかまわない。人質は大勢いた方がいいからな』

まさかストラスたちを殺るつもりか!?
中谷と光太郎は竹刀とバットを握りしめる。
しかし、パイモンの冷酷な言葉と共に、悪魔たちは一斉に中谷と光太郎をめがけて行った。

『人間2人を狙え』

中谷は自分の肩を掴んできた悪魔の脳天にバットを思い切りぶつける。お前意外とガッツあるな。
光太郎も剣道で鍛えた反射神経を生かして、悪魔の脳天や横腹に竹刀をぶつける。

「ヒューやるぅ」
『拓也よりも剣の才能全然あるんじゃない?』

ヴォラクは感心したように声を発し、剣を使い敵を切り刻んでいく。
パイモンは自分の部下がやられたはずなのに、今だに笑みを浮かべている。

『行け』

パイモンがそう発した瞬間、中谷と光太郎のいる地面?から手が出てきた。

「な!」
「うお!!」

中谷と光太郎は足を掴まれ、その場に倒れて尻もちをつく。
そしてパイモンの使い間はそれを見逃さなかった。使い間は2人を囲みこむように移動した。
中谷は身動きできない状況に舌打ちをした。

「くっそぉ……」
『動いたら殺す。死にたくなければ動かないことだ……それと』

パイモンは冷たい目でヴォラク達を見据えた。

『お前たちも武器をしまえ。一切手を出すな』
『はぁ!?』

パイモンは俺を解放し、剣を向けた。

『継承者。この状況わかってるよな?俺の言うことを聞かないと…』
「うっ!」

やばい。やばいやばいやばい!!
勝てる自信なんてない。そんなことはわかりきっている。
でもなんとかしないと中谷と光太郎が!!
パイモンは俺の答えがわかっているのか、何も言わずに微笑んでいるだけ。なんて憎たらしい奴なんだ!

『決めるんなら早くしてくれ。俺は待つのが嫌いなんだ』

パイモンがそう言った瞬間、悪魔たちが中谷と光太郎に近づいていく。
光太郎は竹刀を振り回そうとしたのを中谷に止められた。

「ひ!気持ち悪い!よんなよ!!」
「馬鹿!むやみに刺激すんなって!逆上したらどうすんだ!?」
「だってよぉ!」
『くっそ……汚ぇぞ!パイモン』
『なんのことだか』

俺はパイモンの手を振り払って睨みつけた。
しかしパイモンは薄く笑ったまま、剣を取り出した。

『さぁ、どうするんだ?俺は気が長くない』
「……」

俺は手に剣を出した。

『ちょ!拓也本気かよ!?パイモンの強さわかってんの!?』
「でも光太郎と中谷は俺の親友だ!見捨てるなんてできるか!」
『拓也……』
『ふふ、そういうとこ嫌いじゃないよ。拓也君』

俺は訳が分からないまま、剣を構えた。頼む。どうか持ってくれ!
剣は俺の気持ちに比例するかのように薄く輝きだす。
その光景を見て、パイモンはますます笑みを深くした。

『あの光……浄化の力』

パイモンはそう呟き、俺に斬りかかってきた。
俺は突然の事態にどう対処していいか分からない。

『拓也!しゃがめ!』

後ろからのヴォラクの声に従い、俺は身をしゃがませた。
剣は俺の頭上を空振りする。それと同時に頭が真っ白になる。
こわいこわいこわい!!
俺はとっさにパイモンに剣を向けた。

「行け!!」
『なるほど。魔法は使えるのか……でも剣技がな』

剣から出た竜巻にパイモンは一瞬怯んだが、いとも簡単にそれを避けた。
俺は避けられたことに焦り、また剣にイメージを膨らませた。
壁を作ってくれ!

『まだ少々時間がかかるのか』

パイモンは呟き、また俺に斬りかかってきた。
剣が俺の頭上に振り下ろされたとき、俺は剣を立てた。

「守ってくれ!!」

炎の壁が俺を包み込む。熱いけど、そんなこと言ってられない。
しかしパイモンはそれすらも簡単に避けてきた。

『パイモン、全く本気だしてないみたいだなぁ』

ヴォラクはパイモンの戦い方を見て呟いた。

『確かに。彼が本気を出せば、わずかな隙でさえ見逃すはずがないからね』
『なんか探ってる気がする。拓也を…』
『シトリー。パイモンの目的はなんです?』
「今は言えねぇ。試すって言ってただろ?」
『お前!わかってるのに言えねぇってどういうことなんだよ!!』
「……」
『くそ!何やってんだよ!拓也!!』

「はぁはぁ……頭いてぇ」
『長期戦も短期戦もダメか』

どうやら剣にイメージを流し込むのは思った以上に脳を使うみたいだ。頭がずきずきするよ。
なんだよこいつ、さっきからぶつぶつ言いやがって!余裕な顔しやがって!!
俺は恐怖うんぬん以上に段々いらついてきた。

『フィナーレと行こうかな』

パイモンは俺に剣を向けた。

『次で最後。でも次は殺すつもりで行く』

へ、今までは違ったと?確かに決定的なことはしてこなかったけど、それでも手足軽く斬られてるんですけど。めちゃくちゃ痛いんですけど
パイモンはそう言うや否や俺めがけて走ってきた。
スピードもさっきと違う。本気で殺すつもりだ。

「わあああああああ!!」
『空振りしすぎなんじゃないのか!?』

俺はパニックになり剣を振り回した。
パイモンは剣をいとも簡単に受け止めた。
目の前で剣と剣がすれる。そして思い出すマルファスとの悪夢、死への恐怖。

「嫌だああぁぁあああ!!!!」

俺はそのことに目の前が真っ白になり、夢中で剣を振り回した。
しかしパイモンは俺をさげすんだ目で見て、俺の頭上に剣を振り下ろした。
俺はとっさに体を捩ってなんとか回避したが、バランスを崩し、そのまま倒れてしまった。
死んでしまう!このままじゃ死んでしまう!!

「池上!前だ!前見ろ!!」

中谷の声も何も聞こえない。目の前で再び剣を振り下ろそうとするパイモン。このままじゃ俺は!

『情けない。我らの希望がこのざまか』

また頭に聞こえてきた声。そしてそれはウリエルの声だった。
その時、指輪の光とともに何かが切れる音がした。
俺の体は咄嗟に反応し、パイモンの剣を受け止めていた。突然の動きにパイモンも眉をしかめる。

『何だ?』
「そんなに相手がほしけりゃ俺がなってやるよ」

ウリエルが俺の体を乗っ取ったんだと理解した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也?」

どうなってんだ?拓也は急にニヤリと笑って、パイモンの剣をはじき返した。

『……指輪か。やはりお前は不完全のようだな。指輪に操られるなど』
『黙れ下郎』

指輪が操る?拓也を!?
拓也はニィと笑い、パイモンに剣を向ける。

『貴様悪魔ごときに我らが主を消させはせん』
『その声……ウリエルか』

ウリエル!?なんのことだよ!!
ウリエルと呼ばれた拓也はそのまま剣をパイモンに振り下ろす。
パイモンもそれに応戦する。
マンガのような剣技に俺と中谷、ヴォラク達も言葉を失っていた。

『貴様らの目的は何だ!?』
『さてね。それよりもてめぇの心配をするべきだ。俺は容赦できないからな』

ウリエルはパイモンをどんどん攻めていく。
パイモンはチッ!と舌打ちをした。これって追い詰められてるのか?
でも拓也、いったいどうしちゃったんだよ!?


やめろウリエル!これ以上したら間違いなくお前はこいつを殺しちまう!
やめろ!やめてくれ!俺はまだ人殺しには…!やめろ!!!


『げ、マジかよ。拒否反応が起きやがった』
『拓也!』

ウリエルがそう呟いた瞬間、光に包まれ、拓也が膝をついた。
ストラスが心配そうに声を荒げる。
拓也……すっげー汗だ。大丈夫なのか?
パイモンは顔に笑みを浮かべた。しかしそれはさっきまでの笑みとは違った。
それは含み笑いなどではなく、もっと優しそうな……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
やっべぇ頭いてぇ。でもなんとかウリエルは抑え込んだみてーだ。
パイモンが目の前に立つのがわかる。
なんだよ、もう戦えねーよ。
俺がそう思ったとたん、パイモンが膝をついた。何なんだ一体?パイモンは俺に頭を下げてくる。
ヴォラク達も何が何だかわからない顔をした。

『及第点だ。我が主』

及第点?ってことは合格?俺何にもしてないけど。

『主の帰還を。このパイモン、命をかけて貴方を守ることを誓う』

主って俺?とにかく俺もう大丈夫なんだよな?

「えっと……じゃぁとりあえず光太郎たちを助けて」
『仰せのままに』

パイモンはパチンと指を鳴らし、使い間たちを消した。
中谷はパンパンとケツを叩き立ち上がった。

「ひぃ〜キモかった」
『人の使い間をキモイなんて失礼な奴ら』

パイモンは呆れ声ながらもどこか優しさを含んでいた。そんな切れ替えが早いと、殺されかけたことも忘れてしまう。

「あああ、あの!」
『主、私をお傍に置いていただけませんか?』
「へ!?」
『私の目的を果たすには貴方様のお傍でないといけません。度重なるご無礼、謝罪しても償えるものではありません。ですがこのパイモン、命に代えても貴方をお守りすることを誓います』
「あの」
「拓也、俺からも頼むわ」
「シトリー?」
「……今は何も言えない。でもパイモンの力は必要になる」
「何言ってんだ?そういやさっき沈黙がどうとか」
「お前はまだ知らなくていい。嫌でも知る時は来る。もう逃げられないとこにいるんだ」

シトリーの真剣な声に何も言えなくなってしまう。
いっつもチャラチャラしているだけあって、こういう顔をされると、状況を嫌でも理解してしまう。

「わかった」

俺が頷くと、パイモンは指をパチンと鳴らした。
すると空間が歪み、俺達は鈴木の部屋の中にいた。
鈴木が慌ててパイモンに駆け寄る。

『すみません。私はここを去ることになりました。誠に勝手ながら契約石、お返ししていただきたく存じます』
「俺はお前がいないと……」
『案じなくとも貴女様なら務めを見事果たして見せるでしょう。もう私の力は不要です』
「でも」
『私は今やらなくてはならぬことがあるのです。どうかご理解ください』
「わかった。これ……」
『ありがとうございます』

鈴木はパイモンにブレスレットを渡した。
パイモンは俺に向きなおり、俺の手にブレスレットを手渡した。

「これが」
『エメラルドのブレスレット、私の契約石です。どうかお納めください』
「うん」
「さぁ!帰るぞ〜〜!!」

中谷は背伸びして俺の腕を引っ張った。
俺は光太郎と中谷に囲まれながら鈴木の家を後にした。
パイモンも鈴木に礼をして部屋を出た。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「拓也ごめんな。結局足引っ張りだった」
「そんな!俺心強かったもん!」
「でも」

「中谷と光太郎は俺が鍛えてあげるよ」

俺達は目を丸くしてヴォラクを見た。
ヴォラクはニヤリと笑い、中谷の手を取った。

「さっきの戦い、なかなかだった。ちょっと剣技を学べば強くなるよ」
「ヴォラク」
「もう、足手まといにはさせないよ」
「おう!」

中谷はヴォラクと手をつないでそのまま前を歩きだした。
光太郎はその光景をボケッと見ていた。

「中谷はヴォラクと仲いいな〜」
「まぁ中谷は契約者だったし」
「そうだけどさ」
「それより」

シトリーの言葉が気になる。崩壊って何なんだ?

『拓也』
「どしたぁストラス?」
『私は今日ヴォラクの元に泊まります。パイモンに聞くことがありますから』
「俺も行く!」
『貴方は休みなさい』

なんか強制的。有無を言わせない声に俺は思わず頷いた。

「なんか隠してるな」

でも光太郎の言葉は俺も感じる。もしかしてはめられてる?いや、そんなはずないよな。
俺はそう思いながら、光太郎と中谷と別れ、家に帰った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、話を聞くべくマンションに来たもののシトリーとパイモンの空気は重いです。
私はソファに腰掛けると、シトリーが話し出すのを待つことにしました。
セーレが話を切り出すと、シトリーは頭を掻きながら声を出しました。

「シトリー。パイモン。知ってることはすべて話してくれ」
「まず俺たちを召還した奴からだ。俺たちを召還したのは恐らく人間じゃない」

それはどういう?
ヴォラクの言葉にもシトリーは首を振った。

「人間じゃない?悪魔の中に召喚者がいるってこと?」
「おそらくだ……まだ確定はできてないけど天使のどいつかだ」

シトリーの言葉に私たちは声が出ませんでした。

「うそ。天使がなんで?」
「わからない。ただわかることは」

まさか彼がここまで急ぐ理由。あれが起こるというのですか?
でもそれが杞憂に終わることはありませんでした。

「このままいったら……最後の審判が行われる」

やはり恐れていた事態は起ころうとしているのですね。

「人類の滅亡、ハルマゲドン」
「自然の大災害、召喚門の消滅、人類の滅亡、悪魔と天使の出現、死の七日間……そして世界は沈黙に包まれる」

ヴォラクも乾いた笑いを浮かべた。

「何万年ぶり?」
「すくなくとも数十万年くらいか」

パイモンの的確な答えにヴォラクはソファに埋もれました。

「それなら悪魔が人間を殺せば殺すほど、優秀な人間ならば天使の兵として招待される。俺達は踊らされているのか?」

確かにその可能性もあります。しかし

『召喚門が消滅すれば悪魔の王サタネル達も出てこれる。そこまでして』
「悪魔の中では主の力を求めている悪魔もいる」

パイモンは苦しそうに声を出した。

「あの力は手に入れればすさまじい戦力になるからな。地獄に連れて行き、主の心を闇に染めようとする輩もいるはずだ」
「今はともかく指輪の力なしに世界を調停することはできない。あいつの力がまた召喚門に封印をかけることができる唯一の手段だから」

一刻の猶予もありませんか。

「だがまだ暫くは時間がある。急いで情報を集めないとな」
「戦力は多い方がいい。俺が中谷と光太郎をみっちり鍛えないとね」
「俺も協力しよう」

パイモンはそう申し出ました。

「一対一の方が伸び率はいい。俺は光太郎と言う少年の方を見よう」
「OK。じゃあ俺は中谷ね」
『ルシファー様が人間界の関与に興味がないとはいえ、悪魔の中では最後の審判を望んでいる者も多いはず。世界を調停しようとする私達は邪魔な存在。必ず仕留めようとしてくる輩は出てきます』
「シトリーやパイモンが知ってるって事は他の悪魔が知ってても不思議じゃない」
「じゃあ拓也を狙ってくる奴が多いってこと?」
「おそらく」

これでは拓也から目を放すことができませんね。しかし……

『なぜ天使が事を起こす必要があるのでしょうか』

私の質問にシトリーは首をかしげた。

「どういうことだ?」
『前の戦いでの勝者は天使でした。そして今この地球は天使の管理下。天使の思うとおりに事は進んでいたはずです。我ら悪魔が反旗を翻さない限りは。それを自ら混沌の中に突き落とすとは……何を考えているのでしょう。我らが望むならともかく、なぜ天使が我らを召還したのでしょうか?今回がどうなるかはわからないのに』
「それがわかったら苦労しないよ。天使の手の内がわからない。しかし拓也を利用して俺たち悪魔を地獄に戻そうとしてるのはわかる」
『なぜあえて戻させるのです?訳が分からないではありませんか』
「だからそれはわかんねぇんだって」
『そんな』

“何者かに召喚された”その言葉では片づけられない状況になっていたのですね。
しかし我らが悪魔の王ルシファー様はパイモンが言う限りには、今のところは何も行動は起こさないとしている様ですが。

私が、私たちがやらねば、拓也を支えなければみんな死ぬ。
拓也の家族も、澪も、友人も、何もかも。
彼はなんと酷なことに巻き込まれたのでしょう。
いつも笑っている拓也の顔が急に思い浮かばれて少し悲しくなりました。

あの笑顔が消えてしまうかもしれない。

悲しみに染まり、憎しみで動かされ、断罪の剣をふるう。
そうなった時、私は何を思い、何を起こすのでしょう。

先の見えない現実に少しだけ眩暈がしました。


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